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白銀の章 阿久利川2
~蛇田山~2
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「おう、権守殿か。こちらへ。」
国府を出立する直前、説貞は国守の頼義に呼ばれた。
「出立前の忙しきところ、呼びだてしてすまぬな。」
頼義の室に入ってきて、目の前に座して一礼した説貞に、頼義は声をかけた。
「いえ、陸奥守様を輔けるのが私の務め。いついかなる時も、お召しとあればまかりこします。」
説貞は、そのあいかわらず犀利そうな目で、目礼しつつ応える。
「うむ。かたじけない。・・・ところで、貴殿の助力もあり、これで無事国守の務めを果たし、帰京できるわけだが、いよいよとなってみると、肩の荷がおりるという気持ちもありながら、何か・・こう、正直、物足りなさもあるような気がするな・・・。」
頼義は、柔らかな表情は変わることはないものの、真っ直ぐに説貞の目を見つめて語った。
無言のままの説貞に、頼義はさらに続ける。
「もとはといえば、帝の御威光を示し、朝廷の政をあまねく行き渡らせるために、陸奥守となり、鎮守府将軍の任を拝命し、この地に下ったわけであるが、・・・なにものにも手をつける前に、畏れ多くも大赦の勅が下されたのだ。」
「・・・ところで権守殿。この地は、平氏に連なる者が多いな。それも傍流ばかり・・・、藤原と言ってもやはり平氏に連なる場合が多いようであるしな。」
頼義は、にわかに話題を変えた。
「た、たしかに多ございますな。曰理権太夫殿の母方も平氏とか・・・。」
言われた意味が解らず、説貞は思わず経清のことを引き合いに出した。
おそらく、自分が赴任する前より当地に居て、大きな顔をしている(と思っている)漢に、少なからずの対抗心を抱いていたことと、俘囚・・こともあろうにあの安倍頼時の娘を妻に迎えたことへの嫌悪感から出た言葉であったのだろう。
「で、あろう。そもそも、この地は武門の棟梁たる源氏が治めるべきところなのだ。往古より、征夷大将軍坂上田村麻呂公が武でもって平らげ、拓き、治めた理を違えては、ならぬのだ。ましてや、あの安倍忠頼の孫ごときに、わがもの顔にさせておいて良いわけがないのだ・・・・。」
説貞の個人的な思いには関心を示すことなく、頼義は目の前の男の向こう側を見つめて言い連ねた。
独り言のような上役の言葉を聞きながら、説貞は必死にその真意を測ろうとしていた。
そして、ようやく思い至ったのか、彼にしては意外に明るい声で言った。
「まだまだ、すべきことが御座いますのであれば、いま一度、国守をおやりになればよろしいではありませんか?」
「だが、後任には良綱殿と決まっておるのだ・・。」
遠くを見ていた目線を戻して、頼義は言った。
「北家の方は武門の家ではございません。万が一のことがあった場合には、荷が重いことかと存じますが・・・。」
説貞は、相変わらず表情は変えずに言った。
「確かにそのようなことが万が一起これば、適任は儂じゃが・・。鎮守府での務めが終わるまで、あってはならないことであるのは存じておろうな?」
その顔を、頼義はじろりと睨んだ。
「もちろん、滞りなく、鎮守府でのお務めは全うされるに違いありません。」
説貞は、その目を見ずに平伏して、室を退出していった。
国府を出立する直前、説貞は国守の頼義に呼ばれた。
「出立前の忙しきところ、呼びだてしてすまぬな。」
頼義の室に入ってきて、目の前に座して一礼した説貞に、頼義は声をかけた。
「いえ、陸奥守様を輔けるのが私の務め。いついかなる時も、お召しとあればまかりこします。」
説貞は、そのあいかわらず犀利そうな目で、目礼しつつ応える。
「うむ。かたじけない。・・・ところで、貴殿の助力もあり、これで無事国守の務めを果たし、帰京できるわけだが、いよいよとなってみると、肩の荷がおりるという気持ちもありながら、何か・・こう、正直、物足りなさもあるような気がするな・・・。」
頼義は、柔らかな表情は変わることはないものの、真っ直ぐに説貞の目を見つめて語った。
無言のままの説貞に、頼義はさらに続ける。
「もとはといえば、帝の御威光を示し、朝廷の政をあまねく行き渡らせるために、陸奥守となり、鎮守府将軍の任を拝命し、この地に下ったわけであるが、・・・なにものにも手をつける前に、畏れ多くも大赦の勅が下されたのだ。」
「・・・ところで権守殿。この地は、平氏に連なる者が多いな。それも傍流ばかり・・・、藤原と言ってもやはり平氏に連なる場合が多いようであるしな。」
頼義は、にわかに話題を変えた。
「た、たしかに多ございますな。曰理権太夫殿の母方も平氏とか・・・。」
言われた意味が解らず、説貞は思わず経清のことを引き合いに出した。
おそらく、自分が赴任する前より当地に居て、大きな顔をしている(と思っている)漢に、少なからずの対抗心を抱いていたことと、俘囚・・こともあろうにあの安倍頼時の娘を妻に迎えたことへの嫌悪感から出た言葉であったのだろう。
「で、あろう。そもそも、この地は武門の棟梁たる源氏が治めるべきところなのだ。往古より、征夷大将軍坂上田村麻呂公が武でもって平らげ、拓き、治めた理を違えては、ならぬのだ。ましてや、あの安倍忠頼の孫ごときに、わがもの顔にさせておいて良いわけがないのだ・・・・。」
説貞の個人的な思いには関心を示すことなく、頼義は目の前の男の向こう側を見つめて言い連ねた。
独り言のような上役の言葉を聞きながら、説貞は必死にその真意を測ろうとしていた。
そして、ようやく思い至ったのか、彼にしては意外に明るい声で言った。
「まだまだ、すべきことが御座いますのであれば、いま一度、国守をおやりになればよろしいではありませんか?」
「だが、後任には良綱殿と決まっておるのだ・・。」
遠くを見ていた目線を戻して、頼義は言った。
「北家の方は武門の家ではございません。万が一のことがあった場合には、荷が重いことかと存じますが・・・。」
説貞は、相変わらず表情は変えずに言った。
「確かにそのようなことが万が一起これば、適任は儂じゃが・・。鎮守府での務めが終わるまで、あってはならないことであるのは存じておろうな?」
その顔を、頼義はじろりと睨んだ。
「もちろん、滞りなく、鎮守府でのお務めは全うされるに違いありません。」
説貞は、その目を見ずに平伏して、室を退出していった。
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