【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

文字の大きさ
90 / 94
エピローグ/後日談

44:お薬の量は守りましょう!④

しおりを挟む

「媚薬、か」
「ええ、そう」
「…………。どういうことか、説明してくれるな?」
「……」

 恥ずかしい。
 もう本当に、自室に走って帰って鍵をかけて閉じこもってしまいたい。
 でも嬉しい。抱きしめられて、この距離で見つめてもらえて。
 相反するふたつの感情を入り混じらせながら、シアはただもじもじとしていた。

 寝台の上に座ったエルナドの腕に横抱きに抱きしめられたままだ。ただじっとシアを見つめてくる、エルナドからじっと注がれ続ける瞳の力の強さに負けおずおずと目線を上げれば、すぐにその美しい黒瞳とかちあった。
 
 予想していたよりも、優しい瞳だった。奥にある藍色の虹彩が星のようにまたたいている。
 そう言えば寝衣姿のエルを見るのも久しぶりだわ、と思う。眠る前だからか、軽く右肩で束ねられている黒髪がさらりと落ちてシアに触れている。
 いい匂いがする。安心する、愛しい彼の香りだ。
 
「あなたとずっと……あえなくて」
「……。一緒に寝ているだろう?」
「あなたは……っ、あなたにとってはそうかも、しれないけれど……! わたしにとっては、ただのなまごろしだわ……。その……えっちなおくすりをのんで、その、いろっぽくして、あなたにとつげきする、か……あなたもそのきになって、おそってくれないかなって……おもった、の」

 言葉にだすと、とんでもない計画だわ、とシアは自分自身に呆れた。
 怒られても当然だし呆れられても仕方ない、と思っていたけれど、エルナドの表情に呆れは見当たらなかった。
 ただどこか、怒ったような、恥ずかしそうな、何とも言えない瞳で自分を見ている。

「エル?」
「……なんだ」
「おこった、わよね? ごめんなさい、かんがえが、たらな、くて……」

 その言葉に首を振ると、エルナドはそっとシアを寝台に寝かせた。
 本当に怒ってはいないようでシアはホッとするけれど、同時に忙しい彼に心配をかけてしまったことへの罪悪感がじくじくと湧いてきた。

「あのね、わかってる、わかってるのよ? あなたのいいたいこと……いつもみたいに、なんでこんなことをしたんだ、よくわからないことに、むやみにつっこんでいくなって、っていいたいんでしょう……?」

 慌ててそう言えば、エルナドはフッとその瞳を細めた。
 そしてシアの頬を、あやすようにそっと擦る。

「よくわかっているな」
「……でも……でもね、その……エルはずっと、おうめいで、あの、わがままなおうさまの、せいで、まどうぐのことばっかり……!! ……わたし、さみし、かったの……さみしかった」

 思ったよりも小声になってしまったけれど、それでも伝えられた。
 そのまま、シアは瞳を伏せて一息に告げる。

「……あ、あのね。べつにわたし、あの、ええと、あんな、ことしてるのみられちゃったけれど、あなたとエッチなことがしたいわけじゃないの、ほん、とうよ? ええと、したくないわけじゃなくて、むしろしたいのだけれど、ええと、そういうことじゃなくて……! ひとりで、したけれど、ぜんぜん、ちがう、そうじゃ、なくて、ちがって、いて」

 息が上がる。それでも、伝えたかった。
 熱い身体同様、心も熱く燃えている。

「エルが、エルがいてくれればよかったの、あなたがほしかっただけ……。わかっちゃった、の。ただ、ぎゅって、してくれるだけでいいの、そばにいて、あなたがほしいの……。それだけで、いい……おねがい……。エルの、こと、かんじたいの……さみしくて」
 
 そう言って、そのままシアは腕を伸ばす。
   そして、エルナドの身体をぐい、と引き寄せてその身体をだきしめた。

 寝衣を通して伝わってくる、彼の鼓動。あたたかな体温と、しっかりとした体躯に無意識に頬を擦りつけてしまう。反省をするような言葉を吐きながら、それでも媚薬の残る身体は本能のままに彼の身体を求めてしまっていた。


 初めて、出会った時。
 あの時は知らなかった。彼にとって白が「嫌い」ではなく「憎む」べき相手だったこと。
 あの静かな表情の下で、ひどく彼の心が荒れくるっていたことを。
 自分に対してひどい扱いをしてもよかったのに、エルナドは、ずっといつでもシアを尊重してくれた。
 ひとりの人間として、公明正大、常に冷静であるエルナドを、シアは尊敬し、愛している。
   ――何も知らずにいた、孤独で無知だったシアの全てを、救いあげてくれた彼を愛しているのだ。


 今まさにこうして体温を分けてくれている事実に、ただただ嬉しさと、心配をかけた申し訳なさが募る。
 忙しいエルにこんな心労をかけて、迷惑をかけるなんて、と素直に思う。情けなさがじくじくと心を責めるけれど、それ以上にエルにこうして心配されて、触れられている手のひらが嬉しくてたまらない自分はどうしようもない。

 ひとしきり、じっとしていた。呼吸がようやく落ち着いてきたような気がする。

「ごめんなさい、……びっくり、させて。でも、うれしいの……あなたにめいわく、かけて……わたし、よろこんじゃってるの……ダメ、ね」
「……。ダメじゃない」

 吐息が漏れる。大きな手のひらが頬を指でたどる。
 いつも自分を愛し、慈しんでくれるこの手。うっとりと自分の手のひらをその上にあてれば、エルナドはもう片方の手のひらでシアの頬を包んだ。


「ごめんなさい……ほうって、おいて、だいじょうぶ、よ。みずでもあびれば、きっと、おさまる、から」
「シア」

 あなたはゆっくりやすんで――そんな言葉を続けようとした瞬間、顔を寄せてきたエルナドの瞳の奥に「この先」を悟って、シアは静かに目を閉じた。
 
 吐息が重なった。柔らかくて、優しくて、甘い。
 一度離れて、また口づけられて、そしてゆっくりと離れた。
 ああ、ずっと、こうされたかったのだ――という喜びが今、身体中にあふれていく。

「……すまない。ずっと我慢させてしまったんだな。私がこういう機微に疎いから、きみにこんなことをさせてしまった」
「エル……っ、える、ぅ……っ……ううん、わたし、わたしがいけないの」
 
 気遣う言葉と口づけの暖かさに、また涙が頬をつたう。

「あなたがいそがしいの、わかっていたのに。ちゃんといえば、こんな、………ごめん、なさいっ、さみし、かったの……ごめん、なさい……」
「いや、すまなかった。私は寝ているシアを抱きしめられていたが、きみはそうではないものな」
「!」
「……それに、シアはいつも人に囲まれているから、てっきり私などいなくても楽しく過ごしているのかと思っていた」
「え?」
「使用人たちも、皆、きみを可愛がっているしな」
「……た、たしかに、みんなはだいすき、だけれど……あなたへのすきは、ちがうわ?」
「きみを欲しているのは私だけかと思っていたんだ」
「……エルだって、まどうぐの、ことばっかり……」


 そんな風に思っていたなんて、と今度はシアが目を見開く番だった。
 頬の涙をぬぐわれ、そろりと閉じている唇に舌が這わせられれば、ん、ぁ、と条件反射で口が開いた。瞬間、そのまま噛みつくように勢いよく口づけられて、シアはそのまま寝台に押し付けられるように手首を掴まれる。

「っふ、ぅ、ぅう……っ」

 水音が脳内に響くように、エルナドの熱い舌が、シアの口腔を蹂躙するように荒々しく這いまわる。んぁ、あ、あ、と鼻にかかった声が出てしまい、かすかにエルナドが笑ったのがわかった。

 誰に言ってもなかなか信じてもらえないけれど、夫はシアとふたりの時は存外によく笑う。目を細めたり、低く喉奥から出るその優しい笑みがシアは好きだった。
 激しい口づけから、ゆっくりと唇が離れる。甘い吐息が顔にあたっていた。
 エルナドの息もあがっている。もしかして、この口づけで媚薬がうつっちゃったのかしら……とぼんやり思った瞬間、自分の上に乗っているエルナドが薄く唇の端を上げて笑った。

「エル……?」
「……ここまで用意されておいて、さすがに何もしない、というわけにはいかないな」
「そうよ……そう、にきまってるじゃない……だって、こんなに、だいすき、なのに」

 そう言ったシアに、エルナドはまた低く息を漏らして笑った。

「シアこそ、私がどれだけ我慢していたか知らないだろう」
「が、まん……? そう、なの?」
「そうだ」
 
 つつ、とシアの首筋にあるほのかな赤い痕に指を置いて、エルナドは耳元で囁いた。

「こんな痕をつけるだけで我慢していた私を、褒めて欲しいくらいにはな」
「!」


 さっきまでの穏やかな、シアの身体を心配して慌てていた姿は見る影もない。
 じっとりと色香に濡れた声。少しかすれた低い声で囁くエルナドに、シアの背筋がぞくぞくとざわめく。
 
 大きな手のひらがシアの身体に触れ、するりと寝衣が肩から落としていった。

 熱い身体が、燃えている。
 愛しい夫に身体を預けるように、シアは静かに瞳を閉じた。




 (続)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜

湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」 「はっ?」 突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。 しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。 モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!? 素性がバレる訳にはいかない。絶対に…… 自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。 果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。

【完結】呪いを解いて欲しいとお願いしただけなのに、なぜか超絶美形の魔術師に溺愛されました!

藤原ライラ
恋愛
 ルイーゼ=アーベントロートはとある国の末の王女。複雑な呪いにかかっており、訳あって離宮で暮らしている。  ある日、彼女は不思議な夢を見る。それは、とても美しい男が女を抱いている夢だった。その夜、夢で見た通りの男はルイーゼの目の前に現れ、自分は魔術師のハーディだと名乗る。咄嗟に呪いを解いてと頼むルイーゼだったが、魔術師はタダでは願いを叶えてはくれない。当然のようにハーディは対価を要求してくるのだった。  解呪の過程でハーディに恋心を抱くルイーゼだったが、呪いが解けてしまえばもう彼に会うことはできないかもしれないと思い悩み……。 「君は、おれに、一体何をくれる?」  呪いを解く代わりにハーディが求める対価とは?  強情な王女とちょっと性悪な魔術師のお話。   ※ほぼ同じ内容で別タイトルのものをムーンライトノベルズにも掲載しています※

【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております

紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。 二年後にはリリスと交代しなければならない。 そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。 普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

【R18】熱い夜の相手は王太子!? ~婚約者だと告げられましたが、記憶がございません~

世界のボボブラ汁(エロル)
恋愛
激しい夜を過ごしたあと、私は気づいてしまった。 ──え……この方、誰? 相手は王太子で、しかも私の婚約者だという。 けれど私は、自分の名前すら思い出せない。 訳も分からず散った純潔、家族や自分の姿への違和感──混乱する私に追い打ちをかけるように、親友(?)が告げた。 「あなた、わたくしのお兄様と恋人同士だったのよ」 ……え、私、恋人がいたのに王太子とベッドを共に!? しかも王太子も恋人も、社交界を騒がすモテ男子。 もしかして、そのせいで私は命を狙われている? 公爵令嬢ベアトリス(?)が記憶を取り戻した先に待つのは── 愛か、陰謀か、それとも破滅か。 全米がハラハラする宮廷恋愛ストーリー……になっていてほしいですね! ※本作品はR18表現があります、ご注意ください。

完結(R18 詰んだ。2番目の夫を迎えたら、資金0で放り出されました。

にじくす まさしよ
恋愛
R18。合わないと思われた方はバックお願いします  結婚して3年。「子供はまだいいよね」と、夫と仲睦まじく暮らしていた。  ふたり以上の夫を持つこの国で、「愛する夫だけがいい」と、ふたり目以降の夫を持たなかった主人公。そんなある日、夫から外聞が悪いから新たな夫を迎えるよう説得され、父たちの命もあり、渋々二度目の結婚をすることに。  その3ヶ月後、一番目の夫からいきなり離婚を突きつけられ、着の身着のまま家を出された。  これは、愛する夫から裏切られ、幾ばくかの慰謝料もなく持参金も返してもらえなかった無一文ポジティブ主人公の、自由で気ままな物語。 俯瞰視点あり。 仕返しあり。シリアスはありますがヒロインが切り替えが早く前向きなので、あまり落ち込まないかと。ハッピーエンド。

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

処理中です...