無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第2章  解けない謎解き

第6話 寝耳に水

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    湯気がゆらゆら立ち上っていたお茶は、対話に夢中になってスッカリ冷めてきている。
流石は伯爵家の出しただけあって、口にすれば芳醇ほうじゅんな味と香りが楽しめた。
お茶のお供は、美味しい菓子より、もっと喜ばれるものは他人の醜聞しゅうぶん
そわそわ、ワクワク落ち着きを失って話したくて仕方ない。
しびれを切らしたのは、やはり予想通りでマーシャル伯爵夫人ヘレンであった。

『私の過去の悪行から、なんとか話をそらしたいわ。
謝っても謝っても、繰り返して終わらせてくれない。
こういうところが、いじめられた要因なのよ!』

扇で顔を半分隠して、ヘレンは音を立てないほどで歯をギリギリさせた。

「黙っていられないわ。
皆の前で、さらし者にされた男女。
後のベルナドッテ公爵の婚約者も、このパーティーに出席されていました。
その方が浮気相手の子爵令嬢に近づき、なんと彼女の頬を思いっきり叩いたそうです」

その場にいるような描写の言葉に、プリムローズは怪訝けげんぎみにマーシャル伯爵夫人の話を聞いていた。

「私たちの祖父母にあたる方々がその場におりましたので、信憑性しんぴょうせいはかなりあります」

プリムローズが納得する表情に変わると、彼女はその続きが気になる。

「おばあ様が母と話していた内容によると、婚約者のご令嬢は真っ青な顔になって自分の相手にボーッとご覧になっていたそうです」

「そうとしか出来ないし、その方はだんだん豹変ひょうへんしたのよね。
知らんふりして、お菓子を食べながら聞いていたけど。
大人になり考え直すと、恐ろし過ぎて笑えてくる話ですこと。
うふふ……」

2人の様子は、まるで子供時代に戻っているようだった。
キャッキャッと声を出して、笑い合って嬉しげだ。

「父である国王に激怒された彼は、本心を大勢が見ている中で話した。
彼女を愛しているとー
それは、婚約者の侯爵令嬢に対して侮辱でもあったわ」

真っ青から真っ赤に変化し、見開く目が吊り上がっていくのを身近にいた方々は気づき始めた。

「国王は、彼女の父である当時の西の将軍をお呼びになった」

「西の将軍って!!
ヴェント将軍になる前の方ですか??!」

プリムローズは口から勝手に言葉が出て、胸が高鳴るのを本人も感じていた。

「えぇ、そうよ。
その侯爵に男児が生まれなくてね。
親戚筋しんせきすじになる副官のヴェント家に、彼女が公爵家に嫁いだらお譲り遊ばす予定でしたの。
それはもちろん、無償ではないけどね」

マーシャル伯爵夫人に持たされた新たな情報で、プリムローズの頭の中は混乱していくのである。

『ようやく分かったわ。
どうして、将軍職が変わったのか。
副官の親戚筋なら、スクード公爵とて文句のつけようが無かったわけだ』

「それから、どうなりましたの?!
婚約破棄になりましたか?」

早く聞きたい公爵令嬢を愉快げに眺めては、二人の夫人たちは話の中断を解いた。

「2組の両親同士の話し合いで、婚約破棄の言葉をその場で仰ったのよ。
侯爵令嬢が前に進み出て頭を丁重に下げて、国王様に発言の許しを得たわ。
第2王子にあたる、前ベルナドッテ公爵にも同じように気持ちよい音をさせて頭を下げた」

「気が強かったそうですよ。
なにせ、将軍の娘ですからね。
一部の女性貴族の間で伝説になった、あの有名な台詞を仰った」

キラキラと輝きを増す2人の目と表情は、彼女への尊敬と羨望が表れていた。 

「婚約破棄はいたしません。
私はこの方と、婚姻いたします
一度決めたことは、やり通すわ。
私が引け目を感じなくてはならぬのだと、大勢の前で啖呵たんかを切りました」

パーレン伯爵夫人は、その侯爵令嬢が憑依ひょういしたかの様に台詞を言ってきた。

「よくぞ、そこまで言い切りましたわね。
矜持きょうじがいくら高くてとも、国王の前でなかなか申せないお言葉です」

プリムローズはこの女性と会って話をしてみたいと思ってきたのである。

驚愕きょうがくする一同を居ないものとして彼女は、裏切り不貞行為ふていこういをした当人たちを指差し話す。

「殿下、愛がなくとも子は出来る。
私より先に、絶対…。
子供を作らせない。
もし、子供が授かっても認めません。
私と貴方の子だけです。
誓約したら、この女を愛人と認めてあげましょう」

息もつかないで一気に話すと、彼女は非礼を詫びるように国王に一礼したのである。

「そのお姿は、まさしく戦場で戦うように勇ましかったと伝わっております。
殿下たちは、周りからの嘲笑ちょうしょうの声と冷めた視線に囲まれ、
反対に、令嬢には敬愛を込めて温かな視線を向けられた。
祖母は、そう話してました」

「パーレン伯爵夫人、子爵令嬢は愛人扱いでしたの?
側室にお成りになられたのでしょう?!」

3人は、一度ゆっくりお茶を飲む。
開き直ってきたのか、今度はマーシャル伯爵夫人がペラペラと語る番になった。

「第2王子は騒がせた罪により、臣下に落とされました。
ベルナドッテ公爵の家名を戴き、侯爵令嬢との豪勢な式を挙げ終えて。
ひっそりと、浮気相手を別宅に呼び寄せたのです」

それから正妻の侯爵令嬢は、ベルナドッテ公爵の世継ぎになる男子を無事に出産した。
満足しただろうと捨て台詞を言って、公爵である夫は愛人と別の屋敷に住むようになる。

「やがて、公爵夫妻は別居生活に…。
愛人扱いの彼女が、懐妊して男の子を産んだわ。
これに喜んだ公爵は、妻に内緒で側室として婚姻を結んでしまったのです」

マーシャル伯爵夫人の話に、例えで公爵夫人の心を表す言葉をパーレン伯爵夫人は口にするのであった。

「【寝耳ねみみに水】とは、この事でした。
彼女は本宅でまだ幼子の息子を抱いて幸福の絶頂で、友人たちにその話を知らされたのです。
彼女はその時に、どう感じ思われたか」

「ご友人たちは、公爵夫人が知らないのを存じ上げなかったのですね。
突然に驚く話を告げられて、さぞかしお辛かったでしょうに」

「クラレンス公爵令嬢。
彼女は王都の本宅を出て、ベルナドッテ公爵の領地で嫡男と暮らしました。
立派な公爵にするためだけに、息子に心血を注いだのです。
この話を聞き、夫への愛を切り捨てたと思いました」

彼女は神妙な顔で同じ考えだとうなづき、パーレン伯爵夫人を見てから連れ立ってきたヘレン様を振り向く。

「その後、ベルナドッテ公爵は病にかかってしまった。
新しく即位した兄ヘイズ王を、献身に支えた弟。
その病が重いという知らせを聞くと、本宅にいた正妻公爵夫人の逆襲が始まったのです」

逆襲、夫を取られた妻の反撃は如何いかほどなのであろうか。
プリムローズは、無意識に唾を飲み込んで体が震えだす。

部屋の空気が重々しくなり、3人はベルナドッテ公爵夫人の長年の恨みに恐れを抱くのであった。

裏切られ、愛されなかった女。最初から、正妻の矜持をないがしろにされてしまった。
彼女の恨みは、より強く怨みとなる。
この感情は、どんなのだったのだろうか。
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