無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第3章  それぞれの巣立ち

第21話 朱に交われば赤くなる

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  先を歩く寮長ロッタの背中では、黒髪の一本の長い三つ編が揺れていた。
追って背後を歩くプリムローズは、時計の振り子を見ている気分になる。
それに合わせて、彼女の珍しい紫の色の瞳を左右に動かす。
ピタリと止まり揺れがなくなると、反転してプリムローズの正面へ振り返った。

「ここが女子寮になる。
今日からプリムローズ嬢も、ここの一員の一人だ」

「はい、思っていたより広い寮ですね。
うん!?
なにやら、甘い爽やかな香りがします」

子犬のようにクンクン鼻を鳴らして、どこから漂うのだろうと顔を動かして不思議がる。
プリムローズの可愛らしい様子に、ロッタはその答えを指さした。

「ジャスミンの香りだよ。
あちらの塀を見てくれ!
小さな白い花が、たくさん咲いているのが見えるだろう。
ヘイズでは、ジャスミンの花を長い期間楽しめるんだよ」

「うわぁ、咲いていますわ。
白い花が可愛らしいですね」

風に乗ってふたりの所まで、癒しの香りを届けてくれる。

「私たちは、香水がつけられない。
軍学園の校則では、これらを厳禁とされているんだ。
訓練で接近して闘ったりするから、それで匂うものは禁止されているのだよ」

この規則が出来た時、その年代の寮長が学園に掛け合ってジャスミンの花を植樹したと教えてくれた。

「最初は数本だったが、今ではこんなに増えた。
毎年、我々に香りで安らぎを与えてくれているんだ」

「先輩たちから、後輩たちへの優しい心遣いですね。
私も香水はつけませんが、ポプリなどで匂袋を作ったりしてます」

笑顔で喋る彼女を、自分とは正反対で女の子らしい趣味だと思っていた。
プリムローズの愛らしい笑顔とは違い、ロッタは気がかりな面持ちをするのだ。

「女性らしい、趣味をお持ちだな。
この寮に入った事を、君は悔やむかもしれない」

それより後、ロッタが発した言葉の意味を知った時。
プリムローズは思い出して、渋い顔をするのであった。

「【しゅに交われば赤くなる】。
環境によって、人の心は変わるものです。
適応力は、ある方だと思っていますわ」

「朱色が入り交じれば、赤味を帯びるようになる。
私の責任は重いな。
付き合う人によって、善悪どちらにも感化されるものだ」

彼女と付き合うことで、自分も交わってみてどう転ぶのだろうとー。
オスモに任せろと軽々しく言ったのを思い出し、ロッタはおのれを笑った。

    
    アマゾネスの館は、ごくごく普通の石造りの建物であった。
3階建ての1階は、団らんをねた共用部分。
運動器具があり、剣術を練習する場所も備わってある。

「すごい設備ですね。
皆さん、均整の取れた体型をしてます」

プリムローズは目が離せないで、訓練している様子に釘付けになっていた。
わざと見せつけて肩を出して、力こぶを彼女に見せつけている。

「君たちも淑女になる為に、刺繍や詩集を読んだりしているだろう。
我々は強靭きょうじんな肉体を育てる為に、こうして日々を費やすんだ」

鍛練たんれんしている人が、手に馴染みやすい形をした鉄の塊を持って上下に振っている。
重さも調節できる様に、よく見ると工夫されていた。
懸垂が可能な鉄棒まで、部屋と言うよりちょっとした体育館並みである。

「我々ですか……。
それに肉体を育てるは、筋肉の鍛えることですよね」

「そうだとも!
たくましい肉体と精神は、日々の努力でつちかうものだ。
プリムローズ嬢もそう思うだろう?」

「もちろん、当然です!
これには共感致しますわ。
夏休みは訓練できませんでしたので、ここを活用して一からきたえ直したいです」

「その時は、私も付き合うよ」

社交辞令で言ったのに、ロッタ先輩は嬉しくなりノリノリだった。
背中をバンバンと叩くので、前にツンのめりそうなる。
持ち前の体幹で、なんとか堪え忍んだ。
剣の素振りや体を動かしている寮生たちが、チラチラと私を物珍ものめずらしげに盗見られていた。

    
     一階から上がりきると、二階の部分を案内される。
小さな図書館を思わせ、本がたくさん所蔵されている。
学生の本文も、ちゃんと忘れていないようで胸を撫で下ろした。

「ここには、人が誰も居ませんね」

「試験の前日は、席の空きがなくなる。
悲痛な顔をした寮生たちが、ごった返して満席状態だ」

「……、そうなんですか。
皆さん、必死なんですね」

普段から勉強すればと忠告したいが、まだ早いので胸三寸に納めた。

「食事は朝と晩は、男女一緒の大食堂で食べる。
朝は7時、晩は18時になる。
起床は6時、20分で支度したくをするようにー」

控えめに軽く手を挙げて、ロッタへ質問してみる。

「あの~、どうして朝の支度は20分なんですか?
べつに、朝食に間に合えばいいのでは?」

「プリムローズ嬢、いい着眼点だ。
起床したら、朝の点呼が抜き打ちで行われる。
いつ敵から奇襲されるか分からない。
どんな時にも対応できるように、普段から体に叩き込んでいるのだ」

「ははぁ~、奇襲?
奇襲とは、その朝に選ばれて突撃されたという意味ですかね。
軍学園だけあって、軍隊並みの規律で統制いるのですね」

そして、日々たゆまぬ努力をしている。
彼女たちは国を守る使命で、これだけ全力を尽くし励んでいるのだ。
この国は島国で、簡単に攻め込んで来られない。

『どこの誰と戦うつもりなの!?
あー、しかし反乱もあり得る。
治安維持するにも、武人は必要になる』

結構、需要があるものだと考えついた。

油断大敵ゆだんたいてき
どんな時も、緊張感を持ち合わせる。
そのための訓練ですのね」

「おおっ、君は見込みあるよ。
軍事学園は、通常の学園と違う。
国を守る事を身につける。
生徒でも、いざとなれば兵士になるのだ」

「いざって、訪れる日があるのでしょうか?
学生が、兵士として…」

どないして、ここまで意欲的になれんだろうか。
島国ヘイズより、エテルネルがするべきだわ。
他国に囲まれて、他愛もなく攻め込まれてしまう。
ましてや、陸続きで逃げる場所すらない。

「君の部屋は、3階の奥の角部屋だ。
表札に名前が書かれている。
広くていい部屋だよ」

「……、はい」

両国の軍事に対して決意の違いに腑甲斐ふがいなく、プリムローズの頭の中が混乱してしまっていた。
エテルネルも危機管理を持たせないと、ヘイズより先に国が失くなっちゃう。

明後日あさってから、授業に出てもらう予定だ。
夕飯の時間に、私が部屋に迎えに行く。
それまでは、荷を解いたりするといい。
では、ここで解散だ!」

「承知しました、ロッタ先輩!
あの~う、ご面倒かけますがー。
慣れるまでは、よろしくお願い致します」

気合いには、やはり気合いで返してみた。
この心意気はロッタに伝わっているようだ。

「じゃあ、また後ほど迎えに来る!」

別れ際に右手を軽く挙げての仕草までも、騎士みたいにカッコいいと胸を弾ませる。

「ロッタ先輩、ステキ!
いまちょっと、女性同士の恋愛感情が理解できた。
白バラと黒バラは、男性同士で毛嫌いしたのを反省するわ」

二人に会う機会があったら、謝罪と応援するのを伝えようと決めた。

「私も寛容になった。
年を取ると、性格もだんだん丸くなるのね」

祖父グレゴリーがこれを聞いたら、自分を投げ飛ばすだろうか。
ロッタの漆黒の三つ編みの髪が、左右に小気味良く揺れ動く。
背筋を伸ばした歩き、まるで軍隊で行進しているみたいである。
プリムローズは、その後ろ姿が見えなくなるまで見送るのだった。


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