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第7章
14.
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ふわりと漂うように現れたアクアリアスは、いつもの白いローブを纏っていた。蒼銀色の長い髪が風もないのさらりとなびく。涼やかな目元には、いつものように穏やかな微笑みが浮かんでいたけれど、その言葉には、優しさと同時に静かな厳しさと怒りがにじんでいた。
「……アクアくん」
ウィントスが少し気まずそうに肩をすくめる。そのしぐさと表情はどこかバツの悪さを滲ませていた。アクアリアスは責めることも怒ることもせず、ただ平らかに言葉を続ける。
「テラ様、お久しぶりですね。ウィントス、お疲れ様でした。ここでふたりが争っても何も解決にはなりません。互いに思うところがあるのはわかりますが」
「……。そうだね」
渋々といった様子で、ウィントスがテラリアから視線を逸らす。テラリアもそれ以上言葉を返すことなく、一歩、静かに後ろへと身を引いた。
「ごめーん! ちょっと、一旦頭冷やしてくるよ。……またねぇ、シェラぴ」
「ウィンちゃん!」
ふわりとシェラの身体が浮かび、そのまますとん、とアクアリアスの腕に抱かれる。
シェラの震える声に、ウィントスはいつもの調子に戻ってかすかに笑みを浮かべ、小さく手を振った。そして、そのまま風に溶けるように姿を消す。
続くように、テラリアも軽く首を振り、ひとつ息を吐いた。
「我も戻る。シェルヴェリラ。大事ないか?」
「うん……テラ様。助けてくれて、ありがとう」
シェラの言葉に、テラリアは微かに口元を緩めると、そのまま音もなく姿を消した。
残されたシェラの身体は、ぐったりとアクアリアスの体にもたれかかるようにして沈む。
やっぱりアクアさんの身体はちょっと冷たくて気持ちがいい――そんなことを思うシェラの表情には疲労が色濃く浮かんでいた。顔色も白く、心も体も限界に近い。
大丈夫だと思っていたけれど、こうして一度気を抜くと、もう身体が動かなかった。そもそも全裸に布一枚のこの格好もどうかと思う……。
「シェラ様、休みましょう。大丈夫ですか?」
横抱きに抱いてくれているアクアリアスのローブをぎゅ、と掴み、シェラはいやいやとかぶりを振った。
「……うん……、ううん、大丈夫じゃない……」
声が震えていた。そのままアクアリアスの胸に顔を埋め、シェラは涙をこぼす。
色々と溢れそうだった。
別に、何かをされたわけでもない。助けてくれただけ。テラリアの与えてくれた快楽も、ウィントスが自分を大切に思ってくれているからそれに怒っていたことも、それでふたりがなにかシェラの知らないことでもめていた――ただ、それだけだ。
シェラ自身がひどく傷つけられたわけではない。けれど、知らないことが多すぎて、怖くて、どこか心が寂しかった。
「アクアさん……一緒に、いてくれる?」
「――ええ。わたくしでよろしければ」
「アクアさんが、いいの」
アクアリアスの腕に抱かれていると、なんだか安心するなぁと、シェラは思う。属性のせいかもしれないけれど、なんだか穏やかで、落ち着いて、優しくて、心があたたかくなるのだ。
軽々とシェラを抱きしめたまま歩き、アクアリアスは寝台に腰を下ろした。
「……アクアくん」
ウィントスが少し気まずそうに肩をすくめる。そのしぐさと表情はどこかバツの悪さを滲ませていた。アクアリアスは責めることも怒ることもせず、ただ平らかに言葉を続ける。
「テラ様、お久しぶりですね。ウィントス、お疲れ様でした。ここでふたりが争っても何も解決にはなりません。互いに思うところがあるのはわかりますが」
「……。そうだね」
渋々といった様子で、ウィントスがテラリアから視線を逸らす。テラリアもそれ以上言葉を返すことなく、一歩、静かに後ろへと身を引いた。
「ごめーん! ちょっと、一旦頭冷やしてくるよ。……またねぇ、シェラぴ」
「ウィンちゃん!」
ふわりとシェラの身体が浮かび、そのまますとん、とアクアリアスの腕に抱かれる。
シェラの震える声に、ウィントスはいつもの調子に戻ってかすかに笑みを浮かべ、小さく手を振った。そして、そのまま風に溶けるように姿を消す。
続くように、テラリアも軽く首を振り、ひとつ息を吐いた。
「我も戻る。シェルヴェリラ。大事ないか?」
「うん……テラ様。助けてくれて、ありがとう」
シェラの言葉に、テラリアは微かに口元を緩めると、そのまま音もなく姿を消した。
残されたシェラの身体は、ぐったりとアクアリアスの体にもたれかかるようにして沈む。
やっぱりアクアさんの身体はちょっと冷たくて気持ちがいい――そんなことを思うシェラの表情には疲労が色濃く浮かんでいた。顔色も白く、心も体も限界に近い。
大丈夫だと思っていたけれど、こうして一度気を抜くと、もう身体が動かなかった。そもそも全裸に布一枚のこの格好もどうかと思う……。
「シェラ様、休みましょう。大丈夫ですか?」
横抱きに抱いてくれているアクアリアスのローブをぎゅ、と掴み、シェラはいやいやとかぶりを振った。
「……うん……、ううん、大丈夫じゃない……」
声が震えていた。そのままアクアリアスの胸に顔を埋め、シェラは涙をこぼす。
色々と溢れそうだった。
別に、何かをされたわけでもない。助けてくれただけ。テラリアの与えてくれた快楽も、ウィントスが自分を大切に思ってくれているからそれに怒っていたことも、それでふたりがなにかシェラの知らないことでもめていた――ただ、それだけだ。
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アクアリアスの腕に抱かれていると、なんだか安心するなぁと、シェラは思う。属性のせいかもしれないけれど、なんだか穏やかで、落ち着いて、優しくて、心があたたかくなるのだ。
軽々とシェラを抱きしめたまま歩き、アクアリアスは寝台に腰を下ろした。
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