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白銀の章 阿久利川5
~蛇田山~ 5
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鎮守府での最後の務めを果たすため、源頼義ら国守一行が膽澤に到着した。
外郭南門の外まで迎えに出ていた安倍頼時は、普段よりも増して頭を低くした。
それを見た頼義は、満面の笑みを浮かべて政庁へと進んでいった。
頼義が政庁に入り、南面すると、在庁の百官とともに、安倍頼時ら安倍氏一族が北面して平伏した。
これまでの数年間にわたる治世の御礼の言上を、頼時から受けると、頼義は大きく頷いて、慰労の言葉を述べた。
そのあと、まずは歓迎の宴が催され、国守一行は、随従してきた下人に至るまで酒肴が振る舞われて、歓待を受けた。
宴がお開きとなり、各々があてがわれた宿舎へ入ると、そこにはすでに贈物がうず高く積まれていたのだった。
無論、頼義の宿舎には金をはじめ鷹羽、昆布など様々な物産とともに、厩には陸奥産の駿馬が十頭以上も繋がれていたのはいうまでもない。
宴のさなか、いつの間にか現れた、たおやかな物腰の娘が、並んで座している安倍兄弟の方へと近寄ってきた。
娘は、真っ直ぐに貞任のところへ至ると、酒瓶を差し上げて声をかけてきた。
「次郎様、おひとつどうぞ。」
切れ長の目をして、鼻筋が通り、雪よりも皓い肌をした娘である。
「や、これはかたじけない。では、頂くとしよう。」
貞任は、一瞬の動揺を隠し、平静を装って、酒瓶の中の酒を杯に受けた。
娘は、杯に酒を注ぐと一礼する。
「初めてお目にかかると思うが、どちらのご息女か?」
杯の酒を一気に呑み干すと、顔を伏せている娘を見つめて尋ねた。
しかし、大胆にもここまで近寄り至り、声をかけて酌をしたにもかかわらず、娘はうつむいて頬を赤らめて黙ってしまっていた。
すると、近くにいた正任が、横合いから口を出してきた。
「次郎兄者、その娘ごは、権守様のご息女じゃ。兄者も前々より気にしていたではないか。のう、三郎兄者!」
そう言って、話を宗任へ振った。
「お、おう。そ、そうだ。此方は、権守様のご息女で、貞子殿じゃ。」
振られた宗任は、呑みかけた酒を少し吹き出してしまいそうになりながらも、ようやくそう答えた。
「な、なにを言っておるのか、五郎!儂がいつそのようなことを!・・・。」
せっかく平静を装っていた貞任の威厳が崩れてしまう。
そのやり取りを聞いていた貞子は、さらに顔を紅くして小さくなった声で言った。
「は、はい。お初にお目にかかります。陸奥権守藤原説貞が娘、貞子と申します。はしたないこととは存じながら、音に聞きます天下無双の武勇の持ち主たる、厨川次郎様に一度お会いしたく、こうしてまかり越しました。以後お見知りおきくださいますれば、嬉しゅうございます。」
うつむいた顔をさらに下げるものだから、後半は殆ど聞き取れなかった。
そして、そこまで言うと、貞子は一礼し、その場からまたたく間に立ち去ってしまったのであった。
その場に残されたのは、呆然と杯を持ったまま固まる貞任と、引きつった笑いをその顔に張り付かせた宗任、相変わらずにやにやと面白そうに笑っている正任の三人であった。
そして、なぜかその時は、他の兄弟は思い思いに少し離れた場所で酒を飲みながら談笑しており、頼時もまた国守頼義と上座で酒を酌み交わしていたため、このやり取りに気づくものはいなかった。
その一方で説貞ら親子三人は、同じように離れた場所で鎮守府の在庁官人らと上座で酒を酌み交わし、話をしながらも、目線だけはこのやり取りに向けられていたのであった。
そして貞子が立ち去ると、互いにそれとなく視線を交わしして僅かに頷きあったのであった。
外郭南門の外まで迎えに出ていた安倍頼時は、普段よりも増して頭を低くした。
それを見た頼義は、満面の笑みを浮かべて政庁へと進んでいった。
頼義が政庁に入り、南面すると、在庁の百官とともに、安倍頼時ら安倍氏一族が北面して平伏した。
これまでの数年間にわたる治世の御礼の言上を、頼時から受けると、頼義は大きく頷いて、慰労の言葉を述べた。
そのあと、まずは歓迎の宴が催され、国守一行は、随従してきた下人に至るまで酒肴が振る舞われて、歓待を受けた。
宴がお開きとなり、各々があてがわれた宿舎へ入ると、そこにはすでに贈物がうず高く積まれていたのだった。
無論、頼義の宿舎には金をはじめ鷹羽、昆布など様々な物産とともに、厩には陸奥産の駿馬が十頭以上も繋がれていたのはいうまでもない。
宴のさなか、いつの間にか現れた、たおやかな物腰の娘が、並んで座している安倍兄弟の方へと近寄ってきた。
娘は、真っ直ぐに貞任のところへ至ると、酒瓶を差し上げて声をかけてきた。
「次郎様、おひとつどうぞ。」
切れ長の目をして、鼻筋が通り、雪よりも皓い肌をした娘である。
「や、これはかたじけない。では、頂くとしよう。」
貞任は、一瞬の動揺を隠し、平静を装って、酒瓶の中の酒を杯に受けた。
娘は、杯に酒を注ぐと一礼する。
「初めてお目にかかると思うが、どちらのご息女か?」
杯の酒を一気に呑み干すと、顔を伏せている娘を見つめて尋ねた。
しかし、大胆にもここまで近寄り至り、声をかけて酌をしたにもかかわらず、娘はうつむいて頬を赤らめて黙ってしまっていた。
すると、近くにいた正任が、横合いから口を出してきた。
「次郎兄者、その娘ごは、権守様のご息女じゃ。兄者も前々より気にしていたではないか。のう、三郎兄者!」
そう言って、話を宗任へ振った。
「お、おう。そ、そうだ。此方は、権守様のご息女で、貞子殿じゃ。」
振られた宗任は、呑みかけた酒を少し吹き出してしまいそうになりながらも、ようやくそう答えた。
「な、なにを言っておるのか、五郎!儂がいつそのようなことを!・・・。」
せっかく平静を装っていた貞任の威厳が崩れてしまう。
そのやり取りを聞いていた貞子は、さらに顔を紅くして小さくなった声で言った。
「は、はい。お初にお目にかかります。陸奥権守藤原説貞が娘、貞子と申します。はしたないこととは存じながら、音に聞きます天下無双の武勇の持ち主たる、厨川次郎様に一度お会いしたく、こうしてまかり越しました。以後お見知りおきくださいますれば、嬉しゅうございます。」
うつむいた顔をさらに下げるものだから、後半は殆ど聞き取れなかった。
そして、そこまで言うと、貞子は一礼し、その場からまたたく間に立ち去ってしまったのであった。
その場に残されたのは、呆然と杯を持ったまま固まる貞任と、引きつった笑いをその顔に張り付かせた宗任、相変わらずにやにやと面白そうに笑っている正任の三人であった。
そして、なぜかその時は、他の兄弟は思い思いに少し離れた場所で酒を飲みながら談笑しており、頼時もまた国守頼義と上座で酒を酌み交わしていたため、このやり取りに気づくものはいなかった。
その一方で説貞ら親子三人は、同じように離れた場所で鎮守府の在庁官人らと上座で酒を酌み交わし、話をしながらも、目線だけはこのやり取りに向けられていたのであった。
そして貞子が立ち去ると、互いにそれとなく視線を交わしして僅かに頷きあったのであった。
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