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エピローグ/後日談
7.宴のあとで(終)
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身づくろいを整え、そっとシアを夫婦の寝室に寝かせる。
シアの自室のソファーは酷いことになってしまったが、ノルンがきっとなんとかしてくれるだろう。
そもそも当主である自分に「妻の着替え」を頼んできた侍女長のノルン、そしてわざわざ明日の公務を総て休みにしたと告げてきた執事のヴィッセル。
「こう」なっていることは彼らには予測済みだろうと思えた。
しかし、やってしまった。
酒のせいにしたかったが、酔いのせいでは決してない。
自分は、シアがそう思うところにつけこんだ悪い男である。
意識ははっきりとしていた。だからこの節操のない乱れた性交は、全て自分のせいでしかない。
反省も、少しばかりの後悔もしながら、エルナドはシアの身体を抱き込むようにその隣に横になった。
期せずして、”黒”に対してのシアの披露パーティーとなってしまった今日。
ひたすらに気を張り、ひとりの”白”として悪意も受け止め、さらりと流し、美しくそこにあった妻にエルナドは改めて惚れ直していた。
シアは美しいだけではない。愛らしくかわいらしいその外見も素晴らしいが、なによりもその心根をエルナドは愛していた。
強かで、しなやか。そして明るさを失わず、どんな時でも前向きだ。
今日も一日、本当にニグラードの女主人として頑張ってくれた。
だからこそ、今日はただひたすらに優しく甘く蕩かしてやりたい、と、思っていたのに。
――こんなことをしておいて、どの口が。
寝台で眠る彼女の身体をそっと背後から抱きしめながら、自嘲じみた笑みを浮かべる。
途中から意識も薄れかけていたのだろう、今現在もまるで人形のように眠るシア。
大切にしたい。甘やかしたい。蕩かしてあげたい。
そんなことを思いながら、いつも今日のような身体の重ね方をしてしまう。
本当にままならない。愛する雌を孕ませたい、という雄の本能だろうか。
シアを前にすると、あらゆる我慢ができなくなる。十近くも年上だというのに、今までの経験も、自分のそれなりにあると思っていた理性も、何ひとつ役に立たないのだ。
そっとシアの体を抱き込みなおし、その薄い腹に手を置いた。
シアの胎奥に、子の兆しはまだない。
焦りも、厭いもない。だがいつか、自分の子種がシアのなかで実を結ぶことをエルナドは心から願っていた。
命を成して欲しい。ふたりの子が欲しい。その想いは身体を重ねるたびにますます強くなる。
本能で感じているのだ。
彼女に、自分の子を孕んで欲しいと。
「シア……」
こみ上げる想いが止められなくて、汗ばんだ白く細い首に噛みつくように口づける。
以前は衣服で隠れる場所にしかつけなかったその愛する痕も、いまではすれすれのところを狙ってしまう、そんな自分はやはり独占欲が強いのだろうと思う。
違う男がシアに触れようとしていると、それだけで心が波立つ。
想像だけで昏い気持ちになる自分を、思わず嗤ってしまった。
昔の自分が、今の自分をみたら、文字通り腰を抜かすだろう。
シアと出会う前は他人に執着などしなかった。
他者は他者、自分は自分。興味も薄く、そんな自分は生涯変わることなどないと思っていたのに。
もう一度、首筋に強く吸いつき痕を付けてしまう。
さすがに起きたら、シアは怒るだろうか。
でも怒っている姿も可愛いからな、と、そんなことを考えている自分は重傷だ。
「ん……、エ、ル?」
「シア……。寒くないか?」
うっすらと目を開けてこちらを振り仰いだ彼女を、そんな理由をかこつけてそっと胸元に強く抱き寄せる。
抱き心地のいい柔らかな小さな体。
自分の身体ですっぽりと覆えてしまう華奢な体に、愛おしさが募った。
改めて、彼女の体躯を揶揄した相手が許せない。
シアは「やめて」と言っていたが、エルナドは何がしかの手段を取ろうとすでに算段を付け始めていた。
ニグラードの女主人を嘲ったという意味でも、シアを傷つけたという意味でも、その罪は重い。
魔道具開発と薬師の総括であるニグラード家を敵に回すとどうなるかをしっかりと教えてやった方がいいだろうな、と心の奥のほの昏い部分で思った。
エルナド自身、名家であるニグラードの威光を振りかざすのは嫌いだ。
だが、それはそれ、これはこれ。使えるものはとことん使う主義である。
「エル、どう、したの……? ちょっと、こわいかおしてるわ」
達しすぎた体が、まだ辛いのだろう。
意識が遠いのか、自分をシアがどこかあどけなさを感じる声で見上げてくる。
「そんなことはない。きみのことだけを考えていた」
「ほんとうに?」
「ああ」
「でも、なんだか……こわいかおよ?」
何でもないよ、と自分でも驚くくらい甘い声が出る。
そしてエルナドは、シアをあやすようにその額に口づけたのだった。
■
宴のあとで これにて完です
お付き合い ありがとうございました!
明日からは新しいエピローグのお留守番するシアのお話を載せていきます。
シアの自室のソファーは酷いことになってしまったが、ノルンがきっとなんとかしてくれるだろう。
そもそも当主である自分に「妻の着替え」を頼んできた侍女長のノルン、そしてわざわざ明日の公務を総て休みにしたと告げてきた執事のヴィッセル。
「こう」なっていることは彼らには予測済みだろうと思えた。
しかし、やってしまった。
酒のせいにしたかったが、酔いのせいでは決してない。
自分は、シアがそう思うところにつけこんだ悪い男である。
意識ははっきりとしていた。だからこの節操のない乱れた性交は、全て自分のせいでしかない。
反省も、少しばかりの後悔もしながら、エルナドはシアの身体を抱き込むようにその隣に横になった。
期せずして、”黒”に対してのシアの披露パーティーとなってしまった今日。
ひたすらに気を張り、ひとりの”白”として悪意も受け止め、さらりと流し、美しくそこにあった妻にエルナドは改めて惚れ直していた。
シアは美しいだけではない。愛らしくかわいらしいその外見も素晴らしいが、なによりもその心根をエルナドは愛していた。
強かで、しなやか。そして明るさを失わず、どんな時でも前向きだ。
今日も一日、本当にニグラードの女主人として頑張ってくれた。
だからこそ、今日はただひたすらに優しく甘く蕩かしてやりたい、と、思っていたのに。
――こんなことをしておいて、どの口が。
寝台で眠る彼女の身体をそっと背後から抱きしめながら、自嘲じみた笑みを浮かべる。
途中から意識も薄れかけていたのだろう、今現在もまるで人形のように眠るシア。
大切にしたい。甘やかしたい。蕩かしてあげたい。
そんなことを思いながら、いつも今日のような身体の重ね方をしてしまう。
本当にままならない。愛する雌を孕ませたい、という雄の本能だろうか。
シアを前にすると、あらゆる我慢ができなくなる。十近くも年上だというのに、今までの経験も、自分のそれなりにあると思っていた理性も、何ひとつ役に立たないのだ。
そっとシアの体を抱き込みなおし、その薄い腹に手を置いた。
シアの胎奥に、子の兆しはまだない。
焦りも、厭いもない。だがいつか、自分の子種がシアのなかで実を結ぶことをエルナドは心から願っていた。
命を成して欲しい。ふたりの子が欲しい。その想いは身体を重ねるたびにますます強くなる。
本能で感じているのだ。
彼女に、自分の子を孕んで欲しいと。
「シア……」
こみ上げる想いが止められなくて、汗ばんだ白く細い首に噛みつくように口づける。
以前は衣服で隠れる場所にしかつけなかったその愛する痕も、いまではすれすれのところを狙ってしまう、そんな自分はやはり独占欲が強いのだろうと思う。
違う男がシアに触れようとしていると、それだけで心が波立つ。
想像だけで昏い気持ちになる自分を、思わず嗤ってしまった。
昔の自分が、今の自分をみたら、文字通り腰を抜かすだろう。
シアと出会う前は他人に執着などしなかった。
他者は他者、自分は自分。興味も薄く、そんな自分は生涯変わることなどないと思っていたのに。
もう一度、首筋に強く吸いつき痕を付けてしまう。
さすがに起きたら、シアは怒るだろうか。
でも怒っている姿も可愛いからな、と、そんなことを考えている自分は重傷だ。
「ん……、エ、ル?」
「シア……。寒くないか?」
うっすらと目を開けてこちらを振り仰いだ彼女を、そんな理由をかこつけてそっと胸元に強く抱き寄せる。
抱き心地のいい柔らかな小さな体。
自分の身体ですっぽりと覆えてしまう華奢な体に、愛おしさが募った。
改めて、彼女の体躯を揶揄した相手が許せない。
シアは「やめて」と言っていたが、エルナドは何がしかの手段を取ろうとすでに算段を付け始めていた。
ニグラードの女主人を嘲ったという意味でも、シアを傷つけたという意味でも、その罪は重い。
魔道具開発と薬師の総括であるニグラード家を敵に回すとどうなるかをしっかりと教えてやった方がいいだろうな、と心の奥のほの昏い部分で思った。
エルナド自身、名家であるニグラードの威光を振りかざすのは嫌いだ。
だが、それはそれ、これはこれ。使えるものはとことん使う主義である。
「エル、どう、したの……? ちょっと、こわいかおしてるわ」
達しすぎた体が、まだ辛いのだろう。
意識が遠いのか、自分をシアがどこかあどけなさを感じる声で見上げてくる。
「そんなことはない。きみのことだけを考えていた」
「ほんとうに?」
「ああ」
「でも、なんだか……こわいかおよ?」
何でもないよ、と自分でも驚くくらい甘い声が出る。
そしてエルナドは、シアをあやすようにその額に口づけたのだった。
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宴のあとで これにて完です
お付き合い ありがとうございました!
明日からは新しいエピローグのお留守番するシアのお話を載せていきます。
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