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しおりを挟む「――!! ノルンは、大丈夫ですかっ!?」
「あら、奥様」
目を覚ました瞬間、跳ね起きたシアの叫びに、優しく答えたのはすぐ傍らにいたノルン本人だった。
「ええ、ご覧の通り。奥様のおかげで、私は無事ですよ」
微笑みながら答える目の前のノルンの姿に、シアは思わず目を潤ませる。
本当によかった、と泣き出しそうになりながら抱き着こうとするシアを「安静に」と寝台に再び寝かせながらノルンは微笑む。
「旦那様をお呼びしますね」
「!」
旦那様。その言葉に、心臓が跳ねた。
脳裏に浮かぶのは、最後に見た書庫の光景。自身の起こした爆風、飛び散る魔術の光、めちゃくちゃになった本棚、破られた窓。
どう考えても、今の書庫がとんでもない状況になっているのは、想像に難くない。
「え、ええと、」
現状を聞きたかったが、ノルンは急ぎ足で部屋を後にしていってしまった。
どうしよう、と残されたシアはうろたえ、文字通り頭を抱える。そもそも今回の件に関しては確実に犯人が悪いのだ、とは思うけれど、ただ、あんな狭い場所で考えなしに大魔法を放った自分も確実に悪い。
――エルナド様、また、わたしにがっかりなさってるのかしら。
シアはそればかり考えていた。ただただ、シアはエルナドにこれ以上呆れられたくないのだ。静かで端正なあの顔が、シアのせいで何とも言えない表情になるのをもう見たくないだけ。
布団の中であれこれを考えていると、扉が静かに開く音がした。
「ノルンから聞いた。具合はどうだ」
部屋に現れたエルナドの表情には、今のところ予想していた怒りも呆れも見られなかった。少しだけホッとしながらシアは布団から起き上がると姿勢を正し、小さく頭を下げた。言い訳をしても仕方がない、素直に謝るしかないだろう。
「ごめんなさい、エルナド様。わたし、その、書庫を、あんなにたくさん貴重な本がある場所を、めちゃくちゃにしてしまって……本当に、申し訳なく思っているの」
声が震えてしまう。エルナドは寝台に座ると、そっとシアの背に手を添えた。
「安心しろ。書庫には修復魔法がかけられた、元通りになる」
「えっ……そのようなものがあるのですか!?」
シアは弾かれたように顔を上げ、ぽかんとしたままエルナドを見つめる。
「ああ、白でも黒でもない王家の魔術だ。今回は王家扱いの事件になったためヴィンスフェルト様の許可が出た。まだ数日かかるが元にもどるそうだ」
「……よかった……」
ほうっとシアは息を吐き出す。あの書庫はシアにとっても大切な場所だ、元通りになることに心底安堵した。それに事実を淡々と告げるエルナドは相変わらず怒っても呆れてもいなさそうで、こちらを見つめる瞳は柔らかい。
「あ、あのエルナド様は、怒っていらっしゃらないのですか?」
「きみを怒る理由があるか? 結界が甘かった私の責任だ。もう少しこまめに張り直すべきだった」
「そんなことありません! お忙しい中ごめんなさい。エルナド様はずっとわたしを守ってくださっていたのですね」
不自由させてすまない、と言われていたけれど、結界が理由ならば納得する。そもそも不自由では全くなかったけれど。謝罪を告げるシアに、エルナドは静かに一度首を振る。長い黒髪がサラリと揺れた。
「いいや、黙っていてすまなかった。変に言葉にすれば、きみも気にするだろうと……怖い目に合わせた」
怖いというよりも、元来勇ましいシアはノルンを傷つけられた怒りの方が強かったけれど、心配してくれるエルナドを前にそう言うのもはばかられ、かすかにほほ笑むだけに留める。
しかしシアが攫われて万が一殺されたとなれば王命を「失敗」したことにもなるし、白と黒の亀裂が決定的にもなっただろう。
あらためてよかった、とシアは胸をなでおろした。
「でもよかったです。わたしが死んだら、王命が果たせなくなってしまいますよね。この婚姻と子作りは、ちゃんと成功させないと」
あえて明るくそう言い、シアはエルナドに向かって微笑んでみせた、が。
「違う」
「!?」
そのままエルナドに手首をつかまれてシアの身体がぐん、と引かれる。
「準備」ではなく、こんな昼間に手が触れあったのは初めてだった。
そのまま、顔を合わせて向かい合う。
「エルナド様……?」
「王命だから、守っていたわけではない」
エルナドの声は、低く静かだったが、胸の奥から搾り出されたような熱がこもっていた。その言葉に、シアは目を瞬かせて首を傾げる。
なぜか手を掴んでいるエルナド自身も戸惑っているような顔をしていた。
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