無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第2話 不倶戴天

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 編入してから早いもので、2週間が過ぎていた。
プリムローズは、勝手が違う生活に慣れてきたようだった。
他人と暮らす寮生活を、楽しむ余裕もでてきている。
特に最初から面倒を見てくれていた、ロッタとジャンヌの2人がいたお陰でもあった。

 そんな彼女らが、どうして軍学園を目指したのか。
動機どうきが気になり、直接本人たちに訊ねてみることにした。
プリムローズは無理に話さなくても良いと言ったが、快くロッタが志望動機を教えてくれる。

「家が貧乏なんだ!」

簡潔に恥じることなく、明るい笑顔で言われた。
あまりにもいさぎくて、訊いたプリムローズも絶句した。

「そう、……でしたか」

まごついてから一言だけ返す。
素直で卑屈な精神は、ロッタには皆無だと感じた。

「貧乏大家族で、兄姉に私に妹弟の5人もいる。
幸か不幸か、そのど真ん中に私が生まれた」

家族構成を知り、プリムローズはまた驚く。
自分の兄姉を思い返してみると、2人でも厄介なのに4人も居るとは想像もできない。

『家庭環境から仕方なく、ここへ進んだのだろうか?』

淑女教育とは真逆の軍関係へ、彼女らは進む気持ちになったのか。
もし祖国エテルネルに同じ軍学園ができたとしたら、ロッタたちみたいに軍学校へ入学してくれるだろうか。
それには、強い志が必要になる。

「上に気遣いながら可愛がられ、下には頼られ慕われていた。
好かれるのは、嬉しいけど疲れてね。
ひとりになりたい。
早く自立して、家を出たかったのが本音だ」

「よく分かりますわ!
我が家は王家より裕福でございますが、一部の家族には恵まれませんでした。
一部とは、両親と姉兄です」

「ああ、そうなんだ。
裕福でも幸せとは限らないんだね。
べつに家族が、嫌いで出たわけじゃない。
家計のために食いぶちが、一人でも減ればと考えたんだ」

「ロッタ先輩は、家族思いの優しい方ですね。
ご家族の方も、ロッタ先輩に感謝してますわ」

「うん、両親の手紙にそれとなく書かれていた。
自分の意志で、この学園に来たのにさ。
最初の頃、自由な時間が持てて気楽だったよ。
たまに家族を思い出して、ちょっとだけ寂しく感じる時もある」

「私もロッタと似た感じ、男爵と言っても名だけの貴族。
将来を考えて入学したの」

そんな貧乏自慢していたロッタとジャンヌは、王家より裕福と言いきったプリムローズの言動に引っ掛かった。
アルゴラの元王女が、嫁いだ公爵家と聞いていたので納得する。

「学園を卒業されたら、故郷へ戻られるのですか?」

何気なく訊いたプリムローズは、ロッタの夢を知ることになった。

「王都に残って働くよ。
故郷では稼ぐ場所がないし、仕えたい人がいるんだ」

ロッタは幼い頃からの夢を、プリムローズたちへ語りだした。
きっかけは、古い時代のある王妃様の話から始まる。

「昔のベルナドッテ公爵の令嬢が、王太子殿下に嫁いだことから始まりだ。
姑の王妃様は、非常に厳しく彼女を躾した」

ロッタ先輩の話だと、喜怒哀楽きどあいらくをむやみに表に出してはならない。
いつも穏やかで、けして動じてはならない。
威厳を保つように求められ、それを彼女に望んでいたそうだ。

「王太子妃は、義母の言うとおりに努力した。
人から完璧で慈悲深い淑女と、そう呼ばれるようになったんだ」

頑張れば頑張るほど、夫との交流の時間が少なくなっていった。
そこにつけ込んだのが、後の公称愛人こうしょうあいじんになった子爵の未亡である。
彼女は王太子が好みの食べものや、どんな事をすれば喜ぶかなどを全て調べあげていたのだ。

「義母からも、息子は婚姻前のお遊びをしている。
未来の王妃としてどっしり構えていれば、それでよいと言われていたそうだよ」

「王太子の時代から、すでに浮気していたのですか。
ベルナドッテ公爵からうかがった話より、こちらの話の方が悲惨な感じだ」

ベルナドッテ公爵は男性だ。
異性の口からは、言いにくい内容だったのだろう。
だからロッタの話を聞くと、ますます憤慨してしまう。

「王妃の愛を、夫は裏切った。
愛人と2人して、無視したりしていたそうだ。
我慢の限界の末に、愛人の顔を切りつけてしまったんだよ」

「お可哀想そうに、切りつけた王妃は事件現場でー。
皆が居る場で、自らを命をたたれてしまったのです」

ジャンヌは自害の言葉を口にする際は、目を閉じて王妃を想い祈るようであった。

「浮気した王の母親は、何処にいたのです?
そうなる前に助けなかったの?
まさかいざこざの途中で、姑は天に召されちゃったとか?」

プリムローズは、ロッタたちへ質問を次々に続けた。

「前王妃は夫の王が亡くなり、息子の新王から豪華な離宮を与えられたのです。
そこでなに食わぬ顔で暮らされていたみたいよ」

『なぁ!なんですと!
息子が母親に口止めするために、そんなことをしたのか』

どいつもこいつも性根が腐っている。
自分が王妃なら無茶苦茶に腹が立つし、事件を起こしても責められない状況だ。

「ジャンヌの言う通りにー。
母親の前王妃は、大喜びで息子と愛人の言いなりになってしまうんだ」

「嫁に対しての愛はないのか?
そういえば、我が家もお祖母様と母の仲がイマイチ以上に悪かった。
世の中にいる嫁姑は、大体がこんなものかしらね」

興奮状態で自分の世界にいる彼女は、薄気味悪くブツブツと独り言をいう。

「でもさぁ、嫁と姑でも仲良い人たちもいるぞ」

「ロッタはそう言うけど、一般的な嫁姑関係は難しいと思う。
旦那様のさじ加減で、うまく円満にはなる家庭はあるわ」

「味方が、一人も居ない訳が判明しました。
義母が、息子の浮気を容認していたんですもの。
呪い殺されても、当然の報いだったのよ」

話してくれた二人の前で、プリムローズは吐き捨てるように言った。

「あの事件を反省して、王妃様付きの女性近衛このえが誕生しているんだよ」

「王妃専属の近衛ですって、それも女性。
ロッタ先輩の近衛姿を、想像するだけでヨダレが出そうです」

「公爵のご令嬢がヨダレって……。
君、他人には使わない方がいいよ」

ロッタの親切な忠告は、プリムローズには聞こえてないのか。
なにやら違うことを、彼女は考えてニヤついていた。

『また、商売のアイデアが浮かんできた。
もし、美丈夫の近衛兵が給仕してくれるカフェを開業したらどうなるかしら?
騎士カフェは、きっと女性たちにウケるわ!』

王妃の側で控えて立つ、背の高い近衛のきらびやかな正装姿を妄想する。
それを目の前にいるロッタに当てはめたりしたら、プリムローズの頬が赤らんでくる。

「もう二度と、悲劇の呪いの王妃様を出さないためにね。
お力になれる者を、側における制度を作られた」

「同姓ならそこら辺は、男性より接するでしょう。
この事件からは、正妻の王妃に権限を多く与えているわ」

ロッタとジャンヌは、安心させるように現状を知らせる。
現ヘイズ王は、王妃に頭があがらないと噂されている。

「うんうん、よかった。
不幸な事件でしたが、こうして改善できて素晴らしいです。
罪を犯した王妃様にとっては、愛人が【不倶戴天ふぐたいてん】な方でしたのね」

「ふ、ふぐたいてんって?
難しい言葉に聞こえますが、なんって意味ですか?」

「君って頭いいんだね。
もしや、趣味は読書?」

「幼い頃は孤独を埋めるのに、本をたくさん読みましたわ。
おかげさまでこうして、役立つか分からない知識を得ました」

遠い目をして昔を振り返る。
他国の公爵令嬢も、自分達とは違う苦労しているんだと知った。
ロッタたちは、何処かの世界に行ってしまったプリムローズをみて思う。

「慰めるか、褒めるか悩むね。
とにかく、それどんな意味なんだい?」

「不倶戴天とは、生かしておけないほどのうらみや憎しみがあることです。
不倶は、共存できないこと。
戴天は、同じ空の下で暮らすことを言います」

「恨みか……。
なんだか、心がすさむな。
私は女性近衛になって、孤独におちいりそうな王妃様を支えたいんだ。
こんな恐ろしいことを、もう起こらないようにしたい」

「ロッタ、近衛になるには大変よ。
陰ながら応援したいから、できることがあったら言ってね」

「ジャンヌ、ありがとう。 
最低10年はかかるだろうし、もしかしたらなれないかもしれない」

「ええー、10年!
10年もかかるの?」

目を大きくさせてプリムローズは、ロッタが軽く言った年数に驚く。

「王族の側近くで仕えるんだ。
信頼と実績がなければつけない。
ましてや、私の実家は貴族でも子爵。
王宮内の庭園警備でもつけたら、ありがたいぐらいだよ」

「……、お庭番」

今まで王族よりも偉そうにしていたプリムローズは、現実世界が甘くないのをロッタから教えられた。
女の盛りを捨ててまで、彼女は王妃に仕えたいのか。

「で、でも婚ー」

婚姻しないのかと言いかけて止めたのは、ロッタとジャンヌが手を取り合っているのを見たからだ。
人の夢を妨げる質問は邪道だと、一歩手前で気付いてよかったホッとした。

「ロッタに負けないように、私も頑張るわ。
その前に、無事に卒園しなくてはね」

「たしかにー、卒園しないと面接さえありつけない。 
王宮に雇われたいな。
それに、衣食住が無料って最高だよ」

「王宮の食事は、美味しいって噂があるもの。
大食いのロッタには、いい環境の職場になりそう」

未来を語る彼女らは、感動するくらいの友情を見せつけられる。
プリムローズは、ロッタとジャンヌから一歩離れた。

『ああ、美しすぎる。
ふたりの友情が、キラキラ輝いて眩しい!』

会話を聞いているだけで、胸がじんわりドキドキする。
エテルネルの友人たち、ジェイクとアレンに匹敵ひってきする友愛だった。

『これはー。
純粋な友情ですよね?』
 
つい不要な勘ぐりをして、いらない心配をしてしまう。

「ロッタ先輩、私も応援します。
あのジャンヌ様も、ロッタ先輩と一緒に近衛を目指しておりますの?」 

「いいえ、違いますよ。
憲兵けんぺいになりたいと思っています」

「憲兵って、あの憲兵ですか?!」

「ええ、国民の治安を守る仕事です」
  
目を大きくして聞き返す私に、彼女は胸を張って話す。

『悪人を追って捕まえたりするのでしょう。
ジャンヌ様は本当に分かって、憲兵になるおつもりなの?』

そんな危険な職場は、ジャンヌには似つかわしく思える。
どちらかと言うと、ロッタ先輩の方がしっくりした。

彼女にも、特別な志望動機があるのかもしれない。
もし話してくれるのなら、ジャンヌの理由も知りたくなるのだった。


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