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謁見の間に入る。
さきほどと同じ場所なのに、まるで別の場所のように思えた。
天井からのまばゆい明かりに照らされても、シアの体は震えない。しっかりと両足で立ち、目の前の王を見つめた。
十段の上の玉座。その上に座る人物、ヴィンスフェルト王。
短い銀糸の髪が光を受けてほのかにきらめく。虹彩の瞳は何色とも言えぬ不思議な色をたたえ、シアとエルナドを見下ろしていた。
さっきと変わらず、謁見の間には王の側近である黒騎士と白フードの魔術師しかいない。
「エルナドくん、シアちゃん。ええと、書類を書いてもらおうと思ったんだけど……どうやらそんな雰囲気じゃないみたいだね?」
王の声は、なぜか軽やかだった。
「まぁ、だいたい想像はついてるけど聞かせてよ」
エルナドが一歩前に出た。優しく手を引かれ、シアもその隣に立つ。
「陛下。婚姻の解消は受けかねます。私は、シアを愛しているのです」
言葉は短く、率直だった。
続いてシアもまた、勇気を振り絞る。
指先が小さく震えそうになったが、ドレスの裾を握ることでそれを抑えた。
「お願いします、陛下。わたしたちの結婚生活を続けさせてください! エルナド様と共に未来を紡いでいきたいのです。――彼を、心から慕っているのです」
王は、しばし無言のままだった。ジッとシアたちを見つめるその虹の眼差しは鋭く、まるで心の奥を見透かすかのように鋭く光る。
そしてゆっくりと形のいい口を開いた。
「……ねえ、ふたりとも。それ、本気で言ってる?」
冷え冷えとした声だった。
「この僕が、離縁して別の人と婚姻しろって言ってるのに? 王命っていってるのに?」
じっ、と見据えてくる、その虹の瞳はひどく険しい。
気おされそうになる、けれどシアは負けなかった。
隣にいるエルナドの手をぎゅ、と握ったまま、はい、と強く睨み返す。
わずかな沈黙。
そして――ヴィンスフェルトは、口元にかすかな笑みを浮かべた。
「ふふ――。ね、ほら、やっぱりこうなったよ!」
虹色の瞳が和らぎ、彼は息を吐いて足を組む。そして両手を芝居がかったように高らかに上げる。
「やっぱり、愛は偉大だねぇ! いいよ、ふたりとも。末永くお幸せに」
「……へ、陛下?」
怒るか、冷ややかに否定するか、それとも極刑か――
そんな覚悟を決めていたシアには、目の前の王の突然の行動と言葉が理解できなかった。
頭の中に疑問符が並ぶ。いいよ、ということは許可されたということ? でも、どうして??
さきほどと同じ場所なのに、まるで別の場所のように思えた。
天井からのまばゆい明かりに照らされても、シアの体は震えない。しっかりと両足で立ち、目の前の王を見つめた。
十段の上の玉座。その上に座る人物、ヴィンスフェルト王。
短い銀糸の髪が光を受けてほのかにきらめく。虹彩の瞳は何色とも言えぬ不思議な色をたたえ、シアとエルナドを見下ろしていた。
さっきと変わらず、謁見の間には王の側近である黒騎士と白フードの魔術師しかいない。
「エルナドくん、シアちゃん。ええと、書類を書いてもらおうと思ったんだけど……どうやらそんな雰囲気じゃないみたいだね?」
王の声は、なぜか軽やかだった。
「まぁ、だいたい想像はついてるけど聞かせてよ」
エルナドが一歩前に出た。優しく手を引かれ、シアもその隣に立つ。
「陛下。婚姻の解消は受けかねます。私は、シアを愛しているのです」
言葉は短く、率直だった。
続いてシアもまた、勇気を振り絞る。
指先が小さく震えそうになったが、ドレスの裾を握ることでそれを抑えた。
「お願いします、陛下。わたしたちの結婚生活を続けさせてください! エルナド様と共に未来を紡いでいきたいのです。――彼を、心から慕っているのです」
王は、しばし無言のままだった。ジッとシアたちを見つめるその虹の眼差しは鋭く、まるで心の奥を見透かすかのように鋭く光る。
そしてゆっくりと形のいい口を開いた。
「……ねえ、ふたりとも。それ、本気で言ってる?」
冷え冷えとした声だった。
「この僕が、離縁して別の人と婚姻しろって言ってるのに? 王命っていってるのに?」
じっ、と見据えてくる、その虹の瞳はひどく険しい。
気おされそうになる、けれどシアは負けなかった。
隣にいるエルナドの手をぎゅ、と握ったまま、はい、と強く睨み返す。
わずかな沈黙。
そして――ヴィンスフェルトは、口元にかすかな笑みを浮かべた。
「ふふ――。ね、ほら、やっぱりこうなったよ!」
虹色の瞳が和らぎ、彼は息を吐いて足を組む。そして両手を芝居がかったように高らかに上げる。
「やっぱり、愛は偉大だねぇ! いいよ、ふたりとも。末永くお幸せに」
「……へ、陛下?」
怒るか、冷ややかに否定するか、それとも極刑か――
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