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第1章 閉ざされし箱
第7話 聞かぬは一生の恥
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王都ヴァロに戻ると、エリアスはすっかり王妃様と仲が良くなっていた。
軍事訓練で無理に通した黒い森の戦いは、謀反の罪は一部のみの極秘扱いにされた。
王弟の忘れ形見である彼は、そのまま王宮に留まることに。
エリアスがすんなりと王宮での生活を、対応出来てしまった事に驚く。
喜ばしい反面、どこか寂しさを感じていた。
「王族として生まれ持った素質なのね。
エリアスには、これで良かったのかもしれない」
「お嬢様…。
また、いつでもお会いできます。そんなお顔をしないで下さい。
明日は、ベルナドッテ公爵様のご嫡男ヨハン様をお見舞いに行かれる予定ですのね」
メリーは短くなってしまった髪を、どうしたら素敵に見えるか悩みながら梳かしていた。
「突然のご訪問に関わらず、許可を頂き嬉しいですわ。
特別なお品をー。
持ってあがらなくてははならないわね」
苦労してここまで持ってきた、あの品をね。
その前にひと悶着してプリムローズは、スクード公爵屋敷からハーヴモーネ侯爵改めゲラン家の屋敷に移り住んだ。
新年の王宮晩餐会でヘイズ王が正式に彼らのことを発表するらしい。
水面下にて調整し、準備しているとスクード公爵から聞き及んでいた。
その際にマーシャル伯爵夫人ヘレンが何年ぶりか忘れるぐらいに王都に参ったのには、スクード公爵夫人ニーナはたいそう驚いた。
プリムローズを頼ったと聞き、何やら腑に落ちない。
必ず何か理由があると、ニーナは勘づくがー。
賢い彼女は、話してくるまで黙って待つ事にした。
これから夫である東の将軍が、陛下と重大な発表する予定だけは知らされていた。
夫人はその夫を心配させないように、ひたすら大人しくする。
午後に、ベルナドッテ公爵屋敷に行く準備していた。
あの長寿の泉の水は、午前中に王宮で待つエリアスに分け与える。
「皆さん、無事に戻られて良かった。
お嬢様やメリーさん、ギル師匠にタルモ殿。
毎日、皆さんの無事を神へお祈りしていました。
戦いで、人が争うのは愚な行為です。
けっして、してはいけない」
『いい王になるだろう』
プリムローズは、改めて自分の目に狂いがないのを再確認した。
この彼を支える友を、臣下を与える手助けをしたい。
そう思って、彼にその水を渡す。
「エリアス、これからはエリアス様とお呼びしなくてはならないのね。
これは不思議な泉の水よ。
私も一緒に飲みますから、飲んで頂けないかしら?」
水筒から用意してもらった、縁が銀になっているグラスに注ぐ。
毒が入っていたら、銀は黒く変色する。
彼の毒殺を阻止するためであろう。
それだけ目の前で私を信じ笑む方は、ヘイズ国にとり尊い身分になってしまった。
見えない壁が二人にあることに、プリムローズはちょっとだけ胸が痛める。
「美味しい水ですね。
甘みがありますが、何か入れているんですか?!」
「うん、甘いの?
私も飲んでみるね」
『甘い?甘くはないけど、まろやかな味わい。
もしや、この水は人によって味が変化するの?!』
何度も味わうように飲むが、甘くまでは感じない。
「うーん、美味しいけど?
飲んでみて、どんな感じがする?!」
「とても、不思議なんです。
体中がポカポカして、体が軽くなって元気になった感じがします!
貴重なお水を頂き、有難うございます!」
素直で可愛いな、エリアスことが好きだ。
好きには色んな好きがあるが、この好きは友人としてだな。
「喜んで頂けて、私も嬉しい。
この水筒の水で作った、マーマレードジャムよ。こちらもどうぞ!」
二品を渡すと、彼はジャムに反応して喜んで話しだす。
「マーマレードジャムは、初めて食べます。
パンに、何かを塗って食べることすら知らなかったんです。
私は知らないことだらけだ」
恥じているのか両手で握りしめたジャムを眺めては、ポッりと本音を漏らしていた。
「【聞かぬは一生の恥】。
エリアス様は船の中で過ごされていたのですから、ご存知なくとも誰もお責めになりません」
「聞かぬは一生の恥って、どんな意味ですか?」
彼は言葉の意味を、ここで実践しているのさえ知らなかった。
「まさに、今してますわよ。
自分が知らないことを聞くのは、恥ずかしいと思っても聞かなければ一生知らないという意味です」
「あっ、本当だ!
これからは恥ずかしがらずに、ちゃんと聞くことにします。
お嬢様は、私の先生ですね。
有難うございます!」
『あ~っ、素直で可愛くていい子なの!
年上だけど弟みたいで、自分の子供のよう!
これが世にいう、母性本能ですのーー!!』
早過ぎる彼女の感情は、独り爆発させて悶絶している。
人が見ていたらどう思うのかは、当人たちだけが知らなかった。
人払して、二人きりでお茶をする。
テーブル横に伏せる雪ヒョウに笑いかけ、彼は彼女にヒンメルをお返ししますと伝えてきた。
「ヒンメルは護衛の代わりに、エリアス様が預かって下さいませ。
タルモ殿には、ヒンメルのお嫁さん探しを依頼してます」
驚きの表現で腰を浮かして、その件を聞き返してくる。
「ヒンメルのお嫁さんですか?!
ヒンメルが寂しくなくていいですが、探し出せるのでしょうか?」
周りに仕える者たちから、雪ヒョウは珍しくて貴重な動物と教えられていた。
そんなに簡単には捕まらないし、見つけられないのでは?
「どうでしょうか?
珍しい動物みたいです
まだ依頼は正式に決まってませんが、タルモ殿なら探して下さいますわ。
今頃は商会で、相談でもしているかもね!
うふふっ」
宝物探しでもしているようなワクワクした顔で、前で泉の水を飲んでいるエリアスに笑いかけた。
メリーには、後日公爵家に行く支度をされていた。
どんな事が、ベルナドッテ公爵邸で待ち受けているのか。
ヤン・ベルナドッテ公爵との対面に、プリムローズは不安と期待が入り交じっていた。
軍事訓練で無理に通した黒い森の戦いは、謀反の罪は一部のみの極秘扱いにされた。
王弟の忘れ形見である彼は、そのまま王宮に留まることに。
エリアスがすんなりと王宮での生活を、対応出来てしまった事に驚く。
喜ばしい反面、どこか寂しさを感じていた。
「王族として生まれ持った素質なのね。
エリアスには、これで良かったのかもしれない」
「お嬢様…。
また、いつでもお会いできます。そんなお顔をしないで下さい。
明日は、ベルナドッテ公爵様のご嫡男ヨハン様をお見舞いに行かれる予定ですのね」
メリーは短くなってしまった髪を、どうしたら素敵に見えるか悩みながら梳かしていた。
「突然のご訪問に関わらず、許可を頂き嬉しいですわ。
特別なお品をー。
持ってあがらなくてははならないわね」
苦労してここまで持ってきた、あの品をね。
その前にひと悶着してプリムローズは、スクード公爵屋敷からハーヴモーネ侯爵改めゲラン家の屋敷に移り住んだ。
新年の王宮晩餐会でヘイズ王が正式に彼らのことを発表するらしい。
水面下にて調整し、準備しているとスクード公爵から聞き及んでいた。
その際にマーシャル伯爵夫人ヘレンが何年ぶりか忘れるぐらいに王都に参ったのには、スクード公爵夫人ニーナはたいそう驚いた。
プリムローズを頼ったと聞き、何やら腑に落ちない。
必ず何か理由があると、ニーナは勘づくがー。
賢い彼女は、話してくるまで黙って待つ事にした。
これから夫である東の将軍が、陛下と重大な発表する予定だけは知らされていた。
夫人はその夫を心配させないように、ひたすら大人しくする。
午後に、ベルナドッテ公爵屋敷に行く準備していた。
あの長寿の泉の水は、午前中に王宮で待つエリアスに分け与える。
「皆さん、無事に戻られて良かった。
お嬢様やメリーさん、ギル師匠にタルモ殿。
毎日、皆さんの無事を神へお祈りしていました。
戦いで、人が争うのは愚な行為です。
けっして、してはいけない」
『いい王になるだろう』
プリムローズは、改めて自分の目に狂いがないのを再確認した。
この彼を支える友を、臣下を与える手助けをしたい。
そう思って、彼にその水を渡す。
「エリアス、これからはエリアス様とお呼びしなくてはならないのね。
これは不思議な泉の水よ。
私も一緒に飲みますから、飲んで頂けないかしら?」
水筒から用意してもらった、縁が銀になっているグラスに注ぐ。
毒が入っていたら、銀は黒く変色する。
彼の毒殺を阻止するためであろう。
それだけ目の前で私を信じ笑む方は、ヘイズ国にとり尊い身分になってしまった。
見えない壁が二人にあることに、プリムローズはちょっとだけ胸が痛める。
「美味しい水ですね。
甘みがありますが、何か入れているんですか?!」
「うん、甘いの?
私も飲んでみるね」
『甘い?甘くはないけど、まろやかな味わい。
もしや、この水は人によって味が変化するの?!』
何度も味わうように飲むが、甘くまでは感じない。
「うーん、美味しいけど?
飲んでみて、どんな感じがする?!」
「とても、不思議なんです。
体中がポカポカして、体が軽くなって元気になった感じがします!
貴重なお水を頂き、有難うございます!」
素直で可愛いな、エリアスことが好きだ。
好きには色んな好きがあるが、この好きは友人としてだな。
「喜んで頂けて、私も嬉しい。
この水筒の水で作った、マーマレードジャムよ。こちらもどうぞ!」
二品を渡すと、彼はジャムに反応して喜んで話しだす。
「マーマレードジャムは、初めて食べます。
パンに、何かを塗って食べることすら知らなかったんです。
私は知らないことだらけだ」
恥じているのか両手で握りしめたジャムを眺めては、ポッりと本音を漏らしていた。
「【聞かぬは一生の恥】。
エリアス様は船の中で過ごされていたのですから、ご存知なくとも誰もお責めになりません」
「聞かぬは一生の恥って、どんな意味ですか?」
彼は言葉の意味を、ここで実践しているのさえ知らなかった。
「まさに、今してますわよ。
自分が知らないことを聞くのは、恥ずかしいと思っても聞かなければ一生知らないという意味です」
「あっ、本当だ!
これからは恥ずかしがらずに、ちゃんと聞くことにします。
お嬢様は、私の先生ですね。
有難うございます!」
『あ~っ、素直で可愛くていい子なの!
年上だけど弟みたいで、自分の子供のよう!
これが世にいう、母性本能ですのーー!!』
早過ぎる彼女の感情は、独り爆発させて悶絶している。
人が見ていたらどう思うのかは、当人たちだけが知らなかった。
人払して、二人きりでお茶をする。
テーブル横に伏せる雪ヒョウに笑いかけ、彼は彼女にヒンメルをお返ししますと伝えてきた。
「ヒンメルは護衛の代わりに、エリアス様が預かって下さいませ。
タルモ殿には、ヒンメルのお嫁さん探しを依頼してます」
驚きの表現で腰を浮かして、その件を聞き返してくる。
「ヒンメルのお嫁さんですか?!
ヒンメルが寂しくなくていいですが、探し出せるのでしょうか?」
周りに仕える者たちから、雪ヒョウは珍しくて貴重な動物と教えられていた。
そんなに簡単には捕まらないし、見つけられないのでは?
「どうでしょうか?
珍しい動物みたいです
まだ依頼は正式に決まってませんが、タルモ殿なら探して下さいますわ。
今頃は商会で、相談でもしているかもね!
うふふっ」
宝物探しでもしているようなワクワクした顔で、前で泉の水を飲んでいるエリアスに笑いかけた。
メリーには、後日公爵家に行く支度をされていた。
どんな事が、ベルナドッテ公爵邸で待ち受けているのか。
ヤン・ベルナドッテ公爵との対面に、プリムローズは不安と期待が入り交じっていた。
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