日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

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九重の章 京極御堂 16

~御殿山~ 11

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 その他にも一つの珍事?があった。
 
 ある時、説貞の娘が、鎮守府へ出立する父の旅の無事を祈願しようとしたところ、国府に仕える在庁官人たちの女の下人に、志波彦神社への参詣を勧められた。
 
 勧めの通り参詣し、社の参道を出た。
 そして、国府へと戻る道すがら、遠方の裏街道を駆けていく一騎の騎馬を認めた。
 
 遠目にも、青毛の巨馬に騎乗し、疾走する偉丈夫いじょうぶ(実際は熊と見まごう単なる巨漢であるが、彼女にはそう見えた)の姿に、心奪われたのだった。
 
 慌てて止めさせた輿こしの中から、過ぎ去るうしろ姿をいつまでも見つめていた彼女は、その姿が見えなくなるとひとつため息をついて、ふたたび帰府を命じた。
 
 言うまでもなく、騎乗の偉丈夫・・・は、貞任であった。
 
 頼時の使いで、国府に来ていた貞任は、志波彦神社背後の岡の上にある、鴻の館こうのやかたへと戻る途中であったのであった。
 
 娘が府内の自分の館に戻り、周りの者にあの偉丈夫について尋ねると、どうやら安倍の次男であることが判った。
 
 すると彼女は、俘囚のものたちを見下し、毛嫌いする父兄たちのことを思い、今度は大きなため息をつくのであった。
 
「俘囚と言っても、われらと何も変わらぬというのに・・・。陸奥国ここも、物産は豊かで、むしろ都よりもみな人柄もよく、よほど住みやすいくらいじゃというのに・・・。はーーっ。」
 小声でつぶやき、またひとつ息を吐いた。
 
 
 頼時は、一身いっしんを国守頼義に委ねるように服従し続けた。
 
 陸奥国と奥六郡は、こうして平穏のうちに過ぎて行った。
 
 
 
 ---そして、運命の天喜四年(一〇五六年)が明けた。
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