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蒲公英の街(チェアルサーレ)
76. 夢見の才に目覚める
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…………あとは?
石灰華段みたいな黒光りする岩の層がいくつも重なる鍾乳洞のような場所。
≪マ、ダラ、ラン……タマ、モモ……エン、エンラ……ケウ、ケ、ゲン……≫
薄暗い洞穴の中で、フィオの声がする。でも元気がない。なんだか泣きそうなのを堪えて、振り絞っているような……。
≪ごめんね、魔導士をやっつけてあげられなくて≫
大きい竜を見上げ、そっと手を置く。背を伸ばせば天井まで届きそうだけど、今は首を垂れてうずくまっていた。白い鱗もところどころが剥がれたり、傷がついて、オパールのような美しい輝きはない。
≪芽芽ちゃん!≫
こちらに背中を向けていたフィオが、急に顔を上げた。
≪え、え、え?! なんでなんで?! 捕まっちゃったの?!≫
小さな手をパタパタさせて焦っているのが愛くるしい。そういや……どこだ、ここ?
≪落ちつけ古代竜よ、そりゃ肉体から抜け出た中身じゃ。精霊の眷属を見つけてきた時といい、どうやら牙牙娘は夢見の才があるようじゃのう≫
フィオと私が二人してオタオタしていたら、洞窟の隙間に腰掛けていた熊の縫いぐるみが手をポヨポヨ振りだしたよ。
≪爺様?! なんで動けるの?!≫
≪手足に魔石を仕込んで縫いおったろーが≫
あれは駄目元でやった実験なのに、流石のマッドサイエンティストである。すごいぞ、しがない幽霊魔導士!
≪事前にカチューシャに意識体を移動させる旨を断ってから、術を行ったのであろうな?≫
≪へ? ううん。単に寝落ちしただけだもん≫
というか、これって私の都合の良い夢なのかな。神殿に捕らわれたはずなのに、二人とも剥き出しの荒い岩がゴツゴツした洞窟にいるし。
≪実体のない身で現実世界を動き回るのは危険じゃぞ。万が一の際に備えて、目を覚まさせる見張り役が傍らには必須と、古代精霊学派の四身体魔術書に……≫
あ゛―、話が難解になってきた。真面目にブツブツ呟いている熊爺をストップして、要点だけ教えてもらう。どうやら本当に私、中身だけ王都に転移させちゃったらしい。つまりは幽体離脱か。
≪これが神殿?≫
≪神殿奥に封印された地下牢があるのじゃ。その最奥、つまりは古代の坑道の行き止まりといったとこかのう≫
昔は魔石の鉱山。だからかな、ところどころがピカッと蛍みたいに小さく発光している。湧き水がちょろちょろと流れ落ちている岩肌もあって、フィオの飲み水分は確保できていた。
鎖につながれてもいない。でも身体のあちこちに傷ができて、痛ましかった。
≪フィオ、ごめんね。もう少しだけ我慢して? 絶対に私、肉体ごとちゃんと助けに来るから!≫
フィオと爺様に、土の竜騎士のトップの人に保護されたこと、宮殿の王様にも交渉したことを伝える。体調不良は黙っておいた。
フィオも頑張ってくれていたみたいで、私が森の中を歩きながら提案した作戦を実行してくれていたらしい。名づけて、『脳みそお花咲いててボクよくわかんなぁい、うふふ』ごっこである。
≪念話でね、変な単語ばっかり叫んでみたの! 尻尾もね、芽芽ちゃんの言った通りにカプッとかんで、くるくる回ったり、わざとコケてみたよ! そしたら本当に魔導士が信じちゃったの!≫
ティラノサウルスみたいに両手の指を二本ずつ立てながら報告してくれる。ほんの少しだけど、ピースサインが上達してた。
≪全く近頃の魔導士ときたら、あんな三文芝居に騙されおるとは。何でもかんでも理解不能な竜の収集癖や禁忌の闇契約のせいにしおってからに……≫
爺様はすこぶる不満そうだ。でも『奴隷契約は正気でいられなくなるのが王道』って説明したの自分じゃん。だから人間側にとって、幼児退行したと思えるような典型的な言動をフィオに教えておいたのだ。
実際に竜側からみて、それが正気を失くしたように見えるかは関係ない。あくまで魔導士がそう解釈しそうな言動を、大袈裟にやってみせるのがポイントである。自分のほうが頭が良いって自惚れている手合いは、こういうのに引っかかりやすいんだよね。
≪爺様は最悪、取り上げられて解剖されちゃったかと思ってた≫
最大の懸念事項が現実化していなくて、一安心である。なにせ高価な魔石が四つも埋め込んであるのだ。
≪ワシもそれを覚悟したが……≫
大きな竜がぬいぐるみを人間の母親みたく抱っこして≪ねんねでちゅよ~、ままでちゅよ~≫ってあやして、魔導士が少しでも近づくと≪赤ちゃんは寝てまちゅの! うふふふふふふふ≫って威嚇しながら壁にガンガン打ち付けてたら、触らぬ神に祟りなし的な扱いになったそーな。
念話の細かいニュアンスまで伝わらなくても、確実に『いっちゃってる』雰囲気だったとのこと。幼児退行した狂気のお母さん竜って不気味だわ、そりゃ。
もうフィオの後光にオスカーおじさんが見えてきたよ。
ミーシュカの心臓として埋め込んだガムランボールも功を奏したようだ。この国では、赤ちゃん用のおもちゃは振ると何か音が鳴る仕掛けがかなり前から流行しているらしい。
≪だったら私、音除けの風の魔法なんて無理して掛けなくてもよかったじゃん!≫
≪乳幼児の流行り廃りなぞワシが知ってたまるか!≫
なにが太った変な魔獣の人形だ。ちゃんと赤ちゃん用グッズで通用したのに。って私、赤ちゃんじゃないけど。へむっとアヒル口で偏屈爺をにらんだら、フィオが笑いだした。
≪そいでね、マダララ~ン、タ~マモモ~、エンエンラ~、ケウケ~ゲンって言ってるとね、なんでか魔導士が頭を抱えちゃうの≫
あ、あれかな。お互い共通認識の言葉でないと念話で通らなくて、≪****≫ってなるヤツか。爺様の観察によると、魔導士の脳に負荷がかかりすぎてしまうらしい。容量オーバーとか、脳波の異常とか、そんな感じかな。
……でも私、これまで痛みなんて感じなかったぞ。
≪もともと違法薬物に手を出さんと念話もどきの術も自らに施せん半端者ゆえ、その副作用も相俟って、鈍い頭痛を引き起こすようじゃ。
激しい痛みに転ずれば攻撃してきたであろうが、思考が冴えなくなる程度で留まっておるせいか、人形を大して警戒もせんでな。ほぼほぼ放置されとるわい≫
牢屋に押し込んでから滅多に顔を見せないのは、それどころじゃないからかも。今現在、いろんな捜査網が一気に押し寄せているからね。
竜騎士が黄金倶楽部とかいう魔導士の集まりをあからさまに怪しむようになったし、王都警察も帝国魔導士の不審死体を口実に神殿周りを堂々とうろつきはじめたし。公金横領疑惑で裏帳簿との調整もしなきゃいけない。
≪おまけにね、神殿の裏手から下山して、私たちが最初に行った街があったでしょ? あそこの領主貴族が王様直属の諜報部隊に家宅捜査されたんだって!
夏の連続児童失踪事件がきっかけだけど、帝国のお偉いさんたちの過剰接待とか神殿への賄賂とか、余罪の証拠も出てきたって言ってた≫
≪ふぉっふぉっふぉっ。天敵の竜騎士に、闇夜の烏に、税金監査の鬼か。神殿に多方面から一斉に捜査が入るとは、いい気味じゃい≫
お腹ぶっくりのテディベアが、無間地獄のサンタみたいなサイコな笑いをかましている。
ミジンコも可愛くない。デコピンしようとしたら、片手でブロックしてきた。うぬぬ、やるな熊乗っ取り犯め。
≪それはさておき、柱は上がったのであろうな?≫
≪ちゃんと上げたよ、沢山の人前で、精霊四色ぜんぶ揃えて! そいで新聞取材もしてもらったもん≫
話題を逸らされた気もするが、報告しておく。
≪あとオルラさん、少し前まで神殿のワガママ聖女の侍女だったんだって≫
フィオがびっくりして、顎をきゅきゅっと傾けた。爺様は無反応。やっぱり知ってたな、タヌキ親父め。
≪~~最初に勘づいたのはカチューシャじゃ! ワシはそこまで人の顔の判別はつかん!≫
いやでも、アナタもカチューシャに教えてもらってたんでしょーが。大体、人の見分けがつかないことを威張るな。教育機関のいち指導者がそれでいいのか。
むにににっと熊の頬をつねっておいた。お互い肉体がなくてイマイチ感覚がないけど、気持ちの問題なのだ。
≪オルラさんのお姉さんて、元は偽聖女の護衛隊長だったでしょ。今は私を四六時中守ってくれてるの。引退した竜騎士さんたちも何人も駆けつけてくれたから、こっちの警備は万全だよ≫
努めて笑顔でそう言うと、フィオが見るからに安堵して、大きな一枚岩の上に尻尾とお尻を下ろした。
≪爺様の当初の計画とはちょこーっと違うけど、みんな引き連れて、王都にもうすぐ行くから≫
あ。越後屋ならぬ熊後屋がつぶらな瞳を逸らしたよ。
森でディルムッドが羽振りよく私に渡した『金竜』は、容疑者を追跡するときに使う探知魔法陣入りのコインだった。ちなみに開発者は目の前の挙動不審な某教師。
違法入国した異国の魔導士として王都へ護送させようとしてたのよね、悪巧み二人組ときたら。そいで神殿の中に入ったらカチューシャが私を脱獄させて、例の宝珠とやらを取り出させようと。ホントに人使い荒くて粗い。
しかも竜騎士の不信感を煽るために、一旦は別の街まで私を逃亡させてさ。州都の支部扱いじゃなくて、確実に神殿本部で処理させるためにだよ。
≪一応、新聞では私、爺様の出身国からやってきた親戚になってるから。誰かさんがこの国の大英雄様なおかげで、問答無用の逮捕から連行なんて流れは限りなく低いっぽい≫
自慢げにニヤついたら、熊から悔しそうな雰囲気が溢れてきた。肉眼とは違うからかな、さっきからフィオや爺様の感情が波のように、もわんと伝わってくる。
上京『計画』も『英雄』奇譚もワケわかめなフィオは、ひたすら顎を左右にきゅきゅっと揺らして不思議そう。洞窟で肉体の私を待つ間、爺様と話すネタにでもしておくれ。
他に相談すべきはなんだっけ。神殿の地下堀り賃貸案とか、神殿壁の陽動ミサイル魔法とか、あとはあとは……。
****************
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石灰華段みたいな黒光りする岩の層がいくつも重なる鍾乳洞のような場所。
≪マ、ダラ、ラン……タマ、モモ……エン、エンラ……ケウ、ケ、ゲン……≫
薄暗い洞穴の中で、フィオの声がする。でも元気がない。なんだか泣きそうなのを堪えて、振り絞っているような……。
≪ごめんね、魔導士をやっつけてあげられなくて≫
大きい竜を見上げ、そっと手を置く。背を伸ばせば天井まで届きそうだけど、今は首を垂れてうずくまっていた。白い鱗もところどころが剥がれたり、傷がついて、オパールのような美しい輝きはない。
≪芽芽ちゃん!≫
こちらに背中を向けていたフィオが、急に顔を上げた。
≪え、え、え?! なんでなんで?! 捕まっちゃったの?!≫
小さな手をパタパタさせて焦っているのが愛くるしい。そういや……どこだ、ここ?
≪落ちつけ古代竜よ、そりゃ肉体から抜け出た中身じゃ。精霊の眷属を見つけてきた時といい、どうやら牙牙娘は夢見の才があるようじゃのう≫
フィオと私が二人してオタオタしていたら、洞窟の隙間に腰掛けていた熊の縫いぐるみが手をポヨポヨ振りだしたよ。
≪爺様?! なんで動けるの?!≫
≪手足に魔石を仕込んで縫いおったろーが≫
あれは駄目元でやった実験なのに、流石のマッドサイエンティストである。すごいぞ、しがない幽霊魔導士!
≪事前にカチューシャに意識体を移動させる旨を断ってから、術を行ったのであろうな?≫
≪へ? ううん。単に寝落ちしただけだもん≫
というか、これって私の都合の良い夢なのかな。神殿に捕らわれたはずなのに、二人とも剥き出しの荒い岩がゴツゴツした洞窟にいるし。
≪実体のない身で現実世界を動き回るのは危険じゃぞ。万が一の際に備えて、目を覚まさせる見張り役が傍らには必須と、古代精霊学派の四身体魔術書に……≫
あ゛―、話が難解になってきた。真面目にブツブツ呟いている熊爺をストップして、要点だけ教えてもらう。どうやら本当に私、中身だけ王都に転移させちゃったらしい。つまりは幽体離脱か。
≪これが神殿?≫
≪神殿奥に封印された地下牢があるのじゃ。その最奥、つまりは古代の坑道の行き止まりといったとこかのう≫
昔は魔石の鉱山。だからかな、ところどころがピカッと蛍みたいに小さく発光している。湧き水がちょろちょろと流れ落ちている岩肌もあって、フィオの飲み水分は確保できていた。
鎖につながれてもいない。でも身体のあちこちに傷ができて、痛ましかった。
≪フィオ、ごめんね。もう少しだけ我慢して? 絶対に私、肉体ごとちゃんと助けに来るから!≫
フィオと爺様に、土の竜騎士のトップの人に保護されたこと、宮殿の王様にも交渉したことを伝える。体調不良は黙っておいた。
フィオも頑張ってくれていたみたいで、私が森の中を歩きながら提案した作戦を実行してくれていたらしい。名づけて、『脳みそお花咲いててボクよくわかんなぁい、うふふ』ごっこである。
≪念話でね、変な単語ばっかり叫んでみたの! 尻尾もね、芽芽ちゃんの言った通りにカプッとかんで、くるくる回ったり、わざとコケてみたよ! そしたら本当に魔導士が信じちゃったの!≫
ティラノサウルスみたいに両手の指を二本ずつ立てながら報告してくれる。ほんの少しだけど、ピースサインが上達してた。
≪全く近頃の魔導士ときたら、あんな三文芝居に騙されおるとは。何でもかんでも理解不能な竜の収集癖や禁忌の闇契約のせいにしおってからに……≫
爺様はすこぶる不満そうだ。でも『奴隷契約は正気でいられなくなるのが王道』って説明したの自分じゃん。だから人間側にとって、幼児退行したと思えるような典型的な言動をフィオに教えておいたのだ。
実際に竜側からみて、それが正気を失くしたように見えるかは関係ない。あくまで魔導士がそう解釈しそうな言動を、大袈裟にやってみせるのがポイントである。自分のほうが頭が良いって自惚れている手合いは、こういうのに引っかかりやすいんだよね。
≪爺様は最悪、取り上げられて解剖されちゃったかと思ってた≫
最大の懸念事項が現実化していなくて、一安心である。なにせ高価な魔石が四つも埋め込んであるのだ。
≪ワシもそれを覚悟したが……≫
大きな竜がぬいぐるみを人間の母親みたく抱っこして≪ねんねでちゅよ~、ままでちゅよ~≫ってあやして、魔導士が少しでも近づくと≪赤ちゃんは寝てまちゅの! うふふふふふふふ≫って威嚇しながら壁にガンガン打ち付けてたら、触らぬ神に祟りなし的な扱いになったそーな。
念話の細かいニュアンスまで伝わらなくても、確実に『いっちゃってる』雰囲気だったとのこと。幼児退行した狂気のお母さん竜って不気味だわ、そりゃ。
もうフィオの後光にオスカーおじさんが見えてきたよ。
ミーシュカの心臓として埋め込んだガムランボールも功を奏したようだ。この国では、赤ちゃん用のおもちゃは振ると何か音が鳴る仕掛けがかなり前から流行しているらしい。
≪だったら私、音除けの風の魔法なんて無理して掛けなくてもよかったじゃん!≫
≪乳幼児の流行り廃りなぞワシが知ってたまるか!≫
なにが太った変な魔獣の人形だ。ちゃんと赤ちゃん用グッズで通用したのに。って私、赤ちゃんじゃないけど。へむっとアヒル口で偏屈爺をにらんだら、フィオが笑いだした。
≪そいでね、マダララ~ン、タ~マモモ~、エンエンラ~、ケウケ~ゲンって言ってるとね、なんでか魔導士が頭を抱えちゃうの≫
あ、あれかな。お互い共通認識の言葉でないと念話で通らなくて、≪****≫ってなるヤツか。爺様の観察によると、魔導士の脳に負荷がかかりすぎてしまうらしい。容量オーバーとか、脳波の異常とか、そんな感じかな。
……でも私、これまで痛みなんて感じなかったぞ。
≪もともと違法薬物に手を出さんと念話もどきの術も自らに施せん半端者ゆえ、その副作用も相俟って、鈍い頭痛を引き起こすようじゃ。
激しい痛みに転ずれば攻撃してきたであろうが、思考が冴えなくなる程度で留まっておるせいか、人形を大して警戒もせんでな。ほぼほぼ放置されとるわい≫
牢屋に押し込んでから滅多に顔を見せないのは、それどころじゃないからかも。今現在、いろんな捜査網が一気に押し寄せているからね。
竜騎士が黄金倶楽部とかいう魔導士の集まりをあからさまに怪しむようになったし、王都警察も帝国魔導士の不審死体を口実に神殿周りを堂々とうろつきはじめたし。公金横領疑惑で裏帳簿との調整もしなきゃいけない。
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夏の連続児童失踪事件がきっかけだけど、帝国のお偉いさんたちの過剰接待とか神殿への賄賂とか、余罪の証拠も出てきたって言ってた≫
≪ふぉっふぉっふぉっ。天敵の竜騎士に、闇夜の烏に、税金監査の鬼か。神殿に多方面から一斉に捜査が入るとは、いい気味じゃい≫
お腹ぶっくりのテディベアが、無間地獄のサンタみたいなサイコな笑いをかましている。
ミジンコも可愛くない。デコピンしようとしたら、片手でブロックしてきた。うぬぬ、やるな熊乗っ取り犯め。
≪それはさておき、柱は上がったのであろうな?≫
≪ちゃんと上げたよ、沢山の人前で、精霊四色ぜんぶ揃えて! そいで新聞取材もしてもらったもん≫
話題を逸らされた気もするが、報告しておく。
≪あとオルラさん、少し前まで神殿のワガママ聖女の侍女だったんだって≫
フィオがびっくりして、顎をきゅきゅっと傾けた。爺様は無反応。やっぱり知ってたな、タヌキ親父め。
≪~~最初に勘づいたのはカチューシャじゃ! ワシはそこまで人の顔の判別はつかん!≫
いやでも、アナタもカチューシャに教えてもらってたんでしょーが。大体、人の見分けがつかないことを威張るな。教育機関のいち指導者がそれでいいのか。
むにににっと熊の頬をつねっておいた。お互い肉体がなくてイマイチ感覚がないけど、気持ちの問題なのだ。
≪オルラさんのお姉さんて、元は偽聖女の護衛隊長だったでしょ。今は私を四六時中守ってくれてるの。引退した竜騎士さんたちも何人も駆けつけてくれたから、こっちの警備は万全だよ≫
努めて笑顔でそう言うと、フィオが見るからに安堵して、大きな一枚岩の上に尻尾とお尻を下ろした。
≪爺様の当初の計画とはちょこーっと違うけど、みんな引き連れて、王都にもうすぐ行くから≫
あ。越後屋ならぬ熊後屋がつぶらな瞳を逸らしたよ。
森でディルムッドが羽振りよく私に渡した『金竜』は、容疑者を追跡するときに使う探知魔法陣入りのコインだった。ちなみに開発者は目の前の挙動不審な某教師。
違法入国した異国の魔導士として王都へ護送させようとしてたのよね、悪巧み二人組ときたら。そいで神殿の中に入ったらカチューシャが私を脱獄させて、例の宝珠とやらを取り出させようと。ホントに人使い荒くて粗い。
しかも竜騎士の不信感を煽るために、一旦は別の街まで私を逃亡させてさ。州都の支部扱いじゃなくて、確実に神殿本部で処理させるためにだよ。
≪一応、新聞では私、爺様の出身国からやってきた親戚になってるから。誰かさんがこの国の大英雄様なおかげで、問答無用の逮捕から連行なんて流れは限りなく低いっぽい≫
自慢げにニヤついたら、熊から悔しそうな雰囲気が溢れてきた。肉眼とは違うからかな、さっきからフィオや爺様の感情が波のように、もわんと伝わってくる。
上京『計画』も『英雄』奇譚もワケわかめなフィオは、ひたすら顎を左右にきゅきゅっと揺らして不思議そう。洞窟で肉体の私を待つ間、爺様と話すネタにでもしておくれ。
他に相談すべきはなんだっけ。神殿の地下堀り賃貸案とか、神殿壁の陽動ミサイル魔法とか、あとはあとは……。
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