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41.イシュタル神
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・・・紅茶の香りがする。
跪き、両手を組んで目を瞑り、祈りを捧げる姿勢をとっていた俺は、薄っすらと目を開けた。
あたりはまばゆい光に満ちた白い空間・・・床も天井も、その境界の見分けの付かない空間。
・・・じゃないな、普通に部屋じゃん!
直線の多いデザインの中に、丸みを帯びた形をしているソファー・・・。
木製のローテーブルの上には、紅茶のセット。
無駄な装飾のない、シンプルで機能的なデザインの家具。
それらの家具は、天然木を使用した温かみのある素材感を重視したもので、棚や白い壁には可愛い雑貨が飾ってある。
ナチュラルな自然色を基調とした中に、カラフルな色使いのものが要所に配置されている。
『ザッツ北欧スタイル』みたいな?
「いらっしゃい。どう、気に入った?」
部屋のインテリアに気を取られていると、始めに目に入ったソファーの方から声がした。
艶やかな黄金色の長い髪にサファイヤの様なブルーアイ、透けるように白い肌の美少女がティーカップを片手に小首をかしげている。
背は低く、プロポーションは・・・まあ普通か・・。
「だから、人のことを勝手に値踏みしないの!」
「なんで貴女がいるんですか?!」
紛れもなく、俺をこの世界に放り込んだ張本人・・・イナンナがそこにいた。
「あのさあ、わたしだけ呼び捨てってひどくない?」
「他人の心を読まないでください!出会ったときから変わってないんだからいいじゃないですか」
「だってさあ、スケベ爺やニンフルサグちゃんには『神さま』付けじゃない」
イナンナがプクぅ~と頬をふくらませる。
「お取り込み中のところ、申し訳ないんだけどさ。どなた?」
ちょんちょんと、俺の右肩を指でつついてスザンヌさんが聞いてきた。
「あー、え~と・・イナンナ神さま。・・・・・・エーーーーー!!!!な、なんでいるんですかあー!?」
「セイヤくん、ほ、ほんとに本物?」(エル)
「ニャハハハ、こんにちわ~!」(コリン)
「はワワワ」(アイリス)
「にゃ~あ。」(ライアン)
なぜか俺の後ろには、全員がいた。(サーシャさまと司祭長さまはいないけど)
そしてエルは無意識の『くん』呼びだ。(なんか嬉しい)
「めんどうだから、まとめて呼んじゃった」
イナンナがぺろっと小さな舌を出す。
なんにも動じてないのが2名と1匹。
動揺しまくりなのが2名。
・・頭痛くなってきた。
「イロイロと言いたいことは山ほどあるんですけど、とりあえず・・なんでいるの?ここってイシュタル神さまの神殿だよね?」
「だって、わたしがイシュタル神だもの」
「はあ?」
◇◇◇◇◇◇
「それで?どうしてイナンナが、イシュタル神殿にいるんですか?」
みんながそれぞれに、ソファーに収まったのを見届けて、俺はイナンナ神さま(これで文句無いだろ?)の向かい側から、改めて問い質した。
「あら~、ライアンちゃん久しぶりね~。元気にしてたあ?」
「ごまかさない!」
「ふぁい」
イナンナ神さまが両手を膝の上において、うつむく。
「で?」
「・・・だからあ、わたしがイシュタル神なの!」
「またまたあ!貴女には、イナンナの町の神殿があるでしょ?」
「あそこは、わたしのじゃないもん!」
「じゃあ、誰のですか?!」
「それは・・・」
右手の人差し指で、自分の腿の上にのの字を書いている。
ハッキリせんなあ。
「とにかく、わたしはイナンナでもあるし、イシュタルでもあるの!愛と美の女神にして、戦と豊穣、王権を司る神イシュタルがわたしなの!」
両手を握りしめて、上目遣いでキッと俺のことを睨んでくる。
なんなんだよ、この必死さは?
「ハイハイ、わかりました。そういうことにしてあげしましょう」
「(なんで上から目線・・・)」
「はあ?」
「いえ・・」
「ゴホン・・・『イナンナ神さま=イシュタル神さま』であるとして、イナンナの町の神殿が貴女のじゃないというのはどういう訳ですか?」
どうも煮え切らない態度のイナンナ神さまに、俺は語気を強めた。
「あそこは元々イナンナの町じゃないというか、なんというか・・そのお・・・」
「ハッキリ喋る!」
「は、はい!」
俺の声に、背筋をピッと伸ばした。
「あの町は元々、姉さんの町なの」
「お姉さん?」
「そう、わたしの実の姉であるエレシュキガルの町よ」
「冥界神エレシュキガル?!」
本物の女神様を目の前にして、固まっていたアイリスが声を上げる。
「『冥界の女王』または、『日没するところの女王』とも呼ばれるあの?」
腕を組んだまま話を聞いていた、スザンヌさんが言った。
「そうよ、死と闇を司る冥界神が姉のエレシュキガル。生と光を司るのがわたしイシュタル。そして、全てをあまねく照らし正義と恵みをもたらすのが兄の太陽神シャマシュよ」
「つまり・・・このハルバト国にはイシュタル神さまとエレシュキガル神さまの神殿があり、エト国にはシャマシュ神さまの神殿がある、ということね」
いつもの冷静さを取り戻した、エルが頷く。
神さま色々出てきて、わけわからんな・・。
「それで、話を戻すけど。なんで本当はエレシュキガルの町なのに、みんなはイナンナの町って言っているわけ?なんか偽らなければならない理由とか・・・あ!なあ、エレシュキガル神さまの管轄ってどこまで?死と闇ってもしかして?」
「そうね、今回のイナンナの町での一件に、関係アリアリでしょうね」
俺の思いつきにスザンヌさんが同意し、一斉にみんながイナンナ神さまの顔を見た。
「さ、さあ・・・どうかしらね?か、関係あるかもしれないわね・・」
思いっきり動揺するイナンナ神さま。
「エレシュキガル神さまは、どういうつもりであんなことを?」
「わ、わたしは知らないわよ!エレ姉さんが勝手にやっていることだもの!」
「「「「「ほぉおーーーーーーーう・・・」」」」」
全員でジト目でみつめる。
「し、知らないって!ほんとになんにも知らないって!!」
明らかにおかしい。
「・・・・・いいでしょう。この件はひとまず置いておいて、俺とコリンの2人以外のみんなを、ここへ召喚だことなんですけど?」
「え?ええ・・」
急に追求の矛先を変えた俺に、イナンナ神さまは、別な意味で戸惑っている。
「理由は?」
「(・・どうだから)」
「声が小さい!」
「めんどうだから?」
両手を胸の前で合わせて、上目遣いでソロ~と俺のことを見上げてくる。
なんで疑問形・・・。
「そういういい加減なところは、貴女らしいっちゃ、あなたらしいですけど・・」
チョイチョイ。
「ん?」
俺はイナンナ神さまを手招きして、顔を寄せてきた彼女の右耳へ、口を手で覆いながら近づけた。
「(エルやアイリスは、他の神さまから神託を頂いているからギリギリ良いとしても、あの人はマズくないですか?)」
小声で喋りながら、相変わらず腕を組んだままのスザンヌさんをチラ見する。
「(だいじょうぶ。色々不安や不満はあるでしょうけど、信用できる子だっていうのは保証するから、これからも一緒にいてあげて?)」
イナンナ神さまは小さな口に手をやって、プッと微笑ったあと、俺と同じ様にチラ見しながら言った。
「ちょっとあんたたち!聞こえてるわよ!!だいたい、わざとらしい仕草するんじゃないわよ!!!」
コソコソしている俺たちに、スザンヌさんが顎を引いて睨めつけながら低い声で言った。
「「へへっ」」
「『へへっ』じゃないわよ!まったく!!」
二人して首をすくめていると、スザンヌさんは呆れ顔で吐き捨てるように言った。
「・・まあそれはともかく、どうやらスザンヌさんが一緒に行動するようになるってことは、他のみんなもそうだけど、はじめっから織り込み済みだったんでしょう?『めんどうくさい』とかなんとか適当にごまかしてるけど」
俺がジト目で見つめると、イナンナ神さまは視線をそらす。
「ライアンちゃ~ん、寝てばっかりね~。おなかすいてな~い?」
「ミャ~あ~ぅ」
「さっきお昼ご飯食べてきたばっかです」
話もそらそうとするのを、バッサリ切り捨てる。
どうもなあ・・神様たちが、ほんとうのこと全て教えてくれているとは思わないけどさ(そもそも俺のことを利用するために召喚だんだし)、でもなんか隠し事が多い気がしてならない。
ニンフルサグ神さまはともかく、イナンナ神さまもエア神さまも、いい加減さ爆発しているしなあ・・ハア。
「聞いても無駄そうなので、とっとと先進みましょう?」
小さくため息をついたあと、俺は紅茶をすすってから言った。
「もう、せっかちネエ」
イナンナ神さまが唇を尖らせる。
「先って?」
エルがティーカップをソーサーに置いて、聞いてきた。
コリン以外の全員が俺のことを見る。
「加護を授けてくれるのさ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おっけ~!みんな目を開けてもいいわよ~」
体の内側から何かを放射して、ほんのりと暖かい感覚。
久しぶりの感覚だ。
目を開けると、全身を包む光は消えている。
『にヘラ~』と笑っているコリン以外が自分の身体をキョロキョロ見ている。
「ステータスは、地上に戻ってから各自で確認してね」
イナンナ神さまがニッコリ微笑んで言った。
「あら、神界で見ちゃいけないの?」
スザンヌさんが当然のように聞いている。
「え?ええ。もうそろそろ戻ってもらわなきゃいけない時間だから・・」
「「「「ほんとにーーー?」」」」
「コリンは帰りたくな~い。だって、ここ居心地いいも~ん!」
約1名を除き、ジト目でイナンナ神さまを見る。
「これ以上余計なことを聞かれるのが、イヤなだけじゃないんですか?」:俺
「イヤっていうよりかは、マズイって感じ?」:スザンヌさん
「マズイというのは、都合が悪いということね」:エル
「都合が悪いのは、後ろめたいのかな・・?」:アイリス
「ニゃハハあ~」:以下略
「そ、そんなことはないわよ。ほんとに時間がないんだから」
「わかりました」
「あ! そ、それからね。エレシュキガルの町には、しばらくはまだ行かないほうが良いと思うわ。できれば、もう少し他の国を見てまわった方が良いと思うの」
狼狽えるイナンナ神さまに諦めて、俺が立ち上がろうとしたところで、今度は遠慮がちに言ってきた。
「それはアレですか?まだまだ俺の実力では、邪神たちには敵わないということですか?それとも、そこに行っちゃうと、都合の悪いこととかがバレちゃうからですか?」
俺は、少し意地の悪い言い方をしてみた。
「も、もちろん、万が一ということがないように、まだまだ力をつけて貰う必要があるからよ。それに、あなたに会いたがっている神々は他にもたくさんいるし」
「ほ~そうですか、ワカリマシタ。そういうことにしときましょう・・・でも、成り行きでどうなるか分かりませんけどね」
イナンナ神さまの顔が、一瞬明るくなってすぐに固まる。
「あ、あの・・」
「さあ~!じゃあ戻してください。みんなもいいよねー?」
「「「「はーい!」」」」
一斉に、イナンナ神さまの顔を見る。
「ハアー・・・。じゃあいきます」
イナンナ神さまが右腕を一振りすると、俺たちは光に包まれた。
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・・・紅茶の香りがする。
跪き、両手を組んで目を瞑り、祈りを捧げる姿勢をとっていた俺は、薄っすらと目を開けた。
あたりはまばゆい光に満ちた白い空間・・・床も天井も、その境界の見分けの付かない空間。
・・・じゃないな、普通に部屋じゃん!
直線の多いデザインの中に、丸みを帯びた形をしているソファー・・・。
木製のローテーブルの上には、紅茶のセット。
無駄な装飾のない、シンプルで機能的なデザインの家具。
それらの家具は、天然木を使用した温かみのある素材感を重視したもので、棚や白い壁には可愛い雑貨が飾ってある。
ナチュラルな自然色を基調とした中に、カラフルな色使いのものが要所に配置されている。
『ザッツ北欧スタイル』みたいな?
「いらっしゃい。どう、気に入った?」
部屋のインテリアに気を取られていると、始めに目に入ったソファーの方から声がした。
艶やかな黄金色の長い髪にサファイヤの様なブルーアイ、透けるように白い肌の美少女がティーカップを片手に小首をかしげている。
背は低く、プロポーションは・・・まあ普通か・・。
「だから、人のことを勝手に値踏みしないの!」
「なんで貴女がいるんですか?!」
紛れもなく、俺をこの世界に放り込んだ張本人・・・イナンナがそこにいた。
「あのさあ、わたしだけ呼び捨てってひどくない?」
「他人の心を読まないでください!出会ったときから変わってないんだからいいじゃないですか」
「だってさあ、スケベ爺やニンフルサグちゃんには『神さま』付けじゃない」
イナンナがプクぅ~と頬をふくらませる。
「お取り込み中のところ、申し訳ないんだけどさ。どなた?」
ちょんちょんと、俺の右肩を指でつついてスザンヌさんが聞いてきた。
「あー、え~と・・イナンナ神さま。・・・・・・エーーーーー!!!!な、なんでいるんですかあー!?」
「セイヤくん、ほ、ほんとに本物?」(エル)
「ニャハハハ、こんにちわ~!」(コリン)
「はワワワ」(アイリス)
「にゃ~あ。」(ライアン)
なぜか俺の後ろには、全員がいた。(サーシャさまと司祭長さまはいないけど)
そしてエルは無意識の『くん』呼びだ。(なんか嬉しい)
「めんどうだから、まとめて呼んじゃった」
イナンナがぺろっと小さな舌を出す。
なんにも動じてないのが2名と1匹。
動揺しまくりなのが2名。
・・頭痛くなってきた。
「イロイロと言いたいことは山ほどあるんですけど、とりあえず・・なんでいるの?ここってイシュタル神さまの神殿だよね?」
「だって、わたしがイシュタル神だもの」
「はあ?」
◇◇◇◇◇◇
「それで?どうしてイナンナが、イシュタル神殿にいるんですか?」
みんながそれぞれに、ソファーに収まったのを見届けて、俺はイナンナ神さま(これで文句無いだろ?)の向かい側から、改めて問い質した。
「あら~、ライアンちゃん久しぶりね~。元気にしてたあ?」
「ごまかさない!」
「ふぁい」
イナンナ神さまが両手を膝の上において、うつむく。
「で?」
「・・・だからあ、わたしがイシュタル神なの!」
「またまたあ!貴女には、イナンナの町の神殿があるでしょ?」
「あそこは、わたしのじゃないもん!」
「じゃあ、誰のですか?!」
「それは・・・」
右手の人差し指で、自分の腿の上にのの字を書いている。
ハッキリせんなあ。
「とにかく、わたしはイナンナでもあるし、イシュタルでもあるの!愛と美の女神にして、戦と豊穣、王権を司る神イシュタルがわたしなの!」
両手を握りしめて、上目遣いでキッと俺のことを睨んでくる。
なんなんだよ、この必死さは?
「ハイハイ、わかりました。そういうことにしてあげしましょう」
「(なんで上から目線・・・)」
「はあ?」
「いえ・・」
「ゴホン・・・『イナンナ神さま=イシュタル神さま』であるとして、イナンナの町の神殿が貴女のじゃないというのはどういう訳ですか?」
どうも煮え切らない態度のイナンナ神さまに、俺は語気を強めた。
「あそこは元々イナンナの町じゃないというか、なんというか・・そのお・・・」
「ハッキリ喋る!」
「は、はい!」
俺の声に、背筋をピッと伸ばした。
「あの町は元々、姉さんの町なの」
「お姉さん?」
「そう、わたしの実の姉であるエレシュキガルの町よ」
「冥界神エレシュキガル?!」
本物の女神様を目の前にして、固まっていたアイリスが声を上げる。
「『冥界の女王』または、『日没するところの女王』とも呼ばれるあの?」
腕を組んだまま話を聞いていた、スザンヌさんが言った。
「そうよ、死と闇を司る冥界神が姉のエレシュキガル。生と光を司るのがわたしイシュタル。そして、全てをあまねく照らし正義と恵みをもたらすのが兄の太陽神シャマシュよ」
「つまり・・・このハルバト国にはイシュタル神さまとエレシュキガル神さまの神殿があり、エト国にはシャマシュ神さまの神殿がある、ということね」
いつもの冷静さを取り戻した、エルが頷く。
神さま色々出てきて、わけわからんな・・。
「それで、話を戻すけど。なんで本当はエレシュキガルの町なのに、みんなはイナンナの町って言っているわけ?なんか偽らなければならない理由とか・・・あ!なあ、エレシュキガル神さまの管轄ってどこまで?死と闇ってもしかして?」
「そうね、今回のイナンナの町での一件に、関係アリアリでしょうね」
俺の思いつきにスザンヌさんが同意し、一斉にみんながイナンナ神さまの顔を見た。
「さ、さあ・・・どうかしらね?か、関係あるかもしれないわね・・」
思いっきり動揺するイナンナ神さま。
「エレシュキガル神さまは、どういうつもりであんなことを?」
「わ、わたしは知らないわよ!エレ姉さんが勝手にやっていることだもの!」
「「「「「ほぉおーーーーーーーう・・・」」」」」
全員でジト目でみつめる。
「し、知らないって!ほんとになんにも知らないって!!」
明らかにおかしい。
「・・・・・いいでしょう。この件はひとまず置いておいて、俺とコリンの2人以外のみんなを、ここへ召喚だことなんですけど?」
「え?ええ・・」
急に追求の矛先を変えた俺に、イナンナ神さまは、別な意味で戸惑っている。
「理由は?」
「(・・どうだから)」
「声が小さい!」
「めんどうだから?」
両手を胸の前で合わせて、上目遣いでソロ~と俺のことを見上げてくる。
なんで疑問形・・・。
「そういういい加減なところは、貴女らしいっちゃ、あなたらしいですけど・・」
チョイチョイ。
「ん?」
俺はイナンナ神さまを手招きして、顔を寄せてきた彼女の右耳へ、口を手で覆いながら近づけた。
「(エルやアイリスは、他の神さまから神託を頂いているからギリギリ良いとしても、あの人はマズくないですか?)」
小声で喋りながら、相変わらず腕を組んだままのスザンヌさんをチラ見する。
「(だいじょうぶ。色々不安や不満はあるでしょうけど、信用できる子だっていうのは保証するから、これからも一緒にいてあげて?)」
イナンナ神さまは小さな口に手をやって、プッと微笑ったあと、俺と同じ様にチラ見しながら言った。
「ちょっとあんたたち!聞こえてるわよ!!だいたい、わざとらしい仕草するんじゃないわよ!!!」
コソコソしている俺たちに、スザンヌさんが顎を引いて睨めつけながら低い声で言った。
「「へへっ」」
「『へへっ』じゃないわよ!まったく!!」
二人して首をすくめていると、スザンヌさんは呆れ顔で吐き捨てるように言った。
「・・まあそれはともかく、どうやらスザンヌさんが一緒に行動するようになるってことは、他のみんなもそうだけど、はじめっから織り込み済みだったんでしょう?『めんどうくさい』とかなんとか適当にごまかしてるけど」
俺がジト目で見つめると、イナンナ神さまは視線をそらす。
「ライアンちゃ~ん、寝てばっかりね~。おなかすいてな~い?」
「ミャ~あ~ぅ」
「さっきお昼ご飯食べてきたばっかです」
話もそらそうとするのを、バッサリ切り捨てる。
どうもなあ・・神様たちが、ほんとうのこと全て教えてくれているとは思わないけどさ(そもそも俺のことを利用するために召喚だんだし)、でもなんか隠し事が多い気がしてならない。
ニンフルサグ神さまはともかく、イナンナ神さまもエア神さまも、いい加減さ爆発しているしなあ・・ハア。
「聞いても無駄そうなので、とっとと先進みましょう?」
小さくため息をついたあと、俺は紅茶をすすってから言った。
「もう、せっかちネエ」
イナンナ神さまが唇を尖らせる。
「先って?」
エルがティーカップをソーサーに置いて、聞いてきた。
コリン以外の全員が俺のことを見る。
「加護を授けてくれるのさ」
◇◇◇◇◇◇◇◇
「おっけ~!みんな目を開けてもいいわよ~」
体の内側から何かを放射して、ほんのりと暖かい感覚。
久しぶりの感覚だ。
目を開けると、全身を包む光は消えている。
『にヘラ~』と笑っているコリン以外が自分の身体をキョロキョロ見ている。
「ステータスは、地上に戻ってから各自で確認してね」
イナンナ神さまがニッコリ微笑んで言った。
「あら、神界で見ちゃいけないの?」
スザンヌさんが当然のように聞いている。
「え?ええ。もうそろそろ戻ってもらわなきゃいけない時間だから・・」
「「「「ほんとにーーー?」」」」
「コリンは帰りたくな~い。だって、ここ居心地いいも~ん!」
約1名を除き、ジト目でイナンナ神さまを見る。
「これ以上余計なことを聞かれるのが、イヤなだけじゃないんですか?」:俺
「イヤっていうよりかは、マズイって感じ?」:スザンヌさん
「マズイというのは、都合が悪いということね」:エル
「都合が悪いのは、後ろめたいのかな・・?」:アイリス
「ニゃハハあ~」:以下略
「そ、そんなことはないわよ。ほんとに時間がないんだから」
「わかりました」
「あ! そ、それからね。エレシュキガルの町には、しばらくはまだ行かないほうが良いと思うわ。できれば、もう少し他の国を見てまわった方が良いと思うの」
狼狽えるイナンナ神さまに諦めて、俺が立ち上がろうとしたところで、今度は遠慮がちに言ってきた。
「それはアレですか?まだまだ俺の実力では、邪神たちには敵わないということですか?それとも、そこに行っちゃうと、都合の悪いこととかがバレちゃうからですか?」
俺は、少し意地の悪い言い方をしてみた。
「も、もちろん、万が一ということがないように、まだまだ力をつけて貰う必要があるからよ。それに、あなたに会いたがっている神々は他にもたくさんいるし」
「ほ~そうですか、ワカリマシタ。そういうことにしときましょう・・・でも、成り行きでどうなるか分かりませんけどね」
イナンナ神さまの顔が、一瞬明るくなってすぐに固まる。
「あ、あの・・」
「さあ~!じゃあ戻してください。みんなもいいよねー?」
「「「「はーい!」」」」
一斉に、イナンナ神さまの顔を見る。
「ハアー・・・。じゃあいきます」
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