【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

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エピローグ/後日談

14.はじめてのお留守番(7)

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 予定より半日早く、王都からの馬車がニグラード邸の前に滑り込んだ。
 すでに夜は深く、黒々とした空には黒の守護たる月が冴え冴えと輝いている。
 
 約一ヶ月ぶりの我が家だ。
 玄関前で待っていたのは、執事長ヴィッセルだった。 
 ランプの明かりを携え、胸元に手を当てて深々と一礼する。

「坊っちゃん、おかえりなさいませ。奥様はすでにお休みになられております」
「わかった、留守中は」
「変わりございません」
「そうか」

 エルナドは軽く頷き、外套をヴィッセルに預ける。
 館の内外は静かだった。
 だが、それは寂しさではなく、どこか懐かしく心地の良い静けさだ。
 






 湯浴みを済ませたあと、大きな音を立てぬよう夫婦の寝室の扉をそっと開ける。
 室内は薄暗い。寝台近くの淡いその光だけが静かに揺れていた。

 天蓋付きの広い寝台。
 ふかふかとした白い布団の中、シアは小さな背を丸めて眠っていた。
 窓からのカーテンを透かす、月光に照り映える白金の髪。掛布を胸元まで抱き寄せ、まるで誰かをぎゅっと抱きしめるかのようにして眠っている。その姿はあまりにいじらしく、そして愛おしかった。

「……シア」

 起さないように、それでも名を呼びたくて。
 静かに囁くような声で、エルナドは寝台の端に腰を下ろして彼女の髪をそっと撫でた。
 その柔らかな感触に、指先がじんと温かくなる。帰ってきた。本物の彼女に触れられるのだ。
 起こしてしまうかもしれないと思うのに触れる手が止められない。
 すり、と髪から手を頬へ滑らせる。

「……エル……?」

 まぶたがうっすらと持ち上がり、夢の狭間にいるような瞳がこちらを見つめた。
 そして、にこり、とその瞳が微笑む。
 神々しくすらあるその笑顔。一瞬見惚れた、次の瞬間だった。

「……!! エルっ!」

 ゆったりと布団の中から跳ね起きたシアが、ばふっと勢いよく抱きついてきた。
 思わぬシアの行動に、寝台に押し倒されるような格好になる。
 エルナドの上に馬乗りになり、上からのぞき込んでくるシアはとろんとした瞳のまま、ふふと嬉しそうに微笑んだ。

「今日の夢は本物みたい。エルのにおいまでするのね……」
「シア……? っ、」

 すん、と胸元に鼻を寄せるその姿に、のんびりした口調。
 寝衣が寝乱れてくずれ、合わせ目からは胸元がたわんで覗いている。
 夢ではない、帰ってきたんだ、と伝えようとしたその唇は、シアのそれで柔らかく塞がれてしまった。

「……っ!」
「んっ、エルっ、ん……っ」

 押し当てられる唇に驚く間もなく、彼女の細い腕が自分に伸べられる。
 頬に触れる指先――とろんと潤んだ瞳が、夜の光に揺れていた。

「はぁ、え、るっ、ん……んっ」

 触れては離れる唇。柔らかくて、熱く、濡れている。
 体の熱が、高まっていって止められない。そっと頬に触れ返せば自分の熱も止められず、熱く火照る舌を絡めた。
 舌を吸い、かさね合わせるように先端をそり、と撫でれば、シアの体はひくんと跳ねる。
 熱い。しっとりとした唾液が絡み合い、水音を部屋に響かせていった。

「エル……エルっ、今日は触れてくれるのね……うれ、しい……っ、ねえもっと、ふれて、さわって、愛して……ねえ、エル、さみしかったの、さみしいのっ」

 唇を離しては合わせ、再び離して甘えるシアの声は熱を帯びて震えている。
 思いが溢れてとまらないとでも言うように、シアは自分の身体にその柔らかな肢体を擦り付けてきた。
 白く、小さいその身体。
 すべらかな肌の感触が、エルナドの体の熱を煽っていく。
 
「……エルのこと、本当に好きなのよ。さみしいの、ねえ、つらいの。けど……あなたが頑張ってるの、わかるの、誇らしいの」
「シア」
「あなたの頭脳と優しさを、わたしだけがもらっていてはいけないって思うの、わかるのよ……でも、でも……ひどいじゃない、こんな、ずっと、あなたがいない、なんて、わたし……っ」

 自分の胸にすがりつき、涙をこぼすシア。
 せつなげに、苦しげに、言葉を吐き出すその姿。
 そっと髪を撫でる。腰に手を伸ばして、シアを強く抱きしめた。

「……さみしい思いをさせたな」
「エル……!」

 きゅうっとエルナドのガウンを握りしめるシア。
 抱きついたまま、かすれた声で小さく呟く。

「……夢なのに、あったかいわ……幸せ……」

 エルナドはそっと彼女の頬を包み、一度丁寧に口づけると優しく囁いた。

「夢じゃない、シア」
「……えっ?」
「ただいま」

 ふっと、時が止まったような沈黙が降りた。
 うっとりと瞳を閉じていたシアが目を開け、ぱちぱち、とその瞳をまたたき、そしてじっと自分を見つめる。

「える……?」
「ああ、きみのエルナドだ」
「……え、ええ、………えぇえええっ!?」

 ようやく夢ではないと気づいたのだろう。シアはエルナドに腰を抱かれたまま、口をパクパクさせる。
 今までの自分がしでかしていたことが全て現実だった、と悟ったシアは、頬を押さえてばたばたと慌てていた。

「え、え、エル! ゆ、夢じゃないなら、ちゃんと言って! ど、どうして黙ってるの……!」
「言おうとした。だが、きみの熱烈な口づけに口をふさがれてしまったからな」
「………!!!!」

 さらに頬を赤くし、シアはもはやぷるぷると震えている。
 その姿に、エルナドは思わず小さく笑ってしまった。
 愛らしい。まぁ、確かに自分がもっと早く言ってやればよかったのかもしれないが――こんなにかわいらしい姿を見る機会を逃すわけにはいかない。

「わたし、わたし、本当にが、がんばってたのよ……本当よ……! 寂しい、って言わなかったし、お屋敷のこともちゃんと」
「わかっている。ヴィッセルから聞いた。……ありがとう、シア」
「うん……」
「きみは、私の誇りだ」

 その言葉に、シアの瞳が潤む。

「……あの、ね……ええと。遅くなっちゃったけど、おかえりなさい……」

 エルナドは何も言わず、そっと彼女を抱きしめた。
 細く華奢な肩が、自分の胸におさまる。

「ただいま。ずっと、会いたかった」

 思わずこぼれた言葉は、本当に心の底からの本音だった。
 シアの頬が再び赤くなり、そっと唇が寄せられる。

 ゆっくりと、味わうような口づけを繰り返す。
 ふたりの久しぶりの夜が、始まろうとしていた。

 

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