発情紋章を刻まれた真面目な召喚士ですが、契約精霊たちに甘やかされて困ってます。

さわらにたの

文字の大きさ
155 / 159
第11章

精霊の花嫁㉕

しおりを挟む
「……。シャルと同じ顔をするのですよ、シェラ様は」
「え?」
「相手を考えて、相手が一番楽になるような、優しい答えを答えてしまう。それは美徳ですが、そんなことをわたくしは求めていません」

 そんなことないよ、と言いかけてシェラは口をつぐんだ。
 自分の胸の内。
 小さな小さな思いは、一生懸命叫んでいる。

 辛いって。
 知りたいって。
 どうして、こんなことになってるのって。
 全部、投げ出したいって。

「みんな、知ってて、黙ってたの……、つらかった」
「ええ」
「……アクアさんにも、嘘つかれてた、っておもったら、本当につらくて」
「……すみません、シェラ様」
「……許さないもん。いきなり、人間と精霊の子だっていわれて、わけわかんないよぉ……。それにお母様なのに、あんな、ひどいこといって……ウィンちゃんとテラ様にも怪我、させて……。わたし、知りたい。お父様のことも、お母様……アウロラのことも」
「……。そうですね、全て、お話しましょう」

 涙が、静かに流れた。
 流れていくそれを手のひらで拭う。
 静かな瞳で自分を見ているんだろうと思ったアクアリアスは、ひどく辛そうな顔をしていた。滅多に変わらないその表情がひどく暗い。

 そのまま立ち上がると、アクアリアスはシェラの隣に片膝をついて座った。

「シェラ様」
「ごめん、なさい………ワガママ言って」
「なぜ謝るのですか、シェラ様。あなたには、両親のことを知る権利があります。それに……シェラ様の本音をきかせていただけたことは、嬉しく思っていますよ」
「……」

 そっと手を取られる。すこしひんやりとしている手のひらは大きくて、そっとシェラを包み込んでくれる。そのままアクアリアスは目を伏せてうつむく。

「シャルのこともアウロラのことも。あなたの両親を一番よく知っているのはわたくしですからね。それに――あのふたりを引き合わせてしまったのは、結果としてわたくしの所為です」
「……」
「わたくしが、シャルと契約しなければよかった。そうすれば、アウロラと出会わずに、シャルの運命も狂わずに済んだ――」
「……。でも、そうだったらわたしはここに居ないでしょう?」

 辛そうなアクアさんを放っておけない。そう思って口に出したその言葉は、それでもシェラの本心でもあった。

「シェラ様……」
「……話して欲しいな。お父様と、お母様、のこと。もしふたりが出会うきっかけがアクアさんなのだったら、それはわたしにとってアクアさんが恩人ってことでしょ?」
「……」
「わたし、つらくって嫌だって思ってるけど、皆と今こうして一緒に居られるのは……嬉しいの。みんなのことも、アクアさんのことも大好きだよ。生まれてこれたことは、感謝、してるの」

 何て言っていいかわからなくて、でもきっとアクアリアスには全部バレててお見通しなんだろうって思ったから。
 シェラはただ、思ったままに言葉を口にした。アクアリアスは、しばらくじっとシェラの手を握ったまま、黙っていた。

「ありがとうございます、シェラ様」

 静かに顔を上げたアクアリアスの声はひどく小さくて、シェラはただその掌をぎゅっと握りしめた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

なんか、異世界行ったら愛重めの溺愛してくる奴らに囲われた

いに。
恋愛
"佐久良 麗" これが私の名前。 名前の"麗"(れい)は綺麗に真っ直ぐ育ちますようになんて思いでつけられた、、、らしい。 両親は他界 好きなものも特にない 将来の夢なんてない 好きな人なんてもっといない 本当になにも持っていない。 0(れい)な人間。 これを見越してつけたの?なんてそんなことは言わないがそれ程になにもない人生。 そんな人生だったはずだ。 「ここ、、どこ?」 瞬きをしただけ、ただそれだけで世界が変わってしまった。 _______________.... 「レイ、何をしている早くいくぞ」 「れーいちゃん!僕が抱っこしてあげよっか?」 「いや、れいちゃんは俺と手を繋ぐんだもんねー?」 「、、茶番か。あ、おいそこの段差気をつけろ」 えっと……? なんか気づいたら周り囲まれてるんですけどなにが起こったんだろう? ※ただ主人公が愛でられる物語です ※シリアスたまにあり ※周りめちゃ愛重い溺愛ルート確です ※ど素人作品です、温かい目で見てください どうぞよろしくお願いします。

異世界に転生したら溺愛されてるけど、私が私を好きでいるために努力はやめません!

具なっしー
恋愛
異世界に転生したら、まさかの超貴重種レッサーパンダ獣人の女の子「リア」になっていた元日本の女子高生・星野陽菜(ほしの ひな)。 女性の数が男性の1/50という極端な男女比のため、この世界では女性は「わがままで横暴、太っている」のが当然とされ、一妻多夫制が敷かれています。しかし、日本の常識を持つリアは「このままじゃダメになる!」と危機感を抱き、溺愛されても流されず、努力することを誓います。 容姿端麗なリアは、転生前の知識を活かし、持ち前の努力家精神でマナー、美術、音楽、座学、裁縫といったあらゆるスキルを磨き上げます。唯一どうにもならないのは、運動神経!! 家族にも、そしてイケメン夫候補たちにも、そのひたむきな努力家な面に心惹かれ、超絶溺愛されるリア。 しかし、彼女の夢は、この魔法と様々な種族が存在する世界で冒険すること! 溺愛と束縛から逃れ、自分の力で夢を叶えたいリアと、彼女を溺愛し、どこまでも守ろうとする最強のイケメン夫候補たちとの、甘くも波乱に満ちた異世界溺愛ファンタジー、開幕! ※画像はAIです

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

異世界から来た娘が、たまらなく可愛いのだが(同感)〜こっちにきてから何故かイケメンに囲まれています〜

恋愛
普通の女子高生、朱璃はいつのまにか異世界に迷い込んでいた。 右も左もわからない状態で偶然出会った青年にしがみついた結果、なんとかお世話になることになる。一宿一飯の恩義を返そうと懸命に生きているうちに、国の一大事に巻き込まれたり巻き込んだり。気付くと個性豊かなイケメンたちに大切に大切にされていた。 そんな乙女ゲームのようなお話。

【完結】異世界転移した私、なぜか全員に溺愛されています!?

きゅちゃん
恋愛
残業続きのOL・佐藤美月(22歳)が突然異世界アルカディア王国に転移。彼女が持つ稀少な「癒しの魔力」により「聖女」として迎えられる。優しく知的な宮廷魔術師アルト、粗野だが誠実な護衛騎士カイル、クールな王子レオン、最初は敵視する女騎士エリアらが、美月の純粋さと癒しの力に次々と心を奪われていく。王国の危機を救いながら、美月は想像を絶する溺愛を受けることに。果たして美月は元の世界に帰るのか、それとも新たな愛を見つけるのか――。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

処理中です...