102 / 113
第4章 騎士道を学べ
第37話 似た者夫婦
しおりを挟む
気づけば背伸びしたり、隙間から覗く黒山の人々。
大道芸と勘違いしている人が、なんだこれって近くにいる人へ尋ねている。
一件落着したスリ事件は、自分達を普段守ってくれていた憲兵が犯人。
この結果は、人々の怒りを買っていた。
「マジかよ。
憲兵さんが、泥棒の一味だったんだ」
「おいおい、見てみろよ。
勿体ないね~。
まだ若い男と女じゃないかい」
「最近の若者は、情けない。
この世は、お先真っ暗だな」
「嘘でしょう!?
ショックすぎて、バザールを楽しめなくなっちゃう」
犯罪者の中に憲兵がいると判明すると、誰かが1人文句を言ったら次々と続いた。
自分達に対する冷たい言葉に、両手首を後ろに縛られて身動きが取れない。
こんな状態で耳にする。
ガックリと肩を落とし、虚ろな目付きでいた男たち。
紅一点の彼女は、ジャンヌへ鋭い視線を送っていた。
ふたりの目が合うと、意味不明な笑みを迎え撃つ。
容疑者として捕まっていても、『ディック、彼は私のものよ』って悦に浸っているように見える。
睨まれているジャンヌよりも、プリムローズの方が態度に怒り狂ってしまいそうだった。
「彼女、反省していないわ。
どういう思考の持ち主なの!」
一番先にプリムローズが、犯罪者を指差しながら中傷する。
「ジャンヌを睨らむのは、お門違いだろう。
自分の立場が、まったく分かっていないようだ」
「ここが悪いからよ。
理解してないようね!
犯罪者として捕まって、これから裁きをうけるのです」
プリムローズは、自分の頭を指して現実を叩きつける。
友人たちが代弁してくれているので、ジャンヌは静かに押し黙った。
「このままだと、私が犯罪者?」
罪を自覚したようで、恐怖から肩を震わせる。
現実逃避から目覚めて、彼女は支離滅裂な言い訳を始めた。
「皆さん、話を聞いてください!
私は悪くありません」
突然大きな声で、注目してくれとばかりに張りあげた。
「脅かされて、仕方なしに従いました。
これは冤罪で、私は巻き込まれたのです」
自分だけ助かろうとする彼女を、恋人は怒鳴りつけた。
「ふざけるな!!」
「お願いします。
こんな彼から、私を助けてください」
両目から涙を流して、周辺に救いを求める。
この女性は、憲兵より女優になれる才能があるとプリムローズは思うくらいの演技だった。
「悪あがきしやがって、どうやら詐欺師の才能もあるようだな」
「この男は、こうやって怒鳴って脅していたのです」
「でたらめを言うな。
金を渡したら、喜んで分け前を貰っていたよな。
安月給でお洒落もできないって、口癖のように愚痴っていたじゃないか」
「アンタが出世しないからよ。
甲斐性なし!
女にデート代を出させて、恥を知れ!」
聞くに耐えない言い争いに、また市民たちが非難する声がしてきた。
「ハハハ、笑えるな。
とうとう、仲間割れしているよ」
「言い分は、本当なのかしら?
あの男性に脅されてしていたの!?」
「さあ、どうでもいいだろう。
正義者ぶっていた憲兵様が、裏では泥棒していたんだ」
「安月給って、私たちよりは貰っているはずよね」
「汗水垂らして働いた。俺たちの金だけでは、どうやら足りないようだ」
「これがお芝居なら、普通に笑っていられるけどさ」
「税金で食ってて、いいご身分だな~」
子供の頃から憧れた職業に対して、人々が罵っているのを聞きたくなかった。
堪らなくなり、ジャンヌはディックへ叫んだ。
「道に迷っていた私を、貴方はキチンと助けてくれました。
どうして、こんなに落ちぶれてしまったの!?」
ジャンヌは自分が罪を犯した気分で、地べたに両膝をついで座る男を見つめていた。
「なんでだろうな。
気づいたら…、こうなっていた」
これから先は、会ってもう話す機会もないだろう。
ジャンヌは精一杯の嫌味を伝える。
自分でも話していて、嫌な女だと思う。
「知ってましたよ。
人相悪い人と居るのを見ました」
「いつ、それを見たんだ」
「……、私に対して優越感に浸っていたこともね」
「はぁ?知っていた?!
私たちをバカにしていたんだ。
最低な女ね!!」
「先に騙したのはそちらですよ。
怪しいと確信したのは、二年くらい前です」
「そんなに前からか。
俺らの行動を見張っていたのか?!
だから迷いもなく、俺を投げ飛ばしたんだな」
「憲兵だった男が、女に軽々と投げ飛ばされていいざまね。
何度も言うけれど、私は巻き込まれただけよ!」
男女の中が一旦こじれると、ここまでに醜くなるのか。
ジャンヌと男女の白熱した舌戦に友人たちは我慢の限界だった。
「それって、貴女の願望でしょう。
現実をみなさい。
盗まれた財布は、貴女が持っていたのを全員が見ているのよ」
「スリをしたオジさんよりも、遥かに人として下だね。
あの人は反省している。
見習ったほうが、心証はいいと思うけど…」
「「…………。」」
「勘違いかもって思っておりましたから残念ですわ。
縁あって知り合った者として、罪を償ってやり直して欲しいと思っております」
ジャンヌの思いやりからくる真摯な言葉に、ふたりは心が揺れ動いたようだった。
「約束する。罪は償う」
「もう、認めるわよ!」
本音か、開き直って言っているのか。
最後、反省してくれたらしい。
憧れていた人から、ジャンヌは裏切られた。
それは、信頼していた民たちも同じ。
罪の意識から顔を隠す彼らを、まるで汚いものを見る目で眺めている。
やがて、スクード将軍の兵士たちが馬を走らせて近づく。
すると、強引に彼らの腕を掴み勢いよく立たせた。
「憲兵の職務に殉じて、犯罪をした者はー。
お前たちで間違いないな。
私たちの顔に泥を塗って、民の信頼を失墜させた罪は重い。
厳しく償って貰うぞ!」
こう怒鳴られ反抗する気概もなくなり、おとなしく3人は連行されようとしていた。
「おお、東の将軍様の旗だ!」
「スクード将軍の直属部隊だぞ!」
『領地でも人気があったけど、王都でも信頼されている』
引っ張られていく様子に、見ていて感じるプリムローズ。
ひょいと横に目をやると、ジャンヌの表情は怒りと悲しみが滲み出ていた。
ひとまず休ませてあげたいと、お茶する提案を持ちかける。
「なんだが、いろいろあって疲れたわ。
最近行ったんだけど、素敵なカフェがあります。
皆で行ってみない?」
「お嬢様、いい判断ですわ。
もう緊張して、私は喉が渇きました。
ご友人の方々も、それで構いませんか!?」
「ああ、ジャンヌもいいだろう」
「ええ、休みたいと思っておりました」
落胆から、ジャンヌは疲労困憊していた。
近くにはタルモと以前入った店があり、足を踏み入れると店長が頭を下げて話しかけてくる。
「これはクラレンス様。
先ほど、来店頂きありがとうございます」
「先ほど?」
「次にご案内しますので、お座りになってお待ち下さい」
不思議そうにして彼を見ると、頭を下げながら顔をあげる時に軽く片目を瞑る。
タルモ殿と一緒にいた私を、覚えていて融通してくれたようだ。
「お座りになって、ジャンヌ様。
お顔の色が冴えないわ」
「遠慮しないで、座ってほうがいい」
ギルが隅にあった椅子を持ち上げ、ジャンヌの側へ置いた。
「お言葉に甘えて、座らせていただきます」
ジャンヌは、素直にギルの好意を受け取る事にした。
並んでいた客も責任者とのやり取りで、先に来ていたのを知ると納得してくれた。
私たちは周りに会釈すると、優先に席に案内される。
「ジャンヌ様。
この場所で例の憲兵の男女と見かけました。
その時、バザールで悪事する話を聞いてしまったのです」
ジャンヌとロッタは、プリムローズがバザールを行くのを渋ったワケを知った。
「プリムローズ嬢は、事前に知っていたんですね」
「ジャンヌ様が知らないうちに、捕まってくれたらと願っておりました」
数日前から空回りしてて、プリムローズは既に疲れていた。
結局は、最悪の形で終えた。
「何度も会っていたのに、彼らの本性を見抜けなかったよ。
憲兵は、誠実で悪さをしない。
思い込みだけで、人を見てはいけなかったんだ」
「私を助けてくれた頃は、憲兵の責務と親切心からしてくれたと思います。
本来の彼に戻って欲しいです」
5人は、ジャンヌの正直な言葉に心を打たれた。
しかし、ロッタは甘い考えをピシャリと退けた。
「あんな奴、忘れた方がいい」
「人によっては、やり直しできますわ」
意見が2つに割れ、雲行きが怪しくなる。
それを気にしないで、女性に囲まれた男が話題を変えようとする。
「休んで元気が出たら、仕切り直しをしよう。
お嬢たち、バザールを楽しまないと損するぞ!」
こういう時のギルは、必ず明るく盛り上げてくれる。
前向きな考えには、いつも救われていた。
「知っているクレープ屋さんが、もしかしたら出店されているかもしれません。
とても美味しい店です。
皆さん、見物しながら探してみませんか?」
【似た者夫婦】とはよく言うが、まさしくピッタリな言葉だ。
プリムローズは、胸の中で納得し紅茶を口に含んだ。
「外で食べるって、それだけで美味しく感じます」
「メリー様、その店を探してみましょう」
ジャンヌとロッタは、誘われたクレープ屋に興味が湧く。
「メリー様とギル殿って、お似合いのご夫婦ですね」
「あらっ、ジャンヌ様にはそう見えます?
なら、私たちの馴れ初めを話しますね。
気が紛れますわよ」
「おい、変な話をするなよ。
変な話しかないけどな」
「ぷぷっ、ギルはよく分かっている。
さすが、【似た者夫婦】。
ほらっ、聞いてあげるから早く話しなさい!」
メリーとギルの夫婦になった経緯は、落ち込んでいるジャンヌを明るくさせるには十分であった。
「ギル殿とメリー様の馴れそめって、恋人をぶっ飛ばして夫婦になった感じですね」
「ジャンヌ様の仰る通り、私たちは恋人らしさがありませんでした。
もう少し、ロマンチックならよかったのにね」
「最初っから、そんなもんはないだろう。
ロマンチックは、メリーは似合わないぜ」
「貴方にだけは、言われたくありません」
夫のギルを叱るように言うと、彼は鼻を擦ってそっぽを向く。
「大きな子供みたい。
こんな旦那様だと、妻の役割と母親までこなさないとならないわね」
プリムローズは笑って嫌味を言うと、女性たちも釣られて声を殺して笑う。
ロッタとプリムローズは、ジャンヌの笑顔にホッとする。
明るい夫婦のお陰で、気力がよみがえり店から外へー。
そして、再び活気ある人混みの中へ歩みだした。
大道芸と勘違いしている人が、なんだこれって近くにいる人へ尋ねている。
一件落着したスリ事件は、自分達を普段守ってくれていた憲兵が犯人。
この結果は、人々の怒りを買っていた。
「マジかよ。
憲兵さんが、泥棒の一味だったんだ」
「おいおい、見てみろよ。
勿体ないね~。
まだ若い男と女じゃないかい」
「最近の若者は、情けない。
この世は、お先真っ暗だな」
「嘘でしょう!?
ショックすぎて、バザールを楽しめなくなっちゃう」
犯罪者の中に憲兵がいると判明すると、誰かが1人文句を言ったら次々と続いた。
自分達に対する冷たい言葉に、両手首を後ろに縛られて身動きが取れない。
こんな状態で耳にする。
ガックリと肩を落とし、虚ろな目付きでいた男たち。
紅一点の彼女は、ジャンヌへ鋭い視線を送っていた。
ふたりの目が合うと、意味不明な笑みを迎え撃つ。
容疑者として捕まっていても、『ディック、彼は私のものよ』って悦に浸っているように見える。
睨まれているジャンヌよりも、プリムローズの方が態度に怒り狂ってしまいそうだった。
「彼女、反省していないわ。
どういう思考の持ち主なの!」
一番先にプリムローズが、犯罪者を指差しながら中傷する。
「ジャンヌを睨らむのは、お門違いだろう。
自分の立場が、まったく分かっていないようだ」
「ここが悪いからよ。
理解してないようね!
犯罪者として捕まって、これから裁きをうけるのです」
プリムローズは、自分の頭を指して現実を叩きつける。
友人たちが代弁してくれているので、ジャンヌは静かに押し黙った。
「このままだと、私が犯罪者?」
罪を自覚したようで、恐怖から肩を震わせる。
現実逃避から目覚めて、彼女は支離滅裂な言い訳を始めた。
「皆さん、話を聞いてください!
私は悪くありません」
突然大きな声で、注目してくれとばかりに張りあげた。
「脅かされて、仕方なしに従いました。
これは冤罪で、私は巻き込まれたのです」
自分だけ助かろうとする彼女を、恋人は怒鳴りつけた。
「ふざけるな!!」
「お願いします。
こんな彼から、私を助けてください」
両目から涙を流して、周辺に救いを求める。
この女性は、憲兵より女優になれる才能があるとプリムローズは思うくらいの演技だった。
「悪あがきしやがって、どうやら詐欺師の才能もあるようだな」
「この男は、こうやって怒鳴って脅していたのです」
「でたらめを言うな。
金を渡したら、喜んで分け前を貰っていたよな。
安月給でお洒落もできないって、口癖のように愚痴っていたじゃないか」
「アンタが出世しないからよ。
甲斐性なし!
女にデート代を出させて、恥を知れ!」
聞くに耐えない言い争いに、また市民たちが非難する声がしてきた。
「ハハハ、笑えるな。
とうとう、仲間割れしているよ」
「言い分は、本当なのかしら?
あの男性に脅されてしていたの!?」
「さあ、どうでもいいだろう。
正義者ぶっていた憲兵様が、裏では泥棒していたんだ」
「安月給って、私たちよりは貰っているはずよね」
「汗水垂らして働いた。俺たちの金だけでは、どうやら足りないようだ」
「これがお芝居なら、普通に笑っていられるけどさ」
「税金で食ってて、いいご身分だな~」
子供の頃から憧れた職業に対して、人々が罵っているのを聞きたくなかった。
堪らなくなり、ジャンヌはディックへ叫んだ。
「道に迷っていた私を、貴方はキチンと助けてくれました。
どうして、こんなに落ちぶれてしまったの!?」
ジャンヌは自分が罪を犯した気分で、地べたに両膝をついで座る男を見つめていた。
「なんでだろうな。
気づいたら…、こうなっていた」
これから先は、会ってもう話す機会もないだろう。
ジャンヌは精一杯の嫌味を伝える。
自分でも話していて、嫌な女だと思う。
「知ってましたよ。
人相悪い人と居るのを見ました」
「いつ、それを見たんだ」
「……、私に対して優越感に浸っていたこともね」
「はぁ?知っていた?!
私たちをバカにしていたんだ。
最低な女ね!!」
「先に騙したのはそちらですよ。
怪しいと確信したのは、二年くらい前です」
「そんなに前からか。
俺らの行動を見張っていたのか?!
だから迷いもなく、俺を投げ飛ばしたんだな」
「憲兵だった男が、女に軽々と投げ飛ばされていいざまね。
何度も言うけれど、私は巻き込まれただけよ!」
男女の中が一旦こじれると、ここまでに醜くなるのか。
ジャンヌと男女の白熱した舌戦に友人たちは我慢の限界だった。
「それって、貴女の願望でしょう。
現実をみなさい。
盗まれた財布は、貴女が持っていたのを全員が見ているのよ」
「スリをしたオジさんよりも、遥かに人として下だね。
あの人は反省している。
見習ったほうが、心証はいいと思うけど…」
「「…………。」」
「勘違いかもって思っておりましたから残念ですわ。
縁あって知り合った者として、罪を償ってやり直して欲しいと思っております」
ジャンヌの思いやりからくる真摯な言葉に、ふたりは心が揺れ動いたようだった。
「約束する。罪は償う」
「もう、認めるわよ!」
本音か、開き直って言っているのか。
最後、反省してくれたらしい。
憧れていた人から、ジャンヌは裏切られた。
それは、信頼していた民たちも同じ。
罪の意識から顔を隠す彼らを、まるで汚いものを見る目で眺めている。
やがて、スクード将軍の兵士たちが馬を走らせて近づく。
すると、強引に彼らの腕を掴み勢いよく立たせた。
「憲兵の職務に殉じて、犯罪をした者はー。
お前たちで間違いないな。
私たちの顔に泥を塗って、民の信頼を失墜させた罪は重い。
厳しく償って貰うぞ!」
こう怒鳴られ反抗する気概もなくなり、おとなしく3人は連行されようとしていた。
「おお、東の将軍様の旗だ!」
「スクード将軍の直属部隊だぞ!」
『領地でも人気があったけど、王都でも信頼されている』
引っ張られていく様子に、見ていて感じるプリムローズ。
ひょいと横に目をやると、ジャンヌの表情は怒りと悲しみが滲み出ていた。
ひとまず休ませてあげたいと、お茶する提案を持ちかける。
「なんだが、いろいろあって疲れたわ。
最近行ったんだけど、素敵なカフェがあります。
皆で行ってみない?」
「お嬢様、いい判断ですわ。
もう緊張して、私は喉が渇きました。
ご友人の方々も、それで構いませんか!?」
「ああ、ジャンヌもいいだろう」
「ええ、休みたいと思っておりました」
落胆から、ジャンヌは疲労困憊していた。
近くにはタルモと以前入った店があり、足を踏み入れると店長が頭を下げて話しかけてくる。
「これはクラレンス様。
先ほど、来店頂きありがとうございます」
「先ほど?」
「次にご案内しますので、お座りになってお待ち下さい」
不思議そうにして彼を見ると、頭を下げながら顔をあげる時に軽く片目を瞑る。
タルモ殿と一緒にいた私を、覚えていて融通してくれたようだ。
「お座りになって、ジャンヌ様。
お顔の色が冴えないわ」
「遠慮しないで、座ってほうがいい」
ギルが隅にあった椅子を持ち上げ、ジャンヌの側へ置いた。
「お言葉に甘えて、座らせていただきます」
ジャンヌは、素直にギルの好意を受け取る事にした。
並んでいた客も責任者とのやり取りで、先に来ていたのを知ると納得してくれた。
私たちは周りに会釈すると、優先に席に案内される。
「ジャンヌ様。
この場所で例の憲兵の男女と見かけました。
その時、バザールで悪事する話を聞いてしまったのです」
ジャンヌとロッタは、プリムローズがバザールを行くのを渋ったワケを知った。
「プリムローズ嬢は、事前に知っていたんですね」
「ジャンヌ様が知らないうちに、捕まってくれたらと願っておりました」
数日前から空回りしてて、プリムローズは既に疲れていた。
結局は、最悪の形で終えた。
「何度も会っていたのに、彼らの本性を見抜けなかったよ。
憲兵は、誠実で悪さをしない。
思い込みだけで、人を見てはいけなかったんだ」
「私を助けてくれた頃は、憲兵の責務と親切心からしてくれたと思います。
本来の彼に戻って欲しいです」
5人は、ジャンヌの正直な言葉に心を打たれた。
しかし、ロッタは甘い考えをピシャリと退けた。
「あんな奴、忘れた方がいい」
「人によっては、やり直しできますわ」
意見が2つに割れ、雲行きが怪しくなる。
それを気にしないで、女性に囲まれた男が話題を変えようとする。
「休んで元気が出たら、仕切り直しをしよう。
お嬢たち、バザールを楽しまないと損するぞ!」
こういう時のギルは、必ず明るく盛り上げてくれる。
前向きな考えには、いつも救われていた。
「知っているクレープ屋さんが、もしかしたら出店されているかもしれません。
とても美味しい店です。
皆さん、見物しながら探してみませんか?」
【似た者夫婦】とはよく言うが、まさしくピッタリな言葉だ。
プリムローズは、胸の中で納得し紅茶を口に含んだ。
「外で食べるって、それだけで美味しく感じます」
「メリー様、その店を探してみましょう」
ジャンヌとロッタは、誘われたクレープ屋に興味が湧く。
「メリー様とギル殿って、お似合いのご夫婦ですね」
「あらっ、ジャンヌ様にはそう見えます?
なら、私たちの馴れ初めを話しますね。
気が紛れますわよ」
「おい、変な話をするなよ。
変な話しかないけどな」
「ぷぷっ、ギルはよく分かっている。
さすが、【似た者夫婦】。
ほらっ、聞いてあげるから早く話しなさい!」
メリーとギルの夫婦になった経緯は、落ち込んでいるジャンヌを明るくさせるには十分であった。
「ギル殿とメリー様の馴れそめって、恋人をぶっ飛ばして夫婦になった感じですね」
「ジャンヌ様の仰る通り、私たちは恋人らしさがありませんでした。
もう少し、ロマンチックならよかったのにね」
「最初っから、そんなもんはないだろう。
ロマンチックは、メリーは似合わないぜ」
「貴方にだけは、言われたくありません」
夫のギルを叱るように言うと、彼は鼻を擦ってそっぽを向く。
「大きな子供みたい。
こんな旦那様だと、妻の役割と母親までこなさないとならないわね」
プリムローズは笑って嫌味を言うと、女性たちも釣られて声を殺して笑う。
ロッタとプリムローズは、ジャンヌの笑顔にホッとする。
明るい夫婦のお陰で、気力がよみがえり店から外へー。
そして、再び活気ある人混みの中へ歩みだした。
12
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
『婚約破棄された悪役令嬢ですが、嫁ぎ先で“連れ子三人”の母になりました ~三人の「ママ」が聞けるまで、私は絶対に逃げません~』
放浪人
恋愛
「母はいりません」と拒絶された悪役令嬢が、最強の“ママ”になるまでの物語。
「君のような可愛げのない女は、王妃にふさわしくない」
身に覚えのない罪で婚約破棄され、“悪役令嬢”の汚名を着せられたクラリス。 彼女が新たに嫁いだのは、北方の辺境を守る「氷の公爵」ことレオンハルト・フォン・グレイフだった。
冷え切った屋敷で彼女を待っていたのは、無表情な夫と、心に傷を負った三人の連れ子たち。 「僕たちに、母はいりません」 初対面で突きつけられた三つの拒絶。しかし、クラリスは諦めなかった。
「称号はいりません。私が欲しいのは――あなたたち三人の『ママ』になれる日だけです」
得意の生活魔法『灯(ともしび)』で凍えた部屋を温め、『鎮(しずめ)』の歌で夜泣きを癒やし、家政手腕で荒れた食卓を立て直す。 クラリスの献身的な愛情は、頑なだった子供たちの心を解きほぐし、やがて不器用な夫の氷の心さえも熱く溶かしていく。
これは、不遇な悪役令嬢が「最強の母」となり、家族を脅かす元婚約者や魔獣たちを華麗に撃退し、最愛の家族から「ママ」と呼ばれるその日までを綴った物語。
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫」と笑った夫。~王宮から私が去ったあと「愛していた」と泣きついても、もう手遅れです~
水上
恋愛
「君は完璧だから、放っておいても大丈夫だ」
夫である王太子はそう笑い、泣き真似が得意な見習い令嬢ばかりを優先した。
王太子妃セシリアは、怒り狂うこともなく、静かに心を閉ざす。
「左様でございますか」
彼女は夫への期待というノイズを遮断し、離縁の準備を始めた。
覚悟は良いですか、お父様? ―虐げられた娘はお家乗っ取りを企んだ婿の父とその愛人の娘である異母妹をまとめて追い出す―
Erin
恋愛
【完結済・全3話】伯爵令嬢のカメリアは母が死んだ直後に、父が屋敷に連れ込んだ愛人とその子に虐げられていた。その挙句、カメリアが十六歳の成人後に継ぐ予定の伯爵家から追い出し、伯爵家の血を一滴も引かない異母妹に継がせると言い出す。後を継がないカメリアには嗜虐趣味のある男に嫁がられることになった。絶対に父たちの言いなりになりたくないカメリアは家を出て復讐することにした。7/6に最終話投稿予定。
婚約破棄された令嬢、気づけば王族総出で奪い合われています
ゆっこ
恋愛
「――よって、リリアーナ・セレスト嬢との婚約は破棄する!」
王城の大広間に王太子アレクシスの声が響いた瞬間、私は静かにスカートをつまみ上げて一礼した。
「かしこまりました、殿下。どうか末永くお幸せに」
本心ではない。けれど、こう言うしかなかった。
王太子は私を見下ろし、勝ち誇ったように笑った。
「お前のような地味で役に立たない女より、フローラの方が相応しい。彼女は聖女として覚醒したのだ!」
愛人を選んだ夫を捨てたら、元婚約者の公爵に捕まりました
由香
恋愛
伯爵夫人リュシエンヌは、夫が公然と愛人を囲う結婚生活を送っていた。
尽くしても感謝されず、妻としての役割だけを求められる日々。
けれど彼女は、泣きわめくことも縋ることもなく、静かに離婚を選ぶ。
そうして“捨てられた妻”になったはずの彼女の前に現れたのは、かつて婚約していた元婚約者――冷静沈着で有能な公爵セドリックだった。
再会とともに始まるのは、彼女の価値を正しく理解し、決して手放さない男による溺愛の日々。
一方、彼女を失った元夫は、妻が担っていたすべてを失い、社会的にも転落していく。
“尽くすだけの妻”から、“選ばれ、守られる女性”へ。
静かに離婚しただけなのに、
なぜか元婚約者の公爵に捕まりました。
追放聖女35歳、拾われ王妃になりました
真曽木トウル
恋愛
王女ルイーズは、両親と王太子だった兄を亡くした20歳から15年間、祖国を“聖女”として統治した。
自分は結婚も即位もすることなく、愛する兄の娘が女王として即位するまで国を守るために……。
ところが兄の娘メアリーと宰相たちの裏切りに遭い、自分が追放されることになってしまう。
とりあえず亡き母の母国に身を寄せようと考えたルイーズだったが、なぜか大学の学友だった他国の王ウィルフレッドが「うちに来い」と迎えに来る。
彼はルイーズが15年前に求婚を断った相手。
聖職者が必要なのかと思いきや、なぜかもう一回求婚されて??
大人なようで素直じゃない2人の両片想い婚。
●他作品とは特に世界観のつながりはありません。
●『小説家になろう』に先行して掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる