【後日談有り】わたしを孕ませてください! ー白の令嬢は、黒の当主の掌で愛に堕ちるー

さわらにたの

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エピローグ/後日談

22. 時を越えて(6)

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「……エル、お仕事は、いいの?」
 
 まだ寝衣ではなかったからだろう。
 長い口付けを終えて唇を離すと、寝台に体を横たえ、私の身体の下にいる妻がおずおずと尋ねる。
 赤く染まった頬、うるんだ瞳。湯浴みのあとの石鹸の甘い香り。
 出会った時から愛らしかった姿は、共に過ごす時間を重ねてより美しくなった。
 そう思いながらも伝えられない自分は、我ながらよき夫ではないと思う。それでも見つめるだけでうれしそうに笑んでくれる彼女を私はもう手放せない。

「よくはないが……」
「ほら! だめでしょう、わたしなら大丈夫だから」

 たしなめるような口調に、寄せられる眉。
 それでも、その華奢な右手は自分のローブの裾をしっかりと掴んでいて、つい笑みが漏れる。
 もう一度額にそっと口を付けると、シアは心根が暴かれたように身体を震わせた。

「いい」
「どっちなの? あのね、わたしちゃんといい子で待てるから、お仕事にもど……」
「私が待てない」
「えっ」

 そのままそっとローブを掴んでいる手を取ると、指を絡めて寝台に縫い留める。
 掴んでいるのは無意識だったのか、シアは目を瞬いて私を見上げた。

「シアは、嫌か?」
「……。嫌なわけ、ないでしょう」

 囁くように答える声。恥じらう伏し目がちの睫毛。紅潮した頬に、花びらのような唇。
 欲情というよりも、愛でたい。
 かつての女を想像し、落ち込むような心の隙間など作らないほどに、自分の愛を注ぎ込みたいのだ。


 


 突然執務室に現れたノルン。
 
 「奥様の不調は、かつて坊ちゃんとお付き合いされた方への嫉妬でございますね」

 そう告げられた時の衝撃と、胸の奥からくる愛おしさは、きっと誰にもわからないだろうと思う。

 夕餉に現れた彼女の頬の青白さに愕然とした。笑っているのに、心ここにあらずのうつろな表情。
 何かがあったのだろう、とは思いつつ、それでも言葉が上手く紡げず、結局、侍女に任せるに至った。
 心配はしていた。だが何が原因かはわからずにいた――それが、まさか。

「嫉妬?」
 
 思わぬ言葉に手にしていたペンを落とすところだった。一旦インク壺にもどすと、立ち上がる。

「はい。書庫の本の合間に、セルベラ様の御手紙が挟まっていたようでして――それはおそらく前当主様への恋文なのですが、それをきっかけとしてシア様との婚礼前に坊ちゃんと関係のあった女性の存在を意識され、落ち込まれておられるようです」
 
 ノルンからの簡潔な説明を受け、思わず額に手を当てた。
 
 本当に自分は歪んでいるのかもしれない。
 シアには悪いが、この時の自分の胸にこみ上げる気持ちは、明確な安堵と抑えきれない喜びだった。
 体調が悪いのではなくてよかった、という安堵。そして、過去の自分にすら想いを寄せてくれるのか、という、どこかくすぐったいような、いじらしい彼女に思われているという喜び。

 
 部屋に入り、寝台で身を起こしている彼女は、どこか小さく、いつもよりもさらに可憐に見えた。
 謝罪され、「わたし、心の奥まであなたでいっぱいなの」などと言われて、愛しい妻を愛でずにいられようか。


「シア」

 唇を落とし、そっと舌を絡める。歯列をなぞり、口腔を満たすようにそっと。
 感じ入るように体を震わせるシアは、ただひたすらに愛らしい。
 まるでこちらが捕食者になったかのようないたいけさを醸し出すシアの肢体は、いつもこちらを狂わせるのだ。


「んっ、ん、ぁ……エル、ねえ、エル?」
「どうした」
「わたし、あなたを満足させてあげられてる?」


 突然何を言うのだ、と思った瞬間、彼女から唇が寄せられる。
 すり、とこするようなその動き。そして小さな舌がチロリと自分の唇を舐めて開かせてくる。

「っ、シア……っ」

 かすかな水音と共に、重ねられる唇と吐息。
 脳がぐらりと揺れる。満足もなにも、ない。
 そんなことを恥じらいながら聞かれて、私の身体中が熱くなる。

「わたしで、満足して……? 他の人のこと、思い出してほしくないの」

 ゆっくりと唇を離し、頬を染めながら囁くその姿。

「満足も何も――いつでも、きみに夢中だ」

 言葉にするのは苦手だ。
 的確な言葉が思い当たらない。
 ただ思ったことだけを言って、小さなその唇に噛みつくように唇を押し当てて身体を重ねた。

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