無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第2章  解けない謎解き

第7話 知らぬは亭主ばかりなり

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    パーレン伯爵夫人に通された場所は、窓から南国らしい日差しが差し込んでいた。
彼女手製のタペストリーは、この部屋の白壁に映えていた。
語ってくれた力作は、ヘイズの木々や草花を思わせる淡い色彩を基調とした作品。
よくよく見れば、和やかな田園風景の雰囲気を醸し出すだろう。
今は、そんな空気感を全く感じない。

不思議と冷気が漂って、背筋が寒くなる。 
無意識にブルッと体を震わせて気になる箇所を見ると、プリムローズ自身の白い腕に鳥肌が立っていた。
  
『公爵夫人は、どんな復讐を夫と側室にしたのですか?』

伯爵夫人たちは、この後を知っているからこそ話せる。
それなのに…。
何も知らない私と同じ様に、顔を曇らせているのはナゼ?
公爵夫人がしたことは、話すのも恐ろしい事柄だからなのだろう。

「正妻の彼女は、夫が病になった事すら存じ上げてませんでした。
公爵様ご本人が、正妻の夫人に知らせるなと命じたからと言われてます」

信じられないと、パーレン伯爵夫人にプリムローズは疑問を投げかけた。

「そこまで、正妻にあたる夫人を嫌うのですか。
お気の毒ですわ。
お子様だって、父親を恋しく思わないわけがありませんもの」

昔の無視されていた自分を思い出してか、彼女は怒りを表して伯爵夫人たちに物言いをするのだ。

「意地だったのでしょうね、最後まで本妻を愛さないで側室のみに愛を与える。
子供たちには、迷惑な事ですがね」

話を聞いているとベルナドッテ公爵は、父の愛を知らず母親だけに溺愛されて育ったのだろうか。

彼女は我が子の手をとり、王都ヴァロの屋敷に到着する。 

「そこでは病で死にかけていた公爵の寝ている近くで、側室が泣いてすがっていました。
夫人はその様子を見て、すぐさま激怒したそうです」

そうですとか、曖昧な言い方ばかりね。
仕方ないと言えばそうだけど、本人に聞かないとこればかりはね。

「側室の彼女を、部屋だけでなく屋敷から追い出した。
代わりに夫人が、亡くなるまで介護したそうです。
病床で公爵は、正妻が側にいたのを認識していたかどうか」

「意識が混濁した公爵は、側室の愛妻が看病していたと思っていたのではないかしら?!
あくまでも、これは想像ですけど…」

「最後ぐらいは当たり前ですわ。
好き放題して妻をないがしろにして、二人で愛し合っていたんですからね。
夫人も、愛人でも囲えばよかったのに」

マーシャル伯爵夫人は公爵夫人の気持ちになり怒り、私と同じ考えを吐き出してくれた。
大人の女性たちの話を聞き、甘いはずのチョコケーキがいつもよりも苦く感じた。

「公爵が亡くなり、葬儀は夫人ひとりで行いました。
側室やそのお子様は、参列すら許さず。
遠くから見送るようにと、ハッキリ言い渡したのです。
彼女の積年の恨みを、ここで晴らす形になりました」

「よっぽど、憎んでいましたのね。
私なら亡くなった夫と側室の女性、お二人でしょう。
その後が、また凄かったらしいわ」

夫を共に持つ夫人方は、自分の夫婦仲と照らし合わせているに違いない。
公爵夫人の気持ちを考えてみると、自然に眉が下がりため息までも出てしまう。

「どのような話ですか?
マーシャル伯爵夫人!」

「お若い方にお聞かせするのは、はばかりますけど…」

道徳心がまた少しうずくが、そう言ってはまた話を再開させてしまうのだ。

「葬儀が終わり、側室は公爵の遺言があると言い公爵夫人を訪ねました。
王都の屋敷と財産の一部を、側室とその子に渡すようにと書かれていたそうです」

何だかんだと話したいのだと、女性特有の感情に幼い少女は今更感いまさらかんを顔に出さずに思う。

「故人である夫の遺言を、公爵夫人が拒絶し無視した。
あの例のパーティーの話を、ここで持ち出してきたのです。
陛下の前で約束した通り、愛人には一切権利がない。
つまり、婚姻は無効であると言うことね」

「パーレン伯爵夫人、それは無理ではございません?
書類上は、受理されているのでしょう?!」

彼女は正論を言って、最後まで行く末を知る人たちの表情を見て予測する。

「本当の復讐が始まりました。
彼女は婚姻の意義を申し立て、陛下へ訴状を送っていました。
それだけではなく、彼女は遺言書を新しく作成していました。
なんと驚くことに、死の間際で公爵にサインさせていたのです」

「この話で公爵夫人の復讐劇は、ほぼ国中の全貴族に知れ渡りました。
聞いた時は、まだ幼く理解できませんでしたわ」

「ええ、その通りでございます。
大人になると、この手の話が分かるようになりました。
今ではこうして内容を知ると、他人事でも背筋が凍りそうです」

伯爵夫人たちは、ピクピク顔を引きつらせて互いに語る。

聞いてるだけで、ブルブル震えがくるそうよ。
そんな陰謀を考えて、病の夫を介護しておりましたの。
彼は公爵夫人を側室と思い込んでいたのだと、プリムローズは話を聞き入れて悟る。

「陛下への訴状は、王都にいた彼女の父である西の将軍からも同時にされました。
亡きベルナドッテ公爵には秘密裏で、側室との婚姻は無効にさせたの。
まさに、【知らぬは亭主ばかりなり】です」

夫の公爵を馬鹿にしたようにパーレン伯爵夫人は、扇で口元を隠してざまあとばかりに高笑いする。

「病状がどうだったか存じませんが、当事者は最後まで気が付かなかったのでしょうか?
誰も前ベルナドッテ公爵に、お伝えしなかったのですか?」

それでも、一人くらいはいてもおかしくはない。
深刻な病状で意識が混濁こんだくしていれば、到底話を理解できるとも思えない。
そう思うと、プリムローズは咄嗟とっさに顔をしかめた。

マーシャル伯爵夫人ヘレンは、歯に物がはさまった言い方を返した。

「プリムローズ様の疑念は、誰でも普通考えますわ」

「左様ですわね。ホホホ……」

パーレン夫人は、同意してうなずくのみである。

次に、どの様な言葉が飛び出してくるのか。
貴族社会の夫人たちは、この様にらし会話の駆け引きを楽しむ。

『母親との仲が希薄きはくと聞いて、私に茶会の対話の仕方を教えてくれているのかなぁ』

「私ったら……。
早く先を知りたくて、ムキになり質問してしまいました。
お恥ずかしいですわ」

「お気にならないで」
 
「パーレン伯爵夫人も、こう仰ってくれてますわ」

夫人たちに謝罪してから、冷めたお茶を飲んで心を落ち着かせた。
だが、その味は一段と苦く感じてしまう。
喉を通りすぎてから、優雅にカップをテーブルに音ひとつも立てずに置いた。
天使のような愛らしい微笑を、夫人たちの顔に向けて話を聞く態勢に入るのだった。
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