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すれ違うときの背中で
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彼は、あの道を歩いていく。
右肩の少し先を、風が抜けていく。
その風のなかに、
まだ彼女の気配が、わずかに残っている。
彼は振り向かない。
すれ違ったのが、いつだったのか思い出せない。
彼女が通り過ぎたとき、
たしかに何かが背中にふれた気がした。
それが言葉だったのか、
視線だったのか、
あるいは沈黙そのものだったのか。
背中はいつも、
語られなかった感情で満ちている。
未来の彼は、それを知っている。
すれ違ったあの瞬間が、
ふたりの関係にとって、
最後の交差点だったということを。
けれど、過去の彼は、ただ歩いていた。
自分の呼吸に集中しすぎて、
空気の変化に気づかなかった。
彼女はあのとき、
何かを伝えたかったのかもしれない。
けれど、彼はそれを受け取らなかった。
気づかなかったのではなく、
受け取る“形”がまだできていなかった。
未来から見れば、
あれは「別れ」だった。
でもその場にいた彼は、
ただすれ違っただけだと思っていた。
だからこそ、
記憶のなかで、彼女の背中は見えない。
いつも、自分の背中だけがそこにある。
右肩の少し先を、風が抜けていく。
その風のなかに、
まだ彼女の気配が、わずかに残っている。
彼は振り向かない。
すれ違ったのが、いつだったのか思い出せない。
彼女が通り過ぎたとき、
たしかに何かが背中にふれた気がした。
それが言葉だったのか、
視線だったのか、
あるいは沈黙そのものだったのか。
背中はいつも、
語られなかった感情で満ちている。
未来の彼は、それを知っている。
すれ違ったあの瞬間が、
ふたりの関係にとって、
最後の交差点だったということを。
けれど、過去の彼は、ただ歩いていた。
自分の呼吸に集中しすぎて、
空気の変化に気づかなかった。
彼女はあのとき、
何かを伝えたかったのかもしれない。
けれど、彼はそれを受け取らなかった。
気づかなかったのではなく、
受け取る“形”がまだできていなかった。
未来から見れば、
あれは「別れ」だった。
でもその場にいた彼は、
ただすれ違っただけだと思っていた。
だからこそ、
記憶のなかで、彼女の背中は見えない。
いつも、自分の背中だけがそこにある。
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