日高見の空舞う鷹と天翔る龍 地龍抱鷹編

西八萩 鐸磨

文字の大きさ
65 / 69
白銀の章 阿久利川 12

~蛇田山~ 12

しおりを挟む


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「・・・・従って、権守の兵馬を害することは国守、ひいては朝廷みかどの兵馬を害することと同義である。しかるに、私怨による非行であることを鑑み、安倍貞任ただ一人を引き渡し、正しき誅罰を受けるならば、これまでの献身に免じて安倍安大夫頼時以下を不問とする。」



「・・・言うまでもなく、鎮守府のあるじいまだ将軍たる源朝臣頼義公である。その主が不在であるにもかかわらず、府を占拠し、あまつさえ罪人をかくまうとは、赦されることではない。すみやかに安倍貞任を差し出し、自らの領地にかえるように。」



「・・・今、ただちに罪人を渡さねば、国府の兵のみならず、坂東の者たちも朝廷みかどの兵となって衣川を越えるであろう。」


 国府からの使者は、再三、膽澤へと来て国守の命を伝えたが、頼時は首を縦にすることはなかった。
使者は、そのたびにむなしく帰っていった。




 事ここにいたり、頼義は怒り心頭に達し、最後通牒の使者を送った。


「もはや、将軍は兵馬を整え、出陣の下知をくだすのみである。一刻の猶予もなく、罪人を差し出せ。さもなくば、奥六郡は将軍の兵馬でみつるであろう。」


「にわかにはお答えすることが出来ません。明日までの猶予をいただきたい。」

 使者の言上の様子から、頼義の覚悟を感じ取った頼時は、そう言って使者の前から一旦下がり、別室に一族の者たちを集めた。



 厨川柵にかくれている貞任を除く一同が、目の前に居並ぶのを確認すると、頼時は、おもむろに口を開いた。



「かつて騶国すうのくに孟子輿もうしよは、「五倫ごりん」を説いた。その中で亜聖あせいは、人の世には人倫じんりん(人の道)というものがあり、人は皆、妻や子、親を大切にし「五徳ごとくを守らなければならないと教えている。そうしなければ、人は禽獣きんじゅうに等しい存在になってしまうのだ。」

「我らは俘囚とはいえ、禽獣ではない。仮にわが子次郎が、愚かな者であったとしても、父子の情愛というものがあり、これを見捨てることなどできようか。ましてや愚行など、してもいないことで責められる謂れはない。」

「もしもここで、次郎を渡してしまい、陸奥守の誅罰を受け入れたならば、必ず一生くいを背負って生きていくことになろう。」

「この上は再び使者を虚しく帰し、衣川関を閉ざそうと思う。それでたとえ陸奥守が攻めて来たとしても、いたし方ない。そしてこの為に戦となり、もし仮に我が方に不利な状況となって、儂や一族の命を落とすことになろうとも、それはそれまでのこと。禽獣に落ちるよりははるかに良いではないか、のう、みなのもの。」



 するとその場に集まった者たちはみな、このように応えて言った。 


「安太夫様の仰せの通りでございます。我ら一族が一丸となり、泥土でいどつつみきづき、衣川関を封鎖いたしましょう。さすれば、何人もこの関を打ち破ることなどできないでしょう。」


 こうして奥六郡へと続く道は、衣川関の封鎖と共に断たれてしまった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

甲斐ノ副将、八幡原ニテ散……ラズ

朽縄咲良
歴史・時代
【第8回歴史時代小説大賞奨励賞受賞作品】  戦国の雄武田信玄の次弟にして、“稀代の副将”として、同時代の戦国武将たちはもちろん、後代の歴史家の間でも評価の高い武将、武田典厩信繁。  永禄四年、武田信玄と強敵上杉輝虎とが雌雄を決する“第四次川中島合戦”に於いて討ち死にするはずだった彼は、家臣の必死の奮闘により、その命を拾う。  信繁の生存によって、甲斐武田家と日本が辿るべき歴史の流れは徐々にずれてゆく――。  この作品は、武田信繁というひとりの武将の生存によって、史実とは異なっていく戦国時代を書いた、大河if戦記である。 *ノベルアッププラス・小説家になろうにも、同内容の作品を掲載しております(一部差異あり)。

If太平洋戦争        日本が懸命な判断をしていたら

みにみ
歴史・時代
もし、あの戦争で日本が異なる選択をしていたら? 国力の差を直視し、無謀な拡大を避け、戦略と外交で活路を開く。 真珠湾、ミッドウェー、ガダルカナル…そして終戦工作 分水嶺で下された「if」の決断。 破滅回避し、国家存続をかけたもう一つの終戦を描く架空戦記。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

対米戦、準備せよ!

湖灯
歴史・時代
大本営から特命を受けてサイパン島に視察に訪れた柏原総一郎大尉は、絶体絶命の危機に過去に移動する。 そして21世紀からタイムリーㇷ゚して過去の世界にやって来た、柳生義正と結城薫出会う。 3人は協力して悲惨な負け方をした太平洋戦争に勝つために様々な施策を試みる。 小説家になろうで、先行配信中!

影武者の天下盗り

井上シオ
歴史・時代
「影武者が、本物を超えてしまった——」 百姓の男が“信長”を演じ続けた。 やがて彼は、歴史さえ書き換える“もう一人の信長”になる。 貧しい百姓・十兵衛は、織田信長の影武者として拾われた。 戦場で命を賭け、演じ続けた先に待っていたのは――本能寺の変。 炎の中、信長は死に、十兵衛だけが生き残った。 家臣たちは彼を“信長”と信じ、十兵衛もまた“信長として生きる”ことを選ぶ。 偽物だった男が、やがて本物を凌ぐ采配で天下を動かしていく。 「俺が、信長だ」 虚構と真実が交差するとき、“天下を盗る”のは誰か。 時は戦国。 貧しい百姓の青年・十兵衛は、戦火に焼かれた村で家も家族も失い、彷徨っていた。 そんな彼を拾ったのは、天下人・織田信長の家臣団だった。 その驚くべき理由は——「あまりにも、信長様に似ている」から。 歴史そのものを塗り替える——“影武者が本物を超える”成り上がり戦国譚。 (このドラマは史実を基にしたフィクションです)

処理中です...