【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

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 呼んだら、気持ちが止められなくなると思っていた。
 だが、もういい。
 そしてもう、止める気もなかった。
 
 じんわりと体温が互いに伝わり溶け合っていく。熱い。
 涙に震えているその身体をなだめるように、そっと背をさすった。さらに強く抱きしめる。

「私の妻は、きみだけだ」
「え?」
「シア……きみを、愛している」

 呪詛のような”白”への思いに囚われてずっと言えずにいた言葉は、泣いている彼女を前にあまりにもあっさりと口から転げ出た。

「……無理なさらないで、そんな同情」
「同情じゃない。言葉にするのが遅くなってすまない」
「!」
「ずっと、惹かれていた。気づくのが遅かった、自覚がなかったんだ。愚かな私を許して欲しい」

 掻き抱く華奢なシアの身体、その頭にエルナドは頬を充てる。ヴェール越しの柔らかな髪、彼女のかすかな息遣いが伝わってくる。

「きみの明るくて前向きな姿。ひたむきでけなげな、すべてに全力で懸命なところ。魔術への造形が深く、尊敬に値する知識量。しかし奢ることのない穏やかなその気質。まるで妖精のような儚い姿かたちも、芯の強いたくましいきみのその性根も、その全てが愛おしい」

 言葉は止まらない。今まで堰き止められていた分が全てあふれ出るかのように、エルナドはシアに向かって想いを囁く。

「確かに、私は父と母を騙し殺した白が憎い。きっと死ぬまで、私は白を許せないだろう。……それでも、きみとの離縁を突きつけられて悟った。きみと結ばれていたい、きみを手放したくない」

 色を越えて、愛してしまった。

「……エルナド様」

 シアは胸に抱かれたまま、ぎゅっとエルナドの服を掴んだ。
 エルナドは、再びシアを優しく抱きしめた。
 今度はまるで、包むように、慈しむように。
 
 すり、と遠慮がちにシアもエルナドの胸に身を寄せた。
 最初はおずおずと、しかし次第に体重を預けて溶け合うように。
 腕の中のシアは、小さくて、やわらかくて、愛おしい。
 エルナド様、と囁かれ、シア、と愛おしげに名を呼び返した。それだけで、重なる体温はひどく熱くなっていく。毎晩、あんなに全身を辿って直接触れていたのに、身体のうちがわにさえ触れていたのに。気持ちが重なってからの抱擁は、服越しなのに焼けるように熱かった。

 ふと顔を見合わせれば、シアははにかむように瞳を閉じる。

 ――自然と唇が重なった。

 かすかに漏れる吐息。はじめは唇だけ、触れて、離れる。
 そしてまた触れて、離れて、再び唇が重なった。
 ゆっくりとエルナドはその花のような下唇に親指を添えて軽く開かせる。その中に舌を割り込ませば、シアの口腔は熱くて、甘かった。
 次第に押し付ける角度が深くなり、耐えきれなくなったシアがかすかにうめき声をあげ、縋りつくような手つきでエルナドの服を強く掴んだ。
 ちゅ、ちゅ、と唾液の音が静かな部屋に響く。エルナドの手は無意識にシアの後頭部にまわり、次第にその口づけとまさぐる舌は深く、熱くなっていく。
 
 ソファーに折り重なるように倒れ、口づけが続く。上から覆いかぶさるようにして口づければ、んっ、とかすかに甘い声を上げてシアは再びうめいた。
 けれどその息は苦しさではなく、溶けるような甘さに満ちている。ゆるんだ唇の隙間から再び入ったエルナドの舌が、そろりとシアの小さな口腔を歯列に沿って撫で上げる。
 最初は溺れそうな呼吸だったシアも、次第に受け止め慣れ、こたえるように舌をからませ、互いの境界が次第に溶けていった。
 

 離れたくない。離したくない。
 一度離れても、またどちらからともなく口づける。
 ふたりの初めての、キスだった。

 ひとしきり口づけあい、浮かされる脳内をなだめつつ、エルナドはようやく上体を起こして唇を離した。
 眼下のシアを愛おしく見つめ、瞳に溜まっている涙をそっと指でぬぐってやる。

「えるなど、さま……」

 ぼうっとした様子のシアが、ぱちぱちと瞬きをする。

「最初の時、も、ぬぐって、くださいましたよね……?」
「最初?」
「わたしたちが、最初に出会った、夜です。あの時は、何もわからなかった、何も、知らなかった――」

 そう言って、うっすらと瞳を細めてシアは笑った。
 唾液で濡れた艶やかな花のような唇。潤んだ瞳で惚けたように自分を見上げる、愛しい女。
 唇は小さく花開き、アメジストの瞳はきらきらと瞬いている。
 白い頬が真っ赤に染まっているのが愛らしく、この頬を染めたのが自分だという満足にも似た甘い気持ちが胸に広がる。

「こんなに、人を好きになることがあるんだと。こんなに、愛おしい人がいるのだと。あなたに出会って、初めて、知ったの」
「シア」
「いやです、絶対に離れたくない……! ずっと、一緒にいたいのです」
「私もだ」

 ――決して、彼女を離さない。
 王命であっても、従う気はなかった。

 激しい口付けで、互いの衣服は乱れている。
 シアの髪のヴェールは取れ、ソファーに転がっていた。綺麗な編み込みも崩れてしまった、そのやわらかな白金の髪に触れる。
 そのまま手を下ろして白い頬に触れた。エルナドの指先は、まるで初めてシアにさわるかのように緊張して震えている。今まで散々、あらぬ箇所にも触れていたのに、と自分で自分を笑う。

「シア。私と、結婚して欲しい」

 そっと、優しい手つきのまま、エルナドは大きな掌でシアの両頬を掴む。
 そして身をかがめると、誓いのように優しく口づけを落とした。

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