無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第15話 親切が仇

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 薄暗い森の中で鳥の囀りよりも力強い声が、まだ眠っているプリムローズたちの耳につく。
自然に目が覚めていくと、朝の訪れを知らせてくれた。
身支度をした彼女たちが辺りを見渡すと、敷物の上に木製の器をカバンから出したりする人影が見えた。
そちらの方へ、3人は近づいて行く。
足を動かし歩む間に、石を蹴る音や小枝を踏んで折る音。
それだけで、彼は人の気配を感じる。

「おはよう、君たちよく眠れたかい?」

ブルムヘルム伯爵令息カルヴィが、爽やかな笑顔でプリムローズたちへ声がけする。

「「「カルヴィ様、オスモ様。
おはようございます」」」

身分を考えれば公爵令息のオスモの名前が先になるが、挨拶をしたのは伯爵令息のカルヴィだった。
いちいち考えるのが面倒になり、これらを無視して彼らに挨拶をした訳だ。

「オスモ様、昨日は言い過ぎました。
ご、ご、ごめんなさい」

「私も悪かった。
もう、謝らなくていい」

「はい、オスモ様、
もしかして、朝食準備してくれたのですか?」

「うん、まぁな。
準備といっても、器に並べ入れただけだよ」

ぶっきらぼうにそう言って、ナイフでリンゴを一口サイズにカットする。
こんな気遣いが、嬉しくなり気持ちを満たしくれる。

「これ、すごく可愛いです!
食べやすくしてくれるだけでなく、形がウサギの耳にしてあるわ」

喜ぶような声をして、背後からロッタが顔を出して覗く。

「どれどれ、ほんとだ!
ウサギに見える。
スクード公爵令息は、手先が器用ですね」

「クスクス、ロッタでは耳を切り落としてしまうわね。
公爵のご令息が、こんな素敵ことができるとは思いませんでした」

「コートン子爵令嬢、ケトラ男爵令嬢も大袈裟おおげさだな。
たいしたことじゃない。
こんなのは、誰でも出来るもんだぞ!」

下を向きリンゴを切りながら照れて言うオスモ。
彼の耳がどんどん赤くなっていくのを、後ろから見ていたプリムローズたちは見落とさなかった。
思わず女性たちは、笑わないよう口を押さえたりする。

寝起きに顔を洗うが、飲み水になるので節約するため我慢するしかない。
携帯用のクラッカーと肉の薫製に、丸ごとのリンゴやバナナが朝食になる。

昨夜、プリムローズを弄った。これは、お詫びの気持ちの表れなんだろうか。
用意してくれた男性たちを労い、食べ物に感謝し食べ始めた。
太陽の陽を浴びて食べる食事は、決して満足な量ではない。
それでも、5人の心は十分満たされていた。

    
これから向かう泉の話をしながら食べ終えると、女性たちが今度は片付けることを申し出た。
皿を洗うというより、ただ布を濡らして拭くぐらいだ。

「オスモ様たち~、こちらは片付け終えました。
出発してもいいですか!?」

「いいぞ!」

「はい、いいですよ!」

二人の性格がでる返事だった。

「では、長寿の泉に向けて出発しまーす!」

元気よく馬に股がって、走り出すはずだったが…。
愛馬ヴァンブランが、ここから一歩も前に進まない。

「あれれっ、ヴァンブランさん?
なんで、突然止まってしまったの?!」

手綱たづなで合図しても、耳をピクピクしてからブルルッってか細く鳴くだけだった。

「ピーちゃんとカメリアちゃん!
泉はどっちにあるの?!」

「ピッピッピ!」

「ピ~?!」

『それは、マジですか!
泉の場所が分からなくなっているの?!』

「ねぇ、嘘でしょう?
場所を忘れちゃったの?
ヴァンブラン、あなたも思い出せない!?」

毛並みのよい鬣を撫でながら、何度も訊ねてみるが首を振って否定する。

「まさか、私たち!
こんなところで、迷子まいごになっちゃったの~~」

ミュルクヴィズと呼ばれる森の中で、プリムローズの絶望が響き渡る。

「「「ええー、迷った」」」

オスモの後に続く3人の声が、静まり返る異空間いくうかんに響き渡る。

「なぜ、なぜなの?
常勝王をけなしたせい。
謝れば許してくれて、泉に行けるかも…」

「おーい、プリムローズ嬢!
私の声が聞こえているか?
落ち着け冷静になれ!」

「オスモ様!
何処かに、黄金の剣が地面に刺さっていないかしら?
ピカピカ光っている物を、皆さま探してみてー下さい!!」

「は?黄金の剣だと?!
「光と闇が剣をささげる」の話を聞いて、感化されて頭をやられたか?」

「いたって正常よ。
アルゴラの王様が持っていた金の剣を、ここに刺して残されていかれたわ。
その近くに泉があります」

「待ってくれ!
君が想像して、作った話ではないかと疑っているんだ。
女っていう生き物は、都合いい方へ話を持っていくからな」

プリムローズに近寄ろうとしたオスモだったが、ピーちゃんと呼ばれていた鷹が羽を広げ威嚇する。

「お前、なんだ!
ご主人様の知り合いなんだぞ。
何度か会ったこともあるだろう。
ほら、最近ならカメリアを見に観光した時とかー」

知っていても関係ないと、羽をパタパタさせてオスモを威嚇する。

「ピピピピィー、ピィー!
ピーピィ?ビビッピーィ!
ピ、ピーィ?
ビィビィー、ピィピィ!」

(プリムちゃん、苛めるな!
お前だと、生意気な奴。
おい、やるんか?
売られた喧嘩は、受けるぜ!)

カルヴィ、ロッタ、ジャンヌの頭の中では鷹の鳴き声がこのように翻訳された。
誰も止めようとしないのは、これを面白がって見ているからだ。
二人を止められるプリムローズは、間近で喧嘩勃発すら気づかない。
泉の場所のことだけに、意識が傾いていたからだ。

「ああ、ダメもとで、神にでも祈るしかない。
信じるものは救われるかもしれない!」

パニック状態になったり、冷静になったりと忙しかった。
とうとうお願いする感じで、天を仰ぐまでになっている。
神頼りし始めたプリムローズに、愛馬や鷹たちも側で見守るしかない。

「第55代、アルゴラの巫女みこにして神官の長。
プリムローズ・ド・クラレンスが切に願う……」

アルゴラ語で話すから、プリムローズ以外は、何を言っているかが理解できない。
ひたいから汗を光らせて、苦しげにうなり声を漏らす。
それだけで、プリムローズの真剣さだけは伝わってきた。

『やっと、終わったようだ。
55代って、ホントなんだろうか?』

数分だった儀式は、彼女を心配するあまり数倍に感じる。
肩を上下させ息を荒くさせ、長い言葉でくくっていた。

「プリムローズ嬢、お仕事お疲れさまでした。
ちょっと、凄い汗じゃない!」

「水でも飲んだらどうだ?
冷静になるため、休んでから考えるとしよう」

ジャンヌは額の汗をハンカチでぬぐい、ロッタは水筒のせんを外してから彼女に差し出す。

「はぁ~、おいしい!
生き返るようだわ。
今回は、3番目くらい真剣に祈りました。
適当の祈りでも願いはかなっていたから、絶対に奇跡は起こると思うわ」

『そんなに適当な祈りだったんかーい!』

みんなで、彼女に突っ込みを入れていた。

「結局、奇跡に頼るしかないのか。
わざわざ、休みを使って来たのに疲れに来ただけかー」

「それだけで終わらない。
ロッタ、私たちはこの森から出られない可能性もあるのよ」

「うっわー、忘れていた!
こんな広い森で、私ら迷子になっていたんだ」

「黄金の剣が見つかれば、泉の場所が特定できるでしょう」

「うん、ごめんね。
強引に連れてきたせいで…」

「謝るな、諦めるな。
誘われたけど、行くと決めたのは自分だ。
探してみたらどうだろう」

「ロッタ先輩~、ありがとう。
カルヴィ殿を思ってしたのに、【親切があだ】となってしまったわ」

意気消沈している彼女らの話に、他に方法はないかと考えていた常識人ブルムヘル伯爵令息カルヴィ。

自分のためしてくれた行為が親切や同情からしたことが、かえって相手のためにならない結果になる意味。

『クラレンス公爵令嬢が、皆から責められてしまう。
ああ、自分はどうしたらいいんだ。
プリムローズ嬢を、誰も傷つけたくない。
神よ、どうか我々を助けて下さい!』

頭を両手で掴み左右に振ると、ふわふわな金髪が陽を浴びて光る。
悩みつつ祈っていると、背後からスンドスンと足音らしき音がしてきた。

『この音はー、何だ!?
ここには、我々しか居ないはずだ』

聞こえてくる方向へ、カルヴィが反応して顔を向けた。
驚き目を凝らして見てみたら、前方から大きな黒い影が現れてくる。

「なんだ、あれは…。
ああ?うぎゃあー~」

木々の隙間から、大きな影がチラついて見えた。
じんわり恐怖がこみ上げて、心臓が押しつぶれそうになる。
飛び出した緊迫感ある叫び声が、まるで黒い森全体を揺らすようだった。

望んでいた奇跡は、彼らに起こるのだろうか…。  
    
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