弟子に負けた元師匠は最強へと至らん

Lizard

文字の大きさ
26 / 38
第四章 国難

その二十六 忍び寄る悪意

しおりを挟む
 ララティアがゆっくりと瞼を持ち上げる様子を見て、テイルは息を吐き胸を撫で下ろした。
 他人に対して英霊の島で獲得した『能力』を行使するのはこれが初の事。
 深い安堵を感じたのもある種当たり前のことだっただろう。
 テイル自身、『能力』を信頼してはいる。
 だが、あまりにも『経験』と『実績』が足りない。
 『能力』は戦闘以外に有用なものも少なくない。
 これからはもっと実践する必要がある――と考えたところで。
 アガラ―トが涙を浮かべる様を見て、ようやく頬を緩めた。


「おお……ララッ!ララ!!」
「ん…う……お、お父様……?」
「あぁ……!!良かった!良かった!!」


 アガラ―トの呼びかけに対し、ララティアは目を見開いて戸惑うような声を出した。
 この場でララティアの覚醒を最も喜んだのは間違いなくアガラ―トであった。
 威厳を纏った『王』の姿は既になく、整った相貌を崩して歓喜する様は、間違いなく『父』としての姿であった。
 元弟子がイジメた過去があったといえど、その様子にはテイルも思わず笑みを浮かべた。
 アガラ―トの傍らに控えていたレインもまた、目尻を潤ませて微笑んでいた。


「……複雑な感じか?」
「……うん」


 喜んでいいのか怒ればいいのか分からない、という様子のルンに対して、テイルは苦笑した。
 やはり幼い頃の悪印象はそう簡単には拭えないだろう。
 ただ……ただ、目の前の父親に抱き着かれている女性の姿を見て、テイルには『悪人』という印象は抱けなかった。
 少なくとも、話を聞いて勝手に想像していた『性格の悪いお嬢様』という姿には重ならない。


「まぁ……まずはゆっくり話すべきだと思うぞ」
「うん……でも、テイルもちゃんと話してよ?」
「……むぅ」


 そうだった、と思わず嘆息した。
 自身も未だ三年の間に起こったこと、成したことを話していなかった。
 どう話せばいいのか、ルンにも謝らなければ……しかしそんなことを考えつつも、目の前の光景を見ると――


(英霊の島に行ったのも……悪いことじゃ、無かったよな)


 そう思えた。
 少なくともあのまま王女が死んでしまうよりは。
 自分の『能力』も役に立ったのだな、と。
 魔獣が跋扈するあの島に行ったことに。
 『力を得た』。それ以外の意味があった――そう思えた。


 ◇◇◇


 欠けた月が冷たい光を落とす夜。
 とある館の豪奢な部屋の中。
 贅を尽くした長椅子ソファーに、貴族然とした服を纏う禿げ頭の太った男が腰掛けていた。
 魔力を消費して光を放つシャンデリアの魔道具の下、男は片手に持つ豪華な意匠のグラスを弄び、紅く煌めく葡萄酒ワインを喉に流した。
 その瞳には自身の明るい未来に対する想いが光を放ち、爛々と輝いていた。
 口元は僅かに歪み、酷薄な笑みをたたえている。

 ――そんな時、何の前兆もなく。
 葡萄酒ワインが跳ねる音だけが微かに漂う部屋に、扉が開け放たられる音が響いた。
 男が突然の出来事にビクリと肩を震わせる。
 駆け込んできた黒い影を、男は苛立たし気に睨みつけた。

 
「ガラジーナ様!」
「何だ!!」
「ラナード様から……!『目標に仕掛けた呪いが消えた』と……」
「なにッ!?」


 無駄な装飾を省いた黒い衣装を纏う男がもたらした報告に、太った男――ガラジーナ・グレイシアは、あらんかぎりに目を見開いた。
 やや呆然としながらも、ガラジーナは重々しく口を開いた。


「その呪いとは……『不起の呪いアンチアウェイクカース』のことなのだな?」
「はい……その通りです」
「何故だッ!?何故あの呪いが解ける!?決して解けない呪いではなかったのか!!」


 怒鳴り散らすガラジーナに、黒衣の人物もやや怯えを見せる。
 目の前の太った男――ガラジーナが国王に次ぐ権力者であると理解してのことであった。
 ガラジーナはそんな様子に目もくれず、一人何事かを呟き、慄く様に毛の少ない頭を振る。
 ともすれば滑稽なその様にも、黒衣の人物は戦々恐々として何も言えずにいた。


「このままでは……計画も何も無意味ではないか……!!まずどうやって呪いを……?おいッ!!どうやって、どうやって呪いを解いたのか調べろ!!」
「――!―はっ!」


 黒衣の人物が部屋を去った後も、ガラジーナは苛立たし気に――見ようによっては恐れる様に――顔を顰めていた。
 平民の数日分の給与にも匹敵する葡萄酒ワインあおり、不味いものを飲んだかのような顔で声を震わせる。


「このままでは……このままでは終わらせんぞッ!!」


 その言葉は、そびえる館の一室に重く響いた。
しおりを挟む
感想 90

あなたにおすすめの小説

英雄一家は国を去る【一話完結】

青緑 ネトロア
ファンタジー
婚約者との舞踏会中、火急の知らせにより領地へ帰り、3年かけて魔物大発生を収めたテレジア。3年振りに王都へ戻ったが、国の一大事から護った一家へ言い渡されたのは、テレジアの婚約破棄だった。 - - - - - - - - - - - - - ただいま後日談の加筆を計画中です。 2025/06/22

主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します

白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。 あなたは【真実の愛】を信じますか? そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。 だって・・・そうでしょ? ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!? それだけではない。 何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!! 私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。 それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。 しかも! ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!! マジかーーーっ!!! 前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!! 思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。 世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。

完結 そんなにその方が大切ならば身を引きます、さようなら。

音爽(ネソウ)
恋愛
相思相愛で結ばれたクリステルとジョルジュ。 だが、新婚初夜は泥酔してお預けに、その後も余所余所しい態度で一向に寝室に現れない。不審に思った彼女は眠れない日々を送る。 そして、ある晩に玄関ドアが開く音に気が付いた。使われていない離れに彼は通っていたのだ。 そこには匿われていた美少年が棲んでいて……

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

記憶を失くして転生しました…転生先は悪役令嬢?

ねこママ
恋愛
「いいかげんにしないかっ!」 バシッ!! わたくしは咄嗟に、フリード様の腕に抱き付くメリンダ様を引き離さなければと手を伸ばしてしまい…頬を叩かれてバランスを崩し倒れこみ、壁に頭を強く打ち付け意識を失いました。 目が覚めると知らない部屋、豪華な寝台に…近付いてくるのはメイド? 何故髪が緑なの? 最後の記憶は私に向かって来る車のライト…交通事故? ここは何処? 家族? 友人? 誰も思い出せない…… 前世を思い出したセレンディアだが、事故の衝撃で記憶を失くしていた…… 前世の自分を含む人物の記憶だけが消えているようです。 転生した先の記憶すら全く無く、頭に浮かぶものと違い過ぎる世界観に戸惑っていると……?

よかった、わたくしは貴女みたいに美人じゃなくて

碧井 汐桜香
ファンタジー
美しくないが優秀な第一王子妃に嫌味ばかり言う国王。 美しい王妃と王子たちが守るものの、国の最高権力者だから咎めることはできない。 第二王子が美しい妃を嫁に迎えると、国王は第二王子妃を娘のように甘やかし、第二王子妃は第一王子妃を蔑むのだった。

処理中です...