99 / 113
第4章 騎士道を学べ
第34話 ミイラ取りがミイラになる
しおりを挟む
厨房を貸してくれた礼を述べて、プリムローズたちはお茶会を開く自室へ向かうことにした。
出来立てのお菓子を乗せた大きな皿を、両手で落とさないよう慎重に運ぶ。
店に並ぶようなクッキーの山を見て、作ってくれたプリムローズに出来映えを褒めてくれる。
「ジャンヌ様、大袈裟です。
これくらい、誰でも簡単に作れますわ」
「ご謙遜が過ぎましてよ。
これなら、お店で出せる出来映えだわ。
早く厨房に行けば良かった。
そうしたら、お菓子作りを習えましたのに残念です」
「ホホホ、ジャンヌ様ったらお世辞が上手ですこと」
彼女が厨房に現れたせいで、腹下しクッキーを破棄する機会を失ってしまった。
どうしたら疑われないで、自然に薬入りのクッキーだけを省けるのだろうか。
『そうよ!
ここで、手を叩いて落としてしまおう。
いやいや、唐突で怪しまれてしまう。
それに、もし怪我でもさせてしまったらどうする』
南の島国は大陸よりも日が長く、窓越しから陽が射し込む。
その陽射しを浴びるたび、豪奢なプラチナブロンドの頭が光り輝き左右に揺れ動く。
紫の瞳は内なる感情を表して、キョロキョロ激しく動き落ち着きがない。
やるかやらないか。
うつ向き加減のジャンヌを、胸中で葛藤しながら見つめていた。
危険が訪れるとは知らないジャンヌは、前を歩いているプリムローズにちょっと気になることを尋ねる。
「今さらですが、厨房を使用する許可が下りましたね」
他国から来た初めての留学生とはいえ、ここまで特別待遇されたのだろうか。
「手っ取り早く、学園長に直談判してみました。
学園の責任者に許可すれば、誰も文句は言えませんもの」
「私たちのために、そこまでしてくれたですか」
よくある女の子たちが、語り合いみたいになると思っていた。
上流貴族の令嬢はお茶を飲むだけでも、それなりに拘りがあるのかもしれない。
「御二人が親切に接してくれたので、順調に学園生活を過ごせております。
ずっと、お礼をしたいと思っておりました」
寮長のロッタが留学生の世話を頼まれて、その手伝いをちょっとしただけである。
気恥ずかしくなり否定した。
「お礼をされるほど、私は何もしていません」
「ふふふ、そう仰ると思いました。
ジャンヌ様とロッタ先輩が、側にいてくれて心強かった。
ですから、感謝の気持ちを表したかったです」
「プリムローズ嬢、あなたって人はー」
この囁きは、前方いる彼女の耳へと届かなかった。
ジャンヌが感無量になっていたのを知らずに、学園長を説得した場面を詳細に話して聞かせる。
「途中で学園から私の話に感動したって、目頭を押さえておられました」
「……、そうですか。
大陸から海を越えて、たった一人で留学する生徒です。
プリムローズ嬢の願いが、きっと心に響いたのでしょう」
「そうみたいです。
単純ー、話が分かるお方でしたわ!」
生徒たちと顔を会わす時、学園長は挨拶だけで終わらない。
若者たちとの交流を、大切に考え時間を割いてくれていた。
しかし、一番の要因は。
この押しの強さで、強引に通したのかもしれない。
歩き話をしていたら、気付くと部屋の前まで到着していた。
部屋の扉を開け、誰か部屋に居ないかと声をかけてみる。
どうやら、ロッタは先生からまだ解放されていないようだった。
「ロッタ先輩、遅いですね。
部屋で待ってくれているかと、思ったおりましたのにー」
「普段の行いが悪いから、こってりと先生に絞られているのね」
ポットやティーカップがセットされているテーブルに、ジャンヌは静かにクッキーの皿を置く。
「このクッキー、ハート型で見た目も可愛い。
こちらのカップとポットは、薔薇の絵付けが美しいですこと」
山盛りのクッキーの中で、パッと目立つ赤い色。
「ジャンヌ様がお好きそうだと思って……。
言いづらいのですが、ハートのクッキーは食べられないのです」
「えっ、どうしてです。
焦げてもいないし、キレイに焼き上がっていますわ」
「使用した苺ジャムの賞味期限が、過ぎていたのに気づきました。
これは破棄しますね」
「待って、プリムローズ嬢!
棄てるって、勿体ない。
カビは生えていましたか?」
「カビですって!?
そんなものはありませんでした」
アッと声が出そうになって、小さな整った唇を手で隠す。
ジャンヌの意外な質問に、正直にうっかり答えてしまっていた。
「瓶を開けたのはいつです?」
「開けたのはー。
昨日の夜ですけど…」
「1日も経っていない。
では、製造してから1年くらいかしら?」
「えーっと、半年前くらい。
ヘイズの暑さからして、ジャムはもう腐っているわ」
エテルネルなら通常1年以内なら食べられるが、ヘイズの気候を考慮すると3ヶ月ぐらいだと勝手に思い込んでいた。
「それは間違った考えです。
ヘイズは温暖ですが、島特有の海風で涼しい日もございます。
空気はカラッとしております」
「ですが、無理しないで食べない方がいいと思います」
あんなに腹下し入りクッキーを食べさせようとしていたのに。逆に、プリムローズは阻止しようと焦りだす。
『ジャンヌ様、どうしたの。
普段、聞き分けがいいのにー。
これでは、【ミイラ取りがミイラになる】。
話せば話すほど、おかしなことになっているわ』
ミイラ取りがミイラになるという言葉の意味。
説得しようとして臨んだが、結果的には逆に説得されて、相手側と同じ意見になってしまう。
「私もロッタも貧乏育ち。
腐る一歩手前の食べ物に、人よりも免疫がございます」
「でも、お腹を壊したらどうなさるんですか?
それなら、薬を飲んでから食べてください」
湯を入れるだけで、いつでも飲めるよう煎じ薬を用意していた。
反応して反対すれば、本音が口に出てしまうのである。
しかし、迷いに迷った当初の目的は達成されようとしていた。
「ハートのクッキーは他のと別に退けておいて、ロッタにも意見を聞いた方がいいわ。
来るのを待ちましょう」
どうやら一生懸命作った物を、捨てるのに納得がいかないようだった。
貧乏が染み付いた言動だと、話からプリムローズは理解した。
ロッタに意見を訊き揃って食べた方がいいと、プリムローズはジャンヌに提案する。
「ジャンヌ様が食べるなら、私も食べます。
ですが、何度も言いますが不安です」
「ええ、心配なら1枚だけに致しましょう。
危ないなら、食べていて途中で気づくはずよ」
彼女に釣られて、1枚ならと流されてしまってしまう。
その昔アルゴラの常勝王が、ヘイズに持ち込んだカップを並べていた表情はニヤついていた。
『ああ、笑いが止まらないわ。
これで腹痛を起こし、初日はバザールに行けない。
ギルたちが、その日に捕まえてくれれば問題を解決してくれる』
思い通りにいきそうだと、準備とお喋りに夢中だった。
外からの音に、二人はまったく気づかない。
扉がカチャっと開き、颯爽と男らしく大股で部屋に入室してきた。
皿に盛られていたお菓子の見つけ、テーブルにあったクッキーをガバッと掴んだ。
「おーお、旨そうじゃないか。
プリムローズ嬢、小腹が空いているんだ。
コレ、食べてもいいだろう」
カップの受け皿に盛られたていたクッキーを、豪快に口の中へ放り入れてた。
「ロッタ先輩!
お願いですから、食べないでぇー!」
モグモグ動かして、飲み込むとプリムローズにクッキーの感想を伝えた。
「うーん、ジャムの甘さが微妙に引き立っている。
思ったより、すごく美味しい。
つい、こんなに食べちゃった。
ごめん、これまだあるかなぁ」
「食べちゃったではありません!
なんで、勝手にロッタ先輩が食べちゃうのよ」
興奮したプリムローズは、両手を拳にして胸の前でブンブンと上下させて抗議する。
「ロッタ、貴女がー。
これほど、礼儀知らずだと思わなかったわ。
どうして、待てなかったの!?
プリムローズ嬢に、ちゃんと謝って!!」
胸ぐらを掴みそうなジャンヌの勢いに、顔色を変えてプリムローズに言い訳する。
和やかな茶会が、一瞬で戦場に化けた。
「空腹が我慢できなくて、自然に手にしてしまった。
この通り、許してくれないか」
何度も頭を下げて必死に謝罪する、ロッタ。
予想できなかった行動に、プリムローズは怒りを通りすぎていた。
謝罪を受け取ると、罰として暖炉に火を起こさせた。
「なんだそんなことか。
ジャンヌは、平気だと思っているんだろう。
なら、平気だよ」
「ロッタもそう思うでしょう。
私の母親なら、コレいつのだっけと言い使っているわよ」
「家は気にしないで、食べさせていた。
たまに腹を壊していたし、気にしないで食べよう!」
『そんなはずないでしょ。
腹下しの薬が入っているのよ』
モヤモヤしながらプリムローズは、煎じ薬を入れて別ポットへ湯を流し淹れていた。
よく煮だすために放置し、先に紅茶を二人に薦める。
ジャンヌとプリムローズも食べ始めてから暫くして、やがて元気なロッタが話さなくなって静かになっていく。
限界にきてしまって、とうとう腹を押さえてしまう。
「ロッタ、どうかしたの?!
顔色が悪いみたいに見えるわ」
「もしや、ロッタ先輩。
お腹が痛くなった!?」
「うーん、ちょっと…。
す、すまない中座する。
ごめんー、お手洗い!!」
立ち上がり痛そうなのに必死に小走りに消えていく様子に、ニルスの腹下しの威力を思い知った。
『嘘でしょう?!
もう、お腹を下したの。
個人差があるのは書いてあったが、速効性がありすぎない?』
自分が分量を決めたが、こんなになるとは予想しなかった。
ジャンヌに後で飲ませようとしていた煎じ薬を、プリムローズはロッタに用意しなくてはと気が焦る。
「知らないところで、また変なものを食べたのね。
プリムローズ嬢、失礼して席を外してもいい?
様子を見に行ってみるわ」
「あの、ジャンヌ様。
これをお持ちになって下さい。
お腹によい煎じ茶です」
「ありがとう。
準備してくださったのに、こんな事になってしまって…。
じゃあ、行くわね」
急ぎ足で出ていく後ろ姿を目で追っていた時、してしまった行いで胸がチクリとする
腹下しクッキーを食べて、同じ苦しみを共にするつもりでいた。
しかし、プリムローズはロッタの様子で怖じけつく。
『先輩に申し訳ないけどー。
食べるのは、無理だ』
そした、どうして速攻で効いたかを考えていた。
「明らかに詰んだわ。
原因は私だ!
コレくらいかなと迷って、薬を足し過ぎて分量が多くしてしまった」
ドーンと落ち込んで椅子に座ると、薬入りクッキーは手付かずに2枚残されていた。
ジャンヌがこれを口にすれば、必ず寝込んでバザールに行けなくなる。
その間に、あの男を捕まえてしまえばいい。
揺れ動く心の天秤が、ガタンと急に片方に傾いた。
「やはり、私は卑怯者になりたくない。
えーい、こうなったらやけくそだー!!」
ハート型のクッキーを、ムシャムシャと噛み砕いて味わう。
煎じ薬の独特な匂いが、プリムローズの鼻にまでつくと顔面を盛大に崩す。
「うぅ~、不味い!
ロッタ先輩には、申し訳ないことをしたわ。
謝りに行かないとー」
薬を作ったニルスに反対された悪行は、結局は実を結ばなかった。
無関係な被害者ロッタへ、煎じ薬を無事に飲ませた後はトイレに何度も駆け込み夜を過ごすことになる。
痛さと臭さだけが記憶に残り、優雅さとはかけ離れたお茶会で終わるのだった。
出来立てのお菓子を乗せた大きな皿を、両手で落とさないよう慎重に運ぶ。
店に並ぶようなクッキーの山を見て、作ってくれたプリムローズに出来映えを褒めてくれる。
「ジャンヌ様、大袈裟です。
これくらい、誰でも簡単に作れますわ」
「ご謙遜が過ぎましてよ。
これなら、お店で出せる出来映えだわ。
早く厨房に行けば良かった。
そうしたら、お菓子作りを習えましたのに残念です」
「ホホホ、ジャンヌ様ったらお世辞が上手ですこと」
彼女が厨房に現れたせいで、腹下しクッキーを破棄する機会を失ってしまった。
どうしたら疑われないで、自然に薬入りのクッキーだけを省けるのだろうか。
『そうよ!
ここで、手を叩いて落としてしまおう。
いやいや、唐突で怪しまれてしまう。
それに、もし怪我でもさせてしまったらどうする』
南の島国は大陸よりも日が長く、窓越しから陽が射し込む。
その陽射しを浴びるたび、豪奢なプラチナブロンドの頭が光り輝き左右に揺れ動く。
紫の瞳は内なる感情を表して、キョロキョロ激しく動き落ち着きがない。
やるかやらないか。
うつ向き加減のジャンヌを、胸中で葛藤しながら見つめていた。
危険が訪れるとは知らないジャンヌは、前を歩いているプリムローズにちょっと気になることを尋ねる。
「今さらですが、厨房を使用する許可が下りましたね」
他国から来た初めての留学生とはいえ、ここまで特別待遇されたのだろうか。
「手っ取り早く、学園長に直談判してみました。
学園の責任者に許可すれば、誰も文句は言えませんもの」
「私たちのために、そこまでしてくれたですか」
よくある女の子たちが、語り合いみたいになると思っていた。
上流貴族の令嬢はお茶を飲むだけでも、それなりに拘りがあるのかもしれない。
「御二人が親切に接してくれたので、順調に学園生活を過ごせております。
ずっと、お礼をしたいと思っておりました」
寮長のロッタが留学生の世話を頼まれて、その手伝いをちょっとしただけである。
気恥ずかしくなり否定した。
「お礼をされるほど、私は何もしていません」
「ふふふ、そう仰ると思いました。
ジャンヌ様とロッタ先輩が、側にいてくれて心強かった。
ですから、感謝の気持ちを表したかったです」
「プリムローズ嬢、あなたって人はー」
この囁きは、前方いる彼女の耳へと届かなかった。
ジャンヌが感無量になっていたのを知らずに、学園長を説得した場面を詳細に話して聞かせる。
「途中で学園から私の話に感動したって、目頭を押さえておられました」
「……、そうですか。
大陸から海を越えて、たった一人で留学する生徒です。
プリムローズ嬢の願いが、きっと心に響いたのでしょう」
「そうみたいです。
単純ー、話が分かるお方でしたわ!」
生徒たちと顔を会わす時、学園長は挨拶だけで終わらない。
若者たちとの交流を、大切に考え時間を割いてくれていた。
しかし、一番の要因は。
この押しの強さで、強引に通したのかもしれない。
歩き話をしていたら、気付くと部屋の前まで到着していた。
部屋の扉を開け、誰か部屋に居ないかと声をかけてみる。
どうやら、ロッタは先生からまだ解放されていないようだった。
「ロッタ先輩、遅いですね。
部屋で待ってくれているかと、思ったおりましたのにー」
「普段の行いが悪いから、こってりと先生に絞られているのね」
ポットやティーカップがセットされているテーブルに、ジャンヌは静かにクッキーの皿を置く。
「このクッキー、ハート型で見た目も可愛い。
こちらのカップとポットは、薔薇の絵付けが美しいですこと」
山盛りのクッキーの中で、パッと目立つ赤い色。
「ジャンヌ様がお好きそうだと思って……。
言いづらいのですが、ハートのクッキーは食べられないのです」
「えっ、どうしてです。
焦げてもいないし、キレイに焼き上がっていますわ」
「使用した苺ジャムの賞味期限が、過ぎていたのに気づきました。
これは破棄しますね」
「待って、プリムローズ嬢!
棄てるって、勿体ない。
カビは生えていましたか?」
「カビですって!?
そんなものはありませんでした」
アッと声が出そうになって、小さな整った唇を手で隠す。
ジャンヌの意外な質問に、正直にうっかり答えてしまっていた。
「瓶を開けたのはいつです?」
「開けたのはー。
昨日の夜ですけど…」
「1日も経っていない。
では、製造してから1年くらいかしら?」
「えーっと、半年前くらい。
ヘイズの暑さからして、ジャムはもう腐っているわ」
エテルネルなら通常1年以内なら食べられるが、ヘイズの気候を考慮すると3ヶ月ぐらいだと勝手に思い込んでいた。
「それは間違った考えです。
ヘイズは温暖ですが、島特有の海風で涼しい日もございます。
空気はカラッとしております」
「ですが、無理しないで食べない方がいいと思います」
あんなに腹下し入りクッキーを食べさせようとしていたのに。逆に、プリムローズは阻止しようと焦りだす。
『ジャンヌ様、どうしたの。
普段、聞き分けがいいのにー。
これでは、【ミイラ取りがミイラになる】。
話せば話すほど、おかしなことになっているわ』
ミイラ取りがミイラになるという言葉の意味。
説得しようとして臨んだが、結果的には逆に説得されて、相手側と同じ意見になってしまう。
「私もロッタも貧乏育ち。
腐る一歩手前の食べ物に、人よりも免疫がございます」
「でも、お腹を壊したらどうなさるんですか?
それなら、薬を飲んでから食べてください」
湯を入れるだけで、いつでも飲めるよう煎じ薬を用意していた。
反応して反対すれば、本音が口に出てしまうのである。
しかし、迷いに迷った当初の目的は達成されようとしていた。
「ハートのクッキーは他のと別に退けておいて、ロッタにも意見を聞いた方がいいわ。
来るのを待ちましょう」
どうやら一生懸命作った物を、捨てるのに納得がいかないようだった。
貧乏が染み付いた言動だと、話からプリムローズは理解した。
ロッタに意見を訊き揃って食べた方がいいと、プリムローズはジャンヌに提案する。
「ジャンヌ様が食べるなら、私も食べます。
ですが、何度も言いますが不安です」
「ええ、心配なら1枚だけに致しましょう。
危ないなら、食べていて途中で気づくはずよ」
彼女に釣られて、1枚ならと流されてしまってしまう。
その昔アルゴラの常勝王が、ヘイズに持ち込んだカップを並べていた表情はニヤついていた。
『ああ、笑いが止まらないわ。
これで腹痛を起こし、初日はバザールに行けない。
ギルたちが、その日に捕まえてくれれば問題を解決してくれる』
思い通りにいきそうだと、準備とお喋りに夢中だった。
外からの音に、二人はまったく気づかない。
扉がカチャっと開き、颯爽と男らしく大股で部屋に入室してきた。
皿に盛られていたお菓子の見つけ、テーブルにあったクッキーをガバッと掴んだ。
「おーお、旨そうじゃないか。
プリムローズ嬢、小腹が空いているんだ。
コレ、食べてもいいだろう」
カップの受け皿に盛られたていたクッキーを、豪快に口の中へ放り入れてた。
「ロッタ先輩!
お願いですから、食べないでぇー!」
モグモグ動かして、飲み込むとプリムローズにクッキーの感想を伝えた。
「うーん、ジャムの甘さが微妙に引き立っている。
思ったより、すごく美味しい。
つい、こんなに食べちゃった。
ごめん、これまだあるかなぁ」
「食べちゃったではありません!
なんで、勝手にロッタ先輩が食べちゃうのよ」
興奮したプリムローズは、両手を拳にして胸の前でブンブンと上下させて抗議する。
「ロッタ、貴女がー。
これほど、礼儀知らずだと思わなかったわ。
どうして、待てなかったの!?
プリムローズ嬢に、ちゃんと謝って!!」
胸ぐらを掴みそうなジャンヌの勢いに、顔色を変えてプリムローズに言い訳する。
和やかな茶会が、一瞬で戦場に化けた。
「空腹が我慢できなくて、自然に手にしてしまった。
この通り、許してくれないか」
何度も頭を下げて必死に謝罪する、ロッタ。
予想できなかった行動に、プリムローズは怒りを通りすぎていた。
謝罪を受け取ると、罰として暖炉に火を起こさせた。
「なんだそんなことか。
ジャンヌは、平気だと思っているんだろう。
なら、平気だよ」
「ロッタもそう思うでしょう。
私の母親なら、コレいつのだっけと言い使っているわよ」
「家は気にしないで、食べさせていた。
たまに腹を壊していたし、気にしないで食べよう!」
『そんなはずないでしょ。
腹下しの薬が入っているのよ』
モヤモヤしながらプリムローズは、煎じ薬を入れて別ポットへ湯を流し淹れていた。
よく煮だすために放置し、先に紅茶を二人に薦める。
ジャンヌとプリムローズも食べ始めてから暫くして、やがて元気なロッタが話さなくなって静かになっていく。
限界にきてしまって、とうとう腹を押さえてしまう。
「ロッタ、どうかしたの?!
顔色が悪いみたいに見えるわ」
「もしや、ロッタ先輩。
お腹が痛くなった!?」
「うーん、ちょっと…。
す、すまない中座する。
ごめんー、お手洗い!!」
立ち上がり痛そうなのに必死に小走りに消えていく様子に、ニルスの腹下しの威力を思い知った。
『嘘でしょう?!
もう、お腹を下したの。
個人差があるのは書いてあったが、速効性がありすぎない?』
自分が分量を決めたが、こんなになるとは予想しなかった。
ジャンヌに後で飲ませようとしていた煎じ薬を、プリムローズはロッタに用意しなくてはと気が焦る。
「知らないところで、また変なものを食べたのね。
プリムローズ嬢、失礼して席を外してもいい?
様子を見に行ってみるわ」
「あの、ジャンヌ様。
これをお持ちになって下さい。
お腹によい煎じ茶です」
「ありがとう。
準備してくださったのに、こんな事になってしまって…。
じゃあ、行くわね」
急ぎ足で出ていく後ろ姿を目で追っていた時、してしまった行いで胸がチクリとする
腹下しクッキーを食べて、同じ苦しみを共にするつもりでいた。
しかし、プリムローズはロッタの様子で怖じけつく。
『先輩に申し訳ないけどー。
食べるのは、無理だ』
そした、どうして速攻で効いたかを考えていた。
「明らかに詰んだわ。
原因は私だ!
コレくらいかなと迷って、薬を足し過ぎて分量が多くしてしまった」
ドーンと落ち込んで椅子に座ると、薬入りクッキーは手付かずに2枚残されていた。
ジャンヌがこれを口にすれば、必ず寝込んでバザールに行けなくなる。
その間に、あの男を捕まえてしまえばいい。
揺れ動く心の天秤が、ガタンと急に片方に傾いた。
「やはり、私は卑怯者になりたくない。
えーい、こうなったらやけくそだー!!」
ハート型のクッキーを、ムシャムシャと噛み砕いて味わう。
煎じ薬の独特な匂いが、プリムローズの鼻にまでつくと顔面を盛大に崩す。
「うぅ~、不味い!
ロッタ先輩には、申し訳ないことをしたわ。
謝りに行かないとー」
薬を作ったニルスに反対された悪行は、結局は実を結ばなかった。
無関係な被害者ロッタへ、煎じ薬を無事に飲ませた後はトイレに何度も駆け込み夜を過ごすことになる。
痛さと臭さだけが記憶に残り、優雅さとはかけ離れたお茶会で終わるのだった。
21
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる