【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

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エピローグ/後日談

8.はじめてのお留守番(1)

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 結婚後 ほのぼの話
 エピローグ1の後の時間軸
 はじめての お留守番

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 その日のニグラード邸の朝も、いつものように静かで穏やかな空気が漂っていた。

 朝霧がまだうっすらと庭を包む時刻、広い窓からはやわらかな光が射し込んでいる。
 鮮やかなまでに白いテーブルクロスの上には料理長バルクホルンの手による朝食が美しく並べられていく。
 焼きたてのパンは香ばしく、湯気の立つ卵料理はふわふわ。香草のきいたスープは、ほっとする香りを立てていた。体調を整えるための薬草が風味を損なわないように使われていることは、バルクホルンだけが知っている。
 忙しい旦那様と、食の細い奥様にも、栄養が優しく届くように。
 見た目は素朴でも、そのどれもに手間と心がこもっている。今朝もそんな彼の思いが込められた献立だった。

 向かい合って席に座り、エルナドとシアは静かに食事を始める。
 交わす言葉はそう多くはない。けれど共にあることが何よりも幸せな二人は、目線を交わし合い微笑み合っていた。

「今日も美味しいわ、バルク。ありがとうね」
「おおシア様、ありがたき幸せ。坊ちゃんはいかがですか、ほっぺた落ちます?」
「頬は落ちない」
「もう坊ちゃん! 素直じゃないんですからぁ」

 目の前の、もはや毎朝おなじみとまでなった気のいい料理長と無表情の愛しい夫のやり取りを見ながら、シアは幸せをかみしめていた。
 昨晩自分を丹念に愛してくれたその大きな手のひらと指先が、今は静かにナイフを握っている。
 ぼんやりと清廉な朝食の席でそんなことを思い出す自分を心の端で恥ずかしく思いながら、シアは自身もスプーンを手に取り口に運ぶ――そんな折、静かに扉が開いた。

「失礼いたします。……旦那様、これが」

 キビキビとした姿勢で入ってきたのは、片眼鏡モノクルをかけた老執事・ヴィッセル。
 背筋をまっすぐに伸ばした彼の手には、一通の書簡があった。

「!」

 その書簡を見た瞬間、エルナドの形のいい眉がひそめられる。
 金の印章の上に、見慣れた紋章。
 王都からの、直々の命令書――王命だ。
 食事の手を止めて、エルナドはその書簡を受け取って開くとかすかに目を細めた。

「……シア」

 低く落ち着いた声。
 急に名を呼ばれ、スープをすくっていた動きを止めてシアは顔を上げる。

「エル? どうかしたの?」

 エルナドは書簡に一度目を落とし、それから再びシアへと向き直る。

「王命だ。私は今夜からしばらく王都の魔道具研究所に詰めることになった。留守を頼む」

 王命。王都。魔道具研究所。そして、留守を頼む。
 言葉としては理解できても、突然の言葉にシアは目を見開く。
 きょとんとしているシアに、説明してくれたのは書簡を持ってきたヴィッセルだった。

 魔道具。この国で普及している魔力を流すことで様々な効果を生み出す道具。
 すでに生活の内外に取り入れられているその技術は、ランプや水やりの道具としての簡単なものから、大規模なものでは王都の上水道施設などにも使われてる。
 元々は先々代のニグラード当主、つまりエルナドの祖父が開発したもので、昔はここ、ニグラードでのみ作られていたらしい。

「魔道具の力は偉大ですから、現在ではその全ての権限は王家預かりとなっておりまして、そのための研究施設が王都に置かれているのですよ。そして坊ちゃんはニグラード家の当主として、その施設の責任者でもあられるのです」
「……ねえ、ヴィッセル? それって、なんだかとってもすごい事に聞こえるのだけれど?」

 そう言ったシアに、片眼鏡を光らせてこっくりと頷くヴィッセル。
 有能な執事は、まるで孫を自慢する爺のように胸を張る。

「そうなのですよ、坊ちゃんはとってもすごい方なのです」
「そうね、エルは本当にすごいもの。つまり、その施設でエルの力が必要とされて呼ばれたということなのね?」
「その通りでございます。坊ちゃんの発想力とそれを形にする技術と知識量は王国随一ですからね」
「ヴィッセルの言うとおりだわ。でも王国一じゃなくてきっと世界一よ?」

「……」
「坊ちゃんは、本当に愛されてますなぁ」

 目の前で執事と妻に褒め殺され、何と言っていいかわからない表情をしているエルナド。
 ちょうど次の料理を運んできた料理長のバルクホルンがニヤニヤしながら彼をからかい、無言でその腕をはたかれていた。

「……。ともかく。王命の内容はかかれていないが、おそらく新たな魔道具の開発だろう。いつも通り数週間は戻れないと思う」
「はい。留守はお任せください、坊ちゃん」
「えっ、数週間……?」

 当たり前のように頷くヴィッセル。そして思わず聞き返してしまったシアの言葉にエルナドは静かに頷いた。

「できるだけ早く帰るつもりだが、一ヶ月は見ておいてもらったほうがいい。王の無茶振りがあるからな」
「無茶振り……」
「何というか、ヴィンスフェルト様は感覚でものをお伝えになる。だから彼の意にそぐうものを作り上げるのは難しい」

 エルナドの言葉に、想像がつくわ、とシアはあの銀髪虹瞳のやりたい放題「絶対王」の姿を思い出していた。



 
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