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夢の話
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シェラは夢の中、ただ森の中をひたすらに歩いていた。
どうしてかはわからない。けれど、そこに「大事なもの」がある気がした。
――森。そうだ――森には、絶対に入っちゃダメって言われてた。
そう思い出した時には、もう深い森の奥にいた。
暗い。さっきまで一緒にいた、ふわふわと浮かぶ優しい光の微精霊もいない。
「シェラ様!」
呼ばれた名前に、ふり返る。
そこにいたのはアクアさんだった。
でもいつもの長い銀青の髪は後ろで一つに束ねられていて、装いもどこか違う。白いローブだけれど、幾重にも宝石のような飾りがついていた。
その青く澄んだ瞳が、激しい怒りに揺れている。
「アクア、さん?」
つかつかと長い脚で歩み寄ってくると、アクアリアスはそのままシェラを抱き上げた。
「きゃあ!?」
驚いた。
あまりにも軽く、ひょいっともち上げられてシェラは目を見開く。
それに自分の声も、なんだか自分じゃないと思うくらい幼くて――と改めて自分の身体を見やり、ふたたびシェラは目をぱちぱちと瞬かせた。
幼く、なっている。
シェラの格好も、さっきまでの姿とはちがっていた。ふわふわとした長いスカート丈の白いワンピースに柔らかな素材の虹色のストールを巻いている。
「わたくしが言ったこと、どうして守ってくださらないのですか、シェラ様!!! 何度も言わせていただきますが、貴方には人間の血が入っているのです! この森にひとりで入ってはいけません!」
「……どうして?」
口が勝手に言葉を紡ぐ。
わたしであって、わたしではない少女。
「どうして? だってアクアさんも、イグにいも、じゆうにはいれるのに? どうして、わたしはだめなの?」
幼い声が問いかける。怒られるのが怖くて、それでも知りたくて。
「わたくしたちは、精霊だからです」
「せーれー……? でも……いっしょだよ? わたしとアクアさんはいつもいっしょだよ? ちがうの? どうして?」
それは幼い心から出た、まっすぐな言葉だった。
アクアリアスの目が伏せられる。すぐに返ってきた答えは、どこか遠くを見ているようだった。
「……ええ、そうですね。いっしょです」
「いっしょだよ。ねえ、アクアさん。わたし、アクアさんとずっといっしょにいたいな。ちがうってなんだか、こわい」
「シェラ様」
「アクアさんは、わたしのことすき?」
無垢な問いに、アクアリアスの肩が小さく揺れる。
「ええ。好きですよ、シェラ様」
「うれしい! わたしもアクアさんのことだいすきだよ。イグにいも、ウィンちゃんも、テラさまもだいすき! みんなでずっと、いっしょにいようね!」
幼い自分の紡いだ、幼い言葉。
目の前のアクアさんは、優しく目を細めて笑った。
幼い私が気づかないような、悲しさをその瞳に映して。
「そうですね。すっと……ずっと、一緒にいられたら、どんなにいいでしょうね」
その言葉は、どこか切なげで――次の瞬間、ふっと風が吹いた。
目の前のアクアリアスが、すこしだけ滲んでいく。
「……アクア、さん?」
「帰りましょう、シェラ様。ここは、人間がいていい場所ではありません。濃すぎます」
声が遠くなる。
身体がふわりと浮かび、そのまま空が崩れる。水の音が遠ざかる。
夢が、終わっていく。
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