無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第1章 閉ざされし箱

第9話 百聞は一見に如かず

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    二人を前に進み出ると、一歩手前に立ち止まった。
彼らに向かってゆっくり膝を深く折り曲げてから挨拶する。
訪問をこころよく受けてくれたベルナドッテ公爵に、感謝の気持ちを述べていた。

「こちらの息子ヨハンに、わざわざ会いに来てくれて感心する。
のう、ヨハン!」

公爵の横に並ぶ彼は、体調のせいで友人がいないのだろうか。
人との対面に慣れていないようで、緊張気味な表情をみせた。
父親ヤンの言葉に従うように、ただゆっくりと頷く。
その視線は短くなった髪を見入っているのに、プリムローズが気づくとつい苦笑いした。

「この髪でございますか!?
スクード公爵様と御一緒に四代将軍と、ヘイズ王の軍事訓練に参加させて頂きました。
なかなか許可が下りずに、こんな事までして参加致しました」

肩までになった髪を触りながら、照れくさそう笑って説明した。

前に立つ親子は目を髪に向けて驚き、後ろで控えているメリーたちはその言い訳に呆れて黙って聞いている。

「アハハ、これは勇敢ゆうかんな令嬢だ!
お祖父様はエテルネルでは、戦の神と呼ばれたお方。
その訓練の話も、ぜひ聞かせて頂きたい。
なあ、ヨハン!」

「はい、父上。
どんな事をしたのか。
クラレンス公爵令嬢、お話聞かせくださいませんか?」

相手のつかみはいいみたいね。
別な意味で公爵は、軍事訓練の内容を知りたいのではないかしら?!
お顔には出していないけど、彼らがどうしてこんなことをしたか。
気になっているでしょう。

「我が屋敷は、中庭に部屋が続いている客間がありましてな。
夜会好きな祖先が、改築したのです。
今日は、そこで庭を見ながらお茶をどうですか?」

妻のいない自ら公爵が、頑張って接待せったいをしてくれる。
久し振りのお客様なのか、給仕きゅうじする人たちも手慣れていないようだ。

「それはぜひ、どんなお部屋か楽しみですわ。
ギルとメリー、あなた方は終わるまで時間があります。
一、二時間くらい街でも見てきなさい。
他国へ来たのですから、異文化を楽しんで来なさい」

二人をデートさせたいようで、やりとり彼女は命じる。

「安心して下さい。
クラレンス公爵令嬢は、こちらで大事にお預かり致します」

公爵令息のヨハンが微笑んで二人に声をかけると、こう言われて嫌とは言えず返事をにごすと威厳いげんある声がした。

「そうじゃな。
百聞ひゃくぶん一見いっけんかず】です。
人から何度も聞くより、一度実際に自分の目で見るほうが確かだ。
ゆっくり、城下でも見て来なされ」

ベルナドッテ公爵様にまで言われれば、とても拒絶はできない。
恐縮きょうしゅくして、2人は頭下げて主を見送るしかない。
部屋を出ていく後ろ姿を見て、これで深く突っ込んだ会話がしやすくなると思っていた。

 部屋に案内されると、広い部屋に庭とをつながる空間がある。
解放感が広がり、気持ちのよい風が吹く。

「ヘイズ国は、温暖なよい気候ですね。
年末が近いのに、こんなにも気温が暖かい。
エテルネルでは、この時期は雪が降り寒さで震えてます」

プリムローズが中庭を見て話すと、雪を知らぬヨハンがそれは何かと聞いてきた。

「座って話そうではないか。
ヘイズは南国の気候をしている。
冬がなく、寒くても貴国の秋ぐらいですかな」

ベルナドッテ公爵は、だんだん客人に慣れてきたのか。
友好的に話を合わせてくれる。

プリムローズが一礼して手で示された席に着くと、公爵が座り息子のヨハンがそれに続いた。

「はい、エテルネルでは秋に近いですわ。
湿気が少ないのか、ジメジメ感がありませんね。
ヘイズは、過ごしやすいお国で良いですわ」

「雪とはどんなものですか?
あるとは書物で読んで存じてますが、見た方の話を聞きたいです」

ヨハンが話を催促さいそくするのを、純粋にかわいらしく思えた。

「雪は空から降ってきます。
白い綿花めんかのような雪や、雨が混じって重たい雪もあります。
寒さによって、雪の振り方が違うのです。
氷は、この国にはございますか?」

彼女はまだこの国に来てから4ヶ月程で、一年間の気候を知らなかった。
未開の地で、知識もなく予想もできない。
本で読んだ知識は南の方角にある島国で、海賊かいぞくが周りにうろついている知識しかない。

「ございますよ。
標高ひょうこうが高い山の洞窟や、池や湖に氷がはります。
甘い果実やその絞った液体をかけて食べたりする」

公爵が説明すると、彼女は瞳を輝かせて答える。

「氷を削ったようなものが、空からたくさん降ってきます。
降り方もゆっくりで静かだったり、風が強く矢のように降ってくるのを吹雪と読んでおります。
時には視界が悪いと前が見えなくて先に進めずに命を落とす危険もあります」

ヨハンは話を聞いて想像しただけで、身震いするのか、メイドが出してきたお茶を一口飲む。

「あ、申し訳ない。
お客様より先に、口をつけてしまいました」

「無作法で済まぬ。
ヨハンが、誰かと茶会するのは初めてでな。
許しておくれ、クラレンス公爵令嬢」

隣に座る息子を叱るような目つきで、プリムローズに謝罪するベルナドッテ公爵。

「気にしていません。
お茶会とは本来ほんらいは、楽しんで会話するもの。
のどが乾いたら飲んで、たまに甘いものを食べる。
この作法は、一体何方どなたが決めたのでしょう?
気取りすぎて嫌になりますわ」

男性陣は優雅にカップを持ち、非の打ち所のない姿勢で飲む少女を見て笑い、相づちを打つ。

「うむっ、ちなみに。
クラレンス公爵令嬢は、お茶会は何歳の時に初めて経験されましたか?」

公爵は、本当にただ興味があるのか。
場を盛り上げたくて質問するのか、プリムローズに質問してきた。

「ふふっ、3歳でしたわ。
初めてもてなした御方おかたは、エテルネルの国王陛下でした。
無論、支度したくや準備をしたのは祖父母でしたけどね」

この発言に先ほどから何度も驚く、親子は愛想笑いすら忘れている。

「3歳ですか?
国王陛下が御相手ですか。
それは凄いですね。
わずか11歳で、他国へ留学される方だけあります」

二人のやり取りを嬉しげに笑い見守るベルナドッテ公爵を、彼女は見ていて不思議に感じた。
息子が笑うのを優しく見る眼差まなざしから、この方があんな陰謀いんぼうするとは見えない。

互いに心の奥底で、考察こうさつし合っているのか。
彼女と公爵親子は、始まったばかりの茶会を楽しんでいた。

プリムローズから邪魔にされ仕方しかたなしに、二人でヴァロの王都の中心にたたずむ男女はどう過ごすか話し合っている。 
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