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第4章 騎士道を学べ
第14話 見ることは信じること
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鬱蒼とした木々が目に鮮明に見えてくると、美しき白馬がヒヒーンとここだとばかりに合図を送る。
背に乗る主人に、常勝の道へ入る場所を教えてくれていた。
同時に白い鷹のカップルも、ピーピーと鳴き続ける。
プリムローズたちの頭上で、円を描いて仲よさげに飛び回っていた。
「みんな~、ありがとう!
ここが、道の入り口なのね。
ちょっと不安だったから、本当に助かったわ」
上空を二羽の鷹たちに返事するために、デカイ大声でお礼を述べる公爵令嬢。
頼りない飼い主を献身的に助ける姿に、プリムローズの後方で感動に浸っていた。
「賢い鷹たちですね。
プリムローズ嬢は、素敵な家族をお持ちですわ」
以前ひどい目にあったジャンヌは、話しながら苦い思い出が浮かんでいた。
猫を飼っている友人宅で、つい猫ちゃんと呼んでしまったのだ。
「娘よーっ!」と叱られてから、この手の事には気をつけている。
その方とは、これ以降気まずくなり友人とは疎遠になってしまった。
「家族ねぇ~。
鷹のピィーちゃんは、雛から私が育てたのよ。
姉リリアンヌの白馬だったヴァンブランは、ちょい訳ありで譲って貰ったわ」
「雛からですか。
それなら、プリムローズ嬢は母子みたいな関係ですね。
訳ありですか…、深く訊かないでおきます」
ここまで主人に対して、理解があり忠誠心あるのも珍しい。
彼女と彼らには、自分等には理解できない強い絆があるようだ。
上空にいる鷹たちとプリムローズを乗せている白馬を見ながら、4人は沈黙して頷くのであった。
ヴァンブランから降り立つと、首筋を優しく撫でて感謝を表す。
嬉しそうに目を細める様子に、種族を越えた愛が見えた。
そんな彼女がひとり距離を開けると、いきなり両手を天高く高だか挙げる。
ここからでは聞こえないが、何やら彼女はブツブツ呟いていた。
「何を言っているか分からないけど、空に向かい両手を挙げてます。
言ってはなんですが、不気味ですわ」
「呪文みたいに聞こえるな。
いでよとか叫んでいる。
ぶしつけな言葉で申し訳ないが、頭のほうは大丈夫かなぁ」
女性たちの会話をよそに、彼らの方は謎の一挙一動を見落とさないようにしていた。
「わが名は、プリムローズなーり~!
神聖なるロイヤル・ゴッド・アイに道なき道を見せたまえ。
出でよ、常勝への道!
フーン!」
突如、呪文を唱え始める。
見守る男性2人はふんぞり返っていたプリムローズを、思い切り指差し笑い転げる寸前だった。
「プッ、出でよだってさ。
アッー、笑いをこらえるのが苦し~い!」
「フーンって、ふんずり返ってあの姿だ。
やめてくれ、マジに腹が痛くてたまらん!」
カルヴィとオスモは、ふんずり返る様子のプリムローズを真似て手を挙げていた。
『うぅー、二人して笑い転げてバカにしよって!
アイツら、道が現れたらタダではすまないから』
バカにされたプリムローズは、真っ直ぐに見つめながら念を送りつつも怒りが収まらない。
「あっ、皆さん見て下さい!
先ほどまでは、道はなかったわ」
「プリムローズ嬢が手を挙げる直前まで、この場は木々に覆われていた」
男性たちも道を見てしまっては、彼女の不思議な力を認めるしかない。
「急に静かになって、どうかしましたか?
お腹が痛くなるくらいに、笑い転げてくれていたじゃない。
ブルムヘル伯爵令息とオスモ様は、揃って私をバカにしてくれたように見えましたわ」
振り向きざまに彼女を見れば、男性たちに憤慨している態度だった。
「君を疑っていたのだ。
絶対に現れないと思っていたんだ」
「私も、スクード公爵令息と同じだ。
普通なら、そうだろう。
君は、魔女とかなんだろうか?!」
殆んど、見ず知らずのブルムヘル伯爵令息カルヴィに魔女扱いされ首を捻って困り顔になる。
『魔女と、真面目な顔で言われてもね。
これって、もしや。
誰でも願ったら、勝手に道が現れるのか?
ギルも願ったら、簡単に出てきたって言っていた』
「えー、じつはね。
先祖が命じて、この道を開いたの。
きっと、血の繋がりで見せてくれたのです」
ロッタたちは、以前本人から話を聞いても信じられなかったのを思いだす。
「こういうのは、【見ることは信じること】って言うんじゃない。
話を聞いただけでは簡単に信じられないが、自分の目で見れば信じられるって意味です」
「実際に、こうして道が現れ見えた。
私は彼女を信じる!」
2人は3人に近寄ると、プリムローズによくよく詫びを伝えてきた。
「気にしなくていいのよ。
自分でも奇妙だと思う。
それより中に入ってみて、泉へ急ぎましょう」
先頭きって走る彼女だが、人任せならぬ馬任せであった。
主人はただ揺られて、馬の背中に跨っているだけだった。
目的の場所へ着く前に、
日没になり暗くなってしまう。
「今日は、野宿になります。
全員で枝を拾って、焚き火を起こしましょう」
5人は馬から下りて、辺りの小枝を集める。
「クラレンス公爵令嬢、ちょっと気になるんだけどー。
黒い森の中では、火はご法度じゃなかったか」
行きたがっていただけあり、情報収集していたブルムヘル伯爵令息。
「ええ、ブルムヘル伯爵令息のご指摘の通り。
絵本の物語では、そう書かれていました」
「森で兵士が、火事を起こしたんだよ。
そして、精霊の怒りを受けたんだ」
ジャンヌとロッタが屈みながら、枝に手を伸ばして伯爵令息と離れて会話する。
「プリムローズ嬢、火を起こしても平気なのか?
祟られたりしないのかい?!」
知り合いの中で一番古いスクード公爵令息が、彼女がすることに不安になる。
「大丈夫でしたよ。
黒い森では、何度も焚き火をしています。
ほら、私は一度たりとも祟られてないでしょう。
火の後始末だけ、キチンとすれば精霊も許してくれます」
一旦は安心していたが本当にそうなのかと、プリムローズを信用できない。
鈍感そうな彼女は祟られても、たんに気づかないだけじゃ。
それを気配で感じてか、付け加える言葉を4人へ言ってくる。
「ここは黒い森であって、そうではない場所。
アルゴラの常勝王が、命じて作られた道なの」
新たな事実を教えられて、枝を腕の中から落としそうになる。
その晩は、#唯一__ゆいいつ__他国で攻め込んだ血気盛んな常勝王の話で盛り上がる。
上機嫌の彼女は、門外不出の神殿で読んだ常勝王の手紙の内容をペラペラ話して聞かせてしまっていた。
「こんな道を作らないで、普通に攻めていれば勝利できた。
戦の神と呼ばれていた祖父が、そう話していたわ。
世が世なら、私は王女様だったかもしれない」
『プリムローズ嬢が、王女殿下だと!』
想像し考えるだけで他の者たちは、背筋に一瞬だけ寒気が走る。
「クラレンス公爵令嬢のご先祖様は、凡人には理解できない破天荒な方だな。
貴女の行動力は、血筋からきてるのかもしれない」
「君が、ヘイズの王女でなくて良かったよ。
公爵の身分からして、婚姻相手にされる可能性があったしな」
プリムローズ王女を想定して、好き放題に言ってくれていた。
「王女だったとしても、オスモ様は意中の人にはなりません。
だって、私に対して喧嘩腰なんですもの」
「言ってくれた言葉を、君にそっくりそのまま返してあげるよ。
どうみても、我々は相性が合わないようだ」
「率直にものを言い過ぎではありませんか。
それとも、私だからですか!?」
ライラ・へーディン侯爵令嬢が、ふたりの間を取り持っていたから平和的に接していられたのだ。
口喧嘩に発展しそうだと、カルヴィは仲裁しようと考えた。
しかし、自分には難しいとロッタとジャンヌに訴えかける。
不機嫌そうにオスモを睨んで、右手を頬につけて首をちょこっと傾げていた。
カワイイ仕草たが、かなり手厳しい事を言う。
「あざとい態度で、我々の気をそらそうとしている。
しかし、かなり怒りを抑えて我慢している感じだ」
「ロッタ、私たちが知らないだけで…。
ふたりの間に、なにかしらのわだかまりがあるのかしら?」
彼女らは、物事を見通す鋭い観察力を持ち合わせていた。
しかし、頼る視線のカルヴィには視野に入っていないロッタとジャンヌ。
彼の思いはすれ違い、彼女らには波長が合わないようだった。
プリムローズは、サンドラ・ヴェント元侯爵令嬢とオスモの生々しいやり取りが忘れられないでいる。
抱き合っていた男女の姿は、お子ちゃまの彼女には刺激が強かった。
自分は、あの時……。
言い寄ってくるサンドラの魅力に、魔が差して心が傾いていた。
婚約者のライラは優しく甘い菓子のようで、サンドラは真逆のピリ辛でスパイシーな女性に感じていた。
甘いものも美味しいが、たまには辛いものも欲しくなる。
つまり、サンドラの色香に吸い寄せられ自制心が崩壊しかけていたのだ。
その恥ずかしい現場をプリムローズに見られただけでなく、ボコボコに殴られ止められた。
だらしなく、意識を失う失態のオマケ付きで……。
『あれから、プリムローズ嬢と気まずくなってしまった』
プリムローズとオスモには、あの夜から深い見えない溝ができてしまったのである。
「あのう、夜も耽ってきました。
就寝する用意でもしませんか?!」
「ケトラ男爵、それを私も言おうとしていた!
クラレンス公爵令嬢、どうやら不快な思いをさせてしまい。
その、すまなかった。
妹をいじるように、つい調子のってしまったようだ」
それは、まさにオスモから言ってほしい言葉。
空気を読めるカルヴィは、オスモより遥かに大人の対応ができる人だったのだ。
「ふわぁ~、私も眠気が……。
ブルムヘル伯爵令息も、妹君にそんなことをされていたのか。
弟妹たちをイジったことがあるから、なんとなく気持ちは分かるけど不快だったよ。
やや、冷やかし過ぎだ!」
「騎士を目指す方々が、断じてしてはなりませんわ。
プリムローズ嬢は、私たちより年下ですのよ」
「ロッタ先輩、ジャンヌ様~。
生意気な言い方をしましたけど、あんな風に言われてムカつきましたわ。
私の代わりに、よく仰ってくださいました」
ロッタの胸の中に飛び込んで、胸に顔を埋めて苦情を言う。
見ていて不憫だったので、プリムローズの頭を優しく撫でて慰める。
「2対1で不利だったけど、君も決して負けてなかったよ。
おーい、火の始末は男性たちに任せてもいいよな!?」
イヤと言いづらいオスモとカルヴィは、命令に近いお願いを受け入れた。
プリムローズとオスモの危険なやり取りを、ジャンヌとロッタが機転を利かせ防いでくれた。
「コートン子爵令嬢、私たちでキチンと火を後始末する。
オスモ殿、一緒に手伝って頂けますか?」
「ああ、土でもかけて火を消すとしよう」
プリムローズから逃げ切れたと安堵して、オスモはカルヴィに従って行動する。
一方のロッタとジャンヌは、荷物の中から敷物を出す。
息を合わせてそれを広げ終えて、敷物の真ん中に彼女を呼び寄せた。
年下で他国の留学生でもある彼女を、野生の動物からの危険から守るためでもある。
初冬の季節に入るヘイズは、野宿しても凍死する心配はない。
「お怒りは収まったようだね。
ほらほら、寝てみて空を見てごらん!」
月明かりと天空に煌めく星たちが、プリムローズを包み込むようだった。
「あんなにたくさん、星たちが……。
山の中だと空気が澄んで、輝きかたが違って見えます。
なんだか、自分がちっぽけな存在に思えてる」
バカにされたとムキになって、オスモ様にギリギリ許される範囲であたってしまった。
『頭の中がカーっと熱くなり、口からポンポン勝手に言葉が飛び出した。
感じ悪かったわよね。
明日、オスモ様にキチンと謝ろう』
月の横に他とくらべて一段と目立つ星を見つめて、プリムローズは今日一日の行いを反省する。
叱られてシュンとしている猫を連想し、ジャンヌもそんな彼女に相討ちを打つ。
「ん、そうね。
ゆっくりと星々を見るのは、久しぶりかもしれないわ」
天空の星を見つめ会話している間に、いつしか木の下で眠りにつく。
いよいよ明日は、長寿の泉に向かう予定だ。
順調にここまで来ているプリムローズたちは、問題なく探し当てて旅は終えるのだろうか…。
背に乗る主人に、常勝の道へ入る場所を教えてくれていた。
同時に白い鷹のカップルも、ピーピーと鳴き続ける。
プリムローズたちの頭上で、円を描いて仲よさげに飛び回っていた。
「みんな~、ありがとう!
ここが、道の入り口なのね。
ちょっと不安だったから、本当に助かったわ」
上空を二羽の鷹たちに返事するために、デカイ大声でお礼を述べる公爵令嬢。
頼りない飼い主を献身的に助ける姿に、プリムローズの後方で感動に浸っていた。
「賢い鷹たちですね。
プリムローズ嬢は、素敵な家族をお持ちですわ」
以前ひどい目にあったジャンヌは、話しながら苦い思い出が浮かんでいた。
猫を飼っている友人宅で、つい猫ちゃんと呼んでしまったのだ。
「娘よーっ!」と叱られてから、この手の事には気をつけている。
その方とは、これ以降気まずくなり友人とは疎遠になってしまった。
「家族ねぇ~。
鷹のピィーちゃんは、雛から私が育てたのよ。
姉リリアンヌの白馬だったヴァンブランは、ちょい訳ありで譲って貰ったわ」
「雛からですか。
それなら、プリムローズ嬢は母子みたいな関係ですね。
訳ありですか…、深く訊かないでおきます」
ここまで主人に対して、理解があり忠誠心あるのも珍しい。
彼女と彼らには、自分等には理解できない強い絆があるようだ。
上空にいる鷹たちとプリムローズを乗せている白馬を見ながら、4人は沈黙して頷くのであった。
ヴァンブランから降り立つと、首筋を優しく撫でて感謝を表す。
嬉しそうに目を細める様子に、種族を越えた愛が見えた。
そんな彼女がひとり距離を開けると、いきなり両手を天高く高だか挙げる。
ここからでは聞こえないが、何やら彼女はブツブツ呟いていた。
「何を言っているか分からないけど、空に向かい両手を挙げてます。
言ってはなんですが、不気味ですわ」
「呪文みたいに聞こえるな。
いでよとか叫んでいる。
ぶしつけな言葉で申し訳ないが、頭のほうは大丈夫かなぁ」
女性たちの会話をよそに、彼らの方は謎の一挙一動を見落とさないようにしていた。
「わが名は、プリムローズなーり~!
神聖なるロイヤル・ゴッド・アイに道なき道を見せたまえ。
出でよ、常勝への道!
フーン!」
突如、呪文を唱え始める。
見守る男性2人はふんぞり返っていたプリムローズを、思い切り指差し笑い転げる寸前だった。
「プッ、出でよだってさ。
アッー、笑いをこらえるのが苦し~い!」
「フーンって、ふんずり返ってあの姿だ。
やめてくれ、マジに腹が痛くてたまらん!」
カルヴィとオスモは、ふんずり返る様子のプリムローズを真似て手を挙げていた。
『うぅー、二人して笑い転げてバカにしよって!
アイツら、道が現れたらタダではすまないから』
バカにされたプリムローズは、真っ直ぐに見つめながら念を送りつつも怒りが収まらない。
「あっ、皆さん見て下さい!
先ほどまでは、道はなかったわ」
「プリムローズ嬢が手を挙げる直前まで、この場は木々に覆われていた」
男性たちも道を見てしまっては、彼女の不思議な力を認めるしかない。
「急に静かになって、どうかしましたか?
お腹が痛くなるくらいに、笑い転げてくれていたじゃない。
ブルムヘル伯爵令息とオスモ様は、揃って私をバカにしてくれたように見えましたわ」
振り向きざまに彼女を見れば、男性たちに憤慨している態度だった。
「君を疑っていたのだ。
絶対に現れないと思っていたんだ」
「私も、スクード公爵令息と同じだ。
普通なら、そうだろう。
君は、魔女とかなんだろうか?!」
殆んど、見ず知らずのブルムヘル伯爵令息カルヴィに魔女扱いされ首を捻って困り顔になる。
『魔女と、真面目な顔で言われてもね。
これって、もしや。
誰でも願ったら、勝手に道が現れるのか?
ギルも願ったら、簡単に出てきたって言っていた』
「えー、じつはね。
先祖が命じて、この道を開いたの。
きっと、血の繋がりで見せてくれたのです」
ロッタたちは、以前本人から話を聞いても信じられなかったのを思いだす。
「こういうのは、【見ることは信じること】って言うんじゃない。
話を聞いただけでは簡単に信じられないが、自分の目で見れば信じられるって意味です」
「実際に、こうして道が現れ見えた。
私は彼女を信じる!」
2人は3人に近寄ると、プリムローズによくよく詫びを伝えてきた。
「気にしなくていいのよ。
自分でも奇妙だと思う。
それより中に入ってみて、泉へ急ぎましょう」
先頭きって走る彼女だが、人任せならぬ馬任せであった。
主人はただ揺られて、馬の背中に跨っているだけだった。
目的の場所へ着く前に、
日没になり暗くなってしまう。
「今日は、野宿になります。
全員で枝を拾って、焚き火を起こしましょう」
5人は馬から下りて、辺りの小枝を集める。
「クラレンス公爵令嬢、ちょっと気になるんだけどー。
黒い森の中では、火はご法度じゃなかったか」
行きたがっていただけあり、情報収集していたブルムヘル伯爵令息。
「ええ、ブルムヘル伯爵令息のご指摘の通り。
絵本の物語では、そう書かれていました」
「森で兵士が、火事を起こしたんだよ。
そして、精霊の怒りを受けたんだ」
ジャンヌとロッタが屈みながら、枝に手を伸ばして伯爵令息と離れて会話する。
「プリムローズ嬢、火を起こしても平気なのか?
祟られたりしないのかい?!」
知り合いの中で一番古いスクード公爵令息が、彼女がすることに不安になる。
「大丈夫でしたよ。
黒い森では、何度も焚き火をしています。
ほら、私は一度たりとも祟られてないでしょう。
火の後始末だけ、キチンとすれば精霊も許してくれます」
一旦は安心していたが本当にそうなのかと、プリムローズを信用できない。
鈍感そうな彼女は祟られても、たんに気づかないだけじゃ。
それを気配で感じてか、付け加える言葉を4人へ言ってくる。
「ここは黒い森であって、そうではない場所。
アルゴラの常勝王が、命じて作られた道なの」
新たな事実を教えられて、枝を腕の中から落としそうになる。
その晩は、#唯一__ゆいいつ__他国で攻め込んだ血気盛んな常勝王の話で盛り上がる。
上機嫌の彼女は、門外不出の神殿で読んだ常勝王の手紙の内容をペラペラ話して聞かせてしまっていた。
「こんな道を作らないで、普通に攻めていれば勝利できた。
戦の神と呼ばれていた祖父が、そう話していたわ。
世が世なら、私は王女様だったかもしれない」
『プリムローズ嬢が、王女殿下だと!』
想像し考えるだけで他の者たちは、背筋に一瞬だけ寒気が走る。
「クラレンス公爵令嬢のご先祖様は、凡人には理解できない破天荒な方だな。
貴女の行動力は、血筋からきてるのかもしれない」
「君が、ヘイズの王女でなくて良かったよ。
公爵の身分からして、婚姻相手にされる可能性があったしな」
プリムローズ王女を想定して、好き放題に言ってくれていた。
「王女だったとしても、オスモ様は意中の人にはなりません。
だって、私に対して喧嘩腰なんですもの」
「言ってくれた言葉を、君にそっくりそのまま返してあげるよ。
どうみても、我々は相性が合わないようだ」
「率直にものを言い過ぎではありませんか。
それとも、私だからですか!?」
ライラ・へーディン侯爵令嬢が、ふたりの間を取り持っていたから平和的に接していられたのだ。
口喧嘩に発展しそうだと、カルヴィは仲裁しようと考えた。
しかし、自分には難しいとロッタとジャンヌに訴えかける。
不機嫌そうにオスモを睨んで、右手を頬につけて首をちょこっと傾げていた。
カワイイ仕草たが、かなり手厳しい事を言う。
「あざとい態度で、我々の気をそらそうとしている。
しかし、かなり怒りを抑えて我慢している感じだ」
「ロッタ、私たちが知らないだけで…。
ふたりの間に、なにかしらのわだかまりがあるのかしら?」
彼女らは、物事を見通す鋭い観察力を持ち合わせていた。
しかし、頼る視線のカルヴィには視野に入っていないロッタとジャンヌ。
彼の思いはすれ違い、彼女らには波長が合わないようだった。
プリムローズは、サンドラ・ヴェント元侯爵令嬢とオスモの生々しいやり取りが忘れられないでいる。
抱き合っていた男女の姿は、お子ちゃまの彼女には刺激が強かった。
自分は、あの時……。
言い寄ってくるサンドラの魅力に、魔が差して心が傾いていた。
婚約者のライラは優しく甘い菓子のようで、サンドラは真逆のピリ辛でスパイシーな女性に感じていた。
甘いものも美味しいが、たまには辛いものも欲しくなる。
つまり、サンドラの色香に吸い寄せられ自制心が崩壊しかけていたのだ。
その恥ずかしい現場をプリムローズに見られただけでなく、ボコボコに殴られ止められた。
だらしなく、意識を失う失態のオマケ付きで……。
『あれから、プリムローズ嬢と気まずくなってしまった』
プリムローズとオスモには、あの夜から深い見えない溝ができてしまったのである。
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就寝する用意でもしませんか?!」
「ケトラ男爵、それを私も言おうとしていた!
クラレンス公爵令嬢、どうやら不快な思いをさせてしまい。
その、すまなかった。
妹をいじるように、つい調子のってしまったようだ」
それは、まさにオスモから言ってほしい言葉。
空気を読めるカルヴィは、オスモより遥かに大人の対応ができる人だったのだ。
「ふわぁ~、私も眠気が……。
ブルムヘル伯爵令息も、妹君にそんなことをされていたのか。
弟妹たちをイジったことがあるから、なんとなく気持ちは分かるけど不快だったよ。
やや、冷やかし過ぎだ!」
「騎士を目指す方々が、断じてしてはなりませんわ。
プリムローズ嬢は、私たちより年下ですのよ」
「ロッタ先輩、ジャンヌ様~。
生意気な言い方をしましたけど、あんな風に言われてムカつきましたわ。
私の代わりに、よく仰ってくださいました」
ロッタの胸の中に飛び込んで、胸に顔を埋めて苦情を言う。
見ていて不憫だったので、プリムローズの頭を優しく撫でて慰める。
「2対1で不利だったけど、君も決して負けてなかったよ。
おーい、火の始末は男性たちに任せてもいいよな!?」
イヤと言いづらいオスモとカルヴィは、命令に近いお願いを受け入れた。
プリムローズとオスモの危険なやり取りを、ジャンヌとロッタが機転を利かせ防いでくれた。
「コートン子爵令嬢、私たちでキチンと火を後始末する。
オスモ殿、一緒に手伝って頂けますか?」
「ああ、土でもかけて火を消すとしよう」
プリムローズから逃げ切れたと安堵して、オスモはカルヴィに従って行動する。
一方のロッタとジャンヌは、荷物の中から敷物を出す。
息を合わせてそれを広げ終えて、敷物の真ん中に彼女を呼び寄せた。
年下で他国の留学生でもある彼女を、野生の動物からの危険から守るためでもある。
初冬の季節に入るヘイズは、野宿しても凍死する心配はない。
「お怒りは収まったようだね。
ほらほら、寝てみて空を見てごらん!」
月明かりと天空に煌めく星たちが、プリムローズを包み込むようだった。
「あんなにたくさん、星たちが……。
山の中だと空気が澄んで、輝きかたが違って見えます。
なんだか、自分がちっぽけな存在に思えてる」
バカにされたとムキになって、オスモ様にギリギリ許される範囲であたってしまった。
『頭の中がカーっと熱くなり、口からポンポン勝手に言葉が飛び出した。
感じ悪かったわよね。
明日、オスモ様にキチンと謝ろう』
月の横に他とくらべて一段と目立つ星を見つめて、プリムローズは今日一日の行いを反省する。
叱られてシュンとしている猫を連想し、ジャンヌもそんな彼女に相討ちを打つ。
「ん、そうね。
ゆっくりと星々を見るのは、久しぶりかもしれないわ」
天空の星を見つめ会話している間に、いつしか木の下で眠りにつく。
いよいよ明日は、長寿の泉に向かう予定だ。
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王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
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ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
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