【完結】絶滅危惧種「ニンゲン」のわたしは竜人様に愛される

さわらにたの

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第6章 穏やかな時間

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「昨日はすごい雨だったね。怖くなかったかい?」
「雷、鳴ってましたよね。……ちょっとだけ、怖かったです」

 他愛もないことを話しながら、ヒュールさんは雰囲気を出すためにだろう、ラビさんとシプさんの前でわざと緩ませていた黒いガウンをきちんと着込みなおして腰帯を結んだ。
 その後、本棚へと歩くとそこからいつものようにわたしのために数冊見繕ってきてくれる。

「はい、今日のおすすめだよ。でもこの本はまだ少し言葉が難しいかもしれないから、一緒に読もうか」
「! いいんですか? ありがとうございます」

 ヒュールさんに揃えて誂えられているこの部屋の家具は、わたしにとってはとても大きくてサイズが合わない。ソファーひとつとっても大きすぎるしそもそも腰かけると脚が床に付かずぶらぶらしてしまう。机に座って本を読みたくても、ひとりでは机と椅子の高さの差で上手く机に本を置けないの。
 そのため、自然と本を一緒に読む時は、机に座るヒュールさんの膝の上に乗せてもらうのが日課になっていた。
 最初は戸惑っていたそれも、もう慣れてきた。そもそも最初から抱き上げられて、毎日演技とはいえ濃厚な口づけと身体へのふれあいをこなしているうちに、距離が近いことに慣れてしまったのかもしれない。
 そしてそれは、決して嫌ではなかった。

 重厚なオーク材の大きな机に、ふたりで腰かける。

「……ええと、『世界が 魔法の たくさん たまる』?」
「これは『世界に 魔法が 満ち足りた』だね」

 デスクの椅子に座る彼の膝の上に座り、ひとつの本を同時に覗き込む。
 わたしの首元から彼の顔がのぞき、その大きな手は椅子から落ちないようにそっとわたしの腰に回されていた。他意はない密着なのに、わたしの心臓は高鳴り、うるさい音を立てる。

「ココ、窮屈じゃないかい?」
「い、いえ……大丈夫、です」
「そうかい」

 ヒュールさんはそう言いながら、そっとわたしの身体を膝に抱え直した。
 腹に腕が回され、その腕がすっぽりとわたしを包む。もたれたその胸板がふわりと柔らかく心地よかった。ほんのりと温かくて、ついわたしの身体は自然と彼の温かさを求めていく。そのまますり、と胸板に無意識に頬をこすりつければ、ぎゅっと抱き寄せられてしまった。
 心地よい圧力で包み込まれながら、わたしは安堵の息を吐く。こんなにしっかりと獣人に抱きかかえられているのに、ちっとも怖くなかった。
 ――だって、ヒュールさんだから。

「ヒュールさん……」
「ん?」

 わたしは無意識に彼の名を呼んでいた。ハッと気づいて、あまりにも気恥ずかしくてすぐに顔を伏せる。だけどヒュールさんはわたしの耳に口を寄せると囁いた。

「どうしたんだい、ココ?」

 耳元で甘く囁かれ、心臓がはねる。
 ひくりと身体が震えてしまう。甘くしびれるような、この感覚。

「あ……あの、ええと……その……。こ、この文字の読み方、知りたくて」

 思わず名を読んでしまったことを後悔しながら、わたしはとっさに机の上に広げられた本の、少し離れた一節を指さした。ヒュールさんは、まるでわたしの誤魔化しに気づいているかのような含み笑いを漏らす。

「そうか。いいかい、ここはね――」

 耳元で囁かれるその声と言葉に、背筋がぞくりとさざめくのがわかった。
 その声に、体温に、心が溶かされていく。
 ただの協力関係なのに、可愛がってもらってるだけなのに。
 わたしの身体と心は、少しずつおかしくなっていく。

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