53 / 69
九重の章 京極御堂 16
~御殿山~ 11
しおりを挟む
その他にも一つの珍事?があった。
ある時、説貞の娘が、鎮守府へ出立する父の旅の無事を祈願しようとしたところ、国府に仕える在庁官人たちの女の下人に、志波彦神社への参詣を勧められた。
勧めの通り参詣し、社の参道を出た。
そして、国府へと戻る道すがら、遠方の裏街道を駆けていく一騎の騎馬を認めた。
遠目にも、青毛の巨馬に騎乗し、疾走する偉丈夫(実際は熊と見まごう単なる巨漢であるが、彼女にはそう見えた)の姿に、心奪われたのだった。
慌てて止めさせた輿の中から、過ぎ去るうしろ姿をいつまでも見つめていた彼女は、その姿が見えなくなるとひとつため息をついて、ふたたび帰府を命じた。
言うまでもなく、騎乗の偉丈夫は、貞任であった。
頼時の使いで、国府に来ていた貞任は、志波彦神社背後の岡の上にある、鴻の館へと戻る途中であったのであった。
娘が府内の自分の館に戻り、周りの者にあの偉丈夫について尋ねると、どうやら安倍の次男であることが判った。
すると彼女は、俘囚のものたちを見下し、毛嫌いする父兄たちのことを思い、今度は大きなため息をつくのであった。
「俘囚と言っても、われらと何も変わらぬというのに・・・。陸奥国も、物産は豊かで、むしろ都よりもみな人柄もよく、よほど住みやすいくらいじゃというのに・・・。はーーっ。」
小声でつぶやき、またひとつ息を吐いた。
頼時は、一身を国守頼義に委ねるように服従し続けた。
陸奥国と奥六郡は、こうして平穏のうちに過ぎて行った。
---そして、運命の天喜四年(一〇五六年)が明けた。
ある時、説貞の娘が、鎮守府へ出立する父の旅の無事を祈願しようとしたところ、国府に仕える在庁官人たちの女の下人に、志波彦神社への参詣を勧められた。
勧めの通り参詣し、社の参道を出た。
そして、国府へと戻る道すがら、遠方の裏街道を駆けていく一騎の騎馬を認めた。
遠目にも、青毛の巨馬に騎乗し、疾走する偉丈夫(実際は熊と見まごう単なる巨漢であるが、彼女にはそう見えた)の姿に、心奪われたのだった。
慌てて止めさせた輿の中から、過ぎ去るうしろ姿をいつまでも見つめていた彼女は、その姿が見えなくなるとひとつため息をついて、ふたたび帰府を命じた。
言うまでもなく、騎乗の偉丈夫は、貞任であった。
頼時の使いで、国府に来ていた貞任は、志波彦神社背後の岡の上にある、鴻の館へと戻る途中であったのであった。
娘が府内の自分の館に戻り、周りの者にあの偉丈夫について尋ねると、どうやら安倍の次男であることが判った。
すると彼女は、俘囚のものたちを見下し、毛嫌いする父兄たちのことを思い、今度は大きなため息をつくのであった。
「俘囚と言っても、われらと何も変わらぬというのに・・・。陸奥国も、物産は豊かで、むしろ都よりもみな人柄もよく、よほど住みやすいくらいじゃというのに・・・。はーーっ。」
小声でつぶやき、またひとつ息を吐いた。
頼時は、一身を国守頼義に委ねるように服従し続けた。
陸奥国と奥六郡は、こうして平穏のうちに過ぎて行った。
---そして、運命の天喜四年(一〇五六年)が明けた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ
朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】
戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。
永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。
信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。
この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。
*ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。
If太平洋戦争 日本が懸命な判断をしていたら
みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら?
国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。
真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。
破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
対米戦、準備せよ!
湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。
そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。
3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。
小説家になろうで、先行配信中!
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる