無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第20話 女の心は猫の眼

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 男女が共有に使用する所を案内されて、いよいよ生活の拠点きょてんとなる女子りょうへ向かう。
もっと冷たくされると身構えていたが、オスモのそっけない態度くらいにとどめてくれるようだ。

「あれが女子寮だよ。
別名、アマゾネスのやかただ!」

オスモが奇妙な呼び名で、前に現れた女子寮の建物を指し示す。

「はぁ?!アマゾネス?
遠い見知らぬ国の神話に出てくる。
女性たちだけの部族を、指す言葉ですよね?」

「そう呼ばれているみたいだね。
あの女子寮にいる学生たちは、アマゾネスたちも逃げ出す。
男子学生から、影でこう恐れられている。
噂とは大袈裟なものだから、現実は違うと思うよ」

遠回しに寮の内情を説明するが、これが不安さを増す。
入る前から腰が引けてきたプリムローズは、背中から悪寒がして全身をブルっとさせた。

『半年、無事に寮生活を過ごせるかなぁ?』

「どうだ、考え直さないか?
彼女たちと、肌が合わないと思う。
私もライラも、プリムローズ嬢を心配している」

「この軍学園の転入には、崇高な目的があるのです。
将来、エテルネルに軍学園を作りたい。
自分が体験し知識を得て、はじめて人に薦められるものだと思うのです」

祖国エテルネルに彼女は、軍学園を開校したいと夢を持つ。
他国に囲まれた未来に不安があったからだ。

『現在はアルゴラの王女だった祖母がいるが…。
いつまでも、アルゴラに頼れない。
他国ではなく、自国民が守らなくてはならない』

「どうやら、意思が固いようだな。
困った事があったら、我慢しないで何でも話してくれよ」

プリムローズの強い覚悟を感じ取ったオスモは、出来うる限り力添えすることを決めた。

「そう言ってくださると、気持ちが軽くなります。
スクード公爵令息」

「素直に言われると、照れるではないか」

笑って話ながら歩いていると、名前のわりにいたって普通の学生寮が近づいてきた。
外観がいかんは、あの孤児院ボンヌ・シャンスに似ている。
彼らと別れてそんなにっていないが、元気で暮らしているだろうかと考えていたら若い女性の声が間近から聞こえてきた。

   
    アマゾナスの館の門前には、腕組みをした女性らしき人が待ち構えた。
その人が纏う空気は、自分を拒絶している。

「待っていたぞ、スクード公爵令息。
そこにいるのが侵入者!
じゃなくて、編入してきた例の令嬢かい!?」

話し方と見た目は、女性を感じさせない。
男装の麗人れいじんのようで、女性の中では背の高い人ほうだ。
胸を張り腰に両手を当てて、プリムローズを見定めるように見ながら立っていた。

「あぁ、そうだよ。
今日から転入する彼女を、よろしく頼むよ。
私から紹介しよう!
エテルネルから留学に来ている。
プリムローズ・ド・クラレンス公爵令嬢だ」

『侵入者とそうだの会話。
本人を前に、露骨すぎないと少しは思わないの!』

プリムローズは、二人に対して不快そうにした。
下から上に舐め回されるように視線を動かされ、これは絶対に歓迎されてないと馬鹿でも分かる。

『これが、大陸のエテルネルから来た公爵令嬢か。
白金のブロンドに、紫色の瞳は初めて見た』

平凡な黒髪の自分とは違って、なんだが卑下を感じてしまう。
自分が寮長の責務で、これから面倒みて寝食を共にしなくてはならない。
彼女をよく思わない寮生たちの仲を取り持つ役目に、会ったばかりで彼女は頭を痛めた。

『初めて会って、1分も経たないでこれか?
前途多難ぜんとたなん、お先真っ暗で何も見えないよ』

第一印象は大事だと、それなりに心を込めて挨拶を始めることにした。

「お初に御目文字おめもじ致します。
エテルネルから参りました。
プリムローズ・ド・クラレンスと申します。
宜しくお願い致します」

丁寧に腰を折り挨拶すると、不快感を増した目線が送られてきた。
その視線に気圧されて、再度仕方なくお辞儀してみる。

「ふ~ん、流石さすがは淑女の学びのしゃから来ただけである。
回りくどくて、なにやらお上品だな。
ここではいらないし、そんなことしも無意味で無用だ!」

『挨拶は無用ではないでしょう』

頭を下げている状態のせいで、強烈に拒絶されたように感じた。
プリムローズは、不意にほほをピシャっと叩かれた気分になる。

これをどうしたらと戸惑う彼女に、注意する厳しい声がした。

「コートン子爵令嬢!
それは言いすぎではないか!?
彼女に、失礼にも程がある。
騎士にも、礼節はつきものだぞ」

オスモ様が手厳しく言い返してくるとは、ライラを介して令嬢を重んじているのは知っていた。
だが、彼女にはあまりそれを感じられない。

『突然で訳わからないが、オスモ様とこの女性が言い争いをしている』

口論を聞いていると、私が突然の編入が気に入らないのが分かる。
当人を放っておき、ますます白熱している。
どうやら前から、オスモとは気が合わないとようだ。
自分が納めないと、終わりがみえそうもない。
黙って観察していたプリムローズが手を広げて、二人の間に割り込んで口を開いた。

縄張なわばりに、ズカズカ入ってきて悪かったわね。
ですが、なにも見ようとしないで毛嫌いしないでくれるかしら!?
そういうのを、偏見へんけんの目と言うのをご存じですか?」

小気味こきみいい反撃に、彼女は驚きと共に喜色の笑みを向けて言ってきた。
 
「へぇー、怖がらないでよく言ったね。
私の名前と身分を紹介しよう。
ロッタ・コートンで、身分は子爵の娘だ!
見かけと違って、君イイね。
それ悪くないし、私は嫌いじゃないよ」

プリムローズ。毛色の良い気高い猫みたいだと思ってみていたがー。
まだどんな令嬢かは分からないが、結構楽しめそうだとロッタの中で高揚感が広がった。

「あ、ありがとうございます。
改めて、今日から宜しくお願い致します!」

「これって、どういうこと?」

プリムローズとロッタの顔を、不思議そうに見つめている。
への字の唇が項を描くと、目がちょっと笑ったとプリムローズは思えた。

「オスモ殿、彼女を私にまかせてくれ。
そろそろ、行こうかな。
クラレンス公爵令嬢!」

「ああ、コートン寮長。
その済まないが、目をかけてやってくれ」

急に変わったロッタに、オスモはついていけないようで戸惑う。
それは、隣に居たプリムローズも同じである。
このチャンスを逃さないと、彼女はロッタに話しかけた。

「身分つきで呼ぶと長いですから、プリムローズでいいですよ。
私は、どうお呼びすればいいですか?
コートン子爵令嬢」

「呼び捨ては、まだ早いな。
うーん、そうだな…。
まずは、ロッタ先輩でどうだ?!」

「ロッタ先輩ですか。
いいですね~!
私は歳下ですが、一応身分が上ですので。
プリムローズ嬢でお願いできますか?」

「承知した!
陛下から、勲章ももらっているしね。
どうして髪が短いんだ?
ここに入るのに、邪魔じゃまだと思ったの?」

ロッタ先輩は親しみやすく、気さくな方かもしらない。
容姿を見れば黒髪で長い髪を後ろで三つ編みしていた。
下から私を見つめる彼女目は、琥珀こはくの色をした瞳。
目を細めて微笑んだようで、私に一瞬で安心感を与えてくれた。
最初とはかなり変わってしまったと、プリムローズはロッタを見上げて微笑み返す。

のほのぼのな雰囲気ふんいきに、一人拍子ひょうし抜けするオスモ。

『女とは分からないもんだ。
【女の心は猫の眼】。
女の心は気まぐれで、変化しやすいことか。
猫の眼は、形は光線によって変化するからな。
猫っていうより、あそこはとらしかいないけどさ』

案外と気があったのか。
笑い合っている様子に、大小の後ろ姿を見てタメ息がでてしまう。

「ふう~、婚約者のライラさえ、理解できない時もあるからな」

オスモは、女の感情の複雑さにお手上げになる。
太陽が西陽に傾きかけて、偶然目に入り眩しげに立ちすくむ。
瞼の裏に光を感じたものが落ち着くと、やがて彼も自分の住みかの男子寮に戻るのだった。
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