日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

文字の大きさ
52 / 69
九重の章 京極御堂 15

~御殿山~ 10

しおりを挟む
『ところで、大彦命おおひこのみことは知っておるな?
崇神帝すじんていの頃、四道将軍しどうしょうぐん大彦命は、弟の武渟川別命たけぬなかわわけのみことと共に、兄は北陸道を、弟は東海道を北上し、未だ従わぬ民を帰服させるために会津あいづの地まで進軍し合流したという。
会津とは『出会う』ということだ。
その時、命たちに付き従った者たち、帰服した者たちを、「はせつかい」つまり丈部はせつかべとした。
その中には当然、かの御霊を祀る人々も居た。』
 
『大彦命は阿倍氏の祖となる。
征夷大将軍坂上田村麻呂公の征討以来、蝦夷や土蜘蛛、夷狄と呼ばれた人々は、俘囚となりうじを賜ったが、大伴部は大伴氏、吉弥候部きみこべ毛野氏けのうじへと変えた。
そして丈部は、阿倍(安倍、阿部、安部、安陪)氏を名乗ったのだ。』
 
『大彦命の母方の祖は、饒速日命である。同じ血を受け継ぐものとして、阿部(安倍)を名乗り、この地を、御霊を祀っているのだ。』
 
「では、鹽竈神とは長髄彦の祟る御霊そのものであると、心得ればよいのですか?」
 経清が静かに尋ねる。
 
『いや、かの神は。この地の者にとっては、おそれる神であり、うやまう神であるとともに、あがめる神でもある。
また朝廷にとっては、たたる神であり、しずめるべき神であるとともに、むべき神でもある。
であるからこそ、長髄彦の名はかくされ、賽の神さいのかみとも、祓戸神はらえどのかみとも、岐の神くなとのかみとも云われ、そしてその本体を塩土老翁神と云われるのだ。』
 
『このことを知るは、帝とその周りの一部の者、そして我ら御霊を祀る者たちだけじゃ。
この国の最大にして最強、大元たる怨霊、祟る神にも成りうる御霊を鎮め、祀るのが安倍に連なる者たちなのだ。
このこと、しかとその胸に刻みつけて貰いたい。』
 頼時と貞任、宗任の三人が、経清と永衡の目を見つめて、ひとつ頷いた。
 
「「は、しかと承知つかまつりました。」」
 見つめる目を見つめ返し、しばしの沈黙の後、二人が両手をついて一礼した。
 
 


 ところで、こののち鹽竈神の右宮一禰宜新太夫家となる小野氏は、和珥氏わにうじの末である。
 この時より二百年の昔、陸奥守に任ぜられて下向した小野氏に、小野篁おののたかむらがいる。
 篁には、夜ごと六道珍皇寺ろくどうちんのうじの井戸を通って地獄に渡り、閻魔大王のもとで裁判の補佐をしていたという逸話があるが、この六道珍皇寺とともに、陸奥国の竹駒神社たけこまじんじゃを創建したとも伝えられている。
 この竹駒神社は、篁が伏見稲荷ふしみいなり勧請かんじょうしたと伝えられ、日本三大稲荷にも数えられることがある。
 そして、現世においても鹽竈神社に匹敵するほどの参詣者さんけいしゃと、人々の尊崇そんすうを集めている。
 このような話を伝え聞くと、小野氏が新太夫家となった理由が分かるような気がする。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

処理中です...