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番外編
永久の絶頂 1
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こちらFantiaにてリクエストを受けて作成した作品になります。
本編終了後にもしかしたらあったかもしれない物語、くらいの感覚でお楽しみください。
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「先輩…………サクラ先輩っ!」
「はっ!」
揺れる電車の中でサクラは目を覚ます。
「次の駅ですよ、サクラ先輩っ!」
「え……先輩? 私が……え、えっ……?」
「まだ寝ぼけてますねっ! えいっ!」
ペチン、と右頬に刺激が走る。
「痛ぁッ!?」
叩かれた頬を摩りながら、辺りを見渡す。
車両の外はもうすでに暗く、数人しかいない乗客達からはそっと視線を逸らされる。
「あ……そうだ、淫魔討伐の指令が来たから、スミレちゃんと一緒にペアを組むことになって……」
「そう、そうです先輩!」
「せ……せん、ぱ……?」
(なんだかすごく言われ慣れない言葉……せんぱい……先輩……私が先輩かぁ……)
その言葉の響きに、サクラはうっとりとした気分を味わっていた。
「ん、あれ……もしかしてまだ寝ぼけてますか……?」
「お、覚えてるッ! スミレちゃんのことちゃんと覚えてるからッ!」
彼女が右腕を上げたのを見て、サクラは慌てふためく。
彼女の名前はスミレ。
クイーン騒動があったあの日、テントでサクラ達と鉢合わせた少女だ。
スミレが首を傾げ、大きな瞳でサクラの顔を覗き込む。
揃った前髪がふわりと揺れる。
「もう、しっかりしなきゃダメですよ先輩!」
「は、はい……」
あの時は狐の面を被っていたが、今はそれがない。
面を被っていないスミレは本当に年相応の顔立ちで、目立つ巫女服を除けばどこにでもいそうな少女だった。
後天的に才能が開花し退魔師になったサクラとは違い、彼女はもともと退魔師の家系の人間。
そんなスミレはクイーン騒動の解決に大きく貢献したサクラのことを尊敬し、先輩とまで呼ぶようになった。
歳はサクラの方が上であっても、退魔師としての経歴はスミレの方が上なので本来ならスミレがサクラの先輩になるはずなのだが……サクラ自身は先輩と呼ばれることが満更でもない様子で、スミレに至っては自分から言い出しているので、そこをとやかく言う者は誰もいなかった。
(いいなぁ、先輩って響き…………あれ……そういえば私のことを先輩って呼ぶ人、他にもいたような……まぁいっか)
そういえばかつてサクラのことを先輩呼びしていたクイーンの少女がいたが、サクラはそれを意図的に記憶の隅に追いやった。
***
都心からやや離れた住宅街。
街灯は少なく、人けも少ない。
たまにすれ違うの会社帰りのサラリーマンや、スマホを見ながら歩く学生くらい。
淫魔が巣食うには恰好の場所だ。
「そういえばスミレちゃんは補助能力に優れているんだっけ?」
「は、はいっ! 私は他者の身体能力を上げたり、傷を癒す力などが得意です!」
「なるほど、じゃあ私が前に出てじゃんじゃん出て、スミレちゃんがサポート役って感じで戦えば良さそうだね」
「そう、ですね……」
そう言うスミレの口調はどこか寂しそうだった。
「スミレちゃん……?」
「実は羨ましいんです、退魔の力の性質は人それぞれで、私は補助能力に長けてはいるのですが、武器で戦ったりはできないので……だからあの時も、一人テントに置いていかれてしまって……本当は私も前線に出て戦えたらいいのですが……」
「そんなこと言ったら私だって刀でブンブンすることしかできなくて、いっつもカナ先輩に迷惑かけてるよ。だから私もスミレちゃんみたいにに便利な術が使えたらなーって思ってたんだ」
「ほ、ほんとですか!?」
スミレが食い気味にサクラに顔を近づける。
「それに聞いたよ。クイーン騒動のとき、気を失った私を治療してくれたのスミレちゃんだったんでしょ?」
「え、あ、はい! あの時は私も必死で……」
「ありがとうスミレちゃん。あの時スミレちゃんがいたおかげで、私は今も退魔師を続けていられる。スミレちゃんの力は戦うための力じゃないかもしれないけど、誰かを救うための力であることは違いないんだから!」
「そ、そうなんですかね……えへへ」
頬を赤らめ分かりやすく照れるスミレ。
サクラは目の前の少女が案外御し易い性格だと気づくと、追い討ちをかけるように褒め殺す。
「うん、だから今回は私とスミレちゃんでペアを組むことになったんじゃないかな? 脳筋な私と補助役のスミレちゃん、もしかしたら私たち最強のペアかもしれないよ?」
「さ、さいきょ……ッ!? ……最強……最強………ふ、ふふふ、ありがとうございます先輩! 私元気が出てきました!」
「うんうん、私もスミレちゃん見てたら元気出てきたよ」
雑談をしつつ歩みを進める二人。
そして二人は最も怪しいと踏んでいた場所にたどり着く。
そこは数年前に廃校となった高校。
おそらく管理などはされていなく、ほぼ廃屋だ。
「サクラ先輩……」
「うん、淫魔の気配……間違いなくここにいるよ」
スミレがサクラの制服の裾を掴む。
そんな震えるスミレの手をサクラは強く握った。
「大丈夫、スミレちゃんは私が守るから」
「わ、私も頑張りますッ!」
声を震わせながらも虚勢を張るスミレを見て、サクラは優しく微笑む。
(カナ先輩も私をこんな風に見てたのかな?)
スミレとて、一度あの王女の淫魔の力をその身に受け、恐怖が体に刻み込まれているはずだ。
それでも彼女はまだ、逃げることなく退魔師としてこの場に立ち続けている。
(だったら私も、理想の先輩として頑張らないとね)
サクラはそう強く自分の意思に刻んだのだった。
***
二人は長い廊下を手を繋ぎながら歩く。
木目の廊下は歩くたびにギィギィと不気味な音がなり、誰もいないはずの教室に視線を送ると、その度に何かが出てきそうな気がして肝が冷える。
淫魔とは別に本当の幽霊が出てきそうな雰囲気だった。
「さ、サクラせんぱぃ……」
「う、うん、大丈夫……っ! 絶対に手、離さないからねっ!」
スミレを元気付けるために言った言葉だったが、サクラ自身もスミレがいてよかったと安堵していた。
「それにしても、淫魔の気配が霧散してる……どこから敵がくるか分からない…………なんだか頭もクラクラしてきた……」
あちこちから漂う淫魔の気配。
ここが淫魔の根城であることは間違いないが、その淫魔がどこにいるのかは分からない。
それに加えて人を惑わす淫魔の気配が頭が眩ませる。
退魔師であるサクラにとっては少し頭が眩む程度で済むが、一般人がこの場所に訪れればきっと正気を保てないだろう。
「そうだ、《淫力防護》!」
スミレが術の名前を唱えると二人の体が一瞬光に包まれる。
その瞬間、サクラは体がふっと軽くなるのを感じた。
「すごい、今のは?」
サクラが興味本位で聞いてみると、なぜだかスミレは顔を赤くし、言いにくそうに口を開く。
「こ、これは淫力防護の術と言って……その……………ほ、ほら、淫魔ってエッチな力を使ってくるじゃないですか! そう言う力に抵抗するための術です!」
「な、なるほど……」
恥ずかしそうに上ずった声で説明するスミレを前に、サクラはそれ以上のことを聞けなかった。
二人の間の空気も微妙になり、しばらく無言のまま歩き続ける。
一階の調査を一通り終わらせ、二階に登る階段へと足をかける。
その間も会話こそなかったが、繋いだ手だけは離さなかった。
二階に上がりまた長い廊下を歩こうとしたその時、サクラは妙な気配を感じ足を止める。
「止まって、スミレちゃん」
「え」
サクラに続いてスミレも足を止める。
だが、ギィギィと軋む床の音は消えない。
その音は自分たちの足元ではなく廊下の奥から聞こえ、どんどんこちらに近づいてくる。
「獲物の方から足を踏み込んで来るなんて、おバカさんねぇ……」
目の前に、黒いドレスを身にまとった女性が現れた。
「え、女の人……?」
「近づいちゃだめ、スミレちゃん」
サクラはスミレの前に出て刀を具現化させる。
「…………淫魔でしょ、あなた」
「うん、そうよぉ」
特に隠す様子もなく、黒いドレスの女性はそう口にした。
長い黒髪にスレンダーな体つき。
スミレが勘違いしてもおかしくないほどに、人と差異のない姿をしていた。
(なんだろう、この感覚……?)
サクラは奇妙な感覚を覚えていた。
この学校全体からは普通に歩いているだけで頭がクラクラするほどの強い淫魔の気配を感じるのに、目の前の彼女からはそれほどの強い気配を感じない。
(あいつは、この気配の主じゃない……?)
「刀使いの退魔師、あなたサクラちゃんねぇ?」
「えっ?」
いきなり名前を呼ばれサクラは驚く。
そしてその一瞬の心の乱れを淫魔は見逃さない。
懐から何かを取り出し、それをサクラに向けて構える。
「申し訳ないけど、秒で終わらせるわよぉ」
「ッ!?」
サクラは少し遅れて、それが銃の形をしていることに気づく。
「ばぁんっ!」
淫魔がそう口にするのと同時に、静かな廃校の廊下に銃声が鳴り響く。
「先輩ッ!」
「ん、んぃいッ!!」
銃口から放たれた銃弾。
サクラはそれを、咄嗟に構えた刀の腹で受け止めた。
「でやぁああッ!!」
そして力任せに薙ぎ払う。
するとその銃弾は形を失い、霧のように消え去った。
「うそぉ!?」
淫魔も流石に銃弾を受け止められるとは思っていなかったらしく、驚きの表情を見せる。
(この銃弾……前に会った、銃の淫魔のものと同じ……)
サクラは淫魔の使う力に既視感を覚えていた。
以前出会った銃の淫魔が使ってきた攻撃に似ている。
今こうして銃弾を防ぐことができたのは、あの淫魔との戦いの経験があったからかもしれない。
「くっ、このっ」
「させないッ!」
もう一度構えを取り次の一撃を放つ準備をしていた淫魔を見て、サクラは一気に距離を詰める。
バァンッ!
再び銃声が響く。
しかしその銃弾は容易くサクラの刀に弾かれる。
「てやぁあああッ!!」
そのままサクラが淫魔を斬りはらおうとしたその瞬間、淫魔がニヤリと笑う。
廊下に隣接した教室の中から新たな人影が現れる。
「ざぁんねん、私はブラフよ――」
「知ってるッ!」
だがそれはサクラにとって予期していたことだった。
廃校内に拡散していた淫魔の気配、それにまるでサクラをおびき寄せているような敵の立ち位置。
敵が一人ではないとういうことは今までの経験から察していたことだった。
「せぇいッ!」
サクラは目の前の淫魔の銃が握られていた右手を斬り払う。
そしてその勢いをそのままに、近づいてきたもう一つの人影を切り裂いた。
その人影の上半身と下半身が真っ二つに切断される。
「う、うそ……?」
腕を落とした淫魔が声を漏らす。
そんな淫魔にサクラは刀を突きつける。
「ひっ!?」
「どうせあなたたちは下っ端でしょう? あなたたちのボスはどこ……に…………」
淫魔を脅しながら、サクラは横目で自分が真っ二つに切り払った方の淫魔に視線を向ける。
長い黒髪にスレンダーな体型、そして黒いドレス。
目の前にいる淫魔と全く同じ姿をしていた。
「そこまで!」
その時、背後から声が聞こえた。
スミレとはまた違う女性の声。
嫌な予感を感じつつ、サクラは後ろを振り向いた。
「サクラ先輩……ごめん、なさい……」
背後から体を押さえつけられているスミレが、泣きそうな声でそう告げる。
スミレの背後にいたのは黒いドレスに黒髪の女性。
やはり同じ顔、同じ服を着た淫魔だった。
本編終了後にもしかしたらあったかもしれない物語、くらいの感覚でお楽しみください。
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「先輩…………サクラ先輩っ!」
「はっ!」
揺れる電車の中でサクラは目を覚ます。
「次の駅ですよ、サクラ先輩っ!」
「え……先輩? 私が……え、えっ……?」
「まだ寝ぼけてますねっ! えいっ!」
ペチン、と右頬に刺激が走る。
「痛ぁッ!?」
叩かれた頬を摩りながら、辺りを見渡す。
車両の外はもうすでに暗く、数人しかいない乗客達からはそっと視線を逸らされる。
「あ……そうだ、淫魔討伐の指令が来たから、スミレちゃんと一緒にペアを組むことになって……」
「そう、そうです先輩!」
「せ……せん、ぱ……?」
(なんだかすごく言われ慣れない言葉……せんぱい……先輩……私が先輩かぁ……)
その言葉の響きに、サクラはうっとりとした気分を味わっていた。
「ん、あれ……もしかしてまだ寝ぼけてますか……?」
「お、覚えてるッ! スミレちゃんのことちゃんと覚えてるからッ!」
彼女が右腕を上げたのを見て、サクラは慌てふためく。
彼女の名前はスミレ。
クイーン騒動があったあの日、テントでサクラ達と鉢合わせた少女だ。
スミレが首を傾げ、大きな瞳でサクラの顔を覗き込む。
揃った前髪がふわりと揺れる。
「もう、しっかりしなきゃダメですよ先輩!」
「は、はい……」
あの時は狐の面を被っていたが、今はそれがない。
面を被っていないスミレは本当に年相応の顔立ちで、目立つ巫女服を除けばどこにでもいそうな少女だった。
後天的に才能が開花し退魔師になったサクラとは違い、彼女はもともと退魔師の家系の人間。
そんなスミレはクイーン騒動の解決に大きく貢献したサクラのことを尊敬し、先輩とまで呼ぶようになった。
歳はサクラの方が上であっても、退魔師としての経歴はスミレの方が上なので本来ならスミレがサクラの先輩になるはずなのだが……サクラ自身は先輩と呼ばれることが満更でもない様子で、スミレに至っては自分から言い出しているので、そこをとやかく言う者は誰もいなかった。
(いいなぁ、先輩って響き…………あれ……そういえば私のことを先輩って呼ぶ人、他にもいたような……まぁいっか)
そういえばかつてサクラのことを先輩呼びしていたクイーンの少女がいたが、サクラはそれを意図的に記憶の隅に追いやった。
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都心からやや離れた住宅街。
街灯は少なく、人けも少ない。
たまにすれ違うの会社帰りのサラリーマンや、スマホを見ながら歩く学生くらい。
淫魔が巣食うには恰好の場所だ。
「そういえばスミレちゃんは補助能力に優れているんだっけ?」
「は、はいっ! 私は他者の身体能力を上げたり、傷を癒す力などが得意です!」
「なるほど、じゃあ私が前に出てじゃんじゃん出て、スミレちゃんがサポート役って感じで戦えば良さそうだね」
「そう、ですね……」
そう言うスミレの口調はどこか寂しそうだった。
「スミレちゃん……?」
「実は羨ましいんです、退魔の力の性質は人それぞれで、私は補助能力に長けてはいるのですが、武器で戦ったりはできないので……だからあの時も、一人テントに置いていかれてしまって……本当は私も前線に出て戦えたらいいのですが……」
「そんなこと言ったら私だって刀でブンブンすることしかできなくて、いっつもカナ先輩に迷惑かけてるよ。だから私もスミレちゃんみたいにに便利な術が使えたらなーって思ってたんだ」
「ほ、ほんとですか!?」
スミレが食い気味にサクラに顔を近づける。
「それに聞いたよ。クイーン騒動のとき、気を失った私を治療してくれたのスミレちゃんだったんでしょ?」
「え、あ、はい! あの時は私も必死で……」
「ありがとうスミレちゃん。あの時スミレちゃんがいたおかげで、私は今も退魔師を続けていられる。スミレちゃんの力は戦うための力じゃないかもしれないけど、誰かを救うための力であることは違いないんだから!」
「そ、そうなんですかね……えへへ」
頬を赤らめ分かりやすく照れるスミレ。
サクラは目の前の少女が案外御し易い性格だと気づくと、追い討ちをかけるように褒め殺す。
「うん、だから今回は私とスミレちゃんでペアを組むことになったんじゃないかな? 脳筋な私と補助役のスミレちゃん、もしかしたら私たち最強のペアかもしれないよ?」
「さ、さいきょ……ッ!? ……最強……最強………ふ、ふふふ、ありがとうございます先輩! 私元気が出てきました!」
「うんうん、私もスミレちゃん見てたら元気出てきたよ」
雑談をしつつ歩みを進める二人。
そして二人は最も怪しいと踏んでいた場所にたどり着く。
そこは数年前に廃校となった高校。
おそらく管理などはされていなく、ほぼ廃屋だ。
「サクラ先輩……」
「うん、淫魔の気配……間違いなくここにいるよ」
スミレがサクラの制服の裾を掴む。
そんな震えるスミレの手をサクラは強く握った。
「大丈夫、スミレちゃんは私が守るから」
「わ、私も頑張りますッ!」
声を震わせながらも虚勢を張るスミレを見て、サクラは優しく微笑む。
(カナ先輩も私をこんな風に見てたのかな?)
スミレとて、一度あの王女の淫魔の力をその身に受け、恐怖が体に刻み込まれているはずだ。
それでも彼女はまだ、逃げることなく退魔師としてこの場に立ち続けている。
(だったら私も、理想の先輩として頑張らないとね)
サクラはそう強く自分の意思に刻んだのだった。
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二人は長い廊下を手を繋ぎながら歩く。
木目の廊下は歩くたびにギィギィと不気味な音がなり、誰もいないはずの教室に視線を送ると、その度に何かが出てきそうな気がして肝が冷える。
淫魔とは別に本当の幽霊が出てきそうな雰囲気だった。
「さ、サクラせんぱぃ……」
「う、うん、大丈夫……っ! 絶対に手、離さないからねっ!」
スミレを元気付けるために言った言葉だったが、サクラ自身もスミレがいてよかったと安堵していた。
「それにしても、淫魔の気配が霧散してる……どこから敵がくるか分からない…………なんだか頭もクラクラしてきた……」
あちこちから漂う淫魔の気配。
ここが淫魔の根城であることは間違いないが、その淫魔がどこにいるのかは分からない。
それに加えて人を惑わす淫魔の気配が頭が眩ませる。
退魔師であるサクラにとっては少し頭が眩む程度で済むが、一般人がこの場所に訪れればきっと正気を保てないだろう。
「そうだ、《淫力防護》!」
スミレが術の名前を唱えると二人の体が一瞬光に包まれる。
その瞬間、サクラは体がふっと軽くなるのを感じた。
「すごい、今のは?」
サクラが興味本位で聞いてみると、なぜだかスミレは顔を赤くし、言いにくそうに口を開く。
「こ、これは淫力防護の術と言って……その……………ほ、ほら、淫魔ってエッチな力を使ってくるじゃないですか! そう言う力に抵抗するための術です!」
「な、なるほど……」
恥ずかしそうに上ずった声で説明するスミレを前に、サクラはそれ以上のことを聞けなかった。
二人の間の空気も微妙になり、しばらく無言のまま歩き続ける。
一階の調査を一通り終わらせ、二階に登る階段へと足をかける。
その間も会話こそなかったが、繋いだ手だけは離さなかった。
二階に上がりまた長い廊下を歩こうとしたその時、サクラは妙な気配を感じ足を止める。
「止まって、スミレちゃん」
「え」
サクラに続いてスミレも足を止める。
だが、ギィギィと軋む床の音は消えない。
その音は自分たちの足元ではなく廊下の奥から聞こえ、どんどんこちらに近づいてくる。
「獲物の方から足を踏み込んで来るなんて、おバカさんねぇ……」
目の前に、黒いドレスを身にまとった女性が現れた。
「え、女の人……?」
「近づいちゃだめ、スミレちゃん」
サクラはスミレの前に出て刀を具現化させる。
「…………淫魔でしょ、あなた」
「うん、そうよぉ」
特に隠す様子もなく、黒いドレスの女性はそう口にした。
長い黒髪にスレンダーな体つき。
スミレが勘違いしてもおかしくないほどに、人と差異のない姿をしていた。
(なんだろう、この感覚……?)
サクラは奇妙な感覚を覚えていた。
この学校全体からは普通に歩いているだけで頭がクラクラするほどの強い淫魔の気配を感じるのに、目の前の彼女からはそれほどの強い気配を感じない。
(あいつは、この気配の主じゃない……?)
「刀使いの退魔師、あなたサクラちゃんねぇ?」
「えっ?」
いきなり名前を呼ばれサクラは驚く。
そしてその一瞬の心の乱れを淫魔は見逃さない。
懐から何かを取り出し、それをサクラに向けて構える。
「申し訳ないけど、秒で終わらせるわよぉ」
「ッ!?」
サクラは少し遅れて、それが銃の形をしていることに気づく。
「ばぁんっ!」
淫魔がそう口にするのと同時に、静かな廃校の廊下に銃声が鳴り響く。
「先輩ッ!」
「ん、んぃいッ!!」
銃口から放たれた銃弾。
サクラはそれを、咄嗟に構えた刀の腹で受け止めた。
「でやぁああッ!!」
そして力任せに薙ぎ払う。
するとその銃弾は形を失い、霧のように消え去った。
「うそぉ!?」
淫魔も流石に銃弾を受け止められるとは思っていなかったらしく、驚きの表情を見せる。
(この銃弾……前に会った、銃の淫魔のものと同じ……)
サクラは淫魔の使う力に既視感を覚えていた。
以前出会った銃の淫魔が使ってきた攻撃に似ている。
今こうして銃弾を防ぐことができたのは、あの淫魔との戦いの経験があったからかもしれない。
「くっ、このっ」
「させないッ!」
もう一度構えを取り次の一撃を放つ準備をしていた淫魔を見て、サクラは一気に距離を詰める。
バァンッ!
再び銃声が響く。
しかしその銃弾は容易くサクラの刀に弾かれる。
「てやぁあああッ!!」
そのままサクラが淫魔を斬りはらおうとしたその瞬間、淫魔がニヤリと笑う。
廊下に隣接した教室の中から新たな人影が現れる。
「ざぁんねん、私はブラフよ――」
「知ってるッ!」
だがそれはサクラにとって予期していたことだった。
廃校内に拡散していた淫魔の気配、それにまるでサクラをおびき寄せているような敵の立ち位置。
敵が一人ではないとういうことは今までの経験から察していたことだった。
「せぇいッ!」
サクラは目の前の淫魔の銃が握られていた右手を斬り払う。
そしてその勢いをそのままに、近づいてきたもう一つの人影を切り裂いた。
その人影の上半身と下半身が真っ二つに切断される。
「う、うそ……?」
腕を落とした淫魔が声を漏らす。
そんな淫魔にサクラは刀を突きつける。
「ひっ!?」
「どうせあなたたちは下っ端でしょう? あなたたちのボスはどこ……に…………」
淫魔を脅しながら、サクラは横目で自分が真っ二つに切り払った方の淫魔に視線を向ける。
長い黒髪にスレンダーな体型、そして黒いドレス。
目の前にいる淫魔と全く同じ姿をしていた。
「そこまで!」
その時、背後から声が聞こえた。
スミレとはまた違う女性の声。
嫌な予感を感じつつ、サクラは後ろを振り向いた。
「サクラ先輩……ごめん、なさい……」
背後から体を押さえつけられているスミレが、泣きそうな声でそう告げる。
スミレの背後にいたのは黒いドレスに黒髪の女性。
やはり同じ顔、同じ服を着た淫魔だった。
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