43 / 69
九重の章 京極御堂 7
~御殿山~ 2
しおりを挟む
登任に代わって国府に入った説貞は、桃生柵と此治城に大兵を込め、経清や永衡をはじめ、国府に詰めていた郡司、郷司をそれぞれの領地へ帰還させ、安倍氏への備えをさせた。
説貞は、永承六年の間中、正式な国守が決まり着任するまで、ただひたすら陸奥国を、帝の地を守ることだけに専念した。
鬼切部から敵兵が排され、続いて味方の兵も去ったのち、その地に残った安倍兄弟と照井太郎らは、池月に鎮座する荒雄川神へと詣でた。
頃は黎明、照井太郎が厳かに祝詞をあげる中、東の彼方から日が昇ってきた。
辺りを満たす陽の光は、人馬の屍体で埋め尽くされたこの地を、穢されたその地を、浄めていくようであった。
衣川の安倍館では、七日七晩戦勝の宴が続いた。
八日目の朝、安倍頼良は弟の良照と、四男官照を自分の室に呼んだ。
「良照、すまぬがもう一度、四郎と共に都へ上ってくれるか?」
昨晩までのにこやかな表情とは一変し、真剣な面持ちで頼良は二人を交互に見た。
「表の見栄えばかりがご大層で、裏に廻れば屍体に満ち満ちているあのような所、二度と行きたくはないが、兄者の命とあれば致し方なかろうな。」
良照は、露骨に顔をしかめて答えた。
「わたくしも行ってよろしいのですか?」
官照、またの名を境講師は、目を輝かせている。
「良照、そう言うな。此度のいくさ、あまりにも敵が軟弱で、思わず大勝してしまったが、ある意味これで、都の者たちに目をつけられたとも言えよう。向こうが動く前に、打てる手は打っておく必要がある。そのためには、何をおいても情報が必要だ。この役目、お前をおいて他に頼める者はおらぬのだ。どうかひとつ、頼む。」
そう言って、頼良は頭を下げた。
「まあ、そのような大事、他の若い者に任せる訳にもいかぬしな。・・・だが、あの蒸し暑さはなんとかならんもんかのう。」
そう言って良照は、視線を逸らせたものの、その顔には笑みが乗っていた。
「官照、都にはあまたの寺社仏閣がある。それらを良くその目で見て、自らの糧とするのだ。いずれはこの地で、必ずや必要となるであろう。」
頼良にそう言われた官照は、先程までのやや浮ついた表情から一変して、澄んだ真っ直ぐな瞳で、父の顔を見つめ、頷いた。
この時よりおよそ百年の後、この地には京の都を凌ぐほどの仏教建築が建ち並ぶこととなる。
これから官照らが向かう京の都では、栄華を極める藤原氏によって、様々な建築物が建立されていた。
その中でも、翌々年の天喜元年(一〇五三年)に、あの宇治の平等院鳳凰堂(阿弥陀堂)が関白藤原頼通に よって、建立されることになる。
---そして百年後、衣川の安倍館のそば、平泉の地に奥州藤原氏二代基衡によって、毛越寺が再興され、その隣に宇治の平等院と見紛う、優美な姿の観自在王院が、初代清衡の妻(安倍宗任の娘)によって建立されるのであった。
説貞は、永承六年の間中、正式な国守が決まり着任するまで、ただひたすら陸奥国を、帝の地を守ることだけに専念した。
鬼切部から敵兵が排され、続いて味方の兵も去ったのち、その地に残った安倍兄弟と照井太郎らは、池月に鎮座する荒雄川神へと詣でた。
頃は黎明、照井太郎が厳かに祝詞をあげる中、東の彼方から日が昇ってきた。
辺りを満たす陽の光は、人馬の屍体で埋め尽くされたこの地を、穢されたその地を、浄めていくようであった。
衣川の安倍館では、七日七晩戦勝の宴が続いた。
八日目の朝、安倍頼良は弟の良照と、四男官照を自分の室に呼んだ。
「良照、すまぬがもう一度、四郎と共に都へ上ってくれるか?」
昨晩までのにこやかな表情とは一変し、真剣な面持ちで頼良は二人を交互に見た。
「表の見栄えばかりがご大層で、裏に廻れば屍体に満ち満ちているあのような所、二度と行きたくはないが、兄者の命とあれば致し方なかろうな。」
良照は、露骨に顔をしかめて答えた。
「わたくしも行ってよろしいのですか?」
官照、またの名を境講師は、目を輝かせている。
「良照、そう言うな。此度のいくさ、あまりにも敵が軟弱で、思わず大勝してしまったが、ある意味これで、都の者たちに目をつけられたとも言えよう。向こうが動く前に、打てる手は打っておく必要がある。そのためには、何をおいても情報が必要だ。この役目、お前をおいて他に頼める者はおらぬのだ。どうかひとつ、頼む。」
そう言って、頼良は頭を下げた。
「まあ、そのような大事、他の若い者に任せる訳にもいかぬしな。・・・だが、あの蒸し暑さはなんとかならんもんかのう。」
そう言って良照は、視線を逸らせたものの、その顔には笑みが乗っていた。
「官照、都にはあまたの寺社仏閣がある。それらを良くその目で見て、自らの糧とするのだ。いずれはこの地で、必ずや必要となるであろう。」
頼良にそう言われた官照は、先程までのやや浮ついた表情から一変して、澄んだ真っ直ぐな瞳で、父の顔を見つめ、頷いた。
この時よりおよそ百年の後、この地には京の都を凌ぐほどの仏教建築が建ち並ぶこととなる。
これから官照らが向かう京の都では、栄華を極める藤原氏によって、様々な建築物が建立されていた。
その中でも、翌々年の天喜元年(一〇五三年)に、あの宇治の平等院鳳凰堂(阿弥陀堂)が関白藤原頼通に よって、建立されることになる。
---そして百年後、衣川の安倍館のそば、平泉の地に奥州藤原氏二代基衡によって、毛越寺が再興され、その隣に宇治の平等院と見紛う、優美な姿の観自在王院が、初代清衡の妻(安倍宗任の娘)によって建立されるのであった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
影武者の天下盗り
井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」
百姓の男が“信長”を演じ続けた。
やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。
貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。
戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。
炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。
家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。
偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。
「俺が、信長だ」
虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。
時は戦国。
貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。
そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。
その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。
歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。
(このドラマは史実を基にしたフィクションです)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる