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第1章 閉ざされし箱
第18話 傷口に塩を塗る
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大切にしている男女を結びつける為に、無理にデートをさせていたプリムローズ。
まさか、邪魔が入っていたとはこの時まで知らなかった。
公爵との会話は途切れて、外の木々が風で葉を揺らす音が耳につく。
愛人に切りつけた正妻の王妃は、直後に当てつけのように裏切った夫の前で自害した。
王妃の生家は呪いの侯爵家として、貴族の間では忌み嫌われ恐れられていったのだ。
貴族たちは当たらず触らずで、何事もないように関わらず過ごす。
それから不思議なことに王妃亡き後、侯爵家では女の子が生まれなくなってしまう。
「亡き王妃がそうさせている。王が逆に呪いをかけているのではないか。
そんな非現実な噂話が、貴族たちの中で流れていたのだ」
深刻そうな面持ちで、その話をしてくる。
暗い表情に変わる彼に、話を聞いていて共感する。
「そんな中で、エリザベット様がお生まれになられたのですね。
生まれながらそんな運命を背負っては、本人もご両親も苦労されたでしょう」
プリムローズの慰めの言葉を聞くと、理不尽な怒りと哀れみの感情が入り混じった顔つきに変わっていく様子だった。
「誕生してから、実家の期待を一身に背負ってしまわれた。
もう一度ヘイズの王妃になり、かの人の汚名を晴らす。
家を盛り返すという使命を、幼い頃から王妃になるために全てを注ぎ育てあげられたのです」
『これでは歪んだ性格になってもおかしくはない』
裏で友人を使い邪魔者を排除し、いじめ抜くのも分かる気がしてきた。
「お聞きしていると、彼女の屈折した性格が理解できそうだわ。
こう軽々しくは、言ってはいけないお言葉ですけど…」
ベルナドッテ公爵が、冷たい視線で話す彼女の顔を見ていた。
「そんなに彼女は、王妃になることに興味はなかった。
でも、周りがそうはさせてくれなかったのだ。
王太子がだった。
パーレン伯爵が、血迷わなければ…」
『ちょっと、奇妙な言い方しているような。
この方は、本当は妻と婚姻したくなかったのだろうか。
家同士って最初に話されていたけど、彼女に女としての興味なかったのかしら』
「エリザベット様が、王太子様と結ばれるとは決まっておりませんでしたでしょう?
お二人の相性もございますよ」
嫌味を込めてプリムローズは、彼に顔色を変えずに言う。
「結局は大罪を犯して、廃嫡されて今では伯爵家の入婿になった。
お相手はつき纏われたあげく、容姿もいまいちのお方だ」
即座に反応する彼女は、憤慨して形相が変わっていった。
「ベルナドッテ公爵、聞き捨てなりませんわ。
体型や顔がイマイチだろうが、他人には関係ありません。
2人にお会いしましたが、私は心が繋がり愛を感じましたわ。
ですから、そのような侮辱は許しません」
紫水晶のような瞳が、ワインレッドに変化したのに驚愕する。
驚きのあまりに公爵としての威厳を忘れ、つい椅子から転げ落ち尻餅をついてしまう。
「すっ、すまなかった!」
「私も言い過ぎました。
公爵様が分かってくだされば、今回は許しますわ。
奥様がマーシャル伯爵夫人を使って、学生の時にいじめさせた件。
パーレン伯爵夫人の心に、まだ深いキズとして残っています。
遅いですが、マーシャル伯爵夫人は心から謝ると申してます」
学生時代の妻ならやりかねないと、床を見て当時の様子を思い出していた。
「手は下さなかった。
裏で糸を引いていたんですな。
真実を教えて頂き、お叱りを受けて心が痛くなりました。
私も夫として、パーレン伯爵夫人に対して謝罪したい」
妻の過去の過ちを、直接詫びたい気持ちは理解できる。
「おやめなさいな。
【傷口に塩を塗る】ような行為です。
当人同士ならまだしも、夫とはいえ部外者で他人ですわ」
幼いのに、こういう複雑な心理をご存知だと思った。
この歳で、すでにこのような事柄に慣れているのだろうか。
「亡き奥様は、王太子殿下に狙いを定めて見事に失敗したのですよね。
第二王子には、言い寄らなかったのですか?
彼には、婚約者はいたと聞いてはおりますが」
瞳の色が変化したのが怖いのか、プリムローズの目を合わせずに答える。
「相手にしてなかったのです。
未来の王と約束された。
光り輝く者にしか、目に入らなかったのです。
第二王子と婚約者は幼い頃から将来を約束し、仲がよくつけ入る隙はありませんでした」
「砂糖に群がる蟻たちは、それが塩だと知ると逃げ出した。
本当に愛する者だけが、そこに残ったわけです。
その逃げた筆頭が、奥方様だったのね」
嫌味な例え方をするが、皮肉にもわかりやすいと思う。
「私の家は、王族の流れをくむ血筋だ。
彼女の家は、ベルナドッテ家にすり寄ってきた。
もし、次期王に世継ぎがない時。
王が崩御したら、王弟の次はベルナドッテ家になる」
こんなに早くに、自分から核心をついて話してくるとは思わなかった。
つい声が震えそうになる。
『でも、今がチャンスだ。
聞き出さなくてどうする。
まだダメ、様子をみよう』
彼から言ってくれるように、促さないとならない。
「公爵様と奥様は、政略結婚でしたか?
独身を通されていらっしゃるでしょう。
ヨハン様の健康を心配して、そこまで気が回らないのですか?」
あらやだ、オバサンが聞きまくって話しているみたい。
「紹介される前から、彼女とは知り合いだった。
茶会に呼ばれたら、テーブルが一緒な時もありましたからね」
意外ではないわね。
身分からしたら当たり前だわ。
「公爵様は、妻である侯爵令嬢を密かに恋していたのですか?
よくある話ですもの。
知らぬは、相手だけなんてね」
プリムローズの言ったことは、予想はズバリ当たっていた。
赤らめた顔を隠すように、視線を下に向けていたのだ。
これは恋愛話になるかもと、彼女は胸をドキッとさせる。
思わぬ方向へ話は進み出すのだ。
まさか、邪魔が入っていたとはこの時まで知らなかった。
公爵との会話は途切れて、外の木々が風で葉を揺らす音が耳につく。
愛人に切りつけた正妻の王妃は、直後に当てつけのように裏切った夫の前で自害した。
王妃の生家は呪いの侯爵家として、貴族の間では忌み嫌われ恐れられていったのだ。
貴族たちは当たらず触らずで、何事もないように関わらず過ごす。
それから不思議なことに王妃亡き後、侯爵家では女の子が生まれなくなってしまう。
「亡き王妃がそうさせている。王が逆に呪いをかけているのではないか。
そんな非現実な噂話が、貴族たちの中で流れていたのだ」
深刻そうな面持ちで、その話をしてくる。
暗い表情に変わる彼に、話を聞いていて共感する。
「そんな中で、エリザベット様がお生まれになられたのですね。
生まれながらそんな運命を背負っては、本人もご両親も苦労されたでしょう」
プリムローズの慰めの言葉を聞くと、理不尽な怒りと哀れみの感情が入り混じった顔つきに変わっていく様子だった。
「誕生してから、実家の期待を一身に背負ってしまわれた。
もう一度ヘイズの王妃になり、かの人の汚名を晴らす。
家を盛り返すという使命を、幼い頃から王妃になるために全てを注ぎ育てあげられたのです」
『これでは歪んだ性格になってもおかしくはない』
裏で友人を使い邪魔者を排除し、いじめ抜くのも分かる気がしてきた。
「お聞きしていると、彼女の屈折した性格が理解できそうだわ。
こう軽々しくは、言ってはいけないお言葉ですけど…」
ベルナドッテ公爵が、冷たい視線で話す彼女の顔を見ていた。
「そんなに彼女は、王妃になることに興味はなかった。
でも、周りがそうはさせてくれなかったのだ。
王太子がだった。
パーレン伯爵が、血迷わなければ…」
『ちょっと、奇妙な言い方しているような。
この方は、本当は妻と婚姻したくなかったのだろうか。
家同士って最初に話されていたけど、彼女に女としての興味なかったのかしら』
「エリザベット様が、王太子様と結ばれるとは決まっておりませんでしたでしょう?
お二人の相性もございますよ」
嫌味を込めてプリムローズは、彼に顔色を変えずに言う。
「結局は大罪を犯して、廃嫡されて今では伯爵家の入婿になった。
お相手はつき纏われたあげく、容姿もいまいちのお方だ」
即座に反応する彼女は、憤慨して形相が変わっていった。
「ベルナドッテ公爵、聞き捨てなりませんわ。
体型や顔がイマイチだろうが、他人には関係ありません。
2人にお会いしましたが、私は心が繋がり愛を感じましたわ。
ですから、そのような侮辱は許しません」
紫水晶のような瞳が、ワインレッドに変化したのに驚愕する。
驚きのあまりに公爵としての威厳を忘れ、つい椅子から転げ落ち尻餅をついてしまう。
「すっ、すまなかった!」
「私も言い過ぎました。
公爵様が分かってくだされば、今回は許しますわ。
奥様がマーシャル伯爵夫人を使って、学生の時にいじめさせた件。
パーレン伯爵夫人の心に、まだ深いキズとして残っています。
遅いですが、マーシャル伯爵夫人は心から謝ると申してます」
学生時代の妻ならやりかねないと、床を見て当時の様子を思い出していた。
「手は下さなかった。
裏で糸を引いていたんですな。
真実を教えて頂き、お叱りを受けて心が痛くなりました。
私も夫として、パーレン伯爵夫人に対して謝罪したい」
妻の過去の過ちを、直接詫びたい気持ちは理解できる。
「おやめなさいな。
【傷口に塩を塗る】ような行為です。
当人同士ならまだしも、夫とはいえ部外者で他人ですわ」
幼いのに、こういう複雑な心理をご存知だと思った。
この歳で、すでにこのような事柄に慣れているのだろうか。
「亡き奥様は、王太子殿下に狙いを定めて見事に失敗したのですよね。
第二王子には、言い寄らなかったのですか?
彼には、婚約者はいたと聞いてはおりますが」
瞳の色が変化したのが怖いのか、プリムローズの目を合わせずに答える。
「相手にしてなかったのです。
未来の王と約束された。
光り輝く者にしか、目に入らなかったのです。
第二王子と婚約者は幼い頃から将来を約束し、仲がよくつけ入る隙はありませんでした」
「砂糖に群がる蟻たちは、それが塩だと知ると逃げ出した。
本当に愛する者だけが、そこに残ったわけです。
その逃げた筆頭が、奥方様だったのね」
嫌味な例え方をするが、皮肉にもわかりやすいと思う。
「私の家は、王族の流れをくむ血筋だ。
彼女の家は、ベルナドッテ家にすり寄ってきた。
もし、次期王に世継ぎがない時。
王が崩御したら、王弟の次はベルナドッテ家になる」
こんなに早くに、自分から核心をついて話してくるとは思わなかった。
つい声が震えそうになる。
『でも、今がチャンスだ。
聞き出さなくてどうする。
まだダメ、様子をみよう』
彼から言ってくれるように、促さないとならない。
「公爵様と奥様は、政略結婚でしたか?
独身を通されていらっしゃるでしょう。
ヨハン様の健康を心配して、そこまで気が回らないのですか?」
あらやだ、オバサンが聞きまくって話しているみたい。
「紹介される前から、彼女とは知り合いだった。
茶会に呼ばれたら、テーブルが一緒な時もありましたからね」
意外ではないわね。
身分からしたら当たり前だわ。
「公爵様は、妻である侯爵令嬢を密かに恋していたのですか?
よくある話ですもの。
知らぬは、相手だけなんてね」
プリムローズの言ったことは、予想はズバリ当たっていた。
赤らめた顔を隠すように、視線を下に向けていたのだ。
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