日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

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九重の章 京極御堂 13

~御殿山~ 8

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 話が一段落し、お互いに顔を上げると、頼時は室の外へ声をかけた。
 すると、しばらくして、貞任と宗任が入って来た。
 
「みな揃った所で、これから本当の意味で安倍に連なる者として、知っておかなければならぬことを話す。心して聴くように。」
 頼時が、ゆっくりと四人を見まわして話しだした。
 それに対してみな、一様に頷く。
 経清と永衡は、頼時のあまりの気迫に、頷きながら一緒に唾をごくりと飲み込んだ。
 
 
「それははるかいにしえの、神武帝東征の話から始まる。」
 頼時は、このように話し始めると、次のように述べていった。
 
『その頃、神武帝は日向国ひむかのくに吾田邑あたむらにおわした。ある時、周囲の者に、「この国より遠い地ではいまだおおきみの恵みは及んでいない。
村ごとにおさがいて、互いにさかい争いなどをしている。」と嘆いていた。
すると、鹽土老翁しおつちのおじがやって来て、「ここより東方に、青々とした山に囲まれたうまし地がある。実はそこには、先に天磐船あまのいわふねに乗って飛び降りた者がいるのだ。」と教えた。
それを聞いた帝は、「朕が思うにその土地は、天下を治めるにふさわしく、先に飛び降りた者とはおそらく、饒速日にぎはやひという者だろうが、朕はそこに都を築こうと思う。」と仰言おっしゃった。』
 
 この時すでに、記紀(古事記・日本書紀)の編纂より三百年余を経ており、その場にいる者はたちは皆、よく知っている話であった。
 
『神武帝は、周囲の者の賛同を得ると、長兄の五瀬命いつせのみことを総大将に征東軍を発し、瀬戸の内海を渡り、河内国かわちのくに草香邑くさかむらに至ったという。
征東軍はそこから上陸すると、生駒山いこまやまを越えて畿内に入ろうとした。
ところがその動きは、迎え撃つ饒速日命にぎはやひのみことの軍を率いる、長髄彦ながすねひこに手に取るように察知されていた。
この長髄彦とは、妹の登美夜須毘売とびやひめを饒速日命の妻としていたところから、饒速日命の義理の兄に当たる。』
 
『長髄彦の軍は屈強で、その激しい迎撃を受けた征東軍は、完膚なきまでに叩きのめされてしまった。
この緒戦で負った傷が致命傷となり、総大将の五瀬命はほどなく薨去こうきょされた。
征東軍にとってその痛手は大きく、その惨敗は致命的あった。
傷を負った時五瀬命は、「日の御子みこである我々が日に向かって(東を向いて)敵を討つことは天意に叛く行いである。日を背にして撃てるように一旦退却し、大きく迂回して東側から撃つこととしよう。」仰言った。
その言葉通り、征東軍は和歌浦わがうらへと回り込み、紀ノ川の河口辺りへ至ったが、ここで五瀬命の傷が悪化して崩じられたのである。
その亡骸(なきがら)を、紀の国きのくにの「竈山かまやま」の地に葬むると、征討軍は紀ノ川を遡上していった。』
 
『やがて征東軍は、熊野から吉野、宇陀うだ忍阪おしさかへと切り従えて登美邑とびむらに至った。
そこで遂に長髄彦の本隊と対峙すると、ここでも激しく抵抗する長髄彦の軍に向かって、征東軍は金鵄きんし(金色のトビ)を掲げて進軍した。
それを見た長髄彦は、一族の祖霊たるとびに対して弓矢は引けないと、断腸の思いで帝の軍に降ることとした。
その後、敵将たる饒速日命と対面した神武帝は、互いに天津神あまつかみ御子みことしてのあかしを示し合い、それを見た饒速日命は神武帝に仕えることとなった。』
 
 ここまでは、長い物語ではあったが、細部の多少の違いはあれど、自分たちの記憶とほぼ合致する内容であったので、二人は小さく頷きながら黙って聴いているのであった。
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