【完結】絶滅危惧種「ニンゲン」のわたしは竜人様に愛される

さわらにたの

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第8章 疼きと贄

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「行くわよ、ココちゃん。愛しのヒュール様がお待ちかねよ」
「……わたし、行きません」
「あらあら、どうしたの?」
「恥ずかしがらないで」
「行きません……! だって、ヒュールさんは来るなって言っていたもの!」

 ヒュールさんは来るなと言っていた。その約束を破りたくなかった。
 でも、わたしの声と態度に、ラビさんとシプさんの手に力が込められていく。

「っ!! 痛っ」

 みしり、という音。獣人の力で強く握られ、両手が軋んだ音を立てる。

「……あら、そう」
「そういう態度をとるのね?」

 わたしに、降り注いだふたりからの視線はまるで刺すように冷たかった。

「おかしいわね、あんなに従順だったココちゃんがわたしたちに口答え?」
「どうしちゃったの? 返事は"はい"でしょう?」
「ヒュール様の番でも、ニンゲンはニンゲンよ?」
「いまここで、立場を教えてあげようかしら」
「……っ!」

 左右のふたりから暗い瞳でみつめられ、ひゅ、と喉が鳴った。
 その言葉と共にパチン、と何かの音がして、冷水を浴びせられたように全身が寒くなる。ぎゅう、と首をしめられたような感覚に胸元を抑えた。
 頭がくらりとする。この、力。たぶん、獣人の異能スキルだ。
 手足に力がはいらない。羊の獣人・シプさんの催眠、の異能。体が半分、寝てしまったように動かない。
 嫌だ、と首を振ろうとしても、全く体は動いてくれなかった。

「ね? ココちゃんは従順ないい子だものね?」
「異能使うと疲れるのよねぇ。さっさと行くわよ」

 そうだった。わたしは、ニンゲン。
 最近ずっと、同等に扱ってくれる優しいヒュールさんといたせいで、感覚がおかしくなっていたんだ。

 ――獣人に逆らうなんて、できっこない。言われた通りにするしかないの。

 指先に力がはいらない。ぐったりとしながら、されるがままに立ちあがるわたしを見て、ラビさんとシプさんは満足そうに笑っていた。

「分かればいいのよ。さ、行きましょうココちゃん、役目を果たさなきゃね?」
「ヒュール様も、本心ではお待ちかねよ」

 役目?
 本心?
 絶対に、ちがう。ヒュールさんは来るなって言っていたもの。それなのに。
 両手をしっかりと握られたわたしは、そのまま静かにうつむくことしかできなかった。

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