前代未聞の異能力者-自ら望んだ女体化だけど、もう無理!-

砂風

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第四章/杉井豊花(破)

Episode079╱日常?②

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(113.)
 普段どおりの朝が来た。
 澄に関しては引っ掛かりを覚えたままだが、だからといって私にできることはなにもない。
 いつもどおり朝食を摂り、昨日とは違いやや遅めに登校した。
 まだ母親は愚痴愚痴言っていたが、こればかりは仕方ない。家族が危ない人間とつるんでいるなんて知ったら、どこの親だってそう窘めるだろう。

 何気ない日常。とても裏社会に自分が関わっているなんて実感が持てない。いつもどおりの通学路を歩いていると、肩を叩かれた。
 一瞬瑠璃かと思ったが、そこにいたのは柊だった。

「お、おはよう柊」
「おはよ。てかあんたどんだけ強いのよ? 狂ってもいたしさぁ、いったいなんなの!?」

 柊に突っ込みを入れられる。
 そう言われても、狂ったのは自分の意志ではないのだからなんとも言い返せない。

「さすがに昨日はおかしかったよ……普段の自分はああじゃない」

 あんなヤンキー大勢を相手にひとりで無双したなんて、知らないひとが訊いたら単なる夢想だと思われてしまうだろう。
 学校に入り教室に入った。そこには宮下が手招きしていた。
 暗にこっちに来いと言いたいのだろう。
 宮下の前の椅子に座り会話を待つ。

「昨日のおまえどうにかしてたぜ? あんなにたくさんの不良相手をひとりでぼこぼこにしちゃってよ。かと思いきや、いきなり発狂してぶっ倒れるんだぜ? 空先輩と二人で豊花ちゃん家に運んだんだから感謝くらいしてくれよな、まったく」まあ、と宮下はつづける。「豊花ちゃんがいたから勝てた喧嘩だったし、そこには礼を言っとくよ」と言われお礼を述べられる。
「こっちこそごめん……昨日は自分でもわけがわからなかったんだ」
「もうこりごりだぜ? せっかくの美少女が台無しになっちまう」

 美少女……か。もう次第に言われても何とも思わなくなってきたな。

「第一、宮下こそどうして喧嘩に参加してたの?」

 そこが一番気になっていた。

「ん、ああ……まあ、な? 昔っから争い事が大好きでさ。よく喧嘩に顔突っ込んでたら、あいつらの仲間に入れられてたってわけ」

 たしかに以前ゲーセンで絡まれたときも、やたらと喧嘩っぱやかった気がする。
 そのまま他愛のない雑談をしたまま、授業のチャイムが鳴るのであった。



 普段どおりの授業が終わり、今回は瑠衣と瑠璃と一緒に帰ることになった。
 他愛のない雑談をするだけで、なんだか幸せなな気分に浸ってしまう。やっぱり、まだ私は瑠璃のことが好きらしい。

「ごめん、きょうも……っていうかこれから毎日なんだけど、寄るところがあるから一緒に帰れるのはここまでになっちゃう」

 寄るとこあるからと別れを告げる。

「それって、もしかして愛のある我が家?」

 と、瑠璃に厳しい瞳を向けられる。
 隠し通すわけにもいかないか。というか、以前に正直に答えただろうに。未だに信じられないといった様子だ。

「まえに言ったとおり、私はもう異能力者保護団体を抜けて愛のある我が家に入団したんだよ」

 そうハッキリ答えると、瑠璃は悔しそうな表情を浮かべる。

「……どうして悪の組織に属するわけ? 犯罪者集団の仲間になるわけ? まさか裕璃のためだって言いたいの? だったら!?」

 と言われ瑠璃は激昂する。

「……たしかにそれもある」
「なら!」
「だけど、今の異能力者保護団体にも違和感を覚えてるんだ。どちらが悪だとか善だとかは言えないけど、しばらくは愛のある我が家に所属することに決めたんだ」
「法律が間違ってるって言いたいの!?」
「法律がすべてじゃない。これでもいろいろ考えて決めた結果なんだ」

 裕璃だけじゃないとは言ったものの、もしも私が愛のある我が家を抜けたら裕璃には一生会えなくなる。親友と会えなくなるのは嫌だというのも、それに含まれている。

「ねえ」瑠衣が私の袖を掴み軽く引く。「愛のある我が家に、入っても、豊花は友達?」
「それは当たり前だよ」

 そう、当たり前だ。私がどこに所属していようと、友達は友達だ。それに代わりはない。

「私がどこに属していても、瑠衣や瑠璃を始め、宮下や裕璃は永遠に友達だ。だからこれからもよろしくおねがい」

 と、私は頭を下げる。

「ん!」
「……わかったわよ」

 二人の返事に満足した私は、愛のある我が家に向かうためにその場を立ち去る。
 瑠璃は一瞬引き留めようとするが、それを諦め私を見送ったのであった。






(114.)
 愛のある我が家に到着すると、室内には既に朱音と沙鳥がいた。

「ようやく来ましたね。では、まず初めの仕事として、裕璃さんから覚醒剤を受けとる任務をしてきてください」

 沙鳥が言うには、これは本来朱音だけでもできる仕事らしい。
 しかし、裕璃の精神状態が安定しなく仕事にならないため、仕方なく受け取る際、豊花との交流も含めるのだという。
 裕璃……やっぱりなれない異世界生活は苦しいのだろうか? 
 って、そういえば……。   

「あの、澄については……どうなったんでしょうか?」
「それに関してはしばらくは大丈夫です。あの方は未だに迷っている。善悪の中間を探したり、自身のような化け物が人間として生活していいのか、本来の使命を果たさなくていいのだろうか、と。悩みに悩んでいる最中です。どちらにせよ、私たちにできることはかぎられていますから」

 どうやら澄が裏切るかどうかは後回しにするようだ。
 たしかに、澄が本気を出せばここにいるメンバー皆が一瞬で粉々になるだろうけど。だからかはわからないが、澄に対して必要以上に干渉しないようにしているみたいに思える。

 まあ、未だにゆきは澄になついているらしく、だからこそ澄は人間として生きていいのか迷っているともいえるらしい。

「さて、それでは朱音さんと豊花さんは異世界転移をして、ネタを運んできてください」



 以前も訪れたボロアパートに、朱音と共にたたずんでいた。
 玄関と玄関の中間に位置する壁に向かって、朱音がやや強めにノックする。
 次第に見慣れてきた壁とはいえ、やはりこの光景には違和感を覚えてしまう。
 ノックをするとーー今回は起きていたのか、はたまた目が覚めたばかりなのかーー玄関が現れ中から眠気眼な状態のアリーシャが姿を見せた。

「おはようございますです~」
「おはようじゃないよ、もうこんにちはの時間帯だ。第一、またゴミ屋敷と化しているじゃないか」

 朱音と共に異世界転移の部屋に入る。すると、背後にあった玄関は姿を消した。
 相も変わらず ゴミが散乱している。生ゴミが少ないのが幸いだ。
 まえに見たときとなにも変わらない部屋がそこにはあった。
 アリーシャは相変わらず眠いのか、うとうとしながら朱音と共に部屋を掃除する。

「これって魔法円の中にゴミが入っていたらダメなんですか?」

 朱音に疑問をぶつけた。べつに散らかっていてもいいような気がするんだけど。

「ダメに決まっているだろう。ゴミが散らかってるとゴミまで向こうに転移してしまう。向こうの邪魔になってしまうじゃないか」

 そして、軽く掃除を済ませると、ようやく魔法円が現れた。
 朱音と共に転移する魔法円に入った。アリーシャは眠たいのか、興味無さげに布団にくるまっている。

「行くよ?」

 朱音がそう唱えた瞬間、まえにも経験したような奇妙な感覚が体を包み込む。まるで熱と冷水を混ぜ合わせたかのような不可思議な感覚。

 やがて、暗くなっていた視界が開け、白い壁が視界に映った。

 背後に振り返る。そこには、ちょうど布団で寝ている裕璃がいた。起こしたらまずいかなと思ったが、ちょうど目が覚めたらしく、視線が交わる。

「ゆ、裕璃、久しぶ「豊花!」」

 裕璃は私を見るなり、寝起きのはずが抱きついてきた。

「ど、どうしたのさ……」
「こっちでの暮らし、耐えられないよ。毎日がつらい。知らない人しかいないから友達もできないし、なにより豊花やお父さんがいない生活は慣れない。嫌だよ……」

 と弱音を吐き苦しみを吐露する裕璃の瞳は、涙で少し潤んでいた。

「まったく、昨日の予定だっていうから裕璃にも伝えたのに来なかったから、裕璃の気分も落ち込んじゃったじゃん。はい、強壮剤」

 ルーナエアウラが部屋に入ってくるなり、昨日来る予定をきょうに変えたから裕璃が拗ねちゃったのだと口にする。

「豊花が受け取ってくれ」
「あ、はい」

 朱音に言われ、私は強壮剤ーー覚醒剤を1kgくらいありそうな重さの黒いビニール袋を渡された。

「これって量は?」
「今回は1000gちょっとだね」

 やはり軽く1kgはあるらしい。

「しばらく裕璃が落ち着くまで会話をしてあげてくれないかな? 豊花豊花、お父さんお父さん、って毎晩魘されてるんだよ」

 ルーナエアウラはうんざりした様子で口にする。どうやら同じ部屋で寝ているらしい。そりゃそうか、こんな広いベッド、三人でも入れそうだ。
 ルーナエアウラの提案で、僕も久しぶりに会話をしたかったため何気ない昔話をすることにした。

 しばらく談話したのち、裕璃は「どうしてこんなことになっちゃったんだろう?」と涙眼で問うてきた。裕璃は後悔の念でいっぱいらしい。

「……私が無視したのが悪かっ」と言いかけたのを、裕璃は人差し指を私の口許に当てて止める。
「元々豊花が好きだった人がいるとする。無意識の好意だけどね?」

 と裕璃はつづけた。

「もしまったく別の人間と、豊花が好きなのにそれを自覚しないで付き合って、金沢の悪い噂も信じないであんなことになった。悪いのは誰かな?」
「それは……」

 脳裏に思考と唱える。

 たしかに人間は複雑な物事に直接遭遇すると、ペニーガム方式に陥りやすい。ペニーを入れる(原因)とガムが出る(結果)。
 なにかひとつの結果には、なにかひとつの原因があると勘違いしやすい方程式だ。だが実際には違う。

 たしかに裕璃が金沢と付き合ったのも理由のひとつかもしれない。でも、だからといって私が無視のような真似をしたのも原因だ。異霊体が近場におり合体事故を起こしたのも、私が好きなのが瑠衣みたいな性格だと勘違いしたのもーー原因を数えだしたらキリがない。
 結果に原因を求めていても切りはないのだ。だから、裕璃ひとりが悪い訳じゃない。

 ひとは複雑な事態に出会うとペニーガム方式に囚われやすいが、現実は違う。さまざまな必然の重なりで結果が現れるだけだ。ある意味、偶然なんてものは存在しないのかもしれない。

「とにかく、裕璃が悪い訳じゃないよ。そう、タイミングが悪かったんだ」

 ……いけないいけない。裕璃を慰めるために会話をしているのに、どうやら勝手に思考が強化されていたようだ。

「とにかく裕璃は悪くないし、お父さんや私だって会いたいときには会えるよ。こちらの生活になれたら、ぜひこっちに皆を呼んでパーティーとかしてみたいな」

 まあ、朱音は許してくれなさそうだけど。
 でも、その言葉を聴いて、裕璃は少し元気を取り戻してくれた。

「さて、そろそろ帰ろう」と朱音に言われ、裕璃に別れを告げる。
「またすぐ、会えるよね?」
「もちろん」

 またすぐ会いに来るから安心して、と裕璃に言い残し、魔法円の中に私と朱音、覚醒剤を手に持ち入れた。
 手元には、ずっしり重さのある覚醒剤の結晶が入った黒い袋がある。
 現実に戻ると、それを鞄に入れて隠しながら持ち帰るらしい。
 ルーナエアウラにも別れを告げると、魔法円に入り異世界から現実へと転移した。


 
 アリーシャの部屋に戻ってきたら、アリーシャは爆睡中だった。

「いつものことだよ。ほら、アリーシャ起きて」

 寝ているアリーシャを揺さぶり無理やり起こさせた。

「ほら、玄関を出現させて」
「ふぁーい、なのです」そう答えると。「素敵(すてき)な夢(ゆめ)を ありがとう 永久(とわ)に終(お)わらぬ幻(まぼろし)は ついに終(お)わりの刻(とき)を迎(むか)えるーードリーミー」

 そう唱えると、以前にも見たどろどろしたものが玄関に集まり玄関が視界に映るようになった。

「それじゃ、ありがとうアリーシャ。あまり寝過ぎないようにね」
「ふぁーい……」

 既に返事の時点で眠そうなんだけど……。
 アリーシャに別れを告げ、私たちは外に出た。

 うう……悪いことをしているみたいで手が震える。いや、明らかに悪いことなんだけどさ。朱音は平然と振る舞っている。慣れているのだろう。

 こちとらいくら鞄に入れているからといって、1kgもの覚醒剤を運ぶなんて緊張で吐きそうだ。



 どうにか愛のある我が家に戻ると、メンバーが増えていた。瑠奈だ。

「おっかえりー、あーあ、わたしもアリーシャとイチャイチャしにいきたかったなぁ」
「それはあなたの仕事ではありません。今から豊花さんに覚醒剤の詰め方を教えるんですから。豊花さん、ネタをこちらに」

 そう言われ、沙鳥に鞄を手渡した。

「朱音さんと瑠奈さんがパケにネタを入れるコツを教えますから、豊花さんも要領を掴んだら一緒に詰めて行ってください」

 そう言うと、朱音と瑠奈、沙鳥まで覚醒剤をパケ(チャック付きビニル袋)にネタを秤で計りながら黙々と詰めていく。
 一パケにはそれぞれ1gと5gて10gで別けて摘めていくらしい。少ないと文句を言われないように多少多目に入れるのだという。

「私たちから買った物をさらに小売りにして、その小売りした人から買った覚醒剤をエンドユーザに売る方もいらっしゃるんです。だから10gのパケもそこそこ需要があるんですよ」

 最初はびくびく見よう見真似で詰めていたが、秤に合わせるのに慣れてくると以外と容易い。手に装着するように言われたビニル手袋が邪魔なくらいだ。
 多少多めに入れていいというアドバイスも活きているのだろう。

 やがて夜になった頃、瑠奈はパケに詰めた覚醒剤100gを手にした。

「では、瑠奈さんは配達に向かってください。くれぐれも空を飛ぶのは捕まりそうになったときだけでお願いしますよ」
「へいへいわかってるってば、じゃいってきまーす」

 瑠奈には今日分の配達があるらしい。

「通常、卸し売り業者はパケにはわざわざ詰めません。それに対して我々は正規の量をパケに詰める。愛のある我が家産は丁寧にパケに詰めて運ぶから売人からの評判も良いのですよ」

 そんなこと言われてもなぁ……売人に気に入られて意味があるのだろうか?
 そうこうしているうちに、ようやくすべてのパケに覚醒剤を詰め終えた。

「次はどうしたらいいんですか?」

 と訊く。

「今日の仕事は以上です。本日は注射器の配達はありませんからね。帰っていいですよ」

 と沙鳥は返事する。
 と、いきなり「そうだ」と沙鳥は手をたたいた。

「豊花さんにはいずれ運転免許を取得してほしいです。現在愛のある我が家で車が運転できるのは私と舞香さんだけなんですよ」
「え?」まだ16なのに?
「注射器の運搬には車があったほうが便利ですよ?」

 と促され、曖昧に返事をしたまま愛のある我が家を後にすることになった。



 自分は免許を取れる時期まで愛のある我が家で働くのだろうか?
 たしかに給料は出ると言っていたが、それは悪事に手を染めて手に入れた金だ。

 考えが纏まらないながらも、本当に対等なのか、実際の目で、愛のある我が家の仕事と、そしてそれに関わってきた人間がどうなるかを確かめようと決意するのであった。

 本当に対等なやり取りしかしていないのかを知るために。澄もそれをしりたいのだろうし……。
 愛のある我が家をやめるかやめないかは、そのあとできめればいいか……。


 愛のある我が家が本当に対等な取引をする組織なのか、それを知ることが今の自分の最重要事項な気もした。

 っていうか、なんだか体調が優れないな。この感覚まえにもあったような……。

ーー生理ではないか?ーー

 それだ!
 ヤバいヤバい、今まで別のことで忘れていたけど、こっちのピンチもあるんだった。早いとこ用意しておかなければ……。


 新たな頭痛のする悩み事を抱えたまま、私は星空を見上げ帰路についた。

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