無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

文字の大きさ
36 / 113
第2章  解けない謎解き

第15話 振り出しに戻る

しおりを挟む
 若い女の子が好むような色合いの部屋では、祖母ヴィクトリアが、孫娘の成長期に合わせて作られたドレスたち。
また1枚クローゼットから引っ張り出して、ベッドの上に一枚ずつ綺麗にシワにならないよう並べる。

最近は成長期のせいで背が伸び、気にしていた胸元もちょっぴり肉付きがよくなってきた。
鏡の中の自分と向き合うと、う~んと声を出して今あるドレスを頭に思い浮かべる。

『何色のドレスで、形はどのようにするか。
色や形状は勲章を頂くから、メインの勲章を目立つようにしないといけないわ』

その中で、品のあるシンプルなドレスを選んだ。
アルゴラ王家が飼育したかいこで作られた、最高級のシルク製品。

「これよ、このドレスしかない。
えーっと、お次は髪型か。
それと、宝石も選ばないといけないわね」

大きな全体が映る鏡の前で、何枚かのドレスを自分に重ね合わせる。
貴族の令嬢らしくない容姿で、皆が自慢する長い髪が肩下しかなかった。

あの時切り落とした髪の束をお祖父様に渡した残りの髪を返してもらえば良かった。
プリムローズは、今になって後悔する。

「今頃、メリーは粗相なく給仕しているかしら?
ギルの妹イングリッド様に、気に入られたらいいんだけど…」
 

    
    心配されている本人は、温かな湯気をあげてお茶をカップに注ぐ。
親子3人の再会を、劇でも観ているような気持ちで従事する。
いつもはチャラい彼が、紳士的な態度をしていて驚くメリー。
父ウィリアム様と、妹イングリッド様の間を気遣い取り持っていた。
彼の意外な姿を目撃して、好印象を感じはじめていた。

「お父様も、お元気そうで安心しました。
これからは、ずっとヘイズに留まって下さるのでしょう。
私達は会いたい時に、いつでも会えるようになりますのね」

美しい笑顔を浮かべては、父と兄に語りかけていた。

「グレゴリー様から、臣下の契りは解消されてしまった。
どうやら、私はお役御免のようだ。
ギル、お前はこの先……。
私の後、ゲラン家を継いでくれぬか?
それとも、エテルネルに戻りたいか」

家族の込み入った会話で、メリーは居づらそうに控えていた。

「もちろん、お兄様はゲラン伯爵を継ぐでしょう?
早く素敵な方をお作りになり、婚姻して下さいませ」

「まだ、俺はいいよ。
イングリッドこそ、お前が選んだ旦那様はいい人なんだろう。
今度、俺にも伯爵に会わせてくれよ」

いきなりの嫁探しを言われ、ギルも気まずそうな様子。
無意識に近くにいるメリーに、なぜか彼は視線を向けた。

その視線を見逃さなかったのが、妹のイングリッド。

「そちらにいらっしゃる方は、お兄様が存じ上げている方かしら?
このお茶、とても美味しくてよ」

イングリッドは感じよく、メリーに対して声がけをする。

「お褒めいただき、ありがとうございます。
イングリッド様。
プリムローズ様とエテルネルから参りました。
メリーと申します」

丁寧な挨拶を受けると、父ウィリアムからメリーはギルより剣術を教わっていると聞かされた。

『この人に、兄が剣術を教えていた。
親しげな感じがするのは、そのような仲でもあるからかしら』

それからメリーをさりげなく、人となりを見ようとするのであった。
イングリッドは、女性特有の直感で勘づく。

『メリーさんに好意を持っていると思うけど、彼女は兄をどう思っている?
彼女がどんな人柄なのか、そんなに会ったことないし』

「メリーさんは、プリムローズ様の専属のメイドでしたよね?
何年ぐらい、彼女のお側に?」

「お嬢様に仕えて、確か出会ったのは3歳でした。
今が11歳なので、8年間ほどになります」

自然に両方のまゆをあげ、その年数の長さに驚くのであった。

「二人の間は、乳母みたいな感じかしら。
それで、プリムローズ嬢に関してお詳しいのね」

「さぁ、どうでしょうか。
お嬢様は人には考えつかない事を、平気でなさいますから」

聞いていたギルがゲラゲラ笑いだして、そりゃあそうだと相槌を打ってきた。

「イングリッド、お嬢は平気で自分の親までダメ出しするお方だ。
ちょっとではなく、かなりぶっ飛んでいる。
普通の令嬢とは、頭の中身が違うんだよ!」

「お嬢様はどんな方でも、身分に関係なく平等に接してくれます。
言い方が悪いですが、ご家族の方々にも問題がありました。
ご自分にも厳しく、容赦ようしゃないのは認めますが…」

気になりイングリッドが聞き出すと、エテルネルであった事件をぎごちなく語るギルとメリー。

「第1王子が、プリムローズ嬢に逆恨みをされたのですか。
王族に対して、厳しい処分を出せる貴族がおりますのね。
ヘイズでは公爵でも、考えられない行為です」

「イングリッド、前王は第2王子だったんだよ。
結局は、最初から継ぐはずだった方に戻っただけなのだ。
次男で期待されず、いきなり王になるのは自分だと言われて苦労がしただろう」

父ウィリアムは、娘に退いた王の現状を教えていた。

「【振り出しに戻る】っていうが、まぁ出戻りだな。
他国の王女と婚姻して、肩身狭く自重して真面目にお暮らしだ。
なかなか、しっかり頑張っているみたいだぜ」

兄ギャスパルが父の話に補足して、詳しく話すのだった。

「身のたけに合ったお暮らしをされてますのね。
しかし、王が臣下になり伯爵とは厳しい沙汰さたですわ」

「無理もない。
息子の元第一王子は、無抵抗な者に剣を突きつけた。
父に側室が出来そうになったきっかけが、その人だとしてもしてはいけない行為だ」

「そうでございます。
我が国だって、あの呪いの王妃様の逸話がございますもの。
私は、平凡な伯爵夫人でよかったわ」

国王の人事まで、口出しできるクラレンス公爵の権力に驚く。
そんな破天荒な公爵令嬢に、長きに仕えているメリーもただのメイドではない。

『彼女なら、ギャスパル兄様の伴侶はんりょになってもヘイズでやっていけるわ。
私同様に、兄も好きなお方と結ばれて欲しい』

ゲラン伯爵がもし復権したら、兄は貴族の娘たちの優良物件にされてしまう。
そんな事が起こる前に、妹として兄には自分で相手を決めて頂きたいと強く思うのだった。

   
 着ていくドレスを決め、気分転換きぶんてんかん気ままに庭で散歩している彼女。
そこへ帰宅するのに馬車へ向かうイングリッドが、花を見ながら歩くプリムローズを見つけた。

『父と兄の見送りを、お断りして正解だった。
独りでいる彼女に、偶然にも出会えて幸運だわ』

イングランドは好機を逃さないために、ドレスの裾をやや持ち上げて駆け寄る。

「プリムローズ様、お久しぶりでございます」

「イングリッド様。
家族水入らずの再会は、いかがございましたか?」

少し挨拶がてらに会話していると、イングリッド様からメリーの人柄を探っているようにプリムローズには感じた。

「祖母ヴィクトリアが、彼女を見込んで専属メイドにしたのです。
ゆくゆくは、クラレンス公爵のメイド長になれる逸材ですよ」

「そんなに優秀なお方でしたの。
ますます、彼女に興味を持ちました」

そのイングリッドの口調に、プリムローズの瞳の奥がキラッと光る。

『イングリッド様は、メリーに関心があるってこと?
もしかしたら、私と彼女は同じ考えをしている』

「興味があるとは、どんな意味でしょうか?
メリーはメイドですが、祖母は娘みたいに思っておりますし、私も姉みたいに慕っています」

「言い方が悪かったようです。
謝罪します。
兄とメリーさんは、ちょうどよい年頃と思いましてね」

「ギルとですか。
あら、失礼しました。
ギャスパル殿でしたわ」

イングリッドとプリムローズは、互いに含み笑いをする。

互いに最後まで言葉にしなくとも、目と目で分かりあえたようだ。
鈍感で手を焼く男女を、この2人がうまく結びつけられるのか。
ナイーブな事案なので、まだまだ時間がかかりそうであった。










しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』

放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。 「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」 身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。 冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。 「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」 得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。 これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~

水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」 夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。 王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。 「左様でございますか」 彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。

覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―

Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。

婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています

ゆっこ
恋愛
 「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」  王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。  「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」  本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。  王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。  「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」

愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました

由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。 尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。 けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。 そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。 再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。 一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。 “尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。 静かに離婚しただけなのに、 なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。

追放聖女35歳、拾われ王妃になりました

真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。 自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。 ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。 とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。 彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。 聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて?? 大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。 ●他作品とは特に世界観のつながりはありません。 ●『小説家になろう』に先行して掲載しております。

処理中です...