無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第6話 見るのは法楽  

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  絶好のお出掛け日和びより
ヘイズには、冬らしい冬がないみたいだ。
祖国のこおるような寒さは、ここでは絶無ぜっむだと改めて知る。

「お天気になるように、お祈りしてよかった。
今日は、素敵な一日になりそう」

爽やかな風が顔にあたり、肩下しかない髪を揺らす。
心地よい風を満喫していた。

それだけでも恵まれているのに、夏でも湿気が少なくてカラッとしてて過ごしやすい。
エテルネルの冬は、雪も降るほど寒い日も多い。
それなりに雪遊びができ、楽しむ行事もあるから悪くもない。

「ヘイズの温暖な気候なら、凍死とうしする人はいないわね。
神よ、祖国が災厄なく。
健やかに過ごせますように」

目を閉じ暖かな日差しを感じ、祈り終えると窓をそっと閉める。
動きやすいドレスの上に、薄手のケープを羽織はおる。
先に出発の準備しているメリーたちを手伝いしに、ウキウキ気分を隠さないのか駆けだした。

 
 料理やお菓子の入ったバスケットをメリーが、ギルと一緒に馬車に運び込む。
ギルは重い飲み物を卸していると、メリーと偶然に目が合ってしまった。
重なる視線に、頬を赤らめ照れくさそうにしている。
恥じらいあうカップルを横目に、見ない振りをしてニヤニヤするプリムローズであった。

『初々しい歳ではないけど。
恋愛をした経験もなさそうだし、2人ならしょうがないか。
なんだか見ていて、私まで釣られて照れてしまうじゃない』

崩れた顔で、頭の中で繰り広げられる妄想でいっぱいになる。


 ひずめの音が近づくと、馬の鳴き声で無意識にそちらの方へ顔を動かす。
ベルナドッテ公爵の令息ヨハンが、太陽を背後にし騎乗きじょうしていた。

「プリムローズ嬢、おはよう!
今日は、宜しく頼むよ」

張りのある若者の声に聞き覚えはあるが、それは以前より一段と力強さを感じる。

「ヨハン様、おはようございます。
今日は馬車でなく、馬にお乗りですか?
お疲れにはなりません?」

「心配してくれてるんだね。
あれから運動をねて乗馬しているんだ。
少し体力もついて、医師のお墨付すみつきをもらって来ているよ」

彼の顔色をじっくり観察すると、ほんのりと赤く日焼けしているようにみえた。

『初めて教会でお会いした日は、倒れるくらいな青白い顔をしていた。
彼の笑みは、向日葵のように見ているだけで周りを明るくさせる』

ベルナドッテ公爵より、御礼のような手紙がプリムローズに届いていた。
学園へ毎日通える息子の姿に、感激している様子の内容が手紙に書かれていたのを思い出す。

『彼に、泉の水を差し上げたのは正しかった。
水のせいだけではない。
一番のきっかけは、彼の気持ちの変化だろう』

父の公爵が居ないと、他人との会話が成り立たない。
そんな意思のない人形みたいだった、ヨハン。
プリムローズは、あの時をしみじみ思い返していた。

『魂のない人形ではない。
自分の意思を持つ、強よく生きる人になった』

自然に心臓の音が高鳴って、彼女は稲妻に打たれた気分のようになり。
なぜか喜びが、全身に駆け巡るようだった。

「あの~、私の顔になにか付いてますか?」

とうとう自分に向けている視線に耐えきれず、ヨハンは困惑してプリムローズに訊ねる。
そして、馬に括っている鞄の中からハンカチを探し出す。
自分の顔が汚れていると勘違いしたようだ。

「ああっ、違います!
眩しいぐらいに……。
良い天気になったなぁとー」

「それでですか。
嬉しそうに笑っていたのか。
これから、もっと笑顔になりますよ」

背に当たる日差しを感じ、空を眺めていたんだと納得する。
どうやら自分は、自意識過剰だったようだ。

「ええ、そう言うわけです。
では、ヨハン様。
皆さんを拾いながら、楽しいピクニックへ向かいましょうか」

     
 次の道順は、スクード公爵のお屋敷でオスモ様と婚約者ライラ様とチューダ侯爵令嬢フレデリカを途中に待ち合わせる。
王宮に立ち寄りエリアス様を馬車に乗せて、最後にパーレン伯爵令嬢テレーシア様でお迎えは終わり。

全員揃ってから、現地に向かう予定。
ギル、ヨハン様とオスモ様は馬車を警護しながら馬車の横を走る。

 
 
 スクード公爵の馬車には、すでに令嬢たちが乗っていた。
王宮に着くまでは、プリムローズも公爵の馬車に同乗どうじょうすることにした。

「プリムローズ様、本当にエリアス殿下も御一緒ですのね。
お二人が晩餐会ばんさんかいで、踊られているご様子は素敵でした」

妖精ようせいや天使が、花の中で舞っている様にでしたわ」

ライラとフレデリカは馬車の中で、いきなりワケわからない話を彼女にしてくる。

「ぷーっ、くっっ!
どう考えたら、妖精などの言葉が出るの?
ライラ様とフレデリカ様は、想像力ありすぎですよ」

馬車の中でそんなやり取りをしていたら、目の前に立派なお城が見えてくる。

     
     
   王宮に着くと待っていたエリアスは、初めて会う2人の令嬢たちにまずは挨拶する。
興奮ぎみで挨拶を返している様子を見ていて、プリムローズが暴走しそうなライラとフレデリカをさえぎる。

「エリアス殿下は人見知ひとみしりですので、緊張させて疲れさせてはなりません。
目的地まで、まだ到着もしていません。
私たちは、アチラの馬車に乗りましょう」

そう言うと令嬢たちを置いてエリアスの手だけを取り、プリムローズが手を引いてしまうのだった。

「ゆっくりお話できるかと思いました。
……、残念ですわ」

期待を裏切られガッカリして、ライラと別馬車に乗り込む。

馬車が走り出すと彼に、集まった令嬢方の大まかな情報を伝えていた。
隣で静かに様子を見守るメリーは、それだけエリアスを気にかけているんだと微笑ましく思う。

「迎えに行くパーレン伯爵令嬢は、ご自分の体型を気にされているんだね」

「そうなのよ。
以前は開き直っているようでしたが、色気が付いたのか気になり出したみたい」

「そうじゃないと思うな。
プリムローズ嬢たちと親しくなってから、ご自分の体型を比べて思ったんじゃないかなぁ」

それもあるかと、エリアスの意見に頷く。 
眉をハの字にして、彼に頼るように続きをする。

「彼女は貴方に会うのを楽しみして、せなくてはとおっしゃっていました。
ですが、無理に食事を抜いたりしては健康を害します」

「うん、私は食べる物がなくて不健康だった。
普通に食べていても、太りやすい方はいるし逆もしかり。
私の主治医が、そう話されていた」

「ですから、やんわりと忠告してくれない。
好意ある人が言えば、聞く耳を持つと思うのです」

「その令嬢は、私とは親戚になる方だね。
うまく説得できるか不安ですが、なんとか話してみます」

「テレーシア様は突っ走る性格みたいですが、エリアス殿下の話なら素直に聞くわ。
無い物ねだりだけど、そのぜい肉を私のあるところへ頂きたいものです」

「あるって、どこに?」

彼の疑問に胸を隠して、顔から湯気が出そうなくらい真っ赤になってしまった。

「ゴホン、この話はここまでで終わりです!」

「よくは分からないけど、わかったとしよう。
プリムローズ嬢はお優しいですね。
この令嬢だけでなく、私やベルナドッテ公爵のヨハン殿の体調を気遣ってくれている」

「べつに優しくないわ。
気になるから、お節介でしているだけよ」

そうですかと一言返す表情は、王族らしく堂々した態度になってきている。
しかし、鈍感さはそのままね。
言葉遣いからは、かなり成長しているんだと考えさせられた。

     
 パーレン伯爵ていに到着すると、門前に母親やメイドをしたえ。
そして、待ち構えてお出迎えしたかったようだ。
あまりに仰々しくて、こちらが逆に構えてしまう。

「テレーシア様、何時からここでお待ちでしたの!?
玄関まで、コチラからお迎えにあがりましたのに」

プリムローズは引き気味で、最初に彼女に声をかけた。

「だって、殿方がいるお出掛けは初めてでー。
母からも、皆様にご挨拶を申し上げたいそうです」

「今日は、テレーシアをお願いします。
なにせ、この子は人付き合いが苦手です。
もし、失礼なことをしても大目に見てあげてくださいね」

「およしになって、お母様ったら!
恥ずかしいですわ。
小さな子供が、出かけるみたいなことを仰らないでください」

我が子を心配している伯爵夫人は、メイドから大きな篭を受け取る。
それを頼みながら、護衛のギルに手渡した。
かごの中身は、ピクニック用の食事だろう。
夫人からのたっての願いに、皆はハイと返事せざるを得なかった。

テレーシアは返事に気を良くして、エリアスの側に近寄ってくる。
一緒の馬車に乗るつもりでいたのを、令嬢たちがそうはさせぬ態度を示していた。

彼女の両腕を左右で組み、引きずるように連行れんこうしていく。
 女同士の駆け引きに、プリムローズは怖さを感じるのであった。

ギルが大きな籠を軽々に馬車の中へ積み込む様子を見つめながら、プリムローズは呆れ顔で話しだした。

「あらあら、テレーシア様が引きづられてます。
食事は当家で用意すると、何度も申し伝えてありましたのに困った方ね」

「皆様、手ぶらでは気が引けたのでしょう」

メリーは代弁だいべんして心情をべる。

「観光地だし、人が大勢やって来ます。
家族連れなら子供もいる。
菓子をあげれば喜ぶと思うぜ」

「ギル、貴方気の利いたことを言うじゃない。
仲良く知らぬ人たちでも、交流を持てたら素敵ね」

「ギルさんとプリムローズ嬢の意見に、私も大賛成です。
どんな場所なんだろう」

「エリアス殿下は、誰も教えてもらっていないの?
私は聞いても、誰も教えてくれませんでした」

「知らない方が、妄想できて楽しくありません?」

「妄想?
メリー、想像の間違いじゃなくって」

ギルが馬上から大笑いして、ある言葉を投げかけた。

「【見るのは法楽ほうらく】とは、この事だな。
意味は、自分の目で様々なものを実際見るのは楽しいということだ。
それに、ただで見て楽しむことは無料であると言う意味もある」

「ギルさんは、難しい言葉をよくご存知ですね」

エリアスが感心して話しかけると、照れ隠しで声を張り上げた。

「よっしゃー、お得な観光地に行くぜー!」

盛り上げようとしてくれているようで、拳を高くあげて掛け声をかける。

ギルの後に続いて、プリムローズたちも同じポーズをした。
そして、馬車に乗り始める。
馬車を走らすギルに対して、メリーがボソッと独り言を言う。

「馬鹿そうに見えて、あの人って結構もの知りなのね。
いい歳して、一番子供みたい」

誉めているとは思えないメリーのつぶやきに、プリムローズとエリアスはメリーの意見はどう思うって目つきをしていた。
無言の目だけの会話につい我慢できなく、二人はクスクスと声を殺して笑う。
 
独り言を聞かれて気まずいメリーは、プリムローズたちの乾いた笑いを避けるように窓の外へ顔を向ける。
そんな彼女の可愛い行動にプリムローズは、このピクニックで仲が深まるのを心のどこかで期待していた。



     
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