無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第1章 閉ざされし箱

第10話 泥棒にも三分の道理

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    どこの国でも、一番栄えているのは王都である。
車道と歩道はきちんと分かれていて、人々の往来に危険はないようだ。
何度か用事で、ここへ来ている。
こうしてゆっくりするのは初めてで、物珍しそうにギルと肩を並べて歩いていた。

「賑やかですが、南国気質なのでしょうか。
どこか、のんびりしてますね。
あちらの商店の亭主ていしゅは居眠りをしてますし、商売するやる気が見えません」

財布さいふと身の回りの物を入れた手提てさかばんを、腕から手に移動させてぶらつかせながら持っていた。
彼女は初めての他国の町に目をあちらこちらに向けて、近くにいるギルに話しかけていた。

「冬はそうでもないが。
夏場は昼になると、夕方まで昼寝の休息時間になる。
閉めていた店を夕方から、また開き、夜まで営業するんだ」

彼の話は事実なのかと疑い、エテルネルから来てから4ヶ月も経つのに知らなかったのに驚く。

「学園はお昼寝はないしな。
屋敷では、メイドたちは休んでなかったか?」

彼の問いかけに、メリーは屋敷の様子を思い出していた。

「思えば夏にこちらに来た時、やけに休憩時間が長いと感じました。
スクード公爵家は、使用人たちに親切な雇い主と感じていましたわ」

彼はメリーのそういう、呑気のんきなおおらかなところは嫌いではなかった。
よく考えたらエテルネルのクラレンス公爵も、雇う者たちに休憩はしっかり与えていた。

「それから、いくら平和そうに見えてもスリはいるから気を付けろよ。
おいっ、メリー聞いているか」

注意しているのに、彼の元を離れ露天商ろてんしょうからの焼き菓子の甘い匂いに引き寄せられる。

「おじさん、その焼いているものは何ですか?」

薄茶の髪を後ろで三つ編みに一本に結び、紺色でえり袖口そでぐちに白いフリルがついているシンプルなドレス姿。
水色の瞳をキラッと光らせて、笑顔で愛想よく亭主に聞いている。

「これを知らんのか?
お前さん、見た感じ地方から出稼ぎに来た。
貴族の屋敷に雇われたメイドだろう。
休みをいただいて、王都見物にでも来たのかい?!」

メリーはおおよそ当てたオジさんに「ハイ」って答えると、男は満足した素振りで自分の焼いている菓子を教えた。

「誰が付けたか知らんが、これはクレープって言う。
粉に砂糖と牛乳、卵を混ぜたものを薄くこうして焼く。
それにバナナや果物等、生クリームをのせてクルクル巻いたら出来上がりだ」

職人技で巻きつけ、踊るような身のこなしで紙に包んでくれた。

「わぁ~、上手にクルクル巻いている。
それ、1つ下さいな。
すごく美味しそうだわ」

本気でめて心から喜んでくれるのを見て、店主も照れながらも嬉しくなった。

手提げから財布を取り出すメリーに、見本で作ったから金はいらないと手渡す。

「いけません、お幾らになりますか?」

「そっか、じゃあ半額するぜ。
お代は、銅貨1枚になります」

好意を無下むげにできないと、感謝して銅貨を手渡し財布を手提げ鞄に戻した。
クレープを持とうとした瞬間、誰かが勢いよく体当たりしてきて手から手提げを取られる。

「あっ、なにをするの!
ど、ドロボウよーー」
 
クレープを持って駆け出そうとすると、先にギルがあやしいと狙いを定めていたのか、彼女を案じていたのかもしれない。
その男を、すさまじい勢いで追いかけて行く。

「この盗人!
その鞄を離すんだ。
じゃないと、痛い目に合わすぞ」

どちらが悪人か分からなくなりそうな光景を、遠巻きで周辺の人々は様子を見ていた。

「痛、たたぁ……。
返すから腕を離してくれよ。
すまん、悪かったよ!」

素直に誤った男は、メリーから奪った鞄をギルに渡していた。
出来心なので、憲兵けんぺいには引き渡さないでくれと頼んでくる。

「お願いだ!
無かったことにして、見逃してくれよ。
ちょっと、魔が差しただけなんだ」

「【泥棒にも三分のことわり】。
悪事を働くにも相応そうおう理屈りくつはある。
どんなことにでも、理屈はつけられるということだな」

この男はまだそんな歳ではなく、働ける歳の様に思えた。

「王都に来たばかりで、仕事を探していたら持っていた金を全部使ってしまった。
腹がいて、つい手が出てしまったんだ!
後生ごしょうだなら、見逃してくれ」

必死に地面に頭をつけてあやまる態度に、ギルは此処ここでは目につくからと脇道に連れて行く。

     
    メリーとクレープの亭主が、後から恐々こわごわ近寄って傍に現れた。
ギルは、そんな彼女に人気ひとけのある場所で待つように言う。
店主は話が終わるまで、この近くで待つようにと親切に申し出てくれた。

「危険ではありません?
ギル師匠ししょう!?」

「誰に言ってんだ!
俺はそんなに弱くねえぞ。
その店で待ってろよな」

ギルの力量りきりょうを知っているが、心配げに争っていた男を不快に一目にらむ。
言われたとおり、店主と一緒に店に向かうのだった。

路地裏ろじうらで男は言い訳をしてきたが、内容を聞くと情けをかけ助けたくなってしまう。

「そっか…。
お前は西のトラモントの出身だったのか。
あの戦に行って途中で逃げて帰ってきたら、奥さんが消えていた訳か…」

盗んだ理由を聞いてみると、気の毒な気持ちになってしまう。
腕を組みながら、罪を犯した男の処遇を考えていた。

「ヴェント侯爵の納める領民の税が、高くなる一方で最近は違う場所へ逃げ出していたんだ。
まさか、自分の妻が俺を置いて逃げるとは思わなかったさ」

恐らく妻は、戦に行って生きて帰らないと踏んでいたのだろう。
捨てられた男を不憫ふびんに思いギルは、自分の父親ゲラン元伯爵家で働くかと誘ってみる。

「いいのか…、俺はお前さんの彼女の財布を狙ってひったくったんだぞ」

すぐさま反論してきた男の顔は、少しだけ赤かった。

「俺の女ではない。
それより、お前も腹空いてんだろう?!」 
 
「いや、空いてはー」

グーっと返事をするように、男の腹から音が鳴いてきた。

「今からアイツの居るところへ行ったら、飯食おうぜ。
俺がご馳走ちそうしてやる。
俺のことは、ギルって呼べ」

男は人情味あふれるギルに泣きそうになり、彼に対してこう呼んだ。

「ギルの兄貴ー!
兄貴は、俺を悪の道から救ってくれた」

悪いことをした割には素直なお礼に、調子いいやつだけなのか分からなかった。

「へえ、兄貴か。
見た目は、お前さんの方が兄貴に見えるけどな」

毎度のことながら軽く見えるしゃべり方で損する男は、泥棒の歳上を弟分にしてメリーのいるクレープ屋に向かって行く。

二人きりのデートが、何故か元こそ泥まで加わる羽目はめになった。
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