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第5章 栄光を目指せ
第3話 窮鼠猫を噛む
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夜の闇に照らされている釜の炎は、時おりパチパチと音をたて薪が弾ける。
メラメラと踊るような炎が、異なる色彩の瞳たちを明るく照らす。
「負けましたね。
私は勝ちましたけど……」
脇に積んでいる薪を掴んで、釜に投げながら言う。
久しぶりに黒星をつけて、風呂の湯を沸かす係になってしまった。
自分たちより身分高い侯爵令嬢たちとのランチが、ジャンヌとロッタには気疲れしたようだ。
「私だけじゃなく、ロッタも負けるとは思わなかった」
親友のせいにしたようで、それに気づき後味悪そうにする。
相手のロッタは、気にしてなさそうに言い訳をした。
「ジャンヌもやられるなんて思わなかったよ。
油断したな」
素直に負けを認めて、一人だけ勝ったプリムローズに対してバツの悪い表情。
風呂に入っている勝者に難癖つけられないように、話ながらも火の強さだけは注意を払う。
「調子悪い日もあります。
ところで、昼の件をどう思った?」
「昼の件?
ああ、チューダー侯爵令息のことか。
フレデリカ嬢の話で、なんとかく弱点はわかったよ」
「ロッタ先輩はわかったの?
ジャンヌ様も?」
「どうやら妹君からみたら、女性には弱いみたいですね」
「他国の令嬢とはいえ、簡単にひっかかるくらいだ。
無類の女好きかもよ」
男女間の普遍的な課題を、自分で話していてモヤモヤしていた。
言い終えてからブルムヘルム伯爵令息のカルヴィの姿が、脳裏に鮮明にくっきり現れてくる。
『うわっ、なんで!
突然、カルヴィ様が浮かんでくるんだ』
あたふたして挙動不審なロッタを、どうしたとプリムローズとジャンヌは不思議がっていた。
「チューダー侯爵令息と試合にあたったら、女を武器にすれば勝てるかもしれませんね」
「男に媚びのは苦手で、私は到底できない」
「わかる~、色仕掛けしてまで勝ちたいとは思わない。
体格では不利だけど、正々堂々と戦いたいわ」
ジャンヌ様の心意気を聞き、ロッタと心をひとつにして喜んだ。
「試合には、男も女も関係ない。
【窮鼠猫を噛む】で、私は立ち向かうつもりだ!」
男らしく宣言して、開いていた掌を強く閉じて自分を鼓舞していた。
「ロッタ先輩、ところで【窮鼠猫を噛む】の意味をご存じですか?」
「たしか……。
弱い立場のネズミが、襲われそうになって猫を噛んむだよな」
自信がない声でロッタは、言葉から意味を連想して答える。
「だいたい正解ね。
弱者も絶体絶命に追い込まれると、必死に反撃することよ」
ジャンヌはニッコリ微笑むと、右手をロッタの前へ差し出す。
バチーンと叩くような音をたてて、互いに手を強く握りあっていた。
熱き友情を眺め、プリムローズだけが違うことを考えている。
いつも入浴時は大声で歌ったり、お喋りで盛り上がっている。
『今夜は、おとなしい。
もしや、誰も風呂に入っていないのかな』
近くにあった薪を手にして、ホイホイと火の中へ投げ入れた。
立ち上がっていたジャンヌが、その行動に口より先に手がでた。
また投げようとしていたところを、やめさせようと手の甲を叩く。
驚きと同時に、釜の手前で薪が地面に落ちた。
「薪を入れすぎてるわ!
ごめんなさい、つい叩いてしまって…。痛かった?」
「驚いたけど、大丈夫です。
火加減、強かったですか?」
腰かけて座っていた自分たちへ、炎が燃え移りそうな勢いがあった。
「やっちまったな。
こりぁ、怒られるぞ!」
ロッタが言ったすぐに、風呂場からは悲鳴に近い声が聞こえてきた。
熱と中から怒りの声で、次から次へ文句が飛んでくる。
「あんたたち、なにしているの!
熱くて入っていられないわ」
「火傷したら、どうしてくれるよ!」
「先生に言いつけてやる!」
もう煩いなと思っても、ちゃんと謝罪することにした。
急ぎ立ち上がりプリムローズは、窓の隙間から中を覗く。
風呂から飛び出て、慌てて冷たい水を被ったりしている。
「ごめんなさい。
お風呂に入っていたんだぁ~。
誰も居ないと思ったの」
侯爵令息が気になって、私たちの会話を風呂場で盗み聞きしていたようね。
聞いていても役に立つ情報はないのに、まったくご苦労なことだわ。
そんな気持ちのままに謝ったため、相手には誠意がちっとも伝わらない。
「ふざけんじゃないわよ!!
まだ時間があるでしょう」
「そうよ!
最後まで火を番するのが、負けた者の役目でしょう」
「また、貴女なの!
その言い方で謝っているつもり?」
「他国の留学生だからって、私たちは通用しないからね」
お怒り気味に怒鳴られ、プリムローズの行為はやり過ぎたのは明らか。
このままだと、収拾がつかなくなりそうだった。
「……、申し訳ありません」
謝っているのにと困り顔をしていると、ロッタとジャンヌがプリムローズを挟むよう近づく。
そして、顔と体を真っ赤にしている人たちへ声をかけた。
「監督不届きですまない。
火傷はしていないか?」
「目を離した隙に、薪をちょっと多く入れてしまったの。
悪気はないし、許してあげて」
ロッタとジャンヌが立て続けに謝罪すれば、少しだけ気が収まったようだ。
寮長のロッタの顔を立て許してあげるわと、捨て台詞を吐いてから風呂場を後にする。
「あれ、わざとだろう?
なんで、あんなことをした」
ジャンヌも怪訝そうにしていたが、ロッタはプリムローズを叱るように詰問した。
薪を汲めた理由を話すと、普通に窓から覗いたら問題なかったんではと突き詰める。
「静かすぎて、本当にお風呂にいないと思って…。
それに覗いたら、見つかってバレちゃうわ」
それでも火傷させてはいけないことだろうと、納得するまで諭し続けた。
更生にむけた気持ちは、こんな彼女の心にどう響いたのか。
冷静にやり取りを見ていたジャンヌは、親友の努力はかなり怪しいと思った。
「あれは昼間のやり取りが気になり、私たちの話を盗み聞きしたんだな」
「食堂にいるだけで、かなり目立ってましたもの。
噂が広まったようね」
風呂よりも自分たちの話に夢中だったようで、ロッタとジャンヌは困った人たちだとぼやく。
「ねえねえ、どこからどこまで聞いていたと思います?」
「なにも聞こえてないのでは」
「さあね。
彼女たちの試合を見れば、どこまで聞いたかハッキリするよ」
「ジャンヌ様、ロッタ先輩。
彼女たちはどうするか。
楽しみですわね」
「コラッ、反省しろ!」
おでこの真ん中を指で弾くと、突然の痛さでウウッと唸る。
この様子にジャンヌがつい笑うと、続くようにふたりも笑い合う。
この夜の出来事も、留学の思い出としてプリムローズの胸に刻まれた。
セント・ジョン軍学園の正門前に、背は高く肩幅の広い体格の人がど真ん中に仁王立ちしていた。
手の込んだ金糸で模様を刻む深緑のリボンが、風が吹くたびにヒラヒラと揺れる。
学生の若者とは一線をひいて、どこか達観した面立ちをしていた。
現在、学園で話題の中心人物。
チューダー侯爵令息、フレデリカの兄だった。
「アイツ、誰だよ!
真ん中に立っていたら、通行の邪魔だよ」
「貴族の学園なら、馬車に引かれてブッと飛ばされているぜ」
「見たことない顔だな。
こんな時期に新しい教師か?」
遠回しに避け、陰口を叩き、彼の横を学生たちは登校する。
今日の空は真っ青で爽やかだが、下界の一部はどこか重々しい。
なにも知らない彼女たちは、いつも変わらなく正門を通ろうとしていた。
「なんだあれは?」
「どうして、左右に人の流れが分かれてあるの?」
「あら、いやだぁ~。
学生ではなさそう。
不審者がかしら?」
プリムローズが門の手前で、婆くさい言葉遣いで話しかける。
3人の中で認識できるジャンヌが、その人物の正体を知らせた。
「不審者ではありません。
癖が強い髪をご覧ください。
あの方は、チューダー侯爵令息です」
「へぇ~、彼がそうなのか」
どれどれと通りすぎながら、ロッタが下から上へ何回もなめるように見ている。
ロッタの後ろを続いて、プリムローズも令息の顔を瞬きもしないで観察した。
「二人とも、じろじろと見るのは失礼ですよ」
「そんな事言ってられません。ご覧になってください。
皆さん、不機嫌そうに避けています」
門前のど真ん中で、動こうとしないのを見て指差す。
珍しく正しいことをプリムローズに言われて、ふたりは素直に納得する。
それならばと自分がなんとかしたいと、ジャンヌの正義感が芽生えた。
「面倒ですが、先生でも呼んでくるわ。
お二人は、先に教室へ行って」
「そんなことまでしなくていいよ。
しばらく放置していれば、いずれ正気に戻るだろう」
「ロッタ先輩はそう仰いますが、私はほっとけませんわ。
ちょっと、行って参ります」
「仕方ないわね」と言い残すと、反転して侯爵令息と思われる男性へ足取り軽く向かう。
嫌な予感がして行かせてはならないと、ジャンヌが素早く右腕を伸ばしたが空を切った。
「ロッタ、止めないと!」
「もう遅いよ、ジャンヌ。
ここで、私たちは見守ろう」
次の行動を静止するように、ジャンヌの伸ばした右肩に手を置いて優しく包んだ。
諦めムード全開のロッタが、時すでに遅しだと困惑していた親友に告げる。
もうすでに前方では、目立つ頭髪が向かいあって言い争っていた。
それを見て頭の後ろをかくロッタ、オロオロしだすジャンヌ。
『誰でもいいから助けてー』と、声が出そうになった時。
うまい具合いに、ジャンヌとロッタに救世主が現れたのだった。
メラメラと踊るような炎が、異なる色彩の瞳たちを明るく照らす。
「負けましたね。
私は勝ちましたけど……」
脇に積んでいる薪を掴んで、釜に投げながら言う。
久しぶりに黒星をつけて、風呂の湯を沸かす係になってしまった。
自分たちより身分高い侯爵令嬢たちとのランチが、ジャンヌとロッタには気疲れしたようだ。
「私だけじゃなく、ロッタも負けるとは思わなかった」
親友のせいにしたようで、それに気づき後味悪そうにする。
相手のロッタは、気にしてなさそうに言い訳をした。
「ジャンヌもやられるなんて思わなかったよ。
油断したな」
素直に負けを認めて、一人だけ勝ったプリムローズに対してバツの悪い表情。
風呂に入っている勝者に難癖つけられないように、話ながらも火の強さだけは注意を払う。
「調子悪い日もあります。
ところで、昼の件をどう思った?」
「昼の件?
ああ、チューダー侯爵令息のことか。
フレデリカ嬢の話で、なんとかく弱点はわかったよ」
「ロッタ先輩はわかったの?
ジャンヌ様も?」
「どうやら妹君からみたら、女性には弱いみたいですね」
「他国の令嬢とはいえ、簡単にひっかかるくらいだ。
無類の女好きかもよ」
男女間の普遍的な課題を、自分で話していてモヤモヤしていた。
言い終えてからブルムヘルム伯爵令息のカルヴィの姿が、脳裏に鮮明にくっきり現れてくる。
『うわっ、なんで!
突然、カルヴィ様が浮かんでくるんだ』
あたふたして挙動不審なロッタを、どうしたとプリムローズとジャンヌは不思議がっていた。
「チューダー侯爵令息と試合にあたったら、女を武器にすれば勝てるかもしれませんね」
「男に媚びのは苦手で、私は到底できない」
「わかる~、色仕掛けしてまで勝ちたいとは思わない。
体格では不利だけど、正々堂々と戦いたいわ」
ジャンヌ様の心意気を聞き、ロッタと心をひとつにして喜んだ。
「試合には、男も女も関係ない。
【窮鼠猫を噛む】で、私は立ち向かうつもりだ!」
男らしく宣言して、開いていた掌を強く閉じて自分を鼓舞していた。
「ロッタ先輩、ところで【窮鼠猫を噛む】の意味をご存じですか?」
「たしか……。
弱い立場のネズミが、襲われそうになって猫を噛んむだよな」
自信がない声でロッタは、言葉から意味を連想して答える。
「だいたい正解ね。
弱者も絶体絶命に追い込まれると、必死に反撃することよ」
ジャンヌはニッコリ微笑むと、右手をロッタの前へ差し出す。
バチーンと叩くような音をたてて、互いに手を強く握りあっていた。
熱き友情を眺め、プリムローズだけが違うことを考えている。
いつも入浴時は大声で歌ったり、お喋りで盛り上がっている。
『今夜は、おとなしい。
もしや、誰も風呂に入っていないのかな』
近くにあった薪を手にして、ホイホイと火の中へ投げ入れた。
立ち上がっていたジャンヌが、その行動に口より先に手がでた。
また投げようとしていたところを、やめさせようと手の甲を叩く。
驚きと同時に、釜の手前で薪が地面に落ちた。
「薪を入れすぎてるわ!
ごめんなさい、つい叩いてしまって…。痛かった?」
「驚いたけど、大丈夫です。
火加減、強かったですか?」
腰かけて座っていた自分たちへ、炎が燃え移りそうな勢いがあった。
「やっちまったな。
こりぁ、怒られるぞ!」
ロッタが言ったすぐに、風呂場からは悲鳴に近い声が聞こえてきた。
熱と中から怒りの声で、次から次へ文句が飛んでくる。
「あんたたち、なにしているの!
熱くて入っていられないわ」
「火傷したら、どうしてくれるよ!」
「先生に言いつけてやる!」
もう煩いなと思っても、ちゃんと謝罪することにした。
急ぎ立ち上がりプリムローズは、窓の隙間から中を覗く。
風呂から飛び出て、慌てて冷たい水を被ったりしている。
「ごめんなさい。
お風呂に入っていたんだぁ~。
誰も居ないと思ったの」
侯爵令息が気になって、私たちの会話を風呂場で盗み聞きしていたようね。
聞いていても役に立つ情報はないのに、まったくご苦労なことだわ。
そんな気持ちのままに謝ったため、相手には誠意がちっとも伝わらない。
「ふざけんじゃないわよ!!
まだ時間があるでしょう」
「そうよ!
最後まで火を番するのが、負けた者の役目でしょう」
「また、貴女なの!
その言い方で謝っているつもり?」
「他国の留学生だからって、私たちは通用しないからね」
お怒り気味に怒鳴られ、プリムローズの行為はやり過ぎたのは明らか。
このままだと、収拾がつかなくなりそうだった。
「……、申し訳ありません」
謝っているのにと困り顔をしていると、ロッタとジャンヌがプリムローズを挟むよう近づく。
そして、顔と体を真っ赤にしている人たちへ声をかけた。
「監督不届きですまない。
火傷はしていないか?」
「目を離した隙に、薪をちょっと多く入れてしまったの。
悪気はないし、許してあげて」
ロッタとジャンヌが立て続けに謝罪すれば、少しだけ気が収まったようだ。
寮長のロッタの顔を立て許してあげるわと、捨て台詞を吐いてから風呂場を後にする。
「あれ、わざとだろう?
なんで、あんなことをした」
ジャンヌも怪訝そうにしていたが、ロッタはプリムローズを叱るように詰問した。
薪を汲めた理由を話すと、普通に窓から覗いたら問題なかったんではと突き詰める。
「静かすぎて、本当にお風呂にいないと思って…。
それに覗いたら、見つかってバレちゃうわ」
それでも火傷させてはいけないことだろうと、納得するまで諭し続けた。
更生にむけた気持ちは、こんな彼女の心にどう響いたのか。
冷静にやり取りを見ていたジャンヌは、親友の努力はかなり怪しいと思った。
「あれは昼間のやり取りが気になり、私たちの話を盗み聞きしたんだな」
「食堂にいるだけで、かなり目立ってましたもの。
噂が広まったようね」
風呂よりも自分たちの話に夢中だったようで、ロッタとジャンヌは困った人たちだとぼやく。
「ねえねえ、どこからどこまで聞いていたと思います?」
「なにも聞こえてないのでは」
「さあね。
彼女たちの試合を見れば、どこまで聞いたかハッキリするよ」
「ジャンヌ様、ロッタ先輩。
彼女たちはどうするか。
楽しみですわね」
「コラッ、反省しろ!」
おでこの真ん中を指で弾くと、突然の痛さでウウッと唸る。
この様子にジャンヌがつい笑うと、続くようにふたりも笑い合う。
この夜の出来事も、留学の思い出としてプリムローズの胸に刻まれた。
セント・ジョン軍学園の正門前に、背は高く肩幅の広い体格の人がど真ん中に仁王立ちしていた。
手の込んだ金糸で模様を刻む深緑のリボンが、風が吹くたびにヒラヒラと揺れる。
学生の若者とは一線をひいて、どこか達観した面立ちをしていた。
現在、学園で話題の中心人物。
チューダー侯爵令息、フレデリカの兄だった。
「アイツ、誰だよ!
真ん中に立っていたら、通行の邪魔だよ」
「貴族の学園なら、馬車に引かれてブッと飛ばされているぜ」
「見たことない顔だな。
こんな時期に新しい教師か?」
遠回しに避け、陰口を叩き、彼の横を学生たちは登校する。
今日の空は真っ青で爽やかだが、下界の一部はどこか重々しい。
なにも知らない彼女たちは、いつも変わらなく正門を通ろうとしていた。
「なんだあれは?」
「どうして、左右に人の流れが分かれてあるの?」
「あら、いやだぁ~。
学生ではなさそう。
不審者がかしら?」
プリムローズが門の手前で、婆くさい言葉遣いで話しかける。
3人の中で認識できるジャンヌが、その人物の正体を知らせた。
「不審者ではありません。
癖が強い髪をご覧ください。
あの方は、チューダー侯爵令息です」
「へぇ~、彼がそうなのか」
どれどれと通りすぎながら、ロッタが下から上へ何回もなめるように見ている。
ロッタの後ろを続いて、プリムローズも令息の顔を瞬きもしないで観察した。
「二人とも、じろじろと見るのは失礼ですよ」
「そんな事言ってられません。ご覧になってください。
皆さん、不機嫌そうに避けています」
門前のど真ん中で、動こうとしないのを見て指差す。
珍しく正しいことをプリムローズに言われて、ふたりは素直に納得する。
それならばと自分がなんとかしたいと、ジャンヌの正義感が芽生えた。
「面倒ですが、先生でも呼んでくるわ。
お二人は、先に教室へ行って」
「そんなことまでしなくていいよ。
しばらく放置していれば、いずれ正気に戻るだろう」
「ロッタ先輩はそう仰いますが、私はほっとけませんわ。
ちょっと、行って参ります」
「仕方ないわね」と言い残すと、反転して侯爵令息と思われる男性へ足取り軽く向かう。
嫌な予感がして行かせてはならないと、ジャンヌが素早く右腕を伸ばしたが空を切った。
「ロッタ、止めないと!」
「もう遅いよ、ジャンヌ。
ここで、私たちは見守ろう」
次の行動を静止するように、ジャンヌの伸ばした右肩に手を置いて優しく包んだ。
諦めムード全開のロッタが、時すでに遅しだと困惑していた親友に告げる。
もうすでに前方では、目立つ頭髪が向かいあって言い争っていた。
それを見て頭の後ろをかくロッタ、オロオロしだすジャンヌ。
『誰でもいいから助けてー』と、声が出そうになった時。
うまい具合いに、ジャンヌとロッタに救世主が現れたのだった。
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