最強魔力量の最弱魔術士はマトモに戦わない

༺みずな(シャキシャキ)࿐

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第一章 グレート・センセーション

8話:集配魔術士はここから始まる

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くっ・・・ここは・・どこ・だ。
 
ふと気がつくと、俺は深く冷たい闇の中に一人、気力も体力も奪われブクブクと沈んでいこうとしていた。

(俺、このまま死ぬのか?)

すーーっと堕ちていく感覚が心地よく感じ、このまま消えたいとすら思ってしまった。


・・・
・・・・
・・・・・・ルヴェン
 
そんな時だった。闇の向こうで、誰かが呼んでいる。それは、パーティメンバーのエステラ、イフリーナ、ララの声だった。急に意識が鮮明になった。俺は・・俺にはまだ、やるべき事がある。守るべきもの、確かめるべきものがあるはずだ。こんな所で死んでたまるか!!!
俺は執念の思いで、ただひたすらにその光を目指して泳いでいく。光はすぐそこだった。



 気がつくと、まず見えたのは丸太を積み上げた木の壁、暖かさを感じさせる夕陽のような照明、そして、猫耳の少女とあとは・・・透き通った黒髪の女剣士??俺は不意に自我を取り戻した。

「ルヴェン!ルヴェン!大丈夫なのか??」

この聞き覚えのある声、間違いない。イフリーナだ。彼女の鼓動が握られた手を通して伝わってくる。彼女は俺の手を握り続けたまま、なかなか離してくれない。

「はな・・してくれ。イフリーナは相変わらず力が強いな。このままじゃ手に力が入らななくて起き上がれないじゃないか」

俺の言葉にイフリーナが少しムッとした表情を浮かべて見せたが、いつもの俺に戻ったことを確信してか、ホッとしたように脱力する。そこに、突然抱きついてきた少女がいる、ララだ。

「ルヴェン、ホント心配したんだからね。もう話せないんじゃないかって・・・」

「ララは俺を嘗めすぎだ。こんな所で死ねるわけ無いじゃないか。俺にはまだ、やるべき事があるんだ」

そう言って、ララのか弱い頭を撫でてやる。それを見たイフリーナが、羨ましそうに逸れた視線を送っている。ひさびさに王都の楽しい日常に戻った気分だった。

「では、本題に入ろう。お前たちにいくつか聞きたい事がある」

「まず、あの女剣士とその一行はどうなった?」

「あいつらは運搬の魔術で女剣士を連れて逃げちゃったよ。追うこともできたけど、ルヴェンの腹の傷の手当てが最優先だと思ったから、近くの空き家を
探して看病してた」

「ありがとな。てかさっきからずっと気になるんだが・・・なぜここにイフリーナがいるんだ!?」

「私を除け者扱いするとは、相変わらず無礼な奴だな。まあいい、ここにはお前たちに王都の近況を伝えにきたのだ。も、もちろんお前たちが心配だったわけじゃないぞ!」

「ふーん、そんな分かりやすい顔して~優しいとこもあるんだな、リーナ」

「だから貴様!その呼び方はやめろと言ったはずだ。話が脱線してしまったぁ私も忙しいんだ、よく聞いてくれ。」

俺とララはイフリーナの話を聞き始めた。

「民は、サルサス王の相変わらずの重税に苦しんでいて、ついにクーデターが計画されるのではないかとの噂も耳にする」

「サルサス王が悪い噂を立ててまで重税を課すのは何故なんだ」

「実は、サルサス王はまつりごとを放棄してらっしゃる。何故なら、彼には大きな後ろ盾、ザラードの存在があるからだ。サルサス王は裕福な暮らしを送ることをザラード家に保証させる代わりに政治的実権を彼らに譲ってしまっているのだ。
彼らのこの陰謀を食い止めるためには、もう道は一つしか残されていない」

「その残された道というのは?」

「王の息子レイジと、ザラードの娘メイベルの結婚を阻止することだ!!予定では8月16日、満月の夜に行われる。つまりもう、あと二週間しか残されていないということだ」

「おい、マジかよ。あと二週間で何ができるって言うんだ!もうかなり準備は整ってしまっているはずだ・・・」

「いや、ルヴェンならどうにかできるよ!さっきの戦闘でだって格上相手に引き分けに持ち込めたじゃん!自信を持てば・・・」

「確かに、ララの言う通り、どうしようもなくてもどうにかしなければならないのは分かってる。でも俺にこの国を正しく導けるのかが分からないんだ。
あとで自分のした事を後悔するんじゃないかって思う。俺の近くにいるせいで、何の罪もないみんなが巻き込まれるのを俺は散々見てきた。もう耐えられないんだよ」

「なら、私達も一緒に背負う!!」

「・・・!?」

「ルヴェンさんに助けられて、いっぱい旅して冒険して、ルヴェンが思ってる以上に、私は今が幸せなんだ!」
 
「私も同じ気持ちだ。最初来た時には、ただのあやかりの浪人だと思ったが、お前と過ごした時間はとても有意義で、冒険なんてただの子供騙しに過ぎないと思っていた私に、守護者ガーディアンとして大切なことは仲間との信頼を築くことであると教えてくれた。そんなお前を私は尊敬してるぞ。
そしてそれはきっとエステラ様も同じだ」

イフリーナは腰当てから一通の手紙を取り出して俺に渡した。このしなやかな字体はエステラのものだ。

『ルヴェンさんへ

   元気にしていますか?突然居なくなってしまったことはとても寂しいですが、自分のやるべき事を見つけ真っ直ぐに走り出す姿を見て、アメジスの娘としてしっかりしなきゃなって思ってしまいました。
普段はルヴェンさんにしっかりしてって言ってたのにおかしいなぁ。ルヴェンさん、時には泣きたくなるような辛いこともあると思います。でもそんな時は、私達仲間が付いているから安心してください。
王都でまた会いましょう!

                                                         エステラより』

俺は、自らに課せられた責務に少し過剰になり過ぎていたのかもしれない。彼女たちの言葉は俺に深く刺さったが、それに相反して痛みは幾らか消えていた。俺は時間を物理的に捉えることしかせずに、無理であると決めつけていた。だが、精神的に捉えた時間は可能性を無限に広げてくれる事に気がついた。

『二週間』いつのまにか俺の前でその言葉は意味をなさなくなっていた。









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