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エピローグ/後日談
黒の館・誘拐編②
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なんか今日は、空気が違う。
でも魔力なしのわたしの感じることだしなぁ、なんて思いながら今日もマルの張ってくれた結界の中でわたしは寝起きする。
さすがにエルナド様も当主としての仕事を、そしてマルも国家魔術師としての仕事を放っておけるはずもなく、ふたりはめちゃくちゃにしぶしぶといった顔つきで登城していった。
国を代表するレベルのふたりの結界といってもさすがにこの館全体を覆うとすると薄くなってしまうらしく、食堂を含め普段使う部屋に何層かにわたって張られている、らしい。
使用人のみんなも、あの「誘拐」予告から足音ひとつ立てないように歩き、扉を開け閉めする音すらも、いつもより慎重だ。誰もが不安の色を隠せず、それでも秩序を守ろうと動いている。
緊張という名の糸が館全体を覆っていた。
うーんこのピリピリする感じ、慣れないよぉ……。
とりあえず結界に中にいてくださいと言われてはいるけれど――わたしは今日も仕事のために書庫にいた。
わたしの仕事には締切があるので。しかも今回は王城からの依頼だから、さすがに締切ブッチするわけにはいかないのだ……マルには悪いけど。
(でもちょっと怖い……調べもの、早く済ませて戻ろう……!)
書棚に並ぶ分厚い魔術文献を前に、そう呟いたときだった。
――パキッ。
廊下の向こう、扉の向こうから、微かな音が聞こえた。
かすかな金属音みたいな、なにか擦れる感じの音。
その後、何か、すごいものがグワングワンと揺れた。
(な、なになになに!?)
後から考えれば、これは相手側の使った禁術も禁術、古王国時代から白に伝わる魔道具だったらしいのだけど、その時のわたしには知る由もない。
足音。でもそれは館の者のそれではない。
聞いたことないもん、この靴音。
重くて、確信的で、無遠慮な足取り。
胸の奥に嫌な予感が広がっていく。わたしは反射的に書庫の陰に身を隠した。
「……ここにはいないな。リーヴェという女は」
「いるわけないだろ、ここにはあの忌々しい結界が張られてない。灰の魔術師の寵愛を受けてる女だぞ」
「結界内をもう一度探すか――禁術はあまり使いたくないが」
「探知にかからん……ということはいないか、もしくはなにか術を使ったか。まぁだが白の姫君は捕らえた、一人いれば人質には問題あるまい」
「少し痛めつければおとなしくなるだろう。ふん、あとは灰の魔術師が戻ったところを狙えば――」
ちょ、ちょ、ちょっと待って!
こっそりと首を伸ばして会話をしている男たちの顔を盗み見る。
相手は、白魔術師の一団だった。真っ白なローブに淡金色の髪の男がちらりと見える。
おそらく魔力探知を持っているようだけれど――この目と鼻の先にいるわたしは見つかっていないらしい。
魔力を持たないわたしは、探知魔術に引っかからない!
これは、彼らの盲点だったし、わたしにとっての大きな利点だった。
そして会話の内容を思い出す――白の姫君――おそらく、シア様が捕まった?
(……こわい……でも、マルもエルナド様も今はいないんだ。異変に気付いて帰ってこられたとしても……時間、かかるよね)
頭の中で、はっきりとした焦りと恐怖が芽吹く。
そして同時に激しい怒りが込み上げてきた。
(痛めつければ……って言ってた。わ、わたしが、シア様を助けなきゃ……!)
息を殺して、男たちが通り過ぎるのを待つ。
扉の陰で胸を押さえながら、呼吸を整えた。
足音が遠ざかっていくのを確認してから、わたしはそっと書庫を抜け出して駆ける。
シア様が捕らえられた場所……予測しかたてられないけど、あの人たちはまだこの黒の館の構造をよく知らないはず。
だからこそ、目立つ場所に連れていった可能性が高い――。
(待っててね、シア様……!)
廊下へと飛び出したわたしは、ゆっくりかつ俊敏に、上の階へと向かった。
でも魔力なしのわたしの感じることだしなぁ、なんて思いながら今日もマルの張ってくれた結界の中でわたしは寝起きする。
さすがにエルナド様も当主としての仕事を、そしてマルも国家魔術師としての仕事を放っておけるはずもなく、ふたりはめちゃくちゃにしぶしぶといった顔つきで登城していった。
国を代表するレベルのふたりの結界といってもさすがにこの館全体を覆うとすると薄くなってしまうらしく、食堂を含め普段使う部屋に何層かにわたって張られている、らしい。
使用人のみんなも、あの「誘拐」予告から足音ひとつ立てないように歩き、扉を開け閉めする音すらも、いつもより慎重だ。誰もが不安の色を隠せず、それでも秩序を守ろうと動いている。
緊張という名の糸が館全体を覆っていた。
うーんこのピリピリする感じ、慣れないよぉ……。
とりあえず結界に中にいてくださいと言われてはいるけれど――わたしは今日も仕事のために書庫にいた。
わたしの仕事には締切があるので。しかも今回は王城からの依頼だから、さすがに締切ブッチするわけにはいかないのだ……マルには悪いけど。
(でもちょっと怖い……調べもの、早く済ませて戻ろう……!)
書棚に並ぶ分厚い魔術文献を前に、そう呟いたときだった。
――パキッ。
廊下の向こう、扉の向こうから、微かな音が聞こえた。
かすかな金属音みたいな、なにか擦れる感じの音。
その後、何か、すごいものがグワングワンと揺れた。
(な、なになになに!?)
後から考えれば、これは相手側の使った禁術も禁術、古王国時代から白に伝わる魔道具だったらしいのだけど、その時のわたしには知る由もない。
足音。でもそれは館の者のそれではない。
聞いたことないもん、この靴音。
重くて、確信的で、無遠慮な足取り。
胸の奥に嫌な予感が広がっていく。わたしは反射的に書庫の陰に身を隠した。
「……ここにはいないな。リーヴェという女は」
「いるわけないだろ、ここにはあの忌々しい結界が張られてない。灰の魔術師の寵愛を受けてる女だぞ」
「結界内をもう一度探すか――禁術はあまり使いたくないが」
「探知にかからん……ということはいないか、もしくはなにか術を使ったか。まぁだが白の姫君は捕らえた、一人いれば人質には問題あるまい」
「少し痛めつければおとなしくなるだろう。ふん、あとは灰の魔術師が戻ったところを狙えば――」
ちょ、ちょ、ちょっと待って!
こっそりと首を伸ばして会話をしている男たちの顔を盗み見る。
相手は、白魔術師の一団だった。真っ白なローブに淡金色の髪の男がちらりと見える。
おそらく魔力探知を持っているようだけれど――この目と鼻の先にいるわたしは見つかっていないらしい。
魔力を持たないわたしは、探知魔術に引っかからない!
これは、彼らの盲点だったし、わたしにとっての大きな利点だった。
そして会話の内容を思い出す――白の姫君――おそらく、シア様が捕まった?
(……こわい……でも、マルもエルナド様も今はいないんだ。異変に気付いて帰ってこられたとしても……時間、かかるよね)
頭の中で、はっきりとした焦りと恐怖が芽吹く。
そして同時に激しい怒りが込み上げてきた。
(痛めつければ……って言ってた。わ、わたしが、シア様を助けなきゃ……!)
息を殺して、男たちが通り過ぎるのを待つ。
扉の陰で胸を押さえながら、呼吸を整えた。
足音が遠ざかっていくのを確認してから、わたしはそっと書庫を抜け出して駆ける。
シア様が捕らえられた場所……予測しかたてられないけど、あの人たちはまだこの黒の館の構造をよく知らないはず。
だからこそ、目立つ場所に連れていった可能性が高い――。
(待っててね、シア様……!)
廊下へと飛び出したわたしは、ゆっくりかつ俊敏に、上の階へと向かった。
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