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第23話:語られた真実
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帝都の中央広場に立つのは、生まれて初めてだった。
しかも、皇后の正装なんて肩が凝るし、刺繍がやたら細かいし、まばゆいし。
抜ける空色の美しいドレスもすごい色とフリルだ、普段の倍の倍……。手袋もキュッとしていてちょっとキツい。
わたしの銀髪は綺麗に結い上げられ、いくつかの宝石がちりばめられていた。正直ちょっと、重いです。
それよりも――視線が、熱かった。
「……え、まって、これ、こんなに人来るの……!?」
壇の上から見下ろした広場には、びっしりと人、人、人!
周辺の建物の窓や屋上にも、あきらかに無理やり詰め込まれた人影が、ある。
みんな、待っているんだ。
籠ってしまった”冷酷帝”、皇帝陛下・エンジュからの直接の言葉を。
先代皇帝が急に崩御されてから、任命されたのは第3皇子・エンジュ陛下だった。
けれど即位の隙間の時間を突いて双子の兄皇子――つまり、エンジュ陛下の上のお兄様たちふたりが実権を握って、私利私欲で政策を暴走させて奴隷制度だの重税だのを強行しようとして。
それを止めたくて、弟皇子だったエンジュ陛下は頑張ったけど、反対に命を狙われて槍を取って、ふたりを――。
――そして、皇帝の座についた。
そこまでは、まあ、物語のような話。英雄譚みたいな。
でもその後が問題。
(呪いのせいではありましたけど……陛下、みんなの前に姿現せなかったんですもんね)
そのせいで、誤解が誤解を生み、「兄を廃して皇帝になった”冷酷帝”」という噂だけが独り歩きして。
不器用だった彼は――それを解けずに今に至っている。
今日は、とうとう、すべてを国民に語る日だ。
■
「――以上が、帝国に起きたすべてだ」
低く、よく通る声だった。
風も静まり返った広場に、陛下の言葉が響き渡っていく。
一部の者にとっては噂でしかなかったこと。
皇族の血が流れ、帝位を巡る確執と呪いの話。
誰もが凍りつくような沈黙のあと――陛下は、少しだけ視線をこちらに向けた。
「俺の身にかけられていた呪いは、皇后であるキーラによって解かれた」
「…………」
「彼女がいなければ、帝国は、今ここに存在していなかっただろう」
ちょ、ちょっとまって。
まってよ!?
今日、私此処にいてって言われたのはお飾りじゃなかったの???
「そんなこと言わなくていい……」
のに、と続けたかった私の言葉は広場全体が大きく揺れるほどの歓声にかき消されてしまった。
「陛下……あの」
「キーラ。隣に」
そっと手が差し出されて、陛下が膝をつく。
「ちょ、っと、陛下!」
わたしはびくっとして、後ろに一歩さがりそうになってしまったけれど、陛下がわたしの腕を軽く引いて逃れられない。
「ありがとう、キーラ」
そっと手の甲に口づけられ、わたしはただそれを見つめることしかできなかった。
陛下の手のひらが、唇が熱い。
正装の手袋越しに伝わるその熱がじわりとわたしの心を焼く。
そしてチクリと胸が痛んだ。
わかってるよ。こんな立派な帝国の皇后様にわたしはふさわしくないって。
しかも、皇后の正装なんて肩が凝るし、刺繍がやたら細かいし、まばゆいし。
抜ける空色の美しいドレスもすごい色とフリルだ、普段の倍の倍……。手袋もキュッとしていてちょっとキツい。
わたしの銀髪は綺麗に結い上げられ、いくつかの宝石がちりばめられていた。正直ちょっと、重いです。
それよりも――視線が、熱かった。
「……え、まって、これ、こんなに人来るの……!?」
壇の上から見下ろした広場には、びっしりと人、人、人!
周辺の建物の窓や屋上にも、あきらかに無理やり詰め込まれた人影が、ある。
みんな、待っているんだ。
籠ってしまった”冷酷帝”、皇帝陛下・エンジュからの直接の言葉を。
先代皇帝が急に崩御されてから、任命されたのは第3皇子・エンジュ陛下だった。
けれど即位の隙間の時間を突いて双子の兄皇子――つまり、エンジュ陛下の上のお兄様たちふたりが実権を握って、私利私欲で政策を暴走させて奴隷制度だの重税だのを強行しようとして。
それを止めたくて、弟皇子だったエンジュ陛下は頑張ったけど、反対に命を狙われて槍を取って、ふたりを――。
――そして、皇帝の座についた。
そこまでは、まあ、物語のような話。英雄譚みたいな。
でもその後が問題。
(呪いのせいではありましたけど……陛下、みんなの前に姿現せなかったんですもんね)
そのせいで、誤解が誤解を生み、「兄を廃して皇帝になった”冷酷帝”」という噂だけが独り歩きして。
不器用だった彼は――それを解けずに今に至っている。
今日は、とうとう、すべてを国民に語る日だ。
■
「――以上が、帝国に起きたすべてだ」
低く、よく通る声だった。
風も静まり返った広場に、陛下の言葉が響き渡っていく。
一部の者にとっては噂でしかなかったこと。
皇族の血が流れ、帝位を巡る確執と呪いの話。
誰もが凍りつくような沈黙のあと――陛下は、少しだけ視線をこちらに向けた。
「俺の身にかけられていた呪いは、皇后であるキーラによって解かれた」
「…………」
「彼女がいなければ、帝国は、今ここに存在していなかっただろう」
ちょ、ちょっとまって。
まってよ!?
今日、私此処にいてって言われたのはお飾りじゃなかったの???
「そんなこと言わなくていい……」
のに、と続けたかった私の言葉は広場全体が大きく揺れるほどの歓声にかき消されてしまった。
「陛下……あの」
「キーラ。隣に」
そっと手が差し出されて、陛下が膝をつく。
「ちょ、っと、陛下!」
わたしはびくっとして、後ろに一歩さがりそうになってしまったけれど、陛下がわたしの腕を軽く引いて逃れられない。
「ありがとう、キーラ」
そっと手の甲に口づけられ、わたしはただそれを見つめることしかできなかった。
陛下の手のひらが、唇が熱い。
正装の手袋越しに伝わるその熱がじわりとわたしの心を焼く。
そしてチクリと胸が痛んだ。
わかってるよ。こんな立派な帝国の皇后様にわたしはふさわしくないって。
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