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言葉がほどけていった午後
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午後の日差しは、
まるで声のように、床の上で揺れている。
わたしは、ひとことを探していた。
あなたに向けてではなく、
自分のなかに残っていた“何か”をほどくために。
けれど、
言葉は形にならなかった。
そのまま、
ぬるく濁った時間の中に沈んでいく。
たとえば、
「行かないで」とか、
「わたしはここにいるよ」とか。
そういう言葉たちが、
口の奥で溶けていくのがわかった。
あなたがいたあの午後、
わたしたちは何かを話していたはずなのに、
もう内容は思い出せない。
覚えているのは、
あなたの声の強さでもなく、
わたしの口調の柔らかさでもなく、
ただ、“語りあった事実”だけが存在しなかったこと。
沈黙と、会話のあいだにあった温度。
言葉がほどけて、
音にならないまま漂っていたあの午後。
わたしはまだ、
そのときの空気を覚えている。
触れると壊れてしまうような、
ひとつひとつの無音の粒子を。
わたしたちは、
あの日、きっとたくさん話していた。
でも、何も語られていなかった。
午後だけが、
言葉の代わりに、すべてを抱えて沈んでいった。
まるで声のように、床の上で揺れている。
わたしは、ひとことを探していた。
あなたに向けてではなく、
自分のなかに残っていた“何か”をほどくために。
けれど、
言葉は形にならなかった。
そのまま、
ぬるく濁った時間の中に沈んでいく。
たとえば、
「行かないで」とか、
「わたしはここにいるよ」とか。
そういう言葉たちが、
口の奥で溶けていくのがわかった。
あなたがいたあの午後、
わたしたちは何かを話していたはずなのに、
もう内容は思い出せない。
覚えているのは、
あなたの声の強さでもなく、
わたしの口調の柔らかさでもなく、
ただ、“語りあった事実”だけが存在しなかったこと。
沈黙と、会話のあいだにあった温度。
言葉がほどけて、
音にならないまま漂っていたあの午後。
わたしはまだ、
そのときの空気を覚えている。
触れると壊れてしまうような、
ひとつひとつの無音の粒子を。
わたしたちは、
あの日、きっとたくさん話していた。
でも、何も語られていなかった。
午後だけが、
言葉の代わりに、すべてを抱えて沈んでいった。
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