無意識 悪役公爵令嬢は成長途中でございます! ーヘイズ留学 過去から未来編ー

愚者 (フール)

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第5章 栄光を目指せ

第6話 押し付けた縁は続かぬ

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 女性たちの笑い声に混じり、一人男性の低い声が聞こえる。
この中心にいたのは、フレデリカ様の兄上アンテロ・チューダー。

彼は見かけとは違って、人なっこい子犬みたいな性格をしていた。
そして、予想外だったのが話術が巧みであることだ。
留学後にまた違う国へ行き、出稼ぎしていた話は噴き出し笑いしてしまうくらい面白かった。

滞在する宿屋の食堂で女にフラレた話をすると、誰かしら慰められてついでに食事を奢ってくれた。

「留学先のウィルスター出身の友人が、誰かに話せば楽になるものだと慰めてくれました」

「女性には縁がなかったようですが、男の友情には恵まれたみたいですね」

「これは、グリムローズ嬢は手厳しい。
友人の言うとおりに実践してみたら、行く先々で励まされご馳走ちそうになった」

プリムローズの名前を、アンテロは間違えて呼ぶ。
もう、好きに呼んでいいよ状態である。

「ぷっ、よかったですわね。
節約できてよかったじゃない」

「グチグチして悩むより、話して発散した方が健全ですよ」

笑うのは失礼だけどと思っていたが、それはプリムローズの取り越し苦労だった。
気にしない本人は、その方が話しやすいようであった。
ロッタも緊張せずに、普段と変わらない態度で喋っている。

「チューダー侯爵令息と同じく、私も男性の見る目がないと少し落ち込んでいましたの」

現在、目の前で侯爵令息と笑って話しているのはジャンヌ・ケトラ男爵令嬢。
最初は、身分の高い彼との食事に難色を示して辞退していた。
だが、蓋を開けたら互いの失恋話を心を開いて語り合う。
なにやらいい感じの様子に、ふたりを邪魔しないようにする。
   
「ジャンヌと彼は、気が合いそうにみえないか。
あの男のせいで落ち込んでいたが、ああしていると信じられないようだ」

楽しそうに話しているジャンヌを、ロッタは自分のことみたいに喜ぶ。
二人を紹介して正解だった。
公爵令嬢は満足げに、ジャンヌとアンテロを見ているロッタへ近寄った。

「ふたり、いい笑顔をしているわ。
恋の痛手は、新たな恋で忘れるものよ。
思った以上に、ふたりの相性がよろしそうです」

「【押し付けた縁は続かぬ】って、言葉を聞いたことあるぞ。
深入りしないで、これくらいにしてくれな」

「それって無理矢理に押し付けて婚姻こんいんさせた男女は、所詮しょせんは長続きしないってことでしょう?
私は食事に誘っただけです」

「これからどうなるかは、ジャンヌたち次第ってことだな」

コソコソと顔を近づけ、男女に気づかれないように喋る。
プリムローズたちが、こんな話をしているのに気づきもしない。

「ねぇねぇ~、お二人さん!
二日後の実技試験で使用するのは、学園指定の剣ですってね。
どんなものか、ご存知?」

甘あま空気に耐えきれず。
二人の世界を、プリムローズが無神経にも打ち破る。

「剣ですか?
普通の物ではないかしら?」

「ジャンヌ嬢、毎年剣の形を変えているそうです」

「ええ、チューダー侯爵令息。
卒業した先輩方に教えていただきましたわ」

アンテロが名前を間違えないで、ジャンヌの名前を口にしている。

『私の名前は、何度も間違っえてくせに。
どうして、ジャンヌ様だけは間違えないの』

フレデリカは、別れ際にプリムローズへ謝罪してこう言った。

『兄が失礼しました。
身内でも呆れてしまいまして、関心ないものは覚えようとしないのです』

妹の話からすると、関心がある事柄をすぐに覚える。
そうなると、彼はジャンヌ様のことをー。
自分で話題を振っておいて、違う方向へ思考が流れていた。

「その2日間は、セント・ジュン学園全生徒が観戦致します。
そして、最終日の決勝はー。なんと、国王陛下がお見えになられるのです」

「チューダー侯爵令息のお話ですと、大々的だいたいてきなのですね。
国王陛下まで玉体をお運びになられるとはー」

「年中行事の中で、これは一大行事でもある。
各騎士団やその他がスカウトに訪れ、もし目をかけられたらそこで進路も決まるんだ。
私もじつは、この機会を#狙__ねら_#っているよ」

ロッタは目を輝かしては、他国で知らないでいるプリムローズに力説する。

「未来をかけてるのね。
生半可なまはんかか、思いで戦えないわね」

出場者最年少で他国エテルネルの筆頭公爵令嬢は、紫の瞳をキラキラ輝かせると3人の前で高らかに宣言した。

「私も負けられんな。
なにせ、最年長者で北の将軍の息子だ。
ぶざまな姿は、絶対に見せられん」

「チューダー侯爵令息は、優勝候補の一番手になっています。
どんな剣さばきをされるか、私も気になりますわ」

「ジャンヌ嬢、私の名を呼ぶ時はアンテロで構わん。
無論、君たちもだよ。
年はちょっと上だが、友人になってくれ」

「「「はい!」」」

同時に返事してしまうと、4人はまた笑い声を食堂に響かせていた。
最後に、プリムローズは名前に関する疑問を突き止めようとする。

「アンテロ様、お聞きしたいことがありますの」

「ゴーン、ゴーン……」

「申し訳ない!
急ぎ戻らなくてはならない。
午後の授業は剣術で、着替えなくてはならんのだ。
失礼するよ、ご令嬢たち」

しかし、これは時間を告げる鐘の音で妨げしまう。
慌てて別れを告げで、彼女らから大股で小走り去って行ってしまう。
その後ろ姿を見詰めて、プリムローズはちょっと残念がる表情をしていた。

 
 待ちに待った、実技最終試験の初日である。
ヘイズの気候は、雨季うきにまとまった雨が降り続く。
この期間を外しての、万全に準備をしていたのである。


「映えあるセント・ジョン軍学園、剣術実技試験を開催する。
剣は一人、予備を含めた2本を使用してもらう。
剣をダメした時点で、失格とみなすこととする。
恨みなしの一本勝負である!」

現在いる場所は、学園内に設けた闘技場。
周りをぐるりと席が設けられており、すり鉢状に360度、上から下へ見渡せる作りになっていた。
運動用の騎士服に身を包み、渡された剣を検品する。
剣の質に落ち度がないかを、見定めるのも試験の対象に入る。

東の将軍職のスクード公爵が、陛下の隣から立ちながら声を張り上げた。

「いよいよ始まる前に、ヘイズ国王陛下よりの激励のお言葉をたまわる。
しかと、全生徒は謹んで拝聴するように!
では、陛下お言葉を」

よっこらしょっと、こちらにも聞こえそうな声。
プリムローズはその緩慢かんまんな動作を見て、国王の健康状態が不安になるぐらいだった。
それは隣に座る王妃や、第一王子殿下に養子になった亡き王弟殿下の遺児エリアスも同じような表情を向けている。

「本日開催される大会は、
卒業を控えた生徒たちの鍛練たんれんを発表する場でもある。
余は、若人わこうどの熱き情熱を観覧出来ることを嬉しく思うぞ!
皆の健闘を祈る!」

「「「ヘイズ王、万歳ばんざいーー!!」」」

場内は怒涛どとうのごとく、陛下をたたえる歓喜のうずに包まれた。

『どこの国もやってることは、たいして代わり映えしない。
口パクで十分よね?
私はエテルネル国の者だし』

主旨しゅしは違えど、エテルネルと合わせてプリムローズは2度目の剣大会となる。  
1度経験してるのもあって、彼女は緊張も感じず余裕があった。
そうこうしているうちに、病欠している者を除く高等部3年の今後をかけた第一回戦が始まろうとしていた。

彼らは騎士の心を持ち、剣に魂を込めて相手に立ち向かう。








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