日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

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白銀の章 阿久利川6

~蛇田山~ 6

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 鎮守府での政務は、その後数十日間執り行われた。

 その間、北方の俘囚の長である安倍富忠や、隣国出羽の俘囚長清原光頼、武則ら兄弟を筆頭に一族が来たり、別れの名残を惜しみつつ、大量の贈物を献じて行った。



 --また府内では、安倍の次男の姿をみとめては、声をかける娘の姿を度々見たという噂が、いろいろなところから聞こえてくるようになっていた。



 全ての政務が滞りなく完了し、国守たちは国府へ帰還することとなった。

 またしても、出立の前夜には、盛大な見送りの宴が催され、いよいよ南へ向けて一行は騎馬の鼻先を向けたのだった。

 そして衣川の関を出るまでは、頼時も見送りに随行したが、関より南へは貞任にその役目を申し付けたのであった。




 栗原郡に入り此治城を望む頃、辺りに夕闇が迫ってきた。

 頼義ら国守の一族郎党は、その他の女子供とともに城へと入った。

 一方、貞任ら安倍の者たちや随行するものたちは、城には入らずに、阿久利川を渡り終えると説貞が、野営を号令した。

 権守説貞の本営は、此治城と阿久利川の間にある段丘の高まりの上に造られた。
そして、光貞並びに元貞兄弟は阿久利川を渡った対岸に野営を設営する。

 貞任ら安倍の者たちは、それよりやや下流に一里半ほど離れて野営を設営した。

 経清と永衡は、反対にやや上流へやはり一里半ほど離れて野営を設営する。

 お互いの営地は見通せるが、音までは届かない距離である。

 設営が完了し、それぞれの夕餉ゆうげが終わると、明日のために歩哨以外の者たちは、おもいおもいに寝床を定めて、休んでいった。


 ----夜半、辺りは阿久利川のせせらぎの音以外聞こえない、静寂に包まれる。

 阿久利川右岸に点々と並ぶ野営の真ん中、光貞、元貞兄弟の営地の裏手で、一瞬、人影が動いた。

 裏手には、馬が十頭あまりつながれている。
 その馬を守るため、歩哨が一人立っている。

 闇の中で、人影が音もなく歩哨の背後に近づき、ふいに左手でその口を塞ぐと、持っていた刃渡りの短い刀で、一気に首を掻き切った。
 切られた傷口からは、前方へ向かって勢い良く血しぶきが吹き出した。

 同時に、繋がれた馬の方でも、もう一つの人影が動き、一番端の馬の首を、長い刃渡りの刀で両断する。
 斬られた馬はひと鳴きもせずに、どうと倒れ込む。
 斬った男の手に握られているのは、舞草刀であった。

 いきなり隣に繋がれていた馬が、血しぶきをあげて倒れ込んだのに驚いて、他の馬が騒ぎ出す。

 その騒ぎに気づいた周りの者たちが、「曲者くせもの~」と声を上げながら集まってくる。

 凶行におよんだ男たちは、凶器を捨てて北方へ・・・下流方向へと逃げ去っていく。

 一歩遅れて集まってきた権守の郎党は、闇に溶け込もうとしている男たちの後ろ姿と、その場に打ち捨てられている刀を見ただけだった。

「いかがした!?」
 騒ぎの様子を確かめに行っていた郎党に、光貞が問うた。

「馬を見張っていた歩哨一人と、馬一頭が何者かに斬り殺されました。」
 片膝をつき、頭を下げて答える。

「なに!それで、賊はどうした?」
 元貞が、目を怒らせて聞く。

「我らがかけつけた時には、その場を去っておりました。何人かが、川下の方へ消えたと申しております。」
「川下?・・・安倍の営地の方角だな。」

「それは何だ?」
 光貞が、片膝をついた男の目の前に置かれた刀に気づく。

「はっ。賊が捨て置いていった刀にございます。」
 そう言って、両手で捧げ持ち、光貞に向かって差し出した。

 受け取った光貞は、血糊のベッタリと付いた刀を見つめ呟いた。
「舞草刀か・・・・。」

「俘囚共が好んで用いる刀ですな。」
 隣から覗き込んだ元貞が目を細めって言った。

「直ちに防備を固めよ。特に川下側を厚くせよ。俘囚に謀反の疑いあり。」
 光貞が床几から立ち上がり、周りの者に大声で下知をする。

 炬火が次々と灯され、営内は昼間のように明るくなった。

 権守の郎党らは、直ちに甲冑を身に着けて、忙しく動き始めた。
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