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第6章 穏やかな時間
③
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「ヒュール様、ココが参りました」
「失礼いたします」
いつものように、ラビさんとシプさんに連れられて、わたしは、キィ、と扉を引く。
「ココ。待っていたよ」
寝台に腰かけて今日も本を読んでいたヒュールさんは、ベッドサイドにその分厚い本を置くとにこりと微笑んで立ち上がる。
今日も、ただよう色香が凄かった。部屋の窓からは午前の清廉な日差しが差し込んでいるというのに、ヒュールさんの纏う気配と欲が部屋に充満している。いかにもこれから「繁殖」します、といわんばかりのあからさまな黒いガウン姿。シャワーを浴び終えたばかりなのか、黒い短髪からはわずかに雫が滴っていた。たわんでいる胸元からは逞しい胸筋と腹筋が覗いていて、その身体を見なれた今でも思わずドキリとしてしまう。
ヒュールさんの大きな身体にふさわしい、しっかりとした肉付き。出会った時の着込んでいた服装でもうっすらとはわかっていたけれど、直接目にするその身体はひどく逞しかった。男にしてはやや白いその肌、腹筋のあたりまでくっきりと線で割れているそこが見えて、わたしは思わず視線を反らせる。
どこを見ていいのかわからずにヒュールさんの座っていた寝台の奥の柱や天蓋に視線をさまよわせていると、ぐいっと顎をつかまれて顔の向きを変えられた。
「!」
「どうしたんだい、ココ。よそ見しないで、ちゃんと俺を見て?」
次第にスキンシップめいたそれの距離が近くなっている。ずい、とその美しい顔に近づかれてわたしは思わずぱちぱちと瞬きした。
金色の瞳。出会った時には硬い黄金のような色合いだと思っていたそれが、今は蕩ける蜂蜜のように見えているのは気のせいだろうか。
「恥ずかしがり屋さんだね。昨日はよく眠れたかな?」
「っん、ぁっ……は、はい……、ひゃんっ」
寝台から長い脚でわたしの元へと歩み寄ると、ヒュールさんはひょいと軽い仕草でわたしを腕の中へと抱き上げた。そしてちゅ、と長いキスを額とこめかみ、そして首元に落とし、その後ぺろりと舌で耳を舐め、少しだけ甘噛みする。変な声がでてしまって頬を染めると、くすくすとかすかな笑い声で耳元がくすぐられてまた変な声が出そうになってしまう。
「じゃあ、ココ……今日も、俺を受け入れてくれるかい?」
「は、はい……、んっ」
ちゅう、と舐めるようにねっとりと唇に唇が落とされ、思わず目を閉じる。
唇が離れてゆき、次に首に、そして頬に落ちる。熱烈なキスが繰り返されるけれど、これはラビさんやシプさんへの”見せつけ”だ。
あらあら、と微笑ましげにわたしたちを見守りながら退出するふたりの気配が去ったのと感じると、ヒュールさんは、さっきまでのちょっと乱暴な手つきが嘘みたいに、そっと優しくわたしから身体を離した。そしてほぼ同時に、ふたりで「はぁ」と大きく息を吐く。
いつもながらこの色香が霧散していく空気には独特のシュールさがあって、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「……ごめん、大丈夫かい、ココ? 耳は傷になってない?」
「はい、大丈夫、です」
ヒュールさんは抱き上げていたわたしを、そっと柔らかいソファーに下ろすと大きく笑った。
「思ったよりも、疑い深いね、あのふたりは。いまだにあんなにジロジロ見ていくなんて」
そういって肩をすくめて笑うその笑み。ただ見目が綺麗なだけじゃなくて、ヒュールさんは時折、今おようにどこか少年らしいいたずらっ子のような気配を放つことがある。本当に、と頷くとそっと髪を撫でられた。
毎朝ラビさんに美しく梳かれて磨かれているわたしの白銀の髪がヒュールさんはお気に召したらしく、暇さえあればよくわたしの髪を撫でてくる。無意識なのか、よく触ってくれますね、と言えば少し照れてしまって、種族的に光り輝くものが好きな本能なんだ、と言っていた。その少し慌てた姿が、なんだかかわいいな、と思ってしまったのは内緒だ。
「失礼いたします」
いつものように、ラビさんとシプさんに連れられて、わたしは、キィ、と扉を引く。
「ココ。待っていたよ」
寝台に腰かけて今日も本を読んでいたヒュールさんは、ベッドサイドにその分厚い本を置くとにこりと微笑んで立ち上がる。
今日も、ただよう色香が凄かった。部屋の窓からは午前の清廉な日差しが差し込んでいるというのに、ヒュールさんの纏う気配と欲が部屋に充満している。いかにもこれから「繁殖」します、といわんばかりのあからさまな黒いガウン姿。シャワーを浴び終えたばかりなのか、黒い短髪からはわずかに雫が滴っていた。たわんでいる胸元からは逞しい胸筋と腹筋が覗いていて、その身体を見なれた今でも思わずドキリとしてしまう。
ヒュールさんの大きな身体にふさわしい、しっかりとした肉付き。出会った時の着込んでいた服装でもうっすらとはわかっていたけれど、直接目にするその身体はひどく逞しかった。男にしてはやや白いその肌、腹筋のあたりまでくっきりと線で割れているそこが見えて、わたしは思わず視線を反らせる。
どこを見ていいのかわからずにヒュールさんの座っていた寝台の奥の柱や天蓋に視線をさまよわせていると、ぐいっと顎をつかまれて顔の向きを変えられた。
「!」
「どうしたんだい、ココ。よそ見しないで、ちゃんと俺を見て?」
次第にスキンシップめいたそれの距離が近くなっている。ずい、とその美しい顔に近づかれてわたしは思わずぱちぱちと瞬きした。
金色の瞳。出会った時には硬い黄金のような色合いだと思っていたそれが、今は蕩ける蜂蜜のように見えているのは気のせいだろうか。
「恥ずかしがり屋さんだね。昨日はよく眠れたかな?」
「っん、ぁっ……は、はい……、ひゃんっ」
寝台から長い脚でわたしの元へと歩み寄ると、ヒュールさんはひょいと軽い仕草でわたしを腕の中へと抱き上げた。そしてちゅ、と長いキスを額とこめかみ、そして首元に落とし、その後ぺろりと舌で耳を舐め、少しだけ甘噛みする。変な声がでてしまって頬を染めると、くすくすとかすかな笑い声で耳元がくすぐられてまた変な声が出そうになってしまう。
「じゃあ、ココ……今日も、俺を受け入れてくれるかい?」
「は、はい……、んっ」
ちゅう、と舐めるようにねっとりと唇に唇が落とされ、思わず目を閉じる。
唇が離れてゆき、次に首に、そして頬に落ちる。熱烈なキスが繰り返されるけれど、これはラビさんやシプさんへの”見せつけ”だ。
あらあら、と微笑ましげにわたしたちを見守りながら退出するふたりの気配が去ったのと感じると、ヒュールさんは、さっきまでのちょっと乱暴な手つきが嘘みたいに、そっと優しくわたしから身体を離した。そしてほぼ同時に、ふたりで「はぁ」と大きく息を吐く。
いつもながらこの色香が霧散していく空気には独特のシュールさがあって、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。
「……ごめん、大丈夫かい、ココ? 耳は傷になってない?」
「はい、大丈夫、です」
ヒュールさんは抱き上げていたわたしを、そっと柔らかいソファーに下ろすと大きく笑った。
「思ったよりも、疑い深いね、あのふたりは。いまだにあんなにジロジロ見ていくなんて」
そういって肩をすくめて笑うその笑み。ただ見目が綺麗なだけじゃなくて、ヒュールさんは時折、今おようにどこか少年らしいいたずらっ子のような気配を放つことがある。本当に、と頷くとそっと髪を撫でられた。
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