無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第4章 騎士道を学べ

第38話 千客万来

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 道端には買い食いする人たちが、露店にむらがっていた。
買った店の近くで食べたり、行儀悪いがそれを持って食べ歩きする人もいる。

「人、人、人で、目がおかしくなりそう。
食べ物を求める姿は、学生たちがお得セットを求める様子に似ているわ」

プリムローズの口から、思わず出てきたお得セット。
メリーとギルが、なにそれって聞き返す。

「お嬢様、エテルネルの学園で食べられていた。
スペシャルデラックスランチみたいなものですか?」

「メリー、違うだろう。
スペシャルデラックスランチは、お嬢のためだけに作られたランチセットだ。
留学先では、いくらなんでも用意してくれないだろう」

聞いていたロッタとジャンヌは、プリムローズに特別に用意された豪華なランチ。
どのようなメニューだったのだろうと、友人たちは頭のなかで想像する。
現役の学生たちが学生食堂の話をしていると、メリーが甘い匂いに反応して突然立ち止まる。

『この匂い!
どこかで嗅いだことがある』

まるで犬のように、メリーはクンクンと鼻を鳴らす。

「この甘い香りは……。
あのおじさんが、露店しているクレープ屋さん」

犬並みの嗅覚を発揮して、そちらに誘われるように歩き店へ吸い込まれるようだった。

「俺の奥さん、食い意地いじ半端はんぱないわ」

小走りに店へ向かう妻の後ろ姿を、ヤレヤレと呆れて長い足を動かして後を追う。

「食い意地はった同士、お似合いね。
いろいろ苦労はしたけど、結びつけて正解だったわ」

「お嬢も一緒じゃん。
ほらほら、よだれ垂らすなよ」

兄と妹みたいな仲の良さに、微笑ましく思い友人達はついて行く。
店へ近づくと、周辺から漂う匂いが強くなる。

「おじさん、こんにちは!
あのう、私の事を覚えていますか?!」

「やぁ、姉ちゃん元気そうだな。
呼び込みしてくれて、この前はありがとな。
お陰さんで、繁盛はんじょしたよ」

親しげなやり取りにプリムローズは、メリーって前から思っていたが人たらしだ。

「こんにちは!
美味しいって聞き来ました」

「おっ、おおーっと!
こりゃあ、可愛いお嬢さんだな。
オマケしちゃうから、おじさんのクレープ食べてくれよ」

5人は注文して焼きあがるまで、妙技みょうぎ釘付くぎつけになる。
生地を鉄板に流し、ヘラでクルクル回す。
果物や出来立ての生クリームをはさんでから紙で包んでくれる。

「クルクルとくるんで、一丁いっちょ上がり!
お次の人は、黒髪のお姉さんね」

ノリノリのおじさんは踊るみたいに作り方に、離れて見ていた人も引き寄せられ集まってくる。

「お姉さんたちが、来てくれて商売繁盛だ。
こりゃ、有難ありがたや有難や」

プリムローズたちが来てから、ワラワラと客が集まりだした。
邪魔になりそうになり、別れの挨拶だけして場を離れる。

「また、買いに行きますね」

「おーう!
お姉さんは、【千客万来せんきゃくばんらい】だ。
次はおごるから、絶対に来てな」

「メリーは、一人の客なのに。
おじさんにとっては、千人のお客と同じ扱いなのね」

「こんな意味でしたわね。
千人の客が一万の客を呼ぶ。
すなわち、ひっきりなしに客がいる様子を言うのよね」

「クレープのおじさんにとって、メリーさんは福の神なんだ」

プリムローズがメリーを揶揄やゆすると、ジャンヌやロッタも軽快に口を開いて喋る。

「しかし、このクレープうまいな!
これを食う前に、肉と酒も欲しかった」

「旦那様、お酒は帰ってからにして下さい。
酔っぱらいは、お嬢様たちに悪影響でよ」

何だかんだ言っても、メリーたらちゃんと手綱たづなを引いてる。
ギルの照れた顔から、すでにしりに引かれている。

混雑する道では、自分勝手に横切る人々。
衝突しないように避けながら、縦に一列になってプリムローズたちは歩いていた。
すれちがった一人の男に、ジャンヌ様が驚いた素振そぶりをする。

「今すれ違った人!
あの黒髪の男性はー」

「いきなりどうした。
ジャンヌらしくないな。
黒髪の男?
別に、そんなにめずしくないだろう」

友の発言に足取りを止めずに、首を動かし背後にいるジャンヌを見る。

「ロッタ、あの方はチューダー将軍のご子息だった。
あの特徴あるくせ毛は、彼で間違いないわ」

ロッタの前を歩いていたプリムローズは、ジャンヌの話し声を聞き逃さないで反応した。

「その方が、フレデリカ・チューダー侯爵令嬢の兄上。
北の将軍様の嫡男ってことですか?」

黒い森の戦いで一緒に行動を共にしていた将軍からは、息子は一切してこなかった。
将軍の子供は、フレデリカ1人と思い込んでいたのだ。

「親父が、チューダー将軍から息子の話をされたとー。
留学先から放蕩息子ほうとうむすこが、やっと戻って来たってさ」

「ふうーん、他国に留学していたの!?
留学制度がありましたのね」

「妙な言い方をする。
プリムローズ嬢も、エテルネルからヘイズへ留学しに来たんだろう。
ヘイズに偏見もっているんだな」

「ロッタ先輩も、私に対して偏見があるようです。
ヘイズ国は国交が活発でないから、祖国ではヘイズへの留学も消極的でした。
そう考えたら、逆もありかなと思いましての」

「お嬢様」と、メリーは心配そうに小声で呼ぶ。
はぁーって大きく息を吐くと、妻の肩に手を乗せて仲裁に入る。

「お嬢さんたち、ケンカするなよ。
どうやら、余計な事を言ったようだな」

「ギル、令息はどちらに留学していたか聞いている?」

「ああ、ウィルスターって言ってたぞ」

「んまぁ、ウィルスター国だったの」

「プリムローズ嬢。
ギル殿は、聞き間違いをしていると思う。
噂だと、留学先はザィール国だったはずだ」

「私もロッタと同じで、ザイールと伺っております」

ギルはウィルスターと言い。
友人たちはザイールだと否定する。
だとしたら、侯爵令息は2か国留学していたことになる。

そんなことより……。

人の波が途切れたところで、5人は街路樹の下で輪になって会話を始める。

「それよりも、ジャンヌ様。
彼と横切っただけで、よく分かりになりましたね。 
お知り合いでしたの?」

ロッタもプリムローズの疑問に、自分も思っていたと同調している。

「チューダー侯爵令嬢をプリムローズ嬢から紹介された時、初対面みたいだった。
いつどこで、ジャンヌは知り合ったんだ!?」

「ち、違います。
滅相《めっそう》もございません」

 
 13歳のジャンヌは、王都へ行く父の知り合いに託して軍学園へ学ぶため旅立った。
彼女は初めて船に乗り、希望で胸を熱く港へ降り立つ。

同じ日に、チューダー侯爵令息は留学の地へがある大陸へ渡ろうとしていた。

「お兄様、いいなぁ~。
私も行きたい!
い・き・た・いぃー!!
大きな船に乗って、大陸へ行ってみたいです」

同じ年くらいの少女は、家族を困らせている様子だった。

「フレデリカ、わがままを言わないのよ。
留学に行くのを、まだ私は反対です」

「ゴホン、留学は遊びじゃない。
よいか、お前はヘイズ国の代表として行くのだ」

「父上、留学後は国に役立つよう学んできます」

家族と思わえる人々は、高級ぽい服を身に着けている。
何よりも、一目見たら忘れられない特徴的な髪型だった。
強烈な印象のせいか。
会話までもが、ジャンヌの脳裏に植え付けられてしまっていた。

「フレデリカ様と初めてお会いした時は、あのクルクルは衝撃で目が釘つけになりました。
家族全員が集まれば、それは圧倒したでしょ」

「そういう理由か。
なぁんだ、つまんない。
好みの男性で、それで覚えていたと期待していたんだ」

友人たちは各々が好き放題に話すと、チューダー侯爵令息について新たな疑問があがる。

「帰国したって事は、学園に復学する可能性があるな」

「できれば軍学園には、来ないで頂きたいんですけど」

ロッタたちがチューダー侯爵令息に嫌悪けんおしているのを、プリムローズは不思議に思って尋ねた。

「将軍の身内ですから、軍学園に決まっています。
たしか、私たちより3歳上だったはずです」

「そう、ジャンヌの言うとおりだ。
彼は成人もしていて、年齢は20歳を超えている」

「なんですって!
その歳で、学生に戻れますの。
学園側は、彼の復学を許されるのですか?」

それはあり得ん話だと、ロッタとジャンヌに食ってかかる。

冷静なよく知る女性の声が、プリムローズたちの側から聞こえてくる。

「他国での留学中は、その時点で前の学年のまま在籍ざいせきという扱いになります。  
お嬢様のために留学制度を調べました。
ヘイズ国でも変わらないと思いますよ」

元優秀なメイドは、せいどについて丁寧に説明する。

「でも、メリー。
卒業試験のギリギリになって、なに食わぬ顔で出戻るのよ。
気に入りませんわ」

「プリムローズ嬢と同意件だ。復学しなくても、将来が決まっているだろう。
北の将軍職を継げばいいじゃないか」

プリムローズとロッタは、向かい合うと居ない人へ文句を言う。

「ええ、後だしジャンケンされた気分です。
お聞きしますが、プリムローズ嬢は北の将軍が剣術しているのを拝見したことがありますか?」

「ございませんけど……。
東の将軍スクード公爵とは、何度か手合わせしたことはあります」

黒い森の戦いでは、チューダー侯爵はご意見番みたいな位置で相談相手になっていた。
こんなことになるなら、一度手合わせをしていればと後悔する。

「ああ、将軍と剣を交える。
一度でもいいから、お手合わせしたい」

「女性で騎士になれたって、所属が違うからお目にかかる機会がない」

「その点では、お嬢様は恵まれてます。
お祖父様がグレゴリー様で、小さい頃から剣術を教えて頂いてましたもの」

メリーの配慮ない言葉で、ふたりは同時に目だけを細めてプリムローズに向ける。
察したギルは、妻の失言を助けようと焦る。

「育った環境の有利さはあるが、そんな弱腰でどうする。
親父様が、今のお嬢をみたら泣きますぜ。
それに、勝負は時の運って言うじゃん」

「そうそう、やってみないとね。
お嬢様たちが、最後まで勝ち残れると信じてます」

「応援の気持ちは嬉しいけれど、優勝者は一人だけなのを分かって言っているの?」

プリムローズの突っ込むに、ふたりは目と目を合わせた。
ごく自然に、夫の筋肉で硬くなっている腕に細い腕を絡める。

「ギル殿とメリーさん、ありがとうございます。 
よし、誰でもいいから優勝するぞ!」

「チューダー侯爵の息子だけには、クラレンス公爵の名に懸けて負けられません」

「私もですわ。
気持ちを切り替えて、明日から訓練します」

ロッタ、プリムローズ、ジャンヌは優勝を目指し気合を入れた。

「その意気だ!
ぽっと出の将軍の息子に、お嬢たちは負けんじゃないぞ」

「そうですとも、対戦したらニコリと笑っておやりなさい。
それで相手が腑抜けになったら、隙が生まれて勝てるかもしれません」

「いい助言だぜ。
俺が惚れた女だけあるな」

最初は怖そうな男性だと萎縮していたが、気さくで優しい人だと思った。
こんな人と出会ったメリーさんは、見た通り幸せそう。

『いつか、私にも素敵な人が現れるかしら?』

ジャンヌの恋は、始まる前に終わってしまった。
目の前にいる若い夫婦の笑顔が、傷心の心を癒やしてくれていた。












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